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第二章
49. キヨの宣言
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クロッカさんの帰宅を待っていたせいで、フォレストへの帰宅はいつもよりも遅い時間になった。
「ライファお帰り。お客さんが来ているわよ。」
ナターシャさんに続いて顔を見せたのはキヨだった。真っ黒に日焼けした笑顔が眩しい。
「キヨ!ずいぶん黒くなったね。元気だった?」
「うん、元気、元気。早く荷物置いておいでよ。一緒にご飯食べようっ。」
キヨに急かされるまま、荷物とポンチョを部屋に放り投げて、食堂に向かった。
「仕事はどう?」
「ふふふふ、建物が昨日完成したんだ。」
「おぉーっ、ようやく完成だね。思っていたより早くできるんだなぁ。」
「うん。やっぱ人数いると違うよね。俺は魔力がないけどさ、魔力がある人たちがいると作業効率が倍だわ。」
そんな話をしているとナターシャさんが料理を持ってきてくれた。
「はい、今日の勧めパンナジーニョよ!」
蒸かしたサワンヤを潰してカックーの粉でもっちりとさせたものを野菜で煮込んだ料理だ。体にやさしい、ほっとする味が人気の郷土料理だ。
「それで、キヨ君はこのあとどうするの?ユーリスアに帰る?」
ナターシャさんが訪ねる。
「それなんですが・・・。」
キヨがキッと顔を上げてこちらを見た。
「プロポーズしようかと思っていて。」
「「プロポーズ!?」」
私とナターシャさんの声が重なる。相手ってきっと前に話していた女性だよね?確か、ターザニアに到着した日に道に迷っているところを助けてくれたとかいう女性だった。
「うん、もともと工事が終わったらユーリスアに帰るつもりだったから、ユーリスアには帰るんだけど。彼女と離れたくないなって思ったんだよね。」
「キヨって17歳だったよね?」
「誕生日が来たから18歳になったもん~。彼女は17歳だし、女性で17歳で結婚するってめずらしくはないだろう?」
「まぁ、それは貴族の間では、だけれど。でも、平民だって17歳で結婚してダメだって法律は無いし、いいんじゃない?」
ナターシャさんがニコニコしながら言う。以前から思っていたが、ナターシャさんはこの手の恋愛話が大好きだ。こういう話をしている時はいつもより二割増しで目がキラキラしている。
「そうかー。キヨが結婚ねぇ。」
結婚なんて考えもしなかったな。いや、そんなことはないか。ヴァンス様に言われた愛人契約はいわば身分差の婚姻みたいなものだ。自分ってそんな年齢になったのかと、なんだか変な気持ちになった。結婚なんてもっとずっと大人がするのもだと思っていたのに、実際にそういう年齢になってみると全然大人なんかじゃない。あの頃よりも出来ることが増えただけで、大人になった感覚は一切なかった。外から見たのと、自分がなってみるのとじゃ17歳という年齢は随分違うものだな。
「待ってよ、待って。まだ結婚できると決まったわけじゃないんだから。」
キヨが焦ったように言う。
「船は3日後に予約しているんだけどさ、それまでに彼女に伝えたいんだ。何も3日後に一緒にユーリスアに来てほしいってわけじゃないんだけど、近い将来、ユーリスアで一緒に暮らしたい。」
「いいっ、いいじゃないっ!キュンキュンするわ、そういうのっ。」
ナターシャさんが顔の下で両腕に握りこぶしを作って、体をクネクネっと捩じっている。
「なんか、凄いな、キヨは。」
真っ直ぐに前を見つめるキヨの姿勢が眩しく感じる。真っ直ぐなキヨだから、真っ直ぐに彼女を好きだと言えるのだろうか。
「どうしたの?なんかライファ元気ないじゃん。」
キヨに言われて、ん、と声を出した。今まで頭の隅っこに無理やり押し込んでいた昨日の出来事がむくむくと心の中に広がり始めていた。
「なんかあったの?」
ナターシャさんが優しく聞いてくる。二人に見つめられてポロリ、ポロリと言葉が出てきた。
