上 下
10 / 226
第一章

10. 深夜の調合

しおりを挟む
 ぷはっ。

口元から毀れそうになった回復薬を手で拭った。本日3本目の回復薬だ。一日に飲む回復薬は3本までにするようにと師匠から言われているのでこれが本日最後の回復薬になる。回復薬の飲みすぎは体に異常をきたすためだ。薬材を調合するのはスキルのおかげで魔力を使わないが、火をおこしたり、長時間鍋を混ぜたりしていれば着実に魔力は消費する。

「どうすれば・・・。」

先ほどから調合を繰り返しては薬の効果をあげられず、味が変わっただけの薬を量産する始末だ。コツコツと部屋の中を歩き回りながら、使用する薬材を選びなおすところから始める。

「ブンの木の葉はそれ自体眠りの効果3だ。武器にするならば眠りの効果6は欲しい。」

そういえば前に師匠が大元となる薬材の効果を助けてやるように薬を調合すると効力は上がると言っていたな。眠りの効力を上げるには、リラックス効果のある薬材を混ぜるのが良いかもしれない。あとは、体がほんのり温まるようなものか。薬材棚の前に立って薬を見つめる。

棚には乾燥させた薬材があっちにダラリ、こっちにダラリとはみ出しながら一応は並んでいる。スキルを使ってそれぞれの効果を見ていく。

ハクの花は鎮静効果1なんだよな。鎮静効果は2ぐらいあった方が良い気がする。

他に何かないかな、視線を他の薬材に移そうとしたとき、鎮静効果2の文字が見えた。ん?と引き返してハクの花を見ると、花の中に花びらの内側がわずかに青っぽくなっている花があった。その青みがかったハクの花、それだけが鎮静効果2の文字が表示されていたのだ。

「そうか、同じ花でも花によって効力に差が出ることもあるのか。」

これは新しい発見だった。だが、よく考えれば納得がいく。同じ果物でも育った環境で甘さが違うなんて当たり前のことだ。同じ薬材でも効果に多少の違いがあってもなんらおかしなことはない。

「・・・今まで、同じ薬材の効力をチェックするなんてことなかったもんな。」

私は鎮静効力2のハクの花を使うことにした。


同じようにブンの木の葉を見れば、すべてが眠りの効力3の表示で、効力が違う薬材が混ざるのはそんなによくあることではないのだと知った。次は体がほんのり暖かくなるような薬材を探そう。一番最初に見つけたのはボーボーの木の皮で熱効果3だ。熱効果というのがあんまりよくわからないが、熱というくらいだからあったかくなるのではないかと思う。しかしながら、効果3は強すぎるな。あくまで眠りの効果を助けねばならぬのに、ボーボーの木の皮を使えば、眠りの効果も吹っ飛んでしまいそうだ。

「何か他に丁度良いものは・・・」

そう呟いて思い出した。お風呂場にあるではないか。寒い日やゆっくり温まりたい時に入れる山火花の粉末が!赤い葉っぱが集まったような花で、山に咲いている一般的な保温材だ。

材料が揃ったら調合だ。
水にブンの木の葉を入れて、沸騰させないように温めてゆく。沸騰する直前で火を止めて木の葉の効力を水に移す。そこにハクの花びらを一枚ずつ1花ぶん入れる。このまま30分放置。十分に効果が移ったことを確認し、花と木の葉を取り出す。山火花の粉末を入れひと煮立ちさせたら完成だ。

気になる効力は!!
と見てみると【眠り効果5】の文字。目標には届かなかったもの身の回りにある薬で作ったわりにはよくできたのではないだろうか。

「あとは、この薬を凝縮させて固体にするだけだ。液体を薄くて強い膜で丸く覆って閉じ込めるイメージ。直径2cmくらいの丸にしたい。」

私は眠り薬に手をかざすと、ぎゅーっと凝縮するイメージを薬に伝えた。液体がググッと動いて体積が縮む。もっと濃厚に、とギューッと魔力をこめたところで、よろけて倒れた。魔力を使いすぎたな、そう思った時には瞼は重く、眠りの中に引きずり込まれていった。


「キャーッ!!殺人事件みたーいっ!」

茶化すような甲高い師匠の声に目を開けると、師匠の足の先が見えた。昨夜、というか明け方、魔力を使いすぎて倒れてそのまま寝ていたらしい。
部屋の惨状を見て察しがついた師匠は、はぁあああああと盛大なため息をついた後、「もうお昼なんだけど」と言った。

「・・・昼・・か。」

床に寝ていたせいでバキバキになっていた体を解しながら立ち上がった。そういえば、昨日倒れるまで作っていた薬、どうなったんだろう。鍋に近寄り、ヘラでかき混ぜてその感触を確かめる。微かにとろみがかっていた。念のため、もう一度スキルで効力をチェックする。

「眠り効果6!?効果がアップしてる!」

私の声を聞いた師匠が、おぉっと寄ってくる。

「どうやって調合したんだ?」

師匠に聞かれるまま、調合に使った材料と調合方法を話した。

「ブンの木の葉の効力はせいぜい3のはず。それを調合で6まで効力をアップさせるとは。全く、センスが良いとはこのことだな。」

若干呆れたような声色だったのが気になったが、師匠に褒められて体のバキバキ感も眠気も全部ふっとんだ気がした。

「あとは固体にするだけだ!」

顔の前で拳を握って勢いよく言った。言った!・・・何か忘れているような。

記憶を探れば、即効性という文字が頭の中に取り残されていた。

「即効性、忘れてた・・・。」

膝をついてガックリとうなだれた私を見て、師匠が「まぁ、ご飯にしようや」と言った。
ううううう。


 今日の朝食、いや、昼食は私が昨晩つくったハンバーグをパンに挟んだハンバーガーだ。パンの間に野菜も一緒に挟むことで、食感も楽しくなるしさっぱり食べることも出来る。羊乳にキノコの菌を混ぜて発酵させたヨーグルトに果物を混ぜたものを一品、野菜のスープを一品、柑橘系の果汁と塩、ハーブで和えた野菜サラダを作れば昼食のできあがりだ。

「これがハンバーガーか。」

師匠は珍しそうに眺めたあと、あむっと大きな口を開けて食べた。

「ふご、ふご、これは、パンなのに食べ応えがあってうまい!ハンバーグとパンが良く合うな!」

師匠の言葉に私も食べてみれば、なるほど、パンとハンバーガーの相性がすごく良い。このハンバーガーは冷めてもおいしそうだ。ピクニックにも良いだろう。クッキーにお茶にハンバーガー、うん、楽しいピクニックができそうだ。食べ物好きの会の次のピクニックメニューにしよう。そんな妄想にニヤニヤしていると

「ところで、さっきの惨状を見ると、自分の身を守る方法を何か思いついたんだろう?」

師匠がハンバーグを持ったまま言った。

「はい。自分に何ができるか考えたときに、攻撃用の薬を調合することだと思いました。攻撃用と言っても、思いつくのは眠り薬とかしびれ薬ですが。襲われた時、緊急時に使うとなると、ある程度効力は高く即効性の高いもので、皮膚から侵入できるもので・・・」

昨晩思いついたことを説明する。

「とりあえず、眠り薬からと思って昨晩作っていたのですが」
「即効性を入れるのを忘れた・・とな。」
「そうです。というか、即効性を持つ薬材ってどんなのだろう。ドゥブ毒ってどうやって作るんですか?そこに即効性のヒントがあるかもしれない。」

「ふむ。自身を守る為に一生懸命になることも、研究熱心なのも良いことだ。知識こそが自身を導くものだからな。いいだろう。今のお前に最適な人物を紹介してやろう。少々難はあるが、一点においては優秀な人物だぞ。」

師匠はそういうと「午後から向かう」とチョンピーを飛ばし、「来るときにはご飯持ってきてー!」という少女の声のチョンピーが返ってきた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

ものひろいの能力もらったけど魔法と恋愛に夢中です。

紫雲くろの
ファンタジー
前代未聞の転生者特典を大量使用、チートVSチートなど今までにないド派手バトル描写が多いので、俺つえーに飽きた人にオススメです。 ごく一般的な社畜だった主人公コウは事故により異世界転生を果たす。 転生特典でもらった一定間隔でランダムにアイテムが手に入る能力”ものひろい”により 序盤にて伝説級アイテムの聖剣を手に入れて世界最強かと思いきや、そこに転生特典を奪う強敵が現れたり、リアルチートの元嫁が来たりと忙しい日々を送る。 チートマシマシ&強敵マシマシ、バトルラブコメ物語。 こちらの作品もよろしくおねがいします。こちらはギャグ増々でお送りしてます。 豪運少女と不運少女 小説家になろう様にも投稿しております。

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

宝くじ当選を願って氏神様にお百度参りしていたら、異世界に行き来できるようになったので、交易してみた。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」と「カクヨム」にも投稿しています。 2020年11月15日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング91位 2020年11月20日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング84位

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...