イケメンと体が入れ替わってラッキーと思ったらそのイケメンがゲイだった

SAI

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1. そんなことあるはずがない

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 俺は今、人生最大のピンチを迎えていた。俺の計画であれば目の前でほほ笑んでいるのは可愛い系の女子のはずで、押し倒して挿入を試みているのが俺だった。だが現実はどうだろう。

俺の視界に最初に映ったのは目の前で拘束されている自分の腕。シーツ。

「じゃあ、挿れますね。大丈夫、直ぐに気持ち良くしてあげますから」

恐ろしい言葉を吐いて俺を組み敷いているのはハーフ系の美青年だ。女の子であればきっと俺の好みド真中の容姿に違いない。

「ちょ、ちょっと待て」

「嫌ですよ。誘ったのはそっちでしょ。まぁ、僕のことネコだと勘違いしてたみたいですけど」

青年がニヤリと表情を歪めた。

「僕、あなたみたいな人をアンアン鳴かせるのが好きなんですよ。じゃ、挿れますね」

「うそ、うそ、ぎ、ギャーッ!!」




 ことの始まりは昨日に遡る。

都内の二流大学に通っている俺は合コン三昧の日々を送っていた。男子校出身の俺は年齢=彼女がいない歴とまではいかないものの、過去に付き合った女性は一人だけ。しかもつきあって1か月で振られるという残念男子。

その残念を脱却すべく、大学ではなんとしてでも彼女を作りたい一心だった。だが、そんな俺のやる気が空回りしてか入学して1年経っても彼女は出来やしない。

「あーぁ、なんで世の中こんなに不公平かねぇ」

俺は前方を歩くイケメンを眺めてため息を吐いた。前方を歩くイケメンとは今年入学してきた阿川武だ。入学するや否や学内イケメンランキングの3位に選出され、彼のいるところには女子の輪が絶えない。

雑誌の読者モデルをしているという噂もあって言い寄る女は数知れず、それなのに誰にも手は出さないから余計に女が群がる。俺から見たら羨ましいほどの女子ホイホイだ。

「確かにあんだけカッコ良かったらなー。圭太があの容姿だったらどうする?」

「俺? そうだな、可愛い女の子に片端から声かけるわ。んで、遊びまくる」

「そこは彼女作るじゃねーの?」
「彼女って。あんなにカッコいいのに一人に絞るなんて勿体ないじゃん」

「これだから童貞は……」

トホホという表情をした親友の腹をギュッとつねると、痛っと大げさに身を捩った。

「じゃあ一馬はどうするんだよ」
「俺は愛ちゃん一筋だからなー。このまんまでいい。愛ちゃん、このままの俺が好きなんだってさ」

腹が立ったので一馬の腹をもう一度つねった。

 
 その日の夕方。テニスサークルでキャッキャと汗を流した俺はサークル女子をご飯に誘うも断られて、どんよりと家路についていた。

「あのー、すみません」
「はい?」

背後から声をかけられて振り向くとフラッシュのような眩い光が襲い目を瞑った。カチッと何かが切り替わるような音も聞こえて慌てて目を開ける。と、目の前に俺が立っていた。

真っ黒な髪の毛も、怖いと言われる目も、ワイルド系にはなれない白い肌もぽてっとした残念唇も正しく俺のものだ。その俺が目の前に立っている。

こうしてみると、俺だってそんなに不細工ってわけじゃないのにな……。
って。

「えぇっ!! なんで俺!?」
「おぉー、成功じゃん。上出来上出来」

目の前の俺はそう呟くと体の動きを試すようにピョンピョンとジャンプした。

「へぇ、なんか身軽。さては運動神経は良い方ですね?」

「ずっと運動部だったから……って、これ、どういうこと? 俺は誰?」

俺が自分の体をあちこち見ているとパシャっと携帯のシャッター音が聞こえた。

「はい、これがあなたです」
「あ、阿川武!?」
「僕のこと知ってました?」
「知ってるも何も、学内じゃ有名だよ」

「簡単に言うと、あなたは今、僕【阿川武】の身体と入れ替わっているんですよ」

「はぁ」
「あれ? あんまり驚かないんですね」
「いや、驚いてるよ。驚いてる」

けど、これってかなり都合が良くないか? 女にモテモテのイケメンの体が手に入ったってことだろ。この体があれば可愛い女の子とあんなことやこんなことも夢じゃない。

「これっていつまでこのままなんだ? あ、お前、犯罪歴とかないよな?」

「前科もないし綺麗な体です。いつまでこのままかは正直言うと分からないかな。でも一生ではない、それは確かです。だから、僕の体は大事に扱ってくださいね」

「お、おう」

ちょっと気持ち良い思いはさせちゃうかもしれないけどな。ぐふふ。

「それにしても何で入れ替わったんだ?」
「その辺も含めて今後のことをお話ししたいので、お茶でもいかがですか?」


 こうして入ったファストフード店でコーヒーを片手に向かい合う。自分と向かい合うなんて変な感じだ。目の前の俺は砂糖を二本とミルクを入れると首を少し傾けてコーヒーを掻き混ぜる。

「げ、俺、ブラック派なんだけど」
「僕は甘党なので。今は僕の体ですよ」

阿川の言う通りだ。目の前の俺は俺だけど俺じゃない。少し首を傾けてコーヒーを掻き混ぜる仕草は俺なのにどこか洗練された印象さえある。俺なのにちょっとイケメンオーラが出ている気がする。

「で、本題に入りますけど」
「はいっ」

「わが家には代々伝わる秘具がありまして、それが一人と入れ替わることが出来るという秘具なんですよ」

「はぁ……」
「祖父の遺品を整理していて見つけたんですけど、実は僕もあまりよく分かっていません」

「はぁ……」
「はぁ、はぁ、ってちゃんと理解してます?」

「つうか理解するほどの内容でもないじゃんかよ。とにかくよく分からないってことなんだろ?」

「そうですけど、なんでそんなに落ち着いてるんですか?」

「だって、済んだことをどうこう言っても仕方ないし」

と阿川には言ったが内心はラッキーっと思っていた。この容姿なら一生もとの体に戻らなくてもいいし、いざとなったら家族には必死に説明すればいい。もしくは、俺である阿川と友達として仲良くなって時折家族の様子を伺うでもいいし。

とにかく俺にとっては何のデメリットもないような気がした。

「っつうか、阿川はなんで俺と入れ替わろうと思ったの?」

「偶然ですね」
「俺じゃ困るんじゃない?」

「全然困らないですよ、大丈夫。それより、橘さんは女性に注意して下さいね。女性ってかなり怖いんで。信用しちゃダメですよ」

「……なんつーか、モテ男の発言だな。へへっ」

俺を取り合う女性たちの姿が想像できて俺はムフフと微笑んだ。

「とりあえず家は交換しましょ。うちはともかく、その姿で橘さんの家に帰っても驚かれるでしょうし」

「それもそうだな」


そして俺たちはお互いの家に帰ることになったのだが、家での話はまた後にするとして。

とにかくこうして阿川の体を手に入れた俺は翌日の大学で好みの可愛い子をデートに誘い、いとも簡単にホテルに連れ込むことに成功した。そして相手がシャワーを浴びてソワソワと心の準備をしていたその時、カチンとスイッチが切り替わる音がしたと思ったら冒頭のあの場面、今になっていたのだ。


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