「大事な友達に帰ってきたことを伝えて、旅でのことも話して、楽しくなるはずだったんだ。実際楽しかったし。で
も、ちょっと雲行きが怪しくなって。」
レイだということも、相手が貴族だということも、勿論自身のスキルのことも、話せないことが多すぎて大きな枠でしか話せない。そんな要領もつかめないような私の話を二人はうん、うんと聞いてくれた。
「思いがけない酷いことを言われて、私も多分、酷いことを言った・・・。」
何言ってんの?と怒りを抑えたようなレイの声が耳について離れない。あんなに楽しく話していたのに、何をどう間違ってしまったのだろう。
「言ってしまったことを後悔しているの?」
そう聞かれて答えに迷ってしまった。後悔している・・・か。私が言ってしまった言葉はレイに聞いてみたかった言葉だ。だから、聞いたことを後悔しているかと聞かれれば、それは違うような気がした。でも、聞くタイミングが悪かったのと、利用価値あるもんな、と言ったあの言葉は完全にレイの言った言葉に対するあてつけだった。あの言葉は。
「後悔・・・しています。」
「ねぇ、ライファちゃん。酷いことを言われたら頭に来るし悲しくもなる。だから同じ力で相手を殴りたくなる気持ちもすごく分かるわ。でもね、相手を傷つけるようなことを言うと、結局、ライファちゃんも痛いでしょう?」
「・・・はい。」
ナターシャさんが抱きしめてくれる。
「人を傷つけるって痛いね。」
私はもう声にならなくて、頷くしかできなかった。
「謝るしかないじゃん。」
キヨが言う。
「分かってもらえるまで、謝るしかないじゃん。だって、このままなんて嫌だろ?」
私はうん、うんと二回頷く。
「元気出せよ。謝る。ほら、やることは決まったろ?あとは行動あるのみだぜ!」
「そうよ。大丈夫よ。ちゃんと話せば分かってくれるわ。もう、二人には激励をこめて私がスペシャルドリンクをおごってあげる!ガロン!!」
ナターシャさんがガロンを呼びながら厨房へと戻って行った。
「ナターシャさん、いい人だな。」
「うん、ほんとうに。お姉さんってかんじ。家族みたいだ。」
「そうだ、ライファにこれやるよ。」
キヨがくれたのは小さな小瓶に入ったマリンブルーの液体だった。
「キレイ・・・。これ、なに?」
「友達に貰ったものなんだけど、なんだか願いが叶う液体らしいよ。まぁ、信憑性はないけどなー。」
キヨが笑う。
「きっとお守りだよ。これを相手に飲ませてお願いすると願いが叶うらしい。俺は使わないから、ライファにあげるよ。」
「ん、ありがとう。」
元気づけようとしてくれるキヨの気持ちが嬉しくて、小瓶を受け取り腰につけていた巾着に入れた。
「いらっしゃい。今日は遅かったのね。」
そんな声が聞こえて入り口に目をやるとグラントさんが来たところだった。相変わらずキイナに向ける目が優しい。
「今日はちょっと残業していたからな。ライファいるか?」
「向うに座ってるわよ。」
キイナに連れられてきたグラントさんが私に小弓を持ってきた。
「ほら、点検おわったぞ。重心が少しずれていたから直しておいた。」
「ありがとうございます。」
「すっかりお得意さんね。」
キイナが笑いながら奥にあるいつもの席にグラントさんを案内した。案内しながらキイナが明日のデートはどこに行く?と聞いている声が聞こえて、ふっと私の頬が緩む。
「ほら、特性ドリンク、ナターシャスペシャルよ!」
ナターシャさんが大きなグラスの周りにぐるっとフルーツが付いているドリンクを持ってきた。ドリンクというよりもむしろ、フルーツの盛り合わせだ。この量にナターシャさんの応援の大きさがよくわかる。
「二人ともちゃんと成功させるのよ!キヨ君にはぜひとも彼女を連れてきてほしいわー。あ、ここでプロポーズする?協力するわよ!」
「うんうん、私も協力する!」
本当?とキヨが嬉しそうな声を上げる。
「時間もないし、今から作戦会議をしようよ。」
「いいわね!私も仕事をしながら参加させてもらうわ!3日なんて時間がないじゃない。明日にはここでプロポーズね!」
「仕事しながらって、それ大丈夫なんですか?」
