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第三章

44. 解毒薬

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ニコラウスさんを襲った魔獣をスキルで見た時には驚いた。【肺溶解効果5 解毒 3】の文字が表示されたからだ。解毒効果3の文字も表示されているから体内には解毒作用がある部分もきっとあるはずだ。そういえば師匠が昔、毒を持つ生物は体内にその毒の耐性となるものを持っていると言っていた。その耐性となる部分が簡単に取り出せるものだと良いが。

そんな願いを込めながら魔獣を捌いていくと、毒効果のある袋が見つかった。

「これはきっと毒です。ニコラウスさんの体にも入り込んだ可能性があります。」

ニコラウスさんに示すと、やはり、と言う言葉が返ってきた。その言葉が出てくるあたり、さすが研究者だと思う。ニコラウスさんが少し大きく息を吐いた。毒が回り始めているのだ。ニコラウスさんをそっと座らせる。

解毒薬を作らねばならない。

ドゥブ毒ほどの即効性はないにしても、肺溶解効果だ。肺を全部溶かさなくても、多少溶けるだけで体には酷いダメージを受けることになる。そう考えると、毒が回ってしまってからでは遅いと思った。私の知識だけでは足りなさすぎる。

「私が解毒薬を作ります。ニコラウスさん、作り方を教えてください。」
「教えてと言われても、なんの毒かもよく分からない。」

「そこは、ご自身の体に聞いてなんとか頑張ってください!私、ムラサキ花を持っています。デトックス効果4の花。これは役には立ちませんか?」

「ムラサキ花・・・。ムラサキ花を湯に入れて湯が赤くなったらそこにミンチにした魔獣の肉を入れてくれ。肉に火が通ったら液体の部分だけを取り出してほしい。毒を持っている魔獣はその毒に対する耐性もある。解毒に役立つはずだ。」

ニコラウスの説明を頭に叩き込みながら、魔獣を更に解体する。スキルは発動させたままだ。内部をくまなく見ると、心臓に【解毒効果 3】の文字があった。

解毒効果3、これで肺溶解効果4に打ち勝つことが出来るのだろうか?

無理だろうという言葉しか浮かんでこない。ムラサキの花はデトックス効果4だ。この二つだけで体内から毒を取り除くことが出来るのだろうか。もう少し、それぞれの効力が強いといいのだけど。そうだ、ゴードンのお店でテンレンカの実を買ったはずだ。あれならこの薬の効力を伸ばすことが出来るかもしれない。

ニコラウスさんに助言をもらおうと振り返ると、ニコラウスさんは肩で息をしながらきつく目を閉じていた。私の質問にとても答えられそうには見えない。迷っている暇はない。
私はシューピンを取り出すと急いで川へと向かった。


川から水を汲んでくると草の上に置いた。はぁ、はぁと肩で息をしているニコラウスさんを見ると焦る気持ちが湧いてくる。先ほどよりもまた少し呼吸が速くなったようだ。水入れから鍋へ300mlほど水を移し火を入れた。湯が沸騰するまでの間に魔獣の心臓をミンチにする。湯が沸騰したところで火の勢いを弱め、ムラサキの花を投入し、湯が赤くなったところでミンチ肉を投入。火は弱めた。スキルで効力をチェックしながらゆっくりかき混ぜる。鍋の上に【解毒効果4】の文字が現れたところで火を止めた。

鍋の中の液体部分を効力が4を保てる量に分配する。3回分になるようだ。ニコラウスさんの様子を見ると先ほどと状態は変わっていないように思えた。テンレンカの実を手に取る。注意書きには火の効力を持つ薬材とは相性が悪いと書いてあったはずだ。

火に弱いのだろうか・・・。

先ほど汲んできた川の水の残りに解毒薬を入れたコップを入れ、粗熱を取る。その間にテンレンカの実をスキルで見つめたまま皮ごと擦りおろした。擦りおろした実を半分解毒薬に入れ、そっとかき混ぜた。しばらく様子を見るも変化はない。

