イケメンと体が入れ替わってラッキーと思ったらそのイケメンがゲイだった

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34. 約束と計画

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「うわー、すげぇっ」

ホテルからバスを使って1時間半かけてやってきたのが由布川渓谷だ。由布川渓谷は、由布市と別府市の間に位置する長さが約12キロ渓谷で、40条以上の滝が大きな岩の岩肌を流れ、その圧倒的な美しさから「東洋のチロル」と呼ばれているらしい。

圭太さんは滝に駆け寄ると「すげぇ」と声を上げ、携帯で写真を撮りまくって大はしゃぎだ。

「ほら、阿川も来いよ。近づくと迫力がヤバイぞっ」

僕に手を伸ばして笑う。その手を掴んで手を繋いだまま滝を眺めた。

あぁ、本当に旅行に誘って良かった。
都内では外で手を繋いでくれない圭太さんがこの旅では手を繋いだままにしてくれる。お揃いの指輪をつけて手をつないで、こうしていれば誰にだって圭太さんは僕のモノだと分かるだろう。

ようやくここまで来た。
僕は顔が綻ぶのを止められなかった。


 ノンケの圭太さんが僕に体を開いてくれて付き合うようになってから、僕は二重の不安に襲われるようになった。ゲイにモテるという事と、ノンケだという事にだ。付き合ってからも圭太さんが無意識に目で追うのは女性だったし、僕らの関係を隠そうと必死だった。

好きかも、と言ってくれたけど好きだとは言って貰えない。その事実が重くのしかかる。セックスの最中の好きだなんて、酔っ払いの戯言によく似ていて不安を払しょくするには全然足りない。


降り積もる不安を体を重ねることで誤魔化して、ゆっくり待ちますなんて余裕を装って。結局いっぱいいっぱいになって別れたいなんて嘘までついて……。

あの頃の感情を思い出すと、今でも胸が締め付けられる。


「阿川、あの階段を下りると川辺まで行けるって。行ってみようぜ」

僕の手を圭太さんが引っ張る。はしゃぎながら階段を下りる圭太さんが可愛いくて見とれていたら、足元が疎かになって滑った。

「あぶなっ」

圭太さんの腕がしっかりと僕を受け止める。

「大丈夫か? 悪い、はしゃぎすぎた」
「大丈夫です」

こういう時の圭太さんはカッコイイ。というか、基本的に圭太さんは男らしい。大雑把な行動とか、口調もそうだし、走る人だから細身だけどしっかりと筋肉のついた良い体をしている。

本人は女性にモテないなんて嘆いていたけど、きっとそんな事はない。圭太さんの良さに気が付いていないだけだ。キリッとした鋭い目は怖いと思われがちだけど、笑うと目じりが垂れ下がって一気に印象が変わる。

本当は優しいのにそれを発揮できないのは大雑把な性格だから相手の感情に気が付いていないだけで、圭太さんのそういうところに気が付く女性がいなかったことに僕は感謝していた。


それに……セックスの時のあのギャップ。

僕が触れると花が開くみたいにどんどん体を開いていく。頬も乳首も色づいて僕を惑わせて、普段出さないようなイヤラシイ声で鳴く。

昨日、尿道を弄ってあげた時の可愛いさはこのまま監禁して閉じ込めてしまいたいと思う程だった。あの圭太さんが怖いと怯えて僕にしがみ付く。尿道にカテーテルを差し込めばビクビクと体を震わせて、涙まで零して……。

少しの怯えの中にも快楽に落ちていく圭太さんが見える。尿道とアナルを塞いだ時の圭太さんと言ったら……。

だらしなく口を半開きにして「あっ……ひっ」と体をヒクつかせて。
好きだ、なんて言って僕の理性を飛ばさなければ、イキたくてぐしょぐしょになって懇願するまで快楽を与え続けたのに。


長年の妄想でしかなかったプレイが、圭太さんで味わえるだなんて……。

「あーがわー? 黙り込んでるけど大丈夫か? 疲れた?」

「疲れては無いですけど、ちょっとお茶でもしません? この先に茶屋があるんですよ」

「いいよ、渓谷見ながらお茶とかって贅沢」

 茶屋は高校の教室くらいの広さで、茶屋の外にもテーブルや椅子が並んでいた。改装したばかりのようで、ジブリ映画にでも出てきそうな森の家的な雰囲気だ。

「せっかくだから外で食べようぜ。ほら、あそこ。ちょっと滝は見にくいけど、でも自然の中で食べる方が断然旨いに決まってる」

圭太さんが指さしたのはお店の裏手にある席だ。足りなくて後から追加した様な席で、ひとつだけ他のテーブルから離れている。

店員さんから渡されたサンドイッチとコーヒーを持って席につく。

「僕の隣に座るんですか?」

向かい側にも椅子があるにもかかわらず僕の隣に座る圭太さんに驚いて尋ねれば「こっち側からの方が滝が見えるから」なんて答えが返ってきた。ちょっと甘い答えを期待した僕は密かにがっかりする。

それに気づいたのか、圭太さんがベンチに置いてある僕の手に手を重ねてきた。

「たまには、な」

あぁ、この気遣い、どうか他の人には発揮しませんように。

「これだけじゃ足りないって言ったら怒ります?」
「え?」

何か言われる前に圭太さんの唇に唇を重ねて、サッと離れた。

「あ、あ、あがわ~っ!!」
「くすくすくす、顔、真っ赤」
「そりゃぁ、真っ赤にもなるだろうがよっ!!」


サンドイッチを頬張りながらぷりぷりしていた圭太さんがまだ赤い耳をしたまま僕を見た。

「阿川はさ、将来どうすんの? このままモデルで食べてくの?」

「そうですね。前までは商社への就職を考えていたんですけど今はこの道を行くのもアリかなって思ってます。正直、こんなに使って貰えると思ってなかったんですけどね」

圭太さんと将来の話をするのは初めてだ。

「あんまり言いたくないですけど、咲也さんの写真集のお陰で色んな仕事が入る様になって、これが結構楽しいんですよ」

「そうか、色々考えてんだなー」
「圭太さんは?」

「俺? 俺はね大手スポーツメーカー志望なの。だから大学院まで進むつもり」

「そうなんですね」

「だからさ、ずっと先のことになっちゃうんだけど」
そこまで言うと、圭太さんは、あーと声を出して空を見上げた。

「俺が就職したら、一緒に暮らす?」

圭太さんが僕を見てニカッと笑う。細い目が垂れ下がるあの笑い方だ。一緒に暮らすというワードが圭太さんの口から出たことが信じられなくて未だキョトンとしている僕に圭太さんが続ける。

「昨日ずっと一緒にいられるのが嬉しいって言ってただろ。帰りたくなくなるってさ。だから何が出来るかなって考えてたんだ」

「将来は僕と一緒に住んでくれるってことですか?」
「住んでくれるって言い方すんなよ。俺だって阿川と一緒にいたいんだから」

「……すごく嬉しいです。でもなんで就職したらなんですか?」

「そりゃあ、まぁ、金がないから。大学行きながらバイトして一人暮らしするほど稼ぐのは難しいだろうからなぁ」

「そうですよね。楽しみにしてます」

僕が言った言葉を覚えていて考えてくれたんだ。心が温かくなるのを感じながら、僕が稼いでさっさと一緒に暮らせるようにしようと心に決めた。

せっかく一緒に暮らす気になっている圭太さんを逃したりはしない。

あぁ、でもどうしよう。まだ足りない。もっともっと僕に溺れて欲しい。圭太さんの手を握ると圭太さんが「ん?」と僕を見た。

今夜もう一つの計画を実行しよう。




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