キヨの言葉に「大丈夫、大丈夫、おめでたいことだもの。みんな許してくれるわ!」とナターシャさんが笑った。
そんな二人を見ながら、明日にはレイと仲直りした報告をしたいと思った。
「ライファお帰り。お客さんが来ているわよ。」
ナターシャさんに続いて顔を見せたのはキヨだった。真っ黒に日焼けした笑顔が眩しい。
「キヨ!ずいぶん黒くなったね。元気だった?」
「うん、元気、元気。早く荷物置いておいでよ。一緒にご飯食べようっ。」
キヨに急かされるまま、荷物とポンチョを部屋に放り投げて、食堂に向かった。
「仕事はどう?」
「ふふふふ、建物が昨日完成したんだ。」
「おぉーっ、ようやく完成だね。思っていたより早くできるんだなぁ。」
「うん。やっぱ人数いると違うよね。俺は魔力がないけどさ、魔力がある人たちがいると作業効率が倍だわ。」
そんな話をしているとナターシャさんが料理を持ってきてくれた。
「はい、今日の勧めパンナジーニョよ!」
蒸かしたサワンヤを潰してカックーの粉でもっちりとさせたものを野菜で煮込んだ料理だ。体にやさしい、ほっとする味が人気の郷土料理だ。
「それで、キヨ君はこのあとどうするの?ユーリスアに帰る?」
ナターシャさんが訪ねる。
「それなんですが・・・。」
キヨがキッと顔を上げてこちらを見た。
「プロポーズしようかと思っていて。」
「「プロポーズ!?」」
私とナターシャさんの声が重なる。相手ってきっと前に話していた女性だよね?確か、ターザニアに到着した日に道に迷っているところを助けてくれたとかいう女性だった。
「うん、もともと工事が終わったらユーリスアに帰るつもりだったから、ユーリスアには帰るんだけど。彼女と離れたくないなって思ったんだよね。」
「キヨって17歳だったよね?」
「誕生日が来たから18歳になったもん~。彼女は17歳だし、女性で17歳で結婚するってめずらしくはないだろう?」
「まぁ、それは貴族の間では、だけれど。でも、平民だって17歳で結婚してダメだって法律は無いし、いいんじゃない?」
ナターシャさんがニコニコしながら言う。以前から思っていたが、ナターシャさんはこの手の恋愛話が大好きだ。こういう話をしている時はいつもより二割増しで目がキラキラしている。
「そうかー。キヨが結婚ねぇ。」
結婚なんて考えもしなかったな。いや、そんなことはないか。ヴァンス様に言われた愛人契約はいわば身分差の婚姻みたいなものだ。自分ってそんな年齢になったのかと、なんだか変な気持ちになった。結婚なんてもっとずっと大人がするのもだと思っていたのに、実際にそういう年齢になってみると全然大人なんかじゃない。あの頃よりも出来ることが増えただけで、大人になった感覚は一切なかった。外から見たのと、自分がなってみるのとじゃ17歳という年齢は随分違うものだな。
「待ってよ、待って。まだ結婚できると決まったわけじゃないんだから。」
キヨが焦ったように言う。
「船は3日後に予約しているんだけどさ、それまでに彼女に伝えたいんだ。何も3日後に一緒にユーリスアに来てほしいってわけじゃないんだけど、近い将来、ユーリスアで一緒に暮らしたい。」
「いいっ、いいじゃないっ!キュンキュンするわ、そういうのっ。」
ナターシャさんが顔の下で両腕に握りこぶしを作って、体をクネクネっと捩じっている。
「なんか、凄いな、キヨは。」
真っ直ぐに前を見つめるキヨの姿勢が眩しく感じる。真っ直ぐなキヨだから、真っ直ぐに彼女を好きだと言えるのだろうか。
「どうしたの?なんかライファ元気ないじゃん。」
キヨに言われて、ん、と声を出した。今まで頭の隅っこに無理やり押し込んでいた昨日の出来事がむくむくと心の中に広がり始めていた。
「なんかあったの?」
ナターシャさんが優しく聞いてくる。二人に見つめられてポロリ、ポロリと言葉が出てきた。
「大事な友達に帰ってきたことを伝えて、旅でのことも話して、楽しくなるはずだったんだ。実際楽しかったし。で
も、ちょっと雲行きが怪しくなって。」
