【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

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第二章

15. レイの憂鬱と決別

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 兄さんがターザニアから戻った。ライファとデートをしたはずなのに、兄さんはいつもの兄さんで何ら変わらない。ライファとのデートはどうだったのか、何をしたのか知りたいけど聞きたくもなく、やはり知りたくもない。正直に言えば何もなかったと、ただ食事をしただけなんだという事実だけを知りたいのだ。兄さんと目が合えば、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ニコリと微笑まれる。

もやもやした気持ちを抱えたまま食事を終え部屋に戻ってリトルマインを見つめていた。話しかけようとしてはやめ、話しかけようとしてはやめてを繰り返し、リトルマインを持ち上げると突然魔力が宿りライファの声がした。

「いるよ。」

ライファの声にすぐに答える。なかなか話し出さないライファに、こちらも何を言ったらよいか分からずに黙ったままでいた。

「あの・・・さ。レイはキスしたことある?」

はぁ?ライファの質問に思わず声が出そうになった。キスだと?ライファの口から出たとは思えない単語だった。

「・・・まぁ、そりゃあ・・・。」

その言葉に嘘はない。一応、デートをしたり付き合ったりしたこともなくはないのだ。長くは続かなかっただけで。

「そ、そうか。そうだよな。アハハハ。」

ライファは乾いたような声で笑うと、今度はレベッカとのデートは順調かと聞いてきた。なんでこの質問になるのか、話の流れが全く分からない。

「デート?レベッカとデートなんかしてないよ?」
「え?そうなの?」。

ご飯には行っているけど、仕事みたいなものだと言えば今度は「じゃあ、キスはしてないの?」と聞いてくる。一体、ライファの頭の中では何がどうなっているのだろう。

「はぁ?してないよ。誰だよ、そんなこと言うの。あ、兄さんか?」

デートの時に兄さんから何か言われたのかと言えば、そうではないらしい。レベッカとデートをしていないと言った後からライファの声のトーンが上がった気がして、もしかして妬いてくれたのかと嬉しくなった。

「もしかして、妬いた?」

その答えが聞きたくて質問すれば「妬く?」と言ったままフリーズする。

この、恋愛音痴が!

だから、少し、意地悪な質問をした。

「もし私がレベッカと付き合っていると言ったらどうする?」

動揺するか狼狽えるかして嫉妬してくれればいいと思っていたのに、ライファが出した答えは
「そしたら・・・今まで通りとはいかないんじゃないかな。・・・ちゃんと離れる準備をしておかないと・・・」
だった。

予期せぬ答えに私は焦った。焦ってつい怒鳴るような口調になってしまった。
離れるなと、離れないと何度も言ったけれどライファの反応はどれも心ここにあらずといった反応で、自分が言った言葉を激しく後悔した。

あの日、兄さんが言った言葉が胸に刺さる。

レベッカと会い続けていれば、レベッカも周りもお前がレベッカを好きなのだと誤解するだろう。勿論、ライファもだ。それはお前の望むことなのか?

こういうことか、と、胸が抉られる思いがした。
私はその日の夜のうちにレベッカとアーガルド侯爵へ面会のチョンピーを飛ばした。




 レベッカ宅へ向かえば相変わらずの大歓迎である。

「ようこそおいでくださいました。さぁ、こちらへ。」
「レイ様、レベッカを訪ねてくださるだなんて、私は嬉しいですわ。」

レベッカの笑顔に、ギリッと奥歯を噛んだ。

「歓迎は必要ありません。本日は心苦しいことをお伝えに参りました。」

なるべく波風を立てないよう、丁寧に言う。アーガルド侯爵は何かを察したのか、軽くレベッカを制するとアーガルド家の奥の間に私を通した。

「どうぞ、お座りください。」

私は席に着く。私の正面にアーガルド侯爵、侯爵の隣にレベッカが座った。

「王都の祭りの際に、ジェンダーソン家に客人がきていたのはご存知ですよね。その客人が誘拐されたのもご存知ですか?」

私は侯爵に尋ねる。

「客人が来ていたのは知っている。うちのパーティーにも招いたはずだ。誘拐事件があったことも知っている。だが、彼女が誘拐されただと?」

アーガルド侯爵は心底、驚いたようだった。

「ジェンダーソン侯爵家の客人に手を出すなどとは・・・。」

レベッカを見ると、指先が微かに震えているのが分かる。

「単刀直入に言います。犯人はレベッカだよね?」

私はレベッカの顔を見て言った。

「私がなぜにそのようなことを?証拠はありますの?」

震える指はそのまま、それでも表情を崩すことなくレベッカは言ってのけた。そんな娘の顔をアーガルド侯爵は見つめている。

「レベッカ、それは本当か?」
「お父様、全くの誤解ですわ。私には彼女を誘拐する理由などありませんもの。」
「娘はそう申しておりますが。」

アーガルド侯爵がこちらに向き直った。

「証拠などありません。むしろ、証拠でしたら私が調べるよりもアーガルド侯爵が調べた方が見つかると思いますよ。」

私はレベッカに向かって微笑んだ。

「今日は騎士団としてこちらに来ている訳でもないし、今の私には証拠があろうがなかろうがどうでも良いことなのです。私の望みは、今後一切、ライファへ手出しはしないでほしいということ。」

その後はアーガルド侯爵へ向かって言った。

「それさえ守っていただければ、この件に関して私が追及することもないですし、他言することもありません。勿論、うちの両親も知りませんから、アーガルド侯爵家の立場が悪くなることもないでしょう。」

アーガルド侯爵が冷や汗をかいているのがわかる。

「わかった。万が一、うちの娘が関わっていたというのなら、この先、レベッカには彼女に手出しはさせない。約束しよう。」

「ありがとうございます。私としても大事にはしたくありませんので、侯爵が約束してくださると助かります。」

レベッカを見ると、いつの間にかレベッカは下唇を噛んで、何かを我慢しているような様子だった。

「レベッカ、この場でもう一度言う。君の気持には答えられない。私は君が他の誰かと幸せになってくれることを願っているよ。」

私はレベッカにそう告げると、アーガルド侯爵に挨拶をして席を立った。

「では、失礼いたします。」



アーガルド侯爵家を出て馬車をつかまえるつもりだったが、歩きたくなってそのまま歩き出した。これで良かったのだろうか・・・。考えたところで、この先の未来など見えるはずもない。レベッカが大人しくしてくれるよう、あとはアーガルド侯爵に任せよう。私にとって大切なのはライファなのだ。

このままではいずれ、ライファは私から離れていってしまうだろう。

どうして私は貴族に生まれてしまったのだろうか。どうして、ライファは平民なのだろう。
どうして、と、もしもを繰り返したところで何にもならないことは分かっている。今までの要素のどれかひとつでも違っていたらライファと出会えてなかったかもしれないのだ。

重要なのはどうしてではなく、どうすればいいか、だ。

ふと視線の先にお菓子屋が目に入った。ライファは食べ物を前にするといつもキラキラした目をする。目を大きく開いたり、細めたりして、いろいろな表情をする。クールな見た目とは正反対の表情をするから、つい目を奪われるのだ。


お菓子を送ったら喜んでくれるだろうか。私はお菓子屋の扉を開けた。




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