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30. 一歩ずつ覚悟を従えて

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 阿川の舌が俺の舌を絡めとる。こんなに近くで触れ合えることが嬉しくて、油断したらまた泣いてしまいそうだ。

「阿川が好きだよ。俺、自分が思っているよりずっと阿川のことが好きだった」

阿川が嬉しそうに笑って、俺の頬にキスをした。

「やっと言ってくれましたね。僕、ずっと不安だったんです。好きって聞けば言ってくれるけど、自分から言ってくれたことはなかったから」

「ん……ごめん」

「僕が思うみたいにもっと僕のこと欲しがって欲しくて、別れようなんて言って……。まさか、わかったって言われるとは思ってませんでしたけど」

俺の中にある阿川がピクっと動いて、繋がっていることを俺に思い知らせる。

「俺……阿川が別れたいって言うなら仕方ないかなって。諦めるしかないと思ってたんだ」

阿川が複雑な表情をして顔を傾けた。

【恋とはままならないものですから】

ふとご住職さんの言葉が頭をよぎって、頬が少し緩む。
本当に、本当にままならないもの、だな。


「でも、諦めようとしても無理だった」

自分から阿川に口づける。

「もう、離れられねぇかも」
「かも?」
「離れられねぇから、責任取れよ」

「喜んで」

阿川が腰の動きを再開して少し落ち着いていた火がまた燃え上がる。はっは、と快楽を吐き出しながらも快楽に飲まれて、ぐりぐりと最奥を押されれば離したくなくて締め付けた。

「あ、がわ、のしるし……ほしい……」
「ここ、咬んで欲しいの?」

俺が自分でつけた歯型の上を阿川がなぞった。舌を這わせて軽く歯を立てて、また舐める。

「はっ、あぁ……」

声が漏れたことに驚いて、恥ずかしくて阿川の首元に顔を埋めた。

「くす、こんなところも感じるんだ? 声まで漏らして」

本当はそこだけじゃない。阿川が触れていると思うだけで、阿川が触れた部分が性感帯に変わったみたいにぞわり、と淫らな痺れを呼び起こす。

阿川の歯が俺の肩に触れた。ぐっと肩に阿川の歯が食い込んで、少しの緊張が走ったと同時に阿川が突き上げる。強く抱きしめられた体、密着する皮膚と皮膚。

「あっ、ああっ、はげしっ、ああっ、ひああああっ!!」

弾ける、と思った瞬間に咬みつかれて痛みに痺れ、更に突き上げられて快楽に溶けた。

「ああっ、あああああっ!!」

ビクビクっと体を震わせて阿川にしがみ付く。

「ごめ、……汚した」

呼吸を整えながら話すと、阿川が俺のおでこにおでこをくっつけた。

「汚れてなんかないですよ。汚くないから」



あぁ、もう、好きだなんて言葉だけじゃ伝えきれない。



 
 



  数日後、俺は居酒屋に一馬を呼び出していた。

「圭太が誘うなんて珍しいじゃん」
「まぁ、たまにはお前の顔見ながらお酒でも飲もうかと思って」

「酒でも飲もうなんて、3か月前にお酒解禁になったくせにすっかり大人になっちゃって」

俺を茶化して一馬が笑う。

「で、本当の用事は何? なんかあるんだろ?」
「んー、俺が付き合ってる人を紹介したいなと思って」

「お、マジ? ようやく会わせてくれる気になったの?」

「うん、まぁ」
「へぇー、他の大学の子だっけ? どんな人だよ、可愛い?」

「あー、まぁ、来れば分かるよ」

お酒を一杯飲み終わった頃、俺が待っていた人物がようやく顔を出した。撮影の仕事だったのだろう。さらっとセットされた髪の毛は阿川のイケメンさを引き立てていて、動くたびに女性たちの視線が阿川に注がれる。

目が合って軽く手を上げると、阿川が少し緊張したような表情をした。ここに一馬が来ることを阿川には伝えていなかったから、驚いたのだろう。

「圭太さん」
「おー、お疲れー」

俺は自分の隣をポンポンと叩いて、阿川に座る様に促した。

「おおっ、我が大学の人気者じゃんっ。ちゃんと話すのは初めてだよな。俺、一馬っていうの。一馬先輩でも一馬さんでもいいぜ」

「あ、はい。阿川です。阿川武」

知ってるって、と一馬は笑った後、俺を見た。

「しかし、今日、阿川を呼ぶなんてお前もなかなかの自信家だねぇ。俺なら、愛ちゃんはまだ呼べねぇよ」
一馬の言葉に、阿川が「ん?」と俺たちを見る。

「今日は圭太の彼女を俺に紹介してくれる日なんだよ」
「え……」

阿川が硬直したのを見て、俺はぷっと吹きだした。

「彼女、じゃねぇよ。付き合ってる人って言ったろ?」
「へ? どういう」

一馬が俺と阿川を見てキョロキョロしていると、阿川の顔がどんどん赤く染まっていった。

何この反応。阿川、耳まで真っ赤にしてすげぇ、可愛い。

「え、えぇーっ、うそ、まじ? そういう事なの?」
「うん、俺、阿川と付き合ってる」

「嘘……」
一馬は絶句した後、阿川の顔を覗き込んで言った。

「阿川、まじ、コイツでいいの?」
「ちょっと、お前、もっと他に言うことあるだろ……」

「いや、大事なのはそこでしょ。だって、阿川ならもっといっぱい選択肢はあるじゃんっ。勿体ない、もったいねーよっ」

「勿体なくないです。僕、圭太さんがいい」

阿川はそういうと、よほど恥ずかしかったのか俯いたまま口元を手で覆った。

「そ、そうなの?」
一馬の問いに阿川が頷く。

「なんで一馬まで真っ赤になってるんだよ」

「いや、だってさ。なんか、ちょっとキュンってなった……」

その後はなんでか、「こいつと付き合うのって大変じゃない?」的なトークが始まって、俺はすっかり悪者になっていた。



 一馬と別れて二人で街を歩く。

「あの、良かったんですか?」
「何が?」
「一馬さんに僕たちのこと話したりして、僕、無理させてないですか?」

「無理なんかしてねーよ。阿川とずっと一緒にいたいって思ってるから、近いところにいる人にはちゃんと言っていきたい。今はまだ、一馬だけだけどさ」

阿川がふわっと笑う。

「それと、手、出して」

阿川が出した手のひらに俺は小さな輪っかを一つ置いた。阿川の目が丸くなる。

「これ阿川にやるから阿川が前に買ったやつ、俺にちょうだい。学内で同じリングつけるのはちょっと目立ちすぎるから……。阿川が買ったやつを俺がつけて、俺が買ったやつを阿川がつければいいかなって」

言いながら、こんなの自分のガラじゃなくってどんどん恥ずかしくなる。

「あぁっ、もう、こういうの苦手なんだよ」

目を伏せた俺の視界に阿川の指が入ってくる。

「つけてはくれないんですか?」

ん、と阿川の顔を見上げる。この状況だけで十分に恥ずかしくて逃げ出したいくらいだ。

「……つけてほしいのかよ」
「うん」

阿川があまりに嬉しそうにほほ笑むから、俺は指輪を手に取ると阿川の薬指に嵌めた。



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