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第四章 半年後
8.リステアの集会
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不定期に行われるリステアの集会は毎回場所も違う。共通しているのはたいして繁盛していないご飯屋ということだけだ。唐突に送られてきた地図を頼りに店へ向かう。
「よくもまぁ、こんな店を探してくるものだな」
ユーリの視線の先には営業しているのかと疑いたくなるほど廃れた建物があった。この世界の建物には自動清掃機が装備されているのだが、その装置が何年も前に壊れたのだろう。本来ならばクリアな壁が淀んで天然のスモークを貼ったかのようだ。扉を開けると店内からはスパイシーな香りが漂っていた。
「これで全員だな」
厨房から顔を出したのは薄いピンク色のエプロンを付けた相川悟だ。相川はユーリ席に着くのを待ってテーブルにカリィと白米を置いた。いくつもの野菜をとろとろになるまで煮詰めスパイスで味と香りを整えるこの料理は家の味と言われるほど作る人によって味が変わる。リステアの集会は繁盛していないご飯屋に場所を借り、相川悟がカリィをふるまうという謎の集会なのだ。
「いつもながら旨いな。そろそろ店でも出したらどうだ?」
白髪交じりの農夫のような男が言うと相川は口元を少し歪めながら「俺なんかには務まりませんよ」と答えた。店内にはユーリの他に7人の男女がいたが皆がカリィを食べながら談笑しており、緊張感は微塵もない。
その様子はご近所さんの親睦会にしか見えないだろう。
ユーリが食べ始めて10軍ほど経った頃、隣に座っていた細身の男が立ち上がり相川の隣に並んだ。男は二重のきりっとした目を細めてほほ笑む。目じりの皺が人の好さそうな人相を更に引き立てていた。
「皆さん、お願いしていたことは順調ですか?」
「あーん? 見たことねぇ奴が座っているなと思ったらなんだ遠藤さんか‼」
遠藤は微笑みながら皆に背中を向けると、次に振り向いた時にはたれ目で頼りなさそうな人相になっていた。遠藤の能力は筋肉を移動させることで人相を変えられることだ。
思った通りか。
ユーリは心の中で呟いた。
筋肉を移動させる能力だということは知っていたが、筋肉量を変えるとか大きく見せるという類のものではないらしい。筋肉を寄せることで凹凸に変化は付けられるが大きく体形を変えることは不可能ということだ。
つまり細身の遠藤は能力でマッチョになろうとしてもなれないということだ。
そういう能力なら顔を変えるのが一番効果的だ。
「順調よ。この間なんて近所に住んでいる無能の足の骨を折ってやったわ。私のこの太い足が醜いと散々バカにしていたから。我慢しなくていいって素敵ね」
その女、35歳の間島愛は一般的な女性の二倍の太さはある自身の足を撫でた。獣のようにふさふさの毛で覆われているその足は筋肉が異常に発達しているらしい。
集まったメンバーたちは口々に無能をやっつけた功績を語り始めた。
「俺たちに賛同している仲間も集まってきてるぜ。最近、無能の奴らも反撃するようになってきたからな。ヤバい奴はチームで潰してる」
二十歳になったばかりの男は得意げにこぶしを振り上げてユーリを見た。
「で、アンタはどうなの? 新入りの活躍がまだ聞こえてこないんだけど」
「僕はまぁ、ぼちぼちですかね。皆さんのようになかなか上手くできなくて」
「あら、そんなに焦らなくてもいいのよ。人には向き不向きがありますもの、ね?」
愛に同意を求められた前髪の長い若い女が「愛さんの言う通りです」と小さく頷いた。
「かーっ、イケメンには甘いんだから。こっちは体張って頑張ってるってのに。ここにいるんだからあんただって結構使える攻撃系の能力なんだろ?」
「トモ、そんなにカリカリすんなよ」
「相川さん! だってよぅ、いつも涼しい顔して座ってさー」
不満げに目を細めた友井の肩を相川がポンポンと叩く。
「ユーリには刑務所の一件を手伝って貰ったからな。何もしていないわけじゃないさ」
「
えぇっ、ずるっ。俺だってやりたかったのに。仲間を脱獄させるなんてヒーローじゃん」
「お前だって十分ヒーローだぞ。トモの働きには随分と助けられてるよ」
「へぇ」となんてこともないように答えはしたが、友井はまんざらでもなさそうだ。その証拠に笑顔にはなるまいと引き締めた口元がひくひくと歪んでいる。
「脱獄できたのは5人だっけ? 彼らは今どこにいるんだ?」
農夫のような男が皿を宙に掲げながら聞いた。どこからともなくロボットが飛んできて皿を回収していく。
「どことは言えないですがちゃんとこちらに合流していますよ。身を隠してもらってます。堂々と動くにはまだ早いですからね」
相川の言葉に真島が頷く。
「そりゃそうよねぇ。そういえば畑中武史、あいつは脱獄しなかったわけ?」
「彼は失敗したみたいですよ。警察も彼を外に出すまいと必死だったのでしょう。そのおかげで5人が脱走できたようなものです。それに彼が脱走出来たとしても我々と行動を共にするのは難しいですよ。彼はただ人を殺したいだけですから」
「やぁね、志のない者は。そうね、そんな奴が仲間にいても足を引っ張られるだけ。私たちには大切な使命があるのだから」