レイだということも、相手が貴族だということも、勿論自身のスキルのことも、話せないことが多すぎて大きな枠でしか話せない。そんな要領もつかめないような私の話を二人はうん、うんと聞いてくれた。
「思いがけない酷いことを言われて、私も多分、酷いことを言った・・・。」
何言ってんの?と怒りを抑えたようなレイの声が耳について離れない。あんなに楽しく話していたのに、何をどう間違ってしまったのだろう。
「言ってしまったことを後悔しているの?」
そう聞かれて答えに迷ってしまった。後悔している・・・か。私が言ってしまった言葉はレイに聞いてみたかった言葉だ。だから、聞いたことを後悔しているかと聞かれれば、それは違うような気がした。でも、聞くタイミングが悪かったのと、利用価値あるもんな、と言ったあの言葉は完全にレイの言った言葉に対するあてつけだった。あの言葉は。
「後悔・・・しています。」
「ねぇ、ライファちゃん。酷いことを言われたら頭に来るし悲しくもなる。だから同じ力で相手を殴りたくなる気持ちもすごく分かるわ。でもね、相手を傷つけるようなことを言うと、結局、ライファちゃんも痛いでしょう?」
「・・・はい。」
ナターシャさんが抱きしめてくれる。
「人を傷つけるって痛いね。」
私はもう声にならなくて、頷くしかできなかった。
「謝るしかないじゃん。」
キヨが言う。
「分かってもらえるまで、謝るしかないじゃん。だって、このままなんて嫌だろ?」
私はうん、うんと二回頷く。
「元気出せよ。謝る。ほら、やることは決まったろ?あとは行動あるのみだぜ!」
「そうよ。大丈夫よ。ちゃんと話せば分かってくれるわ。もう、二人には激励をこめて私がスペシャルドリンクをおごってあげる!ガロン!!」
ナターシャさんがガロンを呼びながら厨房へと戻って行った。
「ナターシャさん、いい人だな。」
「うん、ほんとうに。お姉さんってかんじ。家族みたいだ。」
「そうだ、ライファにこれやるよ。」
キヨがくれたのは小さな小瓶に入ったマリンブルーの液体だった。
「キレイ・・・。これ、なに?」
「友達に貰ったものなんだけど、なんだか願いが叶う液体らしいよ。まぁ、信憑性はないけどなー。」
キヨが笑う。
「きっとお守りだよ。これを相手に飲ませてお願いすると願いが叶うらしい。俺は使わないから、ライファにあげるよ。」
「ん、ありがとう。」
元気づけようとしてくれるキヨの気持ちが嬉しくて、小瓶を受け取り腰につけていた巾着に入れた。
「いらっしゃい。今日は遅かったのね。」
そんな声が聞こえて入り口に目をやるとグラントさんが来たところだった。相変わらずキイナに向ける目が優しい。
「今日はちょっと残業していたからな。ライファいるか?」
「向うに座ってるわよ。」
キイナに連れられてきたグラントさんが私に小弓を持ってきた。
「ほら、点検おわったぞ。重心が少しずれていたから直しておいた。」
「ありがとうございます。」
「すっかりお得意さんね。」
キイナが笑いながら奥にあるいつもの席にグラントさんを案内した。案内しながらキイナが明日のデートはどこに行く?と聞いている声が聞こえて、ふっと私の頬が緩む。
「ほら、特性ドリンク、ナターシャスペシャルよ!」
ナターシャさんが大きなグラスの周りにぐるっとフルーツが付いているドリンクを持ってきた。ドリンクというよりもむしろ、フルーツの盛り合わせだ。この量にナターシャさんの応援の大きさがよくわかる。
「二人ともちゃんと成功させるのよ!キヨ君にはぜひとも彼女を連れてきてほしいわー。あ、ここでプロポーズする?協力するわよ!」
「うんうん、私も協力する!」
本当?とキヨが嬉しそうな声を上げる。
「時間もないし、今から作戦会議をしようよ。」
「いいわね!私も仕事をしながら参加させてもらうわ!3日なんて時間がないじゃない。明日にはここでプロポーズね!」
「仕事しながらって、それ大丈夫なんですか?」
キヨの言葉に「大丈夫、大丈夫、おめでたいことだもの。みんな許してくれるわ!」とナターシャさんが笑った。
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