90 / 129
第三章
16. 行為の意味 ☆
しおりを挟む
この行為は何のための行為だっけ?
内側を擦られる快感の狭間に樹はそんなことを考えていた。突かれるたびに体は正しく反応するのに脳の一部が回路を遮断したかのように静かだ。
青砥の切れ長の目が薄く閉じられては射抜くように樹を見つめる。滑らかな腰の動きは樹の中に何度も入ってくるための動きだと思えばいやらしくも愛おしい。青砥の右腕を掴んでいた指に力を込めると、応える様に青砥の指が樹の指を絡めとった。
「あんまりよくない?」
スローペースで動きは続いている。
「ちがう……く、てアオさんを、見てた」
「それで……何か分かった?」
「……俺を見てる、なって」
「ふうん、どんなふうに?」
押し込まれるたびに目を細めながら樹は言葉を紡ぐ。
「するど、くって、ぜんぶ、みられ、てる、みたい」
「あとは?」
「やさ、しい」
「もっと言って」と青砥に望まれるままいくつも言葉を口にする。
「ゆびが、きれい」
「しつこい」と口にした時には青砥が吹き出して笑い、内部をこじ開ける様に腰を動かした。規則正しかった快楽のリズムが変わる。埋め込まれたペニスが引くことも無く深い所を擦り回し、樹の声が一段高くなった。
「あっ……っ……っいや、らしい」
「見られるっていうのもいいものだな」
体を起こした青砥が樹の右足を掴んで脹脛に口づけた。そして唇の間から舌を覗かせると、つつつ、と太腿へと移動させる。
「あっ、ちょ、それっ……」
恥ずかしいと言うのも恥ずかしくなった樹が身をよじる。熱を隠しもしない青砥の目が樹を捉えて離さない。肌の柔らかい部分は人に触れられることが少ないぶん敏感で、舌が這う感覚を繊細に樹に伝えた。視覚と触覚が樹を追い詰めていく。肉体が溶けるほどの快楽の門が扉を開いた。
「ちゃんと見て焼き付けておけよ」
そこからは思考が散り散りだ。耳を甘噛みされ、喉元を舐められ鎖骨の下に熱を感じた。青砥の指が、唇が樹の体のあらゆるところに触れ、肌を弾いていく。
「あっ……はぁっ」
上ずる声と呼吸、無意識に逃れようとしては抱きしめられた。痛い程反り返ったペニスの先端からは白濁した液が何度も零れ、樹は背中を反らせては熱い息を吐き出す。
「こんな樹、誰も知らないだろうな。俺のモノを咥えこんで腰を揺らして。もう何回イッた?」
「どう、して、こっああっ」
質問にも青砥はニヤリと笑うだけで、部屋に響くのはぬちゃぬちゃとした濡れた音だけだ。
「さっき出したやつが樹の中から出てきてる。押し込むたびに音が鳴って、聞こえるか? このイヤラシイ音」
「あっあっんっ……」
青砥の手が樹の下腹部に触れた。
「樹の中に俺の精液が入ってると思うと興奮する。ずっと出て来なきゃいいのに。俺が死んでも樹が生きてる限りさ」
自身の形を覚え込ませるようにゆっくり引いては最奥を目指す。快楽が途切れないようにイイトコロを掠めつつも最奥を目指すのは、誰も近づけない深い所にマーキングするためだ。打ち付けて体がぶつかっても樹の肉を押しつぶすようにして自身を奥へ送る。その度に樹は声をあげて体を反らした。
「あぁっ、あ、お、さんっ、あっ」
舌を絡めて手を繋いで体をつなげて。これ以上繋げるところはどこだろう。音なんていう消えるものではなくて深く刻まれて薄れない、そういう伝え方があればいいのに。何度目かの精液を奥深くに放出しながら、青砥は樹の耳に口づけた。
「好きだ、樹」
瞬間、樹の頭の中が真っ白になった。そして唐突に下りてきた。そうだ、これは愛を確認する行為だ。好きな者同士が気持ちを確認する為の行為。青砥は樹を好きだと言った。ずっと前から行動で、言葉で示してくれていた。じゃあ俺は? 俺……
「樹」
「アオさん、俺……ア」
優しい青砥の目が憂いを帯びて閉じる。見つけた想いは言葉にならないまま青砥の口の中に消えた。
情事の後は気だるさと恥ずかしさが入り混じる。二人に近い部分の空気はまだ熱を帯びているのに部屋の隅から冷静な沈黙が訪れているみたいだ。青砥の顔を見ることが出来なくてうつ伏せのままの樹の横で青砥はぼんやりと宇宙を見ていた。樹がここにいることを確かめるかのように青砥の指が樹の指を弄ぶ。
「俺と出会わなかったら樹は何をしてたんだろうな」
「……今と変わらず仕事をしてたと思いますけど。でも男の人とこういうことはしなかったかもですね」
青砥が樹の顔を覗き込むようにしたので、樹は髪の毛を整えるふりをして手で顔を隠した。恥ずかしいはまだ健在だ。
「そっちの方が良かった?」
「……どうしたんですか? 急に」
手の隙間から見えた青砥はまた宙を仰いで星を見ている。
「俺と出会わなかったら進む道があって、俺と出会うことで変わってしまった未来がある。時々、自分と出会わなければ良かったんじゃないかと思うことってない?」
「俺、結構ひっそりと生きてたんで、人の未来を変えるほど影響力は持っていなかったと思います。いてもいなくても同じ、みたいな……」
アオさんくらいだよ、こんな……と呟くと青砥が樹を見た。ほほ笑むでもない表情。樹は手を伸ばすとそろりと青砥の手に自身の手を重ねた。
「俺は……アオさんと出会えて良かったと思ってますよ」
青砥に辞令が下ったのはその翌日のことだった。
内側を擦られる快感の狭間に樹はそんなことを考えていた。突かれるたびに体は正しく反応するのに脳の一部が回路を遮断したかのように静かだ。
青砥の切れ長の目が薄く閉じられては射抜くように樹を見つめる。滑らかな腰の動きは樹の中に何度も入ってくるための動きだと思えばいやらしくも愛おしい。青砥の右腕を掴んでいた指に力を込めると、応える様に青砥の指が樹の指を絡めとった。
「あんまりよくない?」
スローペースで動きは続いている。
「ちがう……く、てアオさんを、見てた」
「それで……何か分かった?」
「……俺を見てる、なって」
「ふうん、どんなふうに?」
押し込まれるたびに目を細めながら樹は言葉を紡ぐ。
「するど、くって、ぜんぶ、みられ、てる、みたい」
「あとは?」
「やさ、しい」
「もっと言って」と青砥に望まれるままいくつも言葉を口にする。
「ゆびが、きれい」
「しつこい」と口にした時には青砥が吹き出して笑い、内部をこじ開ける様に腰を動かした。規則正しかった快楽のリズムが変わる。埋め込まれたペニスが引くことも無く深い所を擦り回し、樹の声が一段高くなった。
「あっ……っ……っいや、らしい」
「見られるっていうのもいいものだな」
体を起こした青砥が樹の右足を掴んで脹脛に口づけた。そして唇の間から舌を覗かせると、つつつ、と太腿へと移動させる。
「あっ、ちょ、それっ……」
恥ずかしいと言うのも恥ずかしくなった樹が身をよじる。熱を隠しもしない青砥の目が樹を捉えて離さない。肌の柔らかい部分は人に触れられることが少ないぶん敏感で、舌が這う感覚を繊細に樹に伝えた。視覚と触覚が樹を追い詰めていく。肉体が溶けるほどの快楽の門が扉を開いた。
「ちゃんと見て焼き付けておけよ」
そこからは思考が散り散りだ。耳を甘噛みされ、喉元を舐められ鎖骨の下に熱を感じた。青砥の指が、唇が樹の体のあらゆるところに触れ、肌を弾いていく。
「あっ……はぁっ」
上ずる声と呼吸、無意識に逃れようとしては抱きしめられた。痛い程反り返ったペニスの先端からは白濁した液が何度も零れ、樹は背中を反らせては熱い息を吐き出す。
「こんな樹、誰も知らないだろうな。俺のモノを咥えこんで腰を揺らして。もう何回イッた?」
「どう、して、こっああっ」
質問にも青砥はニヤリと笑うだけで、部屋に響くのはぬちゃぬちゃとした濡れた音だけだ。