使命、か。と相川が呟いた声がユーリの耳に届いた。その言葉を拭い去るかのように遠藤が声を張り上げる。
「皆さん、志が高くて嬉しい限りです。引き続きお願いします」
「よくもまぁ、こんな店を探してくるものだな」
ユーリの視線の先には営業しているのかと疑いたくなるほど廃れた建物があった。この世界の建物には自動清掃機が装備されているのだが、その装置が何年も前に壊れたのだろう。本来ならばクリアな壁が淀んで天然のスモークを貼ったかのようだ。扉を開けると店内からはスパイシーな香りが漂っていた。
「これで全員だな」
厨房から顔を出したのは薄いピンク色のエプロンを付けた相川悟だ。相川はユーリ席に着くのを待ってテーブルにカリィと白米を置いた。いくつもの野菜をとろとろになるまで煮詰めスパイスで味と香りを整えるこの料理は家の味と言われるほど作る人によって味が変わる。リステアの集会は繁盛していないご飯屋に場所を借り、相川悟がカリィをふるまうという謎の集会なのだ。
「いつもながら旨いな。そろそろ店でも出したらどうだ?」
白髪交じりの農夫のような男が言うと相川は口元を少し歪めながら「俺なんかには務まりませんよ」と答えた。店内にはユーリの他に7人の男女がいたが皆がカリィを食べながら談笑しており、緊張感は微塵もない。
その様子はご近所さんの親睦会にしか見えないだろう。
ユーリが食べ始めて10軍ほど経った頃、隣に座っていた細身の男が立ち上がり相川の隣に並んだ。男は二重のきりっとした目を細めてほほ笑む。目じりの皺が人の好さそうな人相を更に引き立てていた。
「皆さん、お願いしていたことは順調ですか?」
「あーん? 見たことねぇ奴が座っているなと思ったらなんだ遠藤さんか‼」
遠藤は微笑みながら皆に背中を向けると、次に振り向いた時にはたれ目で頼りなさそうな人相になっていた。遠藤の能力は筋肉を移動させることで人相を変えられることだ。
思った通りか。
ユーリは心の中で呟いた。
筋肉を移動させる能力だということは知っていたが、筋肉量を変えるとか大きく見せるという類のものではないらしい。筋肉を寄せることで凹凸に変化は付けられるが大きく体形を変えることは不可能ということだ。
つまり細身の遠藤は能力でマッチョになろうとしてもなれないということだ。
そういう能力なら顔を変えるのが一番効果的だ。
「順調よ。この間なんて近所に住んでいる無能の足の骨を折ってやったわ。私のこの太い足が醜いと散々バカにしていたから。我慢しなくていいって素敵ね」
その女、35歳の間島愛は一般的な女性の二倍の太さはある自身の足を撫でた。獣のようにふさふさの毛で覆われているその足は筋肉が異常に発達しているらしい。
集まったメンバーたちは口々に無能をやっつけた功績を語り始めた。
「俺たちに賛同している仲間も集まってきてるぜ。最近、無能の奴らも反撃するようになってきたからな。ヤバい奴はチームで潰してる」
二十歳になったばかりの男は得意げにこぶしを振り上げてユーリを見た。
「で、アンタはどうなの? 新入りの活躍がまだ聞こえてこないんだけど」
「僕はまぁ、ぼちぼちですかね。皆さんのようになかなか上手くできなくて」
「あら、そんなに焦らなくてもいいのよ。人には向き不向きがありますもの、ね?」
愛に同意を求められた前髪の長い若い女が「愛さんの言う通りです」と小さく頷いた。
「かーっ、イケメンには甘いんだから。こっちは体張って頑張ってるってのに。ここにいるんだからあんただって結構使える攻撃系の能力なんだろ?」
「トモ、そんなにカリカリすんなよ」
「相川さん! だってよぅ、いつも涼しい顔して座ってさー」
不満げに目を細めた友井の肩を相川がポンポンと叩く。
「ユーリには刑務所の一件を手伝って貰ったからな。何もしていないわけじゃないさ」
「
えぇっ、ずるっ。俺だってやりたかったのに。仲間を脱獄させるなんてヒーローじゃん」
「お前だって十分ヒーローだぞ。トモの働きには随分と助けられてるよ」
「へぇ」となんてこともないように答えはしたが、友井はまんざらでもなさそうだ。その証拠に笑顔にはなるまいと引き締めた口元がひくひくと歪んでいる。
「脱獄できたのは5人だっけ? 彼らは今どこにいるんだ?」
農夫のような男が皿を宙に掲げながら聞いた。どこからともなくロボットが飛んできて皿を回収していく。
「どことは言えないですがちゃんとこちらに合流していますよ。身を隠してもらってます。堂々と動くにはまだ早いですからね」
相川の言葉に真島が頷く。
「そりゃそうよねぇ。そういえば畑中武史、あいつは脱獄しなかったわけ?」
「彼は失敗したみたいですよ。警察も彼を外に出すまいと必死だったのでしょう。そのおかげで5人が脱走できたようなものです。それに彼が脱走出来たとしても我々と行動を共にするのは難しいですよ。彼はただ人を殺したいだけですから」
「やぁね、志のない者は。そうね、そんな奴が仲間にいても足を引っ張られるだけ。私たちには大切な使命があるのだから」
使命、か。と相川が呟いた声がユーリの耳に届いた。その言葉を拭い去るかのように遠藤が声を張り上げる。
「皆さん、志が高くて嬉しい限りです。引き続きお願いします」
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