イケメンと体が入れ替わってラッキーと思ったらそのイケメンがゲイだった

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27. 入れ替わらない方法を探して

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【家族と相談したのですが秘具を返しに行こうと思います。直近で二日ほど空いている日はありますか?】

阿川からそんな書き込みがあって、二人の予定を合わせることが出来たのは3月2日のことだった。体が入れ替わるから阿川のことは見てはいるものの本人と会うのは約二週間ぶりだ。

なんか緊張する……。

駅に着くと待ち合わせの看板の前にいる阿川を直ぐに見つけた。何度も入れ替わった体だから見慣れているはずなのに、オリジナルの阿川は俺の阿川とは全然違う。視線を落として顔を隠すように立っていてもカッコよさは伝わって来るし、撮影中のモデルのようで声をかけるのをためらった。

遠い人みたいだ…。阿川なのに俺の知っている阿川じゃなくて、モデルの阿川。とおいひと。

ギュッと拳を握る。

「お待たせ、阿川」

阿川の視線が俺を捉える。心臓がドクンと音を立てた。

「すみません、時間作って貰って。山梨県に貝洲寺というところがあるんですけど、そこの住職さんから貰ったという言い伝えがあるみたいなんで、そこに行こうかと」

「山梨県!? 結構遠いな」
「そうですね、3時間ぐらいかかるんで」

普通に話が出来たことにホッとした半面、ぎこちなさも感じる。新幹線に乗り込むと窓際のシートに座る様に促され、おずおずと従った。

「二時間ぐらい乗りっぱなしなんで眠っててもいいですよ」
「あ、うん。ありがと」

阿川に近い肩の部分が気になって仕方がない。眠っていいと言われてもこんな状態で眠る気にもなれず、かといって起きている勇気もなくて窓ガラスに寄り掛かって目を閉じた。アナウンスが聞こえて新幹線が発車する。

少しの揺れの後はシューっという音が聞えるだけで、その音を追っているうちに温かい中に落ちて行った。


カサ……。前髪に触れる優しい指。
阿川が僕を見て笑う。

「ゆっくり待ちますよ。僕、圭太さんが思ってる以上に圭太さんのことが好きですし」

阿川の気持ちが嬉しくて自分の顔が笑顔になっていくのが分かる。

「阿川……、俺も、俺だってお前のこと」

サッと俺の世界に光が差し込んで眩しくて薄く目が開いた。前髪に触れた指の感触。離れて欲しくなくて手を持っていくと、触れた。

「あ……がわ?」
「すみません、ゴミが付いていたのが気になって」

すっと去ってしまった阿川の手。そうか、あれは夢だったのか……。温かなところから目覚める現実は思っていた以上にしんどいのだと知った。



 新幹線を降りて、ローカル線に乗り換えてバスで移動して山道を歩く。一泊分の荷物を背負っての山道は案外キツイもので、体一つで走っている時とは随分違うものだと思った。

「ここです」

こんなに凄い秘具を持っていた神社ならもっと、どーん!って感じかと思ってたんだけどちょっと大きな一軒家みたいだ……。


阿川が立ち止まったのは想像していたよりもずっと小さなお寺だった。木製の門を潜り抜け、声をかけると60代くらいのおじさんが法衣姿で顔を出した。

「先日お電話した阿川です」
「あぁ、君が阿川くんか。どうぞ、中へ」

 通された客間は仏像が置かれているわけではなく、掛け軸にお花があるシンプルな和室だ。どうぞ、と奥さんが出してくれたお茶を頂く。

「それで話していた秘具というのは」
「こちらです」

阿川が布に包まれた秘具をバッグから出した瞬間、カチンと音が聞こえて俺と阿川は同時に声を出した。

「「あ」」
「入れ替わりましたか……」
「分かりますか?」


俺になった阿川が聞く。

「えぇ、魂には色があって私にはそれが見えるのです。阿川さんが秘具を出した瞬間、魂の色がこちらの彼と入れ替わりましたから」

「そうなんですね……。僕が落としてしまったせいで秘具にひびが入ってしまって頻繁に体が入れ替わるようになってしまいました。僕たち、もう入れ替わりたくないのです。何か方法をご存じないですか?」

「阿川さんからお電話を頂いてから古い文献を探してみました。それによると、この秘具はこの地を守る竜神が生贄として捧げられた双子の魂に授けたとされています」


「生贄……」

生贄って生きたまま埋められたり、谷に突き落とされたりするアレだよな……。
言葉の生々しさに思わず声が出た。

「えぇ、干ばつが続いてこの地の竜神が怒っていると勘違いした村人たちが、まだ幼い双子の子供を森の洞窟に閉じ込めたそうです。竜神がそれに気が付いた時には遅く、二人のうちの1つの体が死を迎えていた。不憫に思った竜神はまだ息のあった体を助け、この秘具を授けた、と記してありました」





ご住職さんはお茶を飲んで一息つくと俺たちを見た。

「秘具を竜神の住みかとされる場所に持っていきましょう。もうこの秘具の役目は十分に果たしたのだと。そうすれば元に戻ってもう二度と入れ替わることはないと思います」

「ぜひお願いします。その住みかと言うのはどこにあるのですか?」


「この森の奥です。今日はもう遅いので明日、参りましょう。準備もありますので。ところで、今晩泊る所は決まっていますか?」

阿川が俺を見てから「いえ」と答える。

「ではこの寺にお泊り下さい。何も持て成すことは出来ませんが、たまにはお寺に泊まるというのもいいものですよ」

「「ありがとうございます」」

お世話になります、と二人で頭を下げた。



 その日の夜。
食事とお風呂を頂いてテレビもない和室に布団が二組。まるで修学旅行のような部屋だ。静かな森の中、ほぅほぅと鳴くフクロウの声がどこか不気味だ。

だ、大丈夫だ。ここはお寺だ。幽霊なんか出るはずもない。出たとしてもきっといい幽霊に違いない。

小さい頃から見えもしないのに幽霊が苦手だ。見えないからこそ苦手なのかもしれない。ドキドキしているとスッと阿川、というか俺が立ち上がった。

「阿川っ、どこへ?」
「トイレです」
「あ、そうか。な、なるべく早く帰って来いよ」

「ふっ、怖いんですか?」
「こ、怖くねぇよ。と、とにかく、早く帰ってこいって」

阿川が部屋を出ていく。恐いという思いからすっかり敏感になった俺の神経は少しの音でも逃がさない。にゃあ、という猫の鳴き声に「ひぃっ」と声が出て思わず口を塞いだ。


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