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第四章 半年後
17. 目指すはセント中央捜査本部
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霧島は苛ついていた。この争いの核となっているのはドリシアに違いない、そう確信して昨晩から山口たちと連絡を取ろうとしているのに全然つながらない。仕方なく通報という形で署に連絡するも霧島を知らない新人に適当にあしらわれただけだった。つまり陰謀論的なアレですかね? と、まとめられた時には発狂のあまりに記憶が飛んだほどだ。
思い出すたびに舌打ちをしてしまう。
「チっ、いっそのこと警察署にのりこんでやる」
鼻息荒く、早歩きよりも走っているに近い速度で歩いている。通常ならこんなヤバい女に話しかけてくる奴はいない。それなのに話しかけるどころか襲い掛かってくる始末だ。
「た、たすけてぇ」
反射的に声の方へ走るとその勢いのまま襲っている男を投げ飛ばした。
「家は近いですか?」
「あ、はい。すぐそこです」
「なら家に戻って出かけないで。通報しても多分警察も対応できない。数が多すぎて」
話している間にもあちこちから叫び声やら物が壊れる音が聞こえる。家を出たときはまだ日常の範囲内だった。それが今では格闘ゲームの世界に召喚されたかのようだ。
「くそっ、どうなってんだ」
助けを求める人の声は切実なぶん霧島の耳によく響く。どの声にも応えてやりたい。助けに行きたい。だがそれが無理なことは痛いほど知っている。ギリッと奥歯をかんだ。
元を裁ちに行かなければ被害は増え続ける。より多くを助けようと思えば横に手を伸ばすよりも今は突き進むしかないのだ。
「よくもやってくれたなぁっ。この能ナシめっ」
そう言いながら先ほど投げ飛ばした男が指を真っすぐに伸ばし霧島に振りかぶった。
強化系の能力、もしくは手の部分が鋭くなっているってとこか。
身をひるがえして攻撃を避ける。幸いなことに戦闘系の能力を持っていても所詮は素人だ。能力の持ち腐れってこういうことを言うのね、と呟きながら霧島は男の背後に回った。
「脇ががら空きよ‼」
容赦などしない。回し蹴りを食らわせ体勢を崩した男の股間を思いっきり蹴り上げた。鈍い叫び声をあげ男が転がる。
「言っておくけど私、能力はあるわよ」
なんとなく否定してみたが男はそれどころでは無いらしく、体を揺らして転がるだけだった。
「それにしてもこんなんじゃ警察署に着くのに時間がかかりすぎる」
いくら能力があるとはいえその能力も戦闘向きではない。ダメもとでもう一度連絡を試みたが山口は何の応答もない。くそっ、と毒づいていると霧島の目の前に小さな破片が降った。空を見上げる。体勢を崩した車が鉄の塊として落ちてくる。スローモーション。ドアを広げて落ちてくる姿はまるで散る直前の花だ。や、と微かな声ののち言葉にならない悲鳴が霧島の耳を劈いた。
衝撃。金属の塊が地面にたたきつけられ跳ねる。破片が舞い、タイヤが転がった。呆然と立った霧島を走らせたのは、うぅっという割としっかりとしたうめき声だ。
「大丈夫ですか⁉」
「た、ぶん。私、臓器を移動できるので大きな怪我はないと思います」
車から這い出して来る被害者の手を取り、引っ張り出す。車に乗っていたら急に車がぶつかってきて……と女性が理由を話し出した。
だめだ。こんなんじゃ本当にらちが明かない。しかも無事にたどり着けるかどうか……。
誰か援護してくれる人でもいれば、と切実に思った時だった。
“あの顔、どこかで見たこと……”
一秒前でも一秒後でも聞き逃していたであろう微かな呟きだ。人々の喧噪を縫って叫び声の隙間を縫って霧島の耳に届いた。
あの男だ!
千葉刑務所で出会ったハーフの男前。あの男はかなりの手練れだった。良いクジを引き当てたとばかりに霧島の口元が歪む。
「警察には連絡してください。連絡が付かなければそのままにしておけばレッカーロボが片付けると思う。あなたは一応病院には行ってくださいね。あの高さから落ちたんだから」
霧島は一気に喋って駆けだした。男の声、相手の声、他の音に紛れてしまわないようにその音にだけ集中する。移動してしまう前に早く、早く、焦りの気持ちを抱いたまま4つ目のコーナーを曲がった時だった。
いた‼
「ちょっとまったー‼」
二人の間に走り込みサッと争いを止める予定が全力疾走した足は縺れ、そのまま武器を持った男の元へとよろけた。驚いた男がとっさに霧島を受け止め、おおぅと声を漏らした。
「悪いけどもう終わりよ。全部聞いてたから」
霧島の拳が男の鼻を捉える。抱きしめて助けた女性から拳を食らうなど思ってもみなかった男は鈍い声を上げて後ろに倒れた。その隙に男の腕から逃れ霧島はユーリの腕をつかむ。
「行くわよ!」
霧島の勢いにおされるまま400mくらい走り、街に溶け込んだところでユーリは立ち止った。
「もういいんじゃないですか。追ってきてないですよ」
「え、あ、そう……そうね」
ぜーはーと肩で息をしながらしかめ面をしている霧島を見てユーリは首をかしげた。
「この場合はお礼を言うべきですかね?」
「言わなくていいっ。お願いがあるから」
「お願いですか?」
「私、霧島茜。千葉刑務所で会ったこと覚えてる?」
覚えてますけど、と頷くと霧島は表情を明るくした。一度大きく息を吸って呼吸を落ち着かせる。
「私を警察署まで護衛してほしい。急ぎで伝えたいことがあるのに連絡しても繋がらないし、街はこの有様でしょ。進むたびに絡まれてウザいのよ」
なぜ僕がそんなこと、と口走ろうとしてユーリは押し黙った。彼女についていけば警察署付近をうろうろしていても怪しまれることはない。加賀美と小暮の居場所が分かったなら相川に知らせてやってもいい。それに何より不自然なく樹のそばに行くことができる。
「いいですよ。お供しましょう」
思い出すたびに舌打ちをしてしまう。
「チっ、いっそのこと警察署にのりこんでやる」
鼻息荒く、早歩きよりも走っているに近い速度で歩いている。通常ならこんなヤバい女に話しかけてくる奴はいない。それなのに話しかけるどころか襲い掛かってくる始末だ。
「た、たすけてぇ」
反射的に声の方へ走るとその勢いのまま襲っている男を投げ飛ばした。
「家は近いですか?」
「あ、はい。すぐそこです」
「なら家に戻って出かけないで。通報しても多分警察も対応できない。数が多すぎて」
話している間にもあちこちから叫び声やら物が壊れる音が聞こえる。家を出たときはまだ日常の範囲内だった。それが今では格闘ゲームの世界に召喚されたかのようだ。
「くそっ、どうなってんだ」
助けを求める人の声は切実なぶん霧島の耳によく響く。どの声にも応えてやりたい。助けに行きたい。だがそれが無理なことは痛いほど知っている。ギリッと奥歯をかんだ。
元を裁ちに行かなければ被害は増え続ける。より多くを助けようと思えば横に手を伸ばすよりも今は突き進むしかないのだ。
「よくもやってくれたなぁっ。この能ナシめっ」
そう言いながら先ほど投げ飛ばした男が指を真っすぐに伸ばし霧島に振りかぶった。
強化系の能力、もしくは手の部分が鋭くなっているってとこか。
身をひるがえして攻撃を避ける。幸いなことに戦闘系の能力を持っていても所詮は素人だ。能力の持ち腐れってこういうことを言うのね、と呟きながら霧島は男の背後に回った。
「脇ががら空きよ‼」
容赦などしない。回し蹴りを食らわせ体勢を崩した男の股間を思いっきり蹴り上げた。鈍い叫び声をあげ男が転がる。
「言っておくけど私、能力はあるわよ」
なんとなく否定してみたが男はそれどころでは無いらしく、体を揺らして転がるだけだった。
「それにしてもこんなんじゃ警察署に着くのに時間がかかりすぎる」
いくら能力があるとはいえその能力も戦闘向きではない。ダメもとでもう一度連絡を試みたが山口は何の応答もない。くそっ、と毒づいていると霧島の目の前に小さな破片が降った。空を見上げる。体勢を崩した車が鉄の塊として落ちてくる。スローモーション。ドアを広げて落ちてくる姿はまるで散る直前の花だ。や、と微かな声ののち言葉にならない悲鳴が霧島の耳を劈いた。
衝撃。金属の塊が地面にたたきつけられ跳ねる。破片が舞い、タイヤが転がった。呆然と立った霧島を走らせたのは、うぅっという割としっかりとしたうめき声だ。
「大丈夫ですか⁉」
「た、ぶん。私、臓器を移動できるので大きな怪我はないと思います」
車から這い出して来る被害者の手を取り、引っ張り出す。車に乗っていたら急に車がぶつかってきて……と女性が理由を話し出した。
だめだ。こんなんじゃ本当にらちが明かない。しかも無事にたどり着けるかどうか……。
誰か援護してくれる人でもいれば、と切実に思った時だった。
“あの顔、どこかで見たこと……”
一秒前でも一秒後でも聞き逃していたであろう微かな呟きだ。人々の喧噪を縫って叫び声の隙間を縫って霧島の耳に届いた。
あの男だ!
千葉刑務所で出会ったハーフの男前。あの男はかなりの手練れだった。良いクジを引き当てたとばかりに霧島の口元が歪む。
「警察には連絡してください。連絡が付かなければそのままにしておけばレッカーロボが片付けると思う。あなたは一応病院には行ってくださいね。あの高さから落ちたんだから」
霧島は一気に喋って駆けだした。男の声、相手の声、他の音に紛れてしまわないようにその音にだけ集中する。移動してしまう前に早く、早く、焦りの気持ちを抱いたまま4つ目のコーナーを曲がった時だった。
いた‼
「ちょっとまったー‼」
二人の間に走り込みサッと争いを止める予定が全力疾走した足は縺れ、そのまま武器を持った男の元へとよろけた。驚いた男がとっさに霧島を受け止め、おおぅと声を漏らした。
「悪いけどもう終わりよ。全部聞いてたから」
霧島の拳が男の鼻を捉える。抱きしめて助けた女性から拳を食らうなど思ってもみなかった男は鈍い声を上げて後ろに倒れた。その隙に男の腕から逃れ霧島はユーリの腕をつかむ。
「行くわよ!」
霧島の勢いにおされるまま400mくらい走り、街に溶け込んだところでユーリは立ち止った。
「もういいんじゃないですか。追ってきてないですよ」
「え、あ、そう……そうね」
ぜーはーと肩で息をしながらしかめ面をしている霧島を見てユーリは首をかしげた。
「この場合はお礼を言うべきですかね?」
「言わなくていいっ。お願いがあるから」
「お願いですか?」
「私、霧島茜。千葉刑務所で会ったこと覚えてる?」
覚えてますけど、と頷くと霧島は表情を明るくした。一度大きく息を吸って呼吸を落ち着かせる。
「私を警察署まで護衛してほしい。急ぎで伝えたいことがあるのに連絡しても繋がらないし、街はこの有様でしょ。進むたびに絡まれてウザいのよ」
なぜ僕がそんなこと、と口走ろうとしてユーリは押し黙った。彼女についていけば警察署付近をうろうろしていても怪しまれることはない。加賀美と小暮の居場所が分かったなら相川に知らせてやってもいい。それに何より不自然なく樹のそばに行くことができる。
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