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第三章
12. 5年前 2
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内部は酷い有様だった。壁にはひびが入り、棚や花瓶、ロボットの破片などが飛散していた。一見廃墟かと思う程の荒れようだ。事務員や警備員たちが倒れている。悲鳴や怒号、あちこちで戦いの音がしていた。
敵が倒れていない、ということは先ほどの黒ポンチョたちは戦闘向きの能力を持っているということですか……。
加賀美は、うぅっと声をあげた男の下へ駆け寄った。男の腕には警察官である証の腕章が巻かれている。加賀美は素早く簡易診察機を取り出すと男の体をスキャンした。幸いなことに内臓に損傷はないようだ。
「大丈夫ですか? 話せますか?」
「か、加賀美課長……?」
「何があったのか教えて下さい」
男はよろよろとした動作で体を起こしながら話し始めた。
「黒いポンチョの人たちを追って建物の中に入った直後、背後で何かが破裂して吹き飛ばされました。そこからは何も……」
破裂……。山里が体内で生成した爆弾ですか。
「追っていた人物たちはどこへ?」
「吹き飛ばされる直前、この廊下を右に曲がっていくのが見えました」
「ありがとう。君はここを離脱して手当を。もし動ける用なら救助に回って欲しい」
男が頷いたのを確認して加賀美は廊下を右に曲がり奥へと急いだ。途中、加賀美を警官とみた男たちが攻撃をしかけてくる。そのどれもが黒のポンチョを着ていない。つまり先ほどの声に感化された一般人ということだ。
なるべく怪我はさせたくないですね……
こういうときは戦意を喪失させるのが一番だ。山里の言葉に感化されたとはいえ覚悟も意志もまだ弱い。加賀美は武器を持っている人々に向けて手をかざすと次々と武器を引き寄せた。稀に体ごとやってくる者にはニコリと微笑んで丁重に受取り、壁際に座って頂いた。
「武器を持っても無駄です。刑務所に行きたくなければ今すぐここを去りなさい。あなた達では私に勝てる見込みは無い」
邪魔する者たちを排除しながら犯人たちがいると思われる本会議場へと走る。本会議場は音が外に漏れないようにと最新の消音設備が備わっており、音で内部の様子を探ることは不可能だった。加賀美の後から続いてきた警察官と共に扉の前に立つ。
「俺が開けます」
小さな声を上げたのは腕の筋肉にN+を持つBチームの班長、大和だ。
「待って下さい。大和君はドアが開くよう鍵の破壊だけお願いします。あとは私が開けますから皆は向かいの部屋の中に。合図をしたら突入します」
大和がカギを破壊し部屋に戻ってくると加賀美はドアから手を出してN+を発動した。と、同時に大きな爆発音が鳴り、ドアごと加賀美の体が吹っ飛んだ。
「加賀美さん!!」
「大丈夫です。思った通り爆弾を仕掛けていましたね」
煙が視界をぼやけさせる。黒いポンチョが加賀美の視界に入った。
「降伏してはくれませんかね?」
「それはこっちのセリフです。加賀美昭彦さん、あなたの能力は素晴らしい。私たちの下へ来ませんか? あなたほどの人ならそれ相応の地位を用意してもいい」
煙が拡散され薄まると視界がはっきりとしてきた。目の前に立っているのは金色に染めた髪の毛を一本に結った若い男だ。柔和に微笑んでいながら目の奥に鋭さを感じる。
「あなたが山里夢さんですか」
「調べはついているんですね。それくらい当然か」
山里が軽く笑う。
「どうしてこんなことを?」
「どうして……ね。これ、何の痕だかわかります?」
山里はポンチョをめくりお腹を見せた。脇腹の辺りの皮膚が焼けただれたようになっており、見るからに痛々しい。
「俺の能力を押さえる為に政府に強制されたんですよ。俺はね、体内で爆弾が生成されてしまうからと6歳から薬を飲まされたんです。飲んだら気を失う程の頭痛が起きる薬を毎日毎日。中学になるとその薬の効果も落ちてきましてね、そしたらこれですよ。体内で生成されてしまった爆弾をレーザーで破壊するんです」
山里が手を離したことで傷はまた黒のポンチョに隠れた。
「自分の能力が危険なのは知っている。いくらその能力を使わないと言っても信用されず、それどころか俺はずっと監視され酷い副反応が出る薬を飲ませ続けられた。もっと副反応が出ないようにとお願いしても、薬の開発にはお金と陵力がかかるから俺一人の為には出来ないんだそうだ」
山里は極めて明るくケラケラと笑った。それは対角にある感情の強さを表しているようで加賀美は山里から目が離せない。一歩踏み外せば落ちてしまう、そういう諸刃の強さを加賀美は感じていた。
