97 / 129
第三章
23. 青砥の仕事
しおりを挟む
ベッドから体を起こすと青砥はまたあの夢か……と呟いた。青砥にとってはストレス発散程度のもしも話、それが5年の月日を経て息をするなどとは思いもしなかった。凄惨な事件だと言葉にしてしまえばあまりにも薄い。ひとつの事件が火種となって各地で事件が起き、事件のニュースを目にするたびに青砥は人知れず震えた。火種の事件の更に前、小さな種を言葉として発したのは紛れもなく自分なのだ。
時間はまだ夜中。明るくなるには早いがロボットが起こしに来るまでは10分ある。二度寝するには短い、起きるには勿体ない微妙な時間だ。
青砥の仕事は碧島に侵入する者がいないか見張る役目だ。この時代、見張りなどという仕事はAIを組み込んだ機械に任せておけばいいという意見は多々ある。だが人間の持つ方程式には捕らわれない「何かおかしい」という感覚を重要視し、人間も見張りとして配置していた。
「仕方ない、起きるか……」
青砥はベッドから出ると腕のリングに届いていたお知らせをチェックした。中にはGYUBEの捜査官チャンネルの新着情報もある。青砥がいなくなったのをいいことに霧島が捜査官チャンネルに樹を登場させるのではないかという期待を込めて登録していたものだ。
「行動が分かり易いよ、茜さん」
大きく表示されたのは戸惑い緊張に表情を硬くした樹の姿だ。視線が忙しなく動いており、動揺すると困って眉毛が垂れ下がる樹の癖がそのまま映っている。その樹を青砥は見つめていた。口角が少し上がっているのに痛みを堪えたように眉間に皺が寄る。
「ほんと……しんどいな。見たいけどしんどいって笑える」
碧島の見張りは24時間体制で行われる。碧島の外周と内部にはAI搭載の監視カメラが飛び回っており、送られてくる映像は鳴き島にある施設で人間の目でもチェックをしている。碧島の外周は電気を伴ったエアーカーテンで囲まれ、人間が触れれば瞬時に意識を失うような代物だ。島の唯一の入り口には警備が立ち、内部には警察官がランダムに配置されていた。
「おはよう、新人さん。ようこそ碧島へ」
碧島のゲートに近づくと体内に組み込まれているチップに反応し、ゲートが開いた。声をかけてきたのは入り口警備に当たっている60代の警察官、柳原だ。青砥が頭を下げる。
「自分で希望してここに来たって? お前さんもアレか、人間と接することに疲れてってやつか」
「そういう人が多いんですか?」
「若くして自分から移動してくる奴は大抵なぁ。ま、そういう奴にとっては過ごしやすい場所じゃろうよ。ここ
は平和だで、時間はいくらでもある。えーと、お前さんの今日のエリアはBエリアじゃな。連絡しておくよ」
監視エリアは毎日変わる。ある者は浮遊出来る靴を使って、ある者は小型の乗り物に乗ってなど、思い思いの方法で指定されたエリアを歩くのだが道順にも決まりはない。規則性のある行動はこの島を狙う者にとって計画が立てやすい、その対策の為に細かいことは決めないのだという。
Bエリアに着くと崖に立って青砥は碧島の内部を見つめた。人の住まない場所というのは自然と人から忘れられた場所になる。地下こそ核廃棄場として整備されているが地上は古代の建築物が朽ち果てた状態で点在しており、昔よく行っていた植物園を広大にしたような島だ。
「いくら小型の監視ロボットが飛び回っているとはいえ死角が多すぎるな……」
リステアが山里夢の遺志を継いでいるのだとしたらこの島を狙う可能性は十分ある。もし攻めてきたらどうやってこの島を守るか。
「随分と難しい顔をしているじゃないか」
「平署長。署長も警備なさるんですか? てっきり鳴き島にある署にいるものだとばかり」
「そ。本当は向こうにいなきゃいけないんだけど、息抜きでもしないとねぇ。この島、人が立ち入らないから自然が豊かだろう?」
平はそう言うと顔を歪めて笑った。真面目な顔をしていれば52歳の強面だが、表情を崩すと随分柔和な印象になるものだと青砥は思った。
「この島ってもし敵が攻めてきたらどうやって守るんですか?」
「そんなことを考えていたのか」
「えぇ、はい。ちょっと気になって」
「どう守るって言われても特殊な訓練を受けているわけではないからなぁ。本土の警察官となんら変わらないよ」
「そうなんですか!? こんな危険物を守っているのに」
「昔はそれなりに特殊部隊的な人材を置いていたみたいだけどな。でもそんな優秀な人材を置いていても彼らが出動することはゼロ。こっちにいるよか本土の方が彼らの力を必要としているのは明白。そのうち世の中から武器が消えた。益々ここに優秀な人材を置く意味がなくなったわけだ。この島が警察関係者の中でなんて言われているか知っているか?」
「知りません」
「保養所だよ」
「保養所……」
青砥は愕然として言葉を繰り返した。
「あはははは、不安にさせたか。なぁに、秀でていないからと言ってダメな奴ばかりが集まっているわけでもない。腕の筋肉にN+を持つ佐伯や人より体が伸びる河辺など戦闘向きのN+を持っている者もいる。十分戦えると私は思っているよ」
