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第二章

20. 散歩とお土産

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いつものように夕食をご馳走になり帰る準備をしていると、ライファがやってきた。家の外まで送るよ、とついてくる。

「レイはいつもこんな感じで師匠に教わってるの?」
「うん、毎回ボロボロ。かっこ悪いよね。」

リベルダ様にボロクソに言われている姿など見せたくはなかったのに、そう思い自虐的に笑う。

「そんなことない。そのボロボロがレイの力になるんだよ。私はかっこいいと思う。」

ライファはそう言って私に笑いかけた。

「ありがとう。」

ライファは時々、こういうことをサラッと言ってのける。綺麗だとか、可愛いもそうだし、髪紐に関してもそうだ。
こっちの気も知らないで。

無自覚ってタチが悪いと思いつつも、言われると嬉しくなるあたり私もどうしようもないんだろうな。

スージィの結界を抜け魔女の家の外まできた。

「これレイとヴァンス様に。こっちがレイでこっちがヴァンス様用だからね。間違えないようにね。」

ライファが袋に入ったお土産を二つくれた。

「ありがとう。」

じゃあ、また、と言いかけたライファの腕を無意識に掴む。

「どうした?」
「あー・・・。」

上手い理由が見つからず、そのままを口にする。

「もうちょっとだけ、一緒にいて?」
「いいよ。散歩でもする?」

ライファはそんな私のお願いに、仕方ないな、というように笑って森の奥を指さした。

「向うに綺麗な場所があるんだ。こっちにいる間に見に行こうと思ってたんだけど、せっかくだから今行こう。」

ライファが私の手首をつかんで引っ張る。手首に伝わるライファの熱が嬉しい。
ほら、こういうことも無意識だから困るんだよ。私はクシャッと前髪を掴んだ。



ライファが連れて行ってくれた場所は水の魔木があるところだった。魔力ランクは2だけれど、めずらしい魔木だ。

「話には聞いたことがあるけど、初めて見た。」

水の魔木は夏、特定の条件が揃うと噴水のように水を吹き出し、滴らせる。魔木のもつ魔力と大地が吸い込んだ水が混じり、噴き出す水が青白く輝くのだ。辺りを青白く照らしながら水を吹きだすその姿はこの世のものとは思えないほど美しい。

「ね、きれいでしょう?」

木を見つめたままライファが言う。

「うん、きれい。」
「来て。」

ライファはまた私の手を取って木に近付き、木から噴き出す水に触れた。

「触ってみて。」

ライファに言われた通りに触ると、その水は冷たくはなく体温より少し暖かいくらいだ。しかも、手を見つめていると今日戦いで負った細かな傷が治ってゆく。

「この魔木の水、ヒーリング効果が1あるんだ。だからこの時期になると、森の動物たちも集まってくる。」

辺りを見回せば私たちの様子を伺うような視線をいくつも感じた。

「少し距離をとってやろう。」

ライファの言葉に従い、木から距離を取って草の上に座る。すると、私たちが何もしないと判断したのか1匹の動物が魔木に近付き、その姿を確認すると次々と動物たちが顔を出した。

動物たちを見ているライファの横顔を見る。少し手を伸ばせば届く距離にいて目が合えば、どうした?と微笑む。この距離を失うなどと考えたくはない。

「あのさ、もう、レベッカとは会ってないから。二人で会う事はもうない。」

そう告げるとライファは驚いて、私のせいか?と聞いてきた。

「違う。前から思っていたことなんだ。」
「そうか・・・。この間はごめん。なんか、おかしなこと言って・・・。」

ライファが言いにくそうに謝ってくる。私は、謝らなくていいという意味で首を振った。

「私の方こそ、変なこと言った。でも、離れるなんてっ。」
嫌だ!と言おうとした時、「あぁ、あれ、ナシにして?」とライファがこっちを見て苦笑いした。

「こうして一緒にいるとさ、レイが貴族だってことすっかり忘れてしまうんだよな。この間、話をしていてレイは貴族だから、いつかは私とは全く違う道を歩くんだって気付いたんだ。レイが近くにいることが当たり前すぎて、なんだか怖くなった。レイがいない日々を想像することができなくなっていたんだ。」

私はライファの言葉を、どこか信じられない気持ちで聞いていた。それって、ライファも私と離れたくないってことなんじゃないか?

そう思ったら、ライファに触れたくて仕方がなくなった。

「抱きしめていい?」
「えぇっ!?なんで?」

混乱しているライファに構わず抱きしめた。ライファの髪の毛が私の頬に触れ、くすぐったい。

「ライファのにおいがする。」
「・・・、レイ、それ変態っぽい。」
「俺、変態でいい。」

「・・・私、レイがもう無理だって言うまで一緒にいようと思う。」
「うん。無理だって言わないからずっと一緒にいてよ。」

私はライファを抱きしめる手を強めた。

「それは・・・、私が旅から帰るたびにレイの家に美味しい物を持って行くということか?」
「え・・・?」

ライファの頭の中には私と一緒に暮らすとか、旅をするとかそういうことは入っていないらしい。さっきのって、あれ、明らかに愛の告白だったよね!?
頭に疑問符をくっつけたまま固まっていると、「まぁ、それもいいか」と驚くような言葉が聞こえてきた。

生殺し・・・。

そんな言葉を脳裏に浮かべながらも、一緒にいると言ってくれたことに満足していた。

「そういえば、いつまでこっちにいるの?」

「帰りは師匠がオルヴまで送ってくれるらしいから、こっちには5日間いるよ。6日目の朝に帰る予定。」

「17日までか。その日は仕事だな・・・。でも、16日が休みだから、もう一度会える。」
「おー、ケチョンケチョンなレイ、楽しみにしてるよ。」

ライファが面白そうに笑った。



今日の出来事を思い出しながら上機嫌で家に帰る。
ジェンダーソン家の玄関のドアを開けると珍しく兄さんがいた。お風呂を終えて階段を上るところらしい。

「おかえり。」
「ただいま。兄さん、なんでいるの?」

「あぁ、父上が用事があるとかで勤務時間を交代したんだよ。その髪紐、どうしたんだ?」
「ライファに貰った。兄さんにもお土産預かってるよ。」

兄さんはへぇ~と少し目を細めたあと、ハッとしたように声をあげた。

「お前、ライファちゃんに会いに行っていたのか?」
「会いに行っていたというか、今日帰ってくるから迎えに行くようにとリベルダ様に言われただけだよ。」

「お前はリベルダ様とも仲良いんだな。」
「仲良いとか、そういうんじゃないけど。」
「ライファちゃん、いつまでこっちにいるって?」

タオルで髪の毛をガシガシと拭く。羽織った服の間から見える逞しい胸元が羨ましい。

「17日に帰るって。」
「そうか、明後日休みだから私も会いに行くかな。丁度報告したいこともあるし。」

兄さんはそう言って嬉しそうにした。なんとなくモヤッとした気持ちを落ち着かせるように髪紐に触れた。

「はい、これ。兄さんのぶん。」

ライファからの包を兄さんに渡す。

「どれ、中身は何かな?お前はもう開けたのか?」
「いや、まだだけど。」

兄さんは私にそう聞きながら、待ちきれないかのようにいそいそと包を開けた。

「ぶっ!!あはははははははは。なるほどね。ひー、苦しいっ。」

兄さんが珍しく大爆笑している。

「何だったの?」

興味をそそられて、兄さんの手元を覗き込んだ。
その手には【誠実】と文字が書かれたタオルが握られていた。

「ぶっ!!」

吹きだした口を片手で抑える。今までの兄さんを知っている私としては、ライファに盛大な拍手を送りたい気分だ。

「笑ってないでお前も開けてみろよ。」

兄さんに言われて自分の包も開けてみる。すると、そこには【根性】と大きな字で書かれたタオルが入っていた。

・・・ナイスチョイス、だな。
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