【SF×BL】碧の世界線 

SAI

文字の大きさ
上 下
114 / 129
第四章 半年後

4. 辻褄

しおりを挟む
 樹が『熊平衛』に着くと上機嫌の霧島が青砥を撫でながら山口の肩をバシバシと叩いているところだった。二か月前に少しだけ会ったとはいえ久しぶりに見る青砥だ。

前髪が眉毛にかかるようになったな。
笑いながら眉間に皺が寄ってる。ふふ、きっと茜さんの声がデカいと思ってるんだ。

今までと同じ日々にいたいなどと思っていたことが嘘のように青砥の存在が樹の視界に溶け込んだ。

「樹ぃ! やっときた。こっちこっち」

霧島が手を挙げながら山口をグイグイと押す。樹はまるで初めて会うかのような顔をして青砥の正面に座った。チラッと青砥を見たものの視線が合うことが恥ずかしくて目を逸らす。

「何を話してたんですか?」

「茜ちゃんに警察官にもどってよぅってお願いしてたのよ。樹君からもお願いしてよぅ」

「だからー、戻りたいって思ってないって言ってるじゃん」

「そもそもなんで警察官を辞めたんですか?」
「そっか、アオは知らないんだ」

霧島が口を尖らせながら卵焼きをつまむ。卵焼きを箸で更に細かくしながら「刑務所での暴動があった日のことなんだけど」と言葉を続けた。
 暴動があったあの日、収監されている受刑者たちに頭を下げて挨拶をされたこと。ありがとうとお礼を言われたこと、事件後呼び出されて受刑者たちの行動の意味を問われたこと。

「どうしてだって言われたってさ、そんなのこっちが聞きたいわよ。何も心当たりがないんだから。それなのに私が犯人たちの仲間だって疑われちゃってさ」

山口がうんうん、と頷きながら潤んだ目で霧島を見ている。まるで推しの引退コンサートにでも来ているような眼差しだ。

「加賀美室長や小暮課長たちはなんて言ってたんですか?」

「係長や小暮課長は何も言わなかったわ。いくら口でやってないって言っても、やってないことを証明するのって難しいじゃない!? やってないっていう確たる証拠が無いから加賀美室長は立場上、私を庇うわけにはいかなかったし。まぁ、辞めろって言われたわけではないんだけど」

「「えっ、そうなの?」」

山口と樹が揃って声を上げた。あわあわと口を動かし霧島がいなくなった悲しみを語る山口を霧島は少しだけ嬉しそうに目を細めてから「もういい」と制した。

「だって疑われている状況で仕事したって楽しくないじゃない。私が辞めれば室長の立場も守れるわけだし」

「だけど、茜さんが犯人の一味だとする証拠が挨拶だけじゃちょっと弱いですよね。それなのに小暮課長や如月係長が何も言わなかったのも気になる」

うん、と同意を示しながら樹は目の前にあった卵焼きを自身の皿に乗せようと箸でつまんだ。途中卵焼きが落ちそうになったが中心から少しずれたところに卵焼きは無事に着陸し、樹は几帳面に卵焼きを中心に置き直した。

「樹、何か知ってるの?」
「いや、知らないよ」

青砥が疑いの目を向けたことで霧島も樹を見、山口の視線は何かビームが出ているのかと思う程熱かった。
3人の視線が集まればそれを乗り切る術はない。樹はイケナイことをした子犬のように視線をさ迷わせた後、重い口を開いた。

「リステアには耳にN+を持った新メンバーがいる、神崎が取り調べの時にそう言ったんですよ。そういえばそちらにも耳にN+を持っている捜査官がいますよね? って言葉も添えて」

「もしかして私がそのメンバーだって信じたわけ!?」

「信じてなんかないですよ。だからとりあえず内密にって」

「でも、これで茜ちゃんが疑われた理由が分かったわね。神崎にそんなことを言われた後に刑務所での一件があれば疑う理由が二つになるわ」

「でも何で私が嵌められるわけ?」

「普通に考えて茜さんの能力は厄介ですよ。音を拾う範囲が広すぎる。人は目に映る範囲のことは意識できても、目に映らないものを意識するのは難しいですから警察側に茜さんが居ない方が良いと思ったんでしょうね」

「それってつまり、私が優秀だってことじゃんっ」

ヤバっと霧島は笑ったが他の3人は真面目な表情をしたままだ。唇に指を当てたまま何か考え事をしている青砥を見て樹は「どうしたんですか?」と聞いた。

「……ちょっと思っていることがあって。確証もないし、ちょっと思っただけなんだけど」

「歯切れ悪いな。ちょっとちょっと言ってないで言いなさいよ」

焦れた霧島が声を上げると青砥はようやく唇から手を離した。

「今日、スポーツジムで立てこもり事件がありましたよね」
「あぁ、私と樹君が対応したやつね」

「そうです。あの事件のニュース映像を観ました。犯人が、能力のある者たちに立ち上がれと言っていた。能力のある者とない者が同等で良いはずがないと。その考えはリステアの山里とまるっきり同じ考えです」

「でもそれって今までもあったよね。N+能力がある方が偉い的なやつ」

「今までもありましたけど、今回のはちょっと雰囲気が違ったというか……」

「確かに今回のはちょっと雰囲気が違ったわ」

「山さんまで!」
「だって茜ちゃん、今回の犯人は明らかに配信ドローンを気にしてた。ドローンに向かって話してたわ」

「山里は国会議事堂を襲撃することで更に仲間を集めようとしていました。大きな事件を起こすことで手っ取り早く全国に自分たちの考えを広めて同胞を募ったんです。今回の犯人は配信ドローンを使って地道に同胞を募っているとしたら?」

「まさか……」

「山里の最終目的はN+能力を持った者たちが支配する国でした。手っ取り早く、確実に目的を達成するために能力のない者たちが減ればいい」

「何それ。どういうこと?」

「リステアの残党か、誰かが……N+能力者たちと能力のない者たちの間に戦争を起こそうとしている」

「ちょ、ちょっと待ってよぅ。それはあまりにも強引じゃない?」
「強引じゃないよ、山さん。粗削りだけど確かに辻妻は合う。アオ、この件は明日如月班長たちに話した方がいい」

3人が見守る中、青砥が静かに頷いた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...