平はまたもや微笑むと、お、と声を漏らした。リングが光り出したからだ。
「そろそろ戻らねば。これから会議なんでね」
時間はまだ夜中。明るくなるには早いがロボットが起こしに来るまでは10分ある。二度寝するには短い、起きるには勿体ない微妙な時間だ。
青砥の仕事は碧島に侵入する者がいないか見張る役目だ。この時代、見張りなどという仕事はAIを組み込んだ機械に任せておけばいいという意見は多々ある。だが人間の持つ方程式には捕らわれない「何かおかしい」という感覚を重要視し、人間も見張りとして配置していた。
「仕方ない、起きるか……」
青砥はベッドから出ると腕のリングに届いていたお知らせをチェックした。中にはGYUBEの捜査官チャンネルの新着情報もある。青砥がいなくなったのをいいことに霧島が捜査官チャンネルに樹を登場させるのではないかという期待を込めて登録していたものだ。
「行動が分かり易いよ、茜さん」
大きく表示されたのは戸惑い緊張に表情を硬くした樹の姿だ。視線が忙しなく動いており、動揺すると困って眉毛が垂れ下がる樹の癖がそのまま映っている。その樹を青砥は見つめていた。口角が少し上がっているのに痛みを堪えたように眉間に皺が寄る。
「ほんと……しんどいな。見たいけどしんどいって笑える」
碧島の見張りは24時間体制で行われる。碧島の外周と内部にはAI搭載の監視カメラが飛び回っており、送られてくる映像は鳴き島にある施設で人間の目でもチェックをしている。碧島の外周は電気を伴ったエアーカーテンで囲まれ、人間が触れれば瞬時に意識を失うような代物だ。島の唯一の入り口には警備が立ち、内部には警察官がランダムに配置されていた。
「おはよう、新人さん。ようこそ碧島へ」
碧島のゲートに近づくと体内に組み込まれているチップに反応し、ゲートが開いた。声をかけてきたのは入り口警備に当たっている60代の警察官、柳原だ。青砥が頭を下げる。
「自分で希望してここに来たって? お前さんもアレか、人間と接することに疲れてってやつか」
「そういう人が多いんですか?」
「若くして自分から移動してくる奴は大抵なぁ。ま、そういう奴にとっては過ごしやすい場所じゃろうよ。ここ
は平和だで、時間はいくらでもある。えーと、お前さんの今日のエリアはBエリアじゃな。連絡しておくよ」
監視エリアは毎日変わる。ある者は浮遊出来る靴を使って、ある者は小型の乗り物に乗ってなど、思い思いの方法で指定されたエリアを歩くのだが道順にも決まりはない。規則性のある行動はこの島を狙う者にとって計画が立てやすい、その対策の為に細かいことは決めないのだという。
Bエリアに着くと崖に立って青砥は碧島の内部を見つめた。人の住まない場所というのは自然と人から忘れられた場所になる。地下こそ核廃棄場として整備されているが地上は古代の建築物が朽ち果てた状態で点在しており、昔よく行っていた植物園を広大にしたような島だ。
「いくら小型の監視ロボットが飛び回っているとはいえ死角が多すぎるな……」
リステアが山里夢の遺志を継いでいるのだとしたらこの島を狙う可能性は十分ある。もし攻めてきたらどうやってこの島を守るか。
「随分と難しい顔をしているじゃないか」
「平署長。署長も警備なさるんですか? てっきり鳴き島にある署にいるものだとばかり」
「そ。本当は向こうにいなきゃいけないんだけど、息抜きでもしないとねぇ。この島、人が立ち入らないから自然が豊かだろう?」
平はそう言うと顔を歪めて笑った。真面目な顔をしていれば52歳の強面だが、表情を崩すと随分柔和な印象になるものだと青砥は思った。
「この島ってもし敵が攻めてきたらどうやって守るんですか?」
「そんなことを考えていたのか」
「えぇ、はい。ちょっと気になって」
「どう守るって言われても特殊な訓練を受けているわけではないからなぁ。本土の警察官となんら変わらないよ」
「そうなんですか!? こんな危険物を守っているのに」
「昔はそれなりに特殊部隊的な人材を置いていたみたいだけどな。でもそんな優秀な人材を置いていても彼らが出動することはゼロ。こっちにいるよか本土の方が彼らの力を必要としているのは明白。そのうち世の中から武器が消えた。益々ここに優秀な人材を置く意味がなくなったわけだ。この島が警察関係者の中でなんて言われているか知っているか?」
「知りません」
「保養所だよ」
「保養所……」
青砥は愕然として言葉を繰り返した。
「あはははは、不安にさせたか。なぁに、秀でていないからと言ってダメな奴ばかりが集まっているわけでもない。腕の筋肉にN+を持つ佐伯や人より体が伸びる河辺など戦闘向きのN+を持っている者もいる。十分戦えると私は思っているよ」
平はまたもや微笑むと、お、と声を漏らした。リングが光り出したからだ。
「そろそろ戻らねば。これから会議なんでね」
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる