イケメンと体が入れ替わってラッキーと思ったらそのイケメンがゲイだった

SAI

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21. 友達になりましょう

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「そう言えば咲也さんって有名なモデルなのにバレないですよね。誰も騒がない」

「圭太も気が付かなかったしね?」
「まぁ、そうですけど。……実はあんまり有名じゃなかったりして」

へぇー、そう思うんだ、と目を細めた咲也さんが流し目で俺を見るような表情をしたのでドキッとしてほんの少しだけ体を引いた。

ああいう顔、時々、阿川もするんだよ。この二人ってちょっと似てるかも……。

「いや、あはははは」
「ファッションモデルって自分を着飾るのが仕事なんじゃなくて、服を魅力的に見せるのが仕事なんだよ。一流であればあるほど、着る服によってどうとでも変身できるものなんだ」


 その言葉の通り、着替えを済ませると咲也さんはまたもっさりオタク男子に戻った。

「ご飯でも食べて帰る?」
「いや、これでもテスト前の大学生なんで」
「そっか、残念だな」

「ってか、なんで俺なんですか? ボルダリングだって咲也さんと一緒に行きたい人なんてたくさんいるだろうし……」

「前にも言ったろ。圭太の持つ空気が心地よいからだよ。こういう世界にいるとさ、皆、結構どぎつい空気持っててさー。そういうのを感じやすいと削られるんだよ」

「削られる?」
「そ、精神が消耗するの」

咲也さんはスタスタと俺を置いて歩くと自動販売機でお茶を買って俺に投げてよこした。

「ありがとうございます。咲也さんでも弱るってことっすかね?」

「当り前だろ? 俺だって人間なんですけど。こういう業界なんて人を蹴落とそうって人ばっかりなんだから」

「咲也さんもそうなんですか?」

「俺は直接的に何かをしたりしないけど……。少なくとも他の人たちより飛び抜けていたい」
「確かに……疲れそうですよね」

阿川もこんな大変な世界にいるのか……。

「でしょ。自分で選んでこの世界にいるんだから仕方ないけどさ。だからこうして圭太に癒されに来てるわけ」

咲也さんが俺に抱きついてきて、飲み物の安定をとった俺はそのまま抱きつかれていた。

「もっと深くつながったら、もっと気持ち良くなれるかも」

耳元で囁かれ空気の動く気配を感じた俺は顔を傾けて咲也さんの甘噛みを回避した。

「咲也さん、俺のことからかって楽しんでるでしょ?」

ん?と素知らぬ顔をする咲也さんを見て、やっぱりそうなんだ、と確信した。際どいことをしてくるわりにはいつも余裕があって、恋愛感情があるというよりも構って欲しくてじゃれついてくる猫みたいだなと思っていたのだ。

「好きだよ、好き、好き」
「ほら、そうやって」

ため息をついて咲也さんの体を引きはがして歩き出す。

「何で信じてくれないんだよー」

「信じてますよ。好かれてるんだろうなっては思ってるけど、恋愛じゃないっすよね。そういう意味では好きじゃないんでしょ」

「どうかな?」
「ったく、直ぐそうやって含ませるし。じゃあ、友達になりましょうよ。俺の空気? が好きってのは本当っぽいし」

「ぷぷっ、ぷぷぷっ。この歳になって友達になりましょうなんて初めて聞いた」

「もうっ、友達になるんですか? ならないんですか?」

咲也さんは一段と大きな声で笑った後、涙を拭いながら「なるよ」と言った。





 2月に入りテストが終われば4月5日までの長い春休みが始まる。

【何時に着く?】
【あと5分くらいで着くよ】

阿川からのメッセージに返信すると何度も歩いた道を歩き始めた。自分の姿で阿川の家に行くのは二度目だ。クリスマスにこっそり泊まった時、そして今。つまり、家の人にこの姿で会うのは今回が初めてになる。

阿川の家の前に着くと緊張しながら呼び鈴を押した。

「はい」
「橘圭太と申します。あの、武君はいますか?」

ほおおお、と声ののち玄関が開いておばあちゃんが顔を覗かせた。

「武―っ、お友達が来たぞー!! どうぞ」

お邪魔します、と声をかけておばあちゃんが開けてくれたドアを抜けて中に入ると、パタンと閉じたドアの音がとても小さくて、その不自然さを理解する前に体が動いてその場にしゃがんだ。

「いてぇっ!!」

しゃがんだお尻に思いっきり蹴りをくらって体が少し浮いた。

「背後を確認せずにしゃがむとは、まだまだじゃな」
「おばあちゃんっ、俺、今日はお客さんのはずなんですけど」

「武の体に入ることがある以上、ワシの孫同然じゃ」
「ありがたいのか、そうでないのか……」

「素直に喜べっ」

「おばあちゃん、圭太さんを虐めないでくださいね」
「遅い……もう虐められた」

お尻を撫でながら阿川に近づくと、よしよしと頭を撫でられた。痛いのはお尻なのに。いや、阿川にお尻を撫でられるのは他の意味でヤバイかも……。

 阿川の部屋に入るとテーブルの上に無造作に雑誌が置かれていて阿川が読んでいた形跡があった。

「これって来月号のファッション誌? 阿川が出てんの?」
「そ。昨日、貰ったんだ。洋服の仕上がりが遅れたとかで先月撮影したんだよね」

パラパラとめくっていくと街でコーヒーを片手に人を待つ阿川の写真があった。友達と遊びに出掛ける設定のようで、カジュアルな服装の阿川と阿川より少し背が低い美人系のイケメンが笑い合っている。

ストリートバスケを観戦してはしゃいでいるショット、肩を組んで笑って、どの阿川も良い表情だ。

「そんなにじっと見て……妬ける?」
「いや、仕事だしさ。阿川、いい顔してるなーと思って。さすがプロが撮った写真だよなー」

「なんだ、妬かないのか……」

「妬いて欲しいの?」
「……」

一瞬何か言いたそうに俺を見た阿川の顔が俺に近づく。視線が阿川の唇を捉えて、キス。阿川が少しずつ体重を俺に乗せてくるから、そのままベッドに倒れた。漂う予感。

「だっ、ダメだからなっ。俺、このあとバイトだし。ってか今日は行き先を決める為に来たんだぞ」

「ちょっとだけだから」
「だーめっ、男のちょっとだけは信用するなってよく言うだろ」

「それって圭太さんが相手でも当てはまるの?」

俺は男で、女ではない。これって女が男に言われた場合の話だったような……。

「ん? 当てはまらないか……?」
「くす、当てはまりますよ。他の男に言われてもちゃんと断って下さいね」

「お前以外、俺にこんなこと言うやついねぇよ」

阿川はもう一度だけ俺にキスをすると素直に離れた。

 

  結局、温泉好きの阿川の希望で旅行は2泊3日の湯布院への旅に決まった。



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