【SF×BL】碧の世界線 

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第三章

27. 侵入者

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各部屋から次々と人が現れ、青砥に続いて碧島へと走った。得体の知れない緊張が渦を巻いている。

「本当に来たのか」

青砥が呟いた声は誰の耳にも届かなかった。
 碧島に到着すると入り口警備の柳原がソワソワと心もとなさそうに立っていた。何があっても入り口の警備員は持ち場を離れない、そういう決まりになっているのだ。

「柳原さん! 中はどうなってますか?」

「それが、まだ情報が何も……」

柳原がそう口にした時、地を揺るがすような大きな破裂音が鳴った。柳原が体を強張らせる。目を合わせた青砥が音の方に駆け出そうとすると柳原が青砥を呼んだ。振り返った青砥の目に入ったのは鳴き島の監視室から送られてきた映像だ。

「これは……なんでこんなことに」

呆然とした柳原の呟き。碧島の岩肌が崩落しているのが分かる。そこにどこからか現れた車が数台到着した。碧島を守るエアーカーテンが無効化されたのだ。

「現場に急ぎます!」

 幾つもの破裂音がこだまする。ぐっ、という鈍い声を上げて仲間が倒れたのを見て青砥は木の影に身を隠した。監視カメラが侵入者を捉える。マスク姿の人間が10人こちらに銃口を向けており背中にロケットランチャーを背負っている者もいた。

「随分立派な武器だな」

ほんの少し身を乗り出した時、青砥の名を呼ぶ弱弱しい声があった。鳴き島施設のリーダー、平だ。

「平さん! 怪我を?」

「あぁ、何かがかすってこのざまだ。大丈夫だ、大した怪我ではない。俺の他にも数人やられた。しかし何だ、あれは」

「銃、ですね。古の武器です」

「そういや昔、そんなのを習ったことがあったな。なんでそんなものが……。いや、それよりも今はこの状況をどうするかだ」

 青砥が頷いた時、えー、と高い声が聞こえた。リングにマイク機能を搭載しているのだろう。声を張らなくてもよく響いた。

「警察官に告ぐ。あー、怪我をしたくなければこの島を出て行け」

1人の男が要求を告げると隣にいた男が「なんだよ、その緊張感の無い言い方」と男を小突いた。

 平の目が射抜くように青砥を見つめてから自身のお腹の前にある腕(リング)を見た。必然的に青砥もリングを見る。小さく表示された画面には文字が浮かび上がっていた。

“武器は持っているか?”

青砥は頷いて自身の腰につけている守棒を平に見せた。
守棒とは伸び縮みする丈夫な棒で攻撃型のN+を持たない者が持つ警察官の一般的な武器だ。申請すれば支給される武器なのだが、自ら武器を持たないことで平和を体現するという志の下に持たない選択をする警察官も多い。

“向こうの茂みにいる河辺を連れてG入り口に潜め”
青砥はしっかりと頷いた。


「うるせー、これでいいんだよ。誰か、代表とかいないの?」

もう一度犯人が声を上げると、平は木に手をついて体を支えながら立ち上がり犯人に見える様に移動した。青砥から離れることで青砥が見つからないようにしたのだ。

「俺だ」
「あ、当たっちゃった? へへ」

平が犯人を睨むと、何人かが銃を持つ手に力を入れた。

「お前たちの目的はなんだ?」
「まずはこの島を頂く事。それ以外はまだ秘密」

 2人の会話に耳を傾けながら青砥は犯人の死角にいる河辺の肩を叩いて視線を合わせた。頷けば同じように河辺も頷く。無言のまま犯人たちから離れ、犯人たちの姿が見えなくなると青砥はようやく立ち止まった。

“平署長から二人でG入り口に潜むように、と”

“なるほど。この島を征服することの目的は1つしかないからな”

 G入り口は廃墟となった建物の残骸の中に紛れるようにしてある。昔、研究施設として使われていたらしいのだが、重厚な扉はそれらしい作りになっているので万が一の時は核廃棄場へのダミー入り口として使用することになっていた。青砥達は入り口に到着すると別々に潜むことにした。

この島を守る警察官は全員で20人。負傷者がいるとはいえ犯人より数で勝ってはいる。だがあの武器は厄介だ。奴らをバラバラにして一人ずつ潰していくのが最善か。30分もすれば本土からの応援も到着するだろう。

 茂みに身を潜めていると平を先頭に3人男が歩いてきた。1人が平に銃をつきつけ、2人が背後で辺りを警戒している。平と犯人の1人がドアを開け内部に入った瞬間に青砥は動いた。最初に押さえるのは口だ。右手で一気に口を塞ぎ、勢いのまま仲間から引き離した。間髪入れずに男の首を左手の前腕と上腕で挟み込み頸動脈を圧迫、意識を奪う。その間にも河辺の腕が青砥の横をすり抜け、青砥と同じようにもう一人の男の口を塞いで引っ張った。計画通りだった。平が振り返り自身に向けられていた銃を蹴り上げる。パァン、と弾が発射され青砥達は一瞬身を硬くした。音が鳴ったのは敵がいるはずもない青砥の背後からだった。

「ジ・エンドってやつじゃない?」

銃を蹴り上げた男が青砥の向こうを顎で指してにやけた。青砥の背後に現れた覆面女性が「おまたせー。結構ヤバかったんじゃん」と青砥に銃を向ける。その背後からまたひとり、ふたりと現れた。

くそっ、まだ敵が……。

明らかに先ほど見た連中とは違う。きっと別の場所から上陸したのだろう。
青砥の目がリングを見た。援軍はもうとっくに到着しても良い時間だ。

本土でも何かあったか……。

脳裏に樹の顔が浮かんだ。ツンとした横顔、グイッと青砥を押しのけておきながら時間が経つとおずおずと手を伸ばしてくる。ここにはない体温に触れたいという強烈な欲が心を平らにしていく。

冷静に、生き残る道を叩き出せ。

どこか形に捕らわれているような彼らの動きに緊張感はない。奴らには自分たちを殺すチャンスはいくらでもあったはずだ。それをしない。少なくとも今はよほど下手を打たない限り殺されたりはしないはずだ。

青砥はゆっくりと両手をあげた。

会いたい。
樹に会いたい。

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