生ではダメか・・・。

今度はそのコップに火を入れ、温めてみることにした。するとどうだろう。温めて30秒ほどで解毒効果が5になり、液体がキラッと光ったかと思ったら瞬く間に効果が半減した。現在の解毒効果は2だ。
熱する必要はあるが、効果が伸びる瞬間は一瞬で、それを過ぎると効力が半減する。

なるほど、これは扱い辛い。高級品と言われる成長効果を持ちながらも、その種の中では安いのはこういった理由からか。

目に頼ってはだめだ。

たしか先ほどは30秒ほどで変化したはずだ。私は隣に冷たい川の水を鍋に入れて用意した。新しく解毒効果4 の薬をコップに入れる。今度は20秒だ。20秒経ったら火を消し、余熱で火が進むことも考え冷たい水にコップを入れて必要以上に熱が入るのを防いだ。有り難いことに液体は狙い通り、水に入れた直後に光り始めその輝きのまま止まった。効力は勿論【解毒効果5】。私はほっと胸をなで下ろすとニコラウスさんの元へ急いだ。

「ニコラウスさん、ニコラウスさん。」

体をゆすらない様に、肩のあたりを叩きながら声をかけると僅かに瞼が動いた。頭と肩甲骨のあたりを左腕と左足で支えるようにして体を少し起こすと、唇に解毒薬を当てた。

「ニコラウスさん、飲んでください。」

飲んでくれるだろうかと心配したのもつかの間、唇に液体が触れたとたん、ゴクゴクと飲み始めた。汗でびっしょりの体だ。喉が渇いていたのが幸いした。

「良かった・・・。」
薬を飲みほしたニコラウスさんを横にすると、濡らした布で顔と首の周りをさっと拭いた。

「早く良くなるといいけど。」
次に目が覚めた時には何か食べられるようになっているだろうか。

「食事の準備でもするか。」
ベルに声をかければベルが嬉しそうに鳴いた。

「ベル、私が水を汲みに行っている間ニコラウスさんを守っていてくれてありがとう。」
ベルの頭を撫でてやると、どうだ、と言わんばかりに胸を張る。その姿に、ようやく緊張が解けた気がした。

レイはどうしているだろうか。

「心配しているんだろうな。せめて無事だと伝える方法があればいいけど。」

ダメもとでチョンピーを飛ばしてみるもチョンピーは同じところを何度も行き来し、そのうち諦めたように戻ってきた。ダメもとで飛ばしたものの本当に届かないと思うとやはりがっかりする。

レベッカと二人で夜を明かすんだろうな・・・。

レベッカと背中合わせに魔力を発動しているレイの姿を思い出す。どう見てもお似合いに映る二人に少しだけ胸が軋む。何度も同じ不安を抱いては何度も拭って、また同じ不安に落ちる。バカみたいだ。

「ベル、ニコラウスさんもまだ眠っているし先にご飯をたべちゃおう。」

相変わらず熱っぽい息は吐いているが、肩で息をするのをやめたニコラウスの様子に安心してスープをよそった。レイはちゃんとご飯を食べているだろうか・・・。

「ベル、熱いからゆっくり食べるんだよ。」

明日、ニコラウスさんの体調がよくなったら幽玄の木を探しつつもレイの元へ帰る方法を探そう。上手く作ったはずなのに一人で食べる食事はひどく味気ないものだった。
その後、目を覚ましたニコラウスさんに食事を用意し、夜はニコラウスの隣で眠った。




「おはよう。」
緩やかな日差しに意識が浮上したところで声をかけられ覚醒する。

「に、ニコラウスさん!?体調はどうですか?」
「お陰さまでもう大丈夫だよ。ありがとう。」

ニコラウスさんが不敵な表情で微笑む。

「いえ、よかったです。」
「君が居なかったら多分死んでいたよ。こういうのってなんか運命を感じるよね。」
「それってどういう意味ですか?」

「僕がここで死んでいたら、それで終わりだったんだ。でも生きているから、この先も続いて行く。神様に背中を押されたような気にすらなるよ。」

ふとターザニアの人々の顔が浮び空を見上げた。珍しく風が吹いていた。



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