「さっき出したやつが樹の中から出てきてる。押し込むたびに音が鳴って、聞こえるか? このイヤラシイ音」
「あっあっんっ……」
青砥の手が樹の下腹部に触れた。
「樹の中に俺の精液が入ってると思うと興奮する。ずっと出て来なきゃいいのに。俺が死んでも樹が生きてる限りさ」
自身の形を覚え込ませるようにゆっくり引いては最奥を目指す。快楽が途切れないようにイイトコロを掠めつつも最奥を目指すのは、誰も近づけない深い所にマーキングするためだ。打ち付けて体がぶつかっても樹の肉を押しつぶすようにして自身を奥へ送る。その度に樹は声をあげて体を反らした。
「あぁっ、あ、お、さんっ、あっ」
舌を絡めて手を繋いで体をつなげて。これ以上繋げるところはどこだろう。音なんていう消えるものではなくて深く刻まれて薄れない、そういう伝え方があればいいのに。何度目かの精液を奥深くに放出しながら、青砥は樹の耳に口づけた。
「好きだ、樹」
瞬間、樹の頭の中が真っ白になった。そして唐突に下りてきた。そうだ、これは愛を確認する行為だ。好きな者同士が気持ちを確認する為の行為。青砥は樹を好きだと言った。ずっと前から行動で、言葉で示してくれていた。じゃあ俺は? 俺……
「樹」
「アオさん、俺……ア」
優しい青砥の目が憂いを帯びて閉じる。見つけた想いは言葉にならないまま青砥の口の中に消えた。
情事の後は気だるさと恥ずかしさが入り混じる。二人に近い部分の空気はまだ熱を帯びているのに部屋の隅から冷静な沈黙が訪れているみたいだ。青砥の顔を見ることが出来なくてうつ伏せのままの樹の横で青砥はぼんやりと宇宙を見ていた。樹がここにいることを確かめるかのように青砥の指が樹の指を弄ぶ。
「俺と出会わなかったら樹は何をしてたんだろうな」
「……今と変わらず仕事をしてたと思いますけど。でも男の人とこういうことはしなかったかもですね」
青砥が樹の顔を覗き込むようにしたので、樹は髪の毛を整えるふりをして手で顔を隠した。恥ずかしいはまだ健在だ。
「そっちの方が良かった?」
「……どうしたんですか? 急に」
手の隙間から見えた青砥はまた宙を仰いで星を見ている。
「俺と出会わなかったら進む道があって、俺と出会うことで変わってしまった未来がある。時々、自分と出会わなければ良かったんじゃないかと思うことってない?」
「俺、結構ひっそりと生きてたんで、人の未来を変えるほど影響力は持っていなかったと思います。いてもいなくても同じ、みたいな……」
アオさんくらいだよ、こんな……と呟くと青砥が樹を見た。ほほ笑むでもない表情。樹は手を伸ばすとそろりと青砥の手に自身の手を重ねた。
「俺は……アオさんと出会えて良かったと思ってますよ」
青砥に辞令が下ったのはその翌日のことだった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ドリーミング・オブ・ドーン様。たいへん恐縮ですが、ご逝去頂ければ幸せの極みにございます
スィグトーネ
ファンタジー
雪が溶け、春がやってきたある日、黒毛のオスウマが独り立ちを許された。
名はドリーミングオブドーン。一人前のユニコーンになるために、人間が魔族の仲間となって、多くの経験を積む旅がはじまったのである。
ドリーミングオブドーンは、人間と共に生きることを望んでいた。両親も祖父も人間と共に生き、多くの手柄を立てた一角獣だからだ。
果たして彼には、どのような出会いが待っているのだろう。物語はいま始まろうとしていた。
※この物語はフィクションです。
※この物語に登場するイラストは、AIイラストさんで作成したモノを使っています。

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる