イケメンと体が入れ替わってラッキーと思ったらそのイケメンがゲイだった

SAI

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番外編

誕生日 1

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「横倉さん、今日はもう撮影は終わりですよね?」
「うん、終わりよー」

「じゃ、僕お先に失礼します。今から行けば午後の授業には間に合いそうなんで」

「お昼ご飯食べてけばー? 山内さんが奢ってくれるらしいよ」
「いえ、少しでも早く大学に行きたいんで」

 4月。大学が始まり二年生に進級はしたものの、モデルの仕事が忙しくて時間を縫うように大学へと足を運んでいる。それは勿論、単位を取るためではあるのだけど、少しでも圭太さんに会いたいと思うからだ。

今の時間ならきっと図書室にいるはず。

大学に着くなりワラワラと寄ってくる女子たちを早歩きですり抜け、真っ直ぐに図書室に向かった。図書室の前から2番目のテーブル、窓際。真剣なまなざしで本をめくりながらノートに書きこんでいる姿を見つけるとつい顔が綻ぶ。

やっぱりここだった。

適当な本を一冊持ってから、邪魔しない様に圭太さんと同じテーブルの向かい側に座った。圭太さんの目が僕を捉える。顔をあげないまま圭太さんの目が細められて口元が笑い、足がコツンとぶつかった。僕にこうやって笑いかけてくれることが嬉しくて、同じように足をコツンと合わせながら本から目線を上げずに微笑む。

 大学では人前で会った時は挨拶くらいで殆ど話さない。4月に新入生が入学してくると、僕は圭太さんにそういう約束をさせた。学内にいれば女性の視線がしつこく僕を追ってくることは安易に想像がつく。僕と仲が良いことがバレれば圭太さんにもその視線は向かうわけで、それによって圭太さんの良さが知れてしまうことを少しでも避けるためにだ。

 親しく話せなくてもこうして視線を絡める時間が愛おしい。4月も末になり薄くなった服、長Tを脱がせればその奥のピンク色の膨らみには僕がつけた印がある。ピアスを外して大学に行こうとしたのを僕が許さなかったから、圭太さんはだっぽりとした少し大きめの服を着るようになった。それがなんともそそる。

「あ、いた。圭太君」

何とも普通っぽい女が僕と圭太さんの時間に割って入ってきた。

「由衣先輩」
「メッセージ送っても既読にならなかったから直接聞きに来ちゃった」

「あ、マジっすか? すみません気が付いてなかったっす」

「ゴールデンウイークのゼミ合宿、参加する?」
「あ、します。是非お願いします」
「おっけ、教授にもそう伝えておくね」
「すみません」
「いいよー。じゃ、またね」

ゴールデンウイーク、ゼミ合宿。圭太さんが大学院進学の為にゼミの活動にも力を入れていることは知っている。僕だって勿論応援している。それでも、5月4日は僕の誕生日なのに、という寂しさが込み上げてくる。

仕方ないじゃないか。僕の誕生日なんかより自分の将来の方がずっと大事だ。
頭では理解しているのに、さっきの女性が僕に目もくれずに圭太さんだけを見ていたことも気になる。

女はしたたかで計算深くて油断ならない。長年の間に俺に沁みついた事実。少しざわついた心を抱いたまま講義のある教室へと向かった。



【今日の夜、会える? 阿川が大丈夫なら会いたい】
【ちょっと遅いけど20時くらいになら家に帰れると思います】

【じゃ、そのくらいに阿川の家に行く】

圭太さんと二人で会うのは1週間ぶりだ。圭さんはバイトとゼミの活動で忙しく、僕もモデルの仕事で忙しい。忙しいと忙しいが重なれば当然、会える時間は減る。

はやる気持ちを抑えて帰宅すると、家の前に圭太さんが立っていた。

「おかえり」
「家の中で待ってて良かったのに」
「ここで待っていたい気分だったんだよ」


 圭太さんを連れて部屋に行くと、圭太さんが僕の顔に触れた。

「こうして阿川に触るの、久しぶりだな」
「1週間ぶり、ですよ」

「学内でも普通に接すればいいんじゃね? もっと話したりさ、昼飯だって一緒に食っても一馬は文句言ったりしないと思うけど」

「それはダメです。僕に近寄ってくる女が圭太さんを誘惑すると悪いんで」

「ったく、そんなに心配するなよ。俺には阿川がいるし誘惑なんかされねぇつーの」

今日の先輩にも誘惑されませんか?と口に出そうとして、口を噤んだ。

自分がかなりの束縛タイプだという自覚はある。圭太さんの女性との接点を減らす為に学内での僕との会話を制限しているし、薬指のリングもニップルピアスも圭太さんは僕のモノだと主張するためのものだ。

でも、あんまり束縛して嫌われてしまったら……。


「……がわ? 阿川?」
「あ……すみません、ちょっとぼーっとして」
「疲れてんのか?」

圭太さんが僕の顔を覗き込むようにする。その顎に手をかけると、圭太さんが薄く目を閉じた。啄むように唇を味わい、舌を滑り込ませると圭太さんが静かに従う。

こんな風に圭太さんに触れて……圭太さんが触れることを許してくれる相手は僕だけだ。嫌われたくない。

「阿川……、あのさ、ゴールデンウィークのことなんだけど」

「あぁ、今日聞こえちゃいました。ゼミ合宿ですよね。丁度良かったです。僕もゴールデンウィークは仕事で忙しいんですよね」

「そっか……、それでお前の誕生日なんだけど」

「あぁ、その日も僕、仕事が入っちゃってて。だから気にしないでゼミ合宿、頑張って下さいね」

「そうなんだ……わかった」





 5月4日。
【誕生日おめでとう。仕事頑張れよな】
午前0時に圭太さんから届いたメッセージだ。この一行をもう数十回は読み返した。

もう少し甘い言葉でも言ってくれたらいいのにと思いつつ、このそっけない感じが圭太さんらしいとも思う。

さて、今日は何をしようか。

本当は今日、仕事はない。圭太さんが祝ってくれることを期待して前々から休みを取っていたのだ。急に空いた誕生日の予定、やっぱり仕事出来ますとも言いづらく部屋のベッドに寝ころんだままこうして何回も圭太さんからのメッセージを読み返していた。

コンコン

「お兄ちゃん、私、出かけてくるから」
「あぁ、うん」
「お兄ちゃん、まさか、誕生日だってのにこのまま一人ってことはないよね?」

「そんなこと咲に関係ないだろ。早く行けよ、いってらっしゃい」

ベッドに寝転がったまま手を振ると、なんとも言えない同情の眼差しを向けて出掛けていった。

 計画では、というより妄想では今日は圭太さんに会ってお祝いしてもらうはずだったのに……。公園かなんかで軽く運動して、お金はないだろうからファミレスでご飯でも食べて……。誕生日だからお前の好きなことして良いぜ、なんて言われて家に連れて帰ってきたら、あとはもう……。

押し入れの中に入っているバッグの中身を思う。いつかそういう相手が出来た時にと想像して購入したアダルトなグッズたちだ。

この間の旅行は良かったな。

尿道にカテーテルを差し込んだ時の圭太さん。最初は怖くてビクビクしていたけど、差し込んで少し刺激を与えてやると体を震わせて喜んで、無意識に揺れている腰も半開きのまま閉じることが出来ない唇も零れる涙も……全部が淫らで可愛かった。

もう一度、あの表情を見たい。

いや、待てよ。
拘束してバイブとローターで長時間可愛がるのもそそられる。目隠しで散々気持ち良くさせて、その様子を動画にしてもいいかもしれない。その後で動画を見ながら……。

淫らな妄想を繰り広げれば、男のシンボルであるソコは存在を主張し始める。思わず手を伸ばしそうになって、ハッと堪えた。

誕生日に家に閉じこもってオナニーって、さすがにヤバイだろ。


 



 家を出て街をぶらつくこと一時間。せっかくだから服でも買おうかと覗いたお店で、会いたくない人物を見かけた。

「あれ、阿川君?」

背面の離れているところに立っているのにこちらを振り返ることもせずに僕の名前を呼んでから振り返る。この人のこういうところが不気味だし、掴みどころがなくて苦手だ。その上、圭太さんに引っ付いたりちょっかいを出したりするところが嫌いだ。

「咲也さん、偶然ですね」

「だねー。それよりこんなところに1人でどうしたの? 俺の情報では誕生日だから仕事を休みにしたって聞いてたけど」

はぁ、誰だよ、コイツに話した奴。

「いけませんか? 仕事の休みを貰ってブラブラしてちゃ」

「いけなくなくはないけど、ねぇ。わざわざお願いして休みを貰ったにもかかわらず、誕生日に1人でぶらぶらしてるってことが俺は気になってね」

僕は笑顔を張り付けてほほ笑んだ。

「気にしないでください」

「そんなに冷たい顔しないでよ。あ、そうだ、このあと、ホテルで個人的なパーティーするんだよ。阿川君も来ない?」

個人的なパーティーってなんだよ。しかもホテルでって……。

「いや、遠慮します」
「ふうん、じゃあ、圭太に声かけようかな」

そんなことされたら仕事が休みで一人でふらふらしていたのがバレてしまう。圭太さんの重荷にならないようにと仕事があるふりをしているのに。

「咲也さん、ぜひ参加させてください。圭太さんには僕から連絡しておくので大丈夫ですよ」


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