「人間だってことを忘れてしまいそうでしたよ」
他人の為に苦痛を強いられ、監視される日々。その日々がどれだけ山里の心を擦り減らしたかと思うと加賀美は山崎に同情した。一歩間違えば自分が山里のようになっていたかもしれないのだ。
「おかしくないですか? 強制的に能力を開発されたのに危険だからとこの仕打ち。そもそも能力を持つ人間と持たない人間が平等なのがおかしいんですよ。能力を封じるのではなく活かすべきだ。そうでしょう?」
「能力は活かすべきだと私も思います。あなたの置かれていた境遇には同情もするし、今こうして向き合っていても胸が痛い」
どうか踏みとどまって。こちら側へ、こちら側へ。
加賀美の額に浮かんだ汗がこめかみを伝う。
「あなたの声は私が聴きました。国民も聞いた。このままにはしません、絶対に。『戦う』以外の道を一緒に探しましょう」
加賀美が手を差し伸べた時、山里は笑った。嘲りか悲しみか、感情が読めない。
「もう遅いよ。だってほら、もう始まっているから」
そう言って山里は安易に加賀美に背を向けた。そして指さした時、黒ポンチョの壁が割れ加賀美が目指していた奥の部屋が見えた。
敵が倒れていない、ということは先ほどの黒ポンチョたちは戦闘向きの能力を持っているということですか……。
加賀美は、うぅっと声をあげた男の下へ駆け寄った。男の腕には警察官である証の腕章が巻かれている。加賀美は素早く簡易診察機を取り出すと男の体をスキャンした。幸いなことに内臓に損傷はないようだ。
「大丈夫ですか? 話せますか?」
「か、加賀美課長……?」
「何があったのか教えて下さい」
男はよろよろとした動作で体を起こしながら話し始めた。
「黒いポンチョの人たちを追って建物の中に入った直後、背後で何かが破裂して吹き飛ばされました。そこからは何も……」
破裂……。山里が体内で生成した爆弾ですか。
「追っていた人物たちはどこへ?」
「吹き飛ばされる直前、この廊下を右に曲がっていくのが見えました」
「ありがとう。君はここを離脱して手当を。もし動ける用なら救助に回って欲しい」
男が頷いたのを確認して加賀美は廊下を右に曲がり奥へと急いだ。途中、加賀美を警官とみた男たちが攻撃をしかけてくる。そのどれもが黒のポンチョを着ていない。つまり先ほどの声に感化された一般人ということだ。
なるべく怪我はさせたくないですね……
こういうときは戦意を喪失させるのが一番だ。山里の言葉に感化されたとはいえ覚悟も意志もまだ弱い。加賀美は武器を持っている人々に向けて手をかざすと次々と武器を引き寄せた。稀に体ごとやってくる者にはニコリと微笑んで丁重に受取り、壁際に座って頂いた。
「武器を持っても無駄です。刑務所に行きたくなければ今すぐここを去りなさい。あなた達では私に勝てる見込みは無い」
邪魔する者たちを排除しながら犯人たちがいると思われる本会議場へと走る。本会議場は音が外に漏れないようにと最新の消音設備が備わっており、音で内部の様子を探ることは不可能だった。加賀美の後から続いてきた警察官と共に扉の前に立つ。
「俺が開けます」
小さな声を上げたのは腕の筋肉にN+を持つBチームの班長、大和だ。
「待って下さい。大和君はドアが開くよう鍵の破壊だけお願いします。あとは私が開けますから皆は向かいの部屋の中に。合図をしたら突入します」
大和がカギを破壊し部屋に戻ってくると加賀美はドアから手を出してN+を発動した。と、同時に大きな爆発音が鳴り、ドアごと加賀美の体が吹っ飛んだ。
「加賀美さん!!」
「大丈夫です。思った通り爆弾を仕掛けていましたね」
煙が視界をぼやけさせる。黒いポンチョが加賀美の視界に入った。
「降伏してはくれませんかね?」
「それはこっちのセリフです。加賀美昭彦さん、あなたの能力は素晴らしい。私たちの下へ来ませんか? あなたほどの人ならそれ相応の地位を用意してもいい」
煙が拡散され薄まると視界がはっきりとしてきた。目の前に立っているのは金色に染めた髪の毛を一本に結った若い男だ。柔和に微笑んでいながら目の奥に鋭さを感じる。
「あなたが山里夢さんですか」
「調べはついているんですね。それくらい当然か」
山里が軽く笑う。
「どうしてこんなことを?」
「どうして……ね。これ、何の痕だかわかります?」
山里はポンチョをめくりお腹を見せた。脇腹の辺りの皮膚が焼けただれたようになっており、見るからに痛々しい。
「俺の能力を押さえる為に政府に強制されたんですよ。俺はね、体内で爆弾が生成されてしまうからと6歳から薬を飲まされたんです。飲んだら気を失う程の頭痛が起きる薬を毎日毎日。中学になるとその薬の効果も落ちてきましてね、そしたらこれですよ。体内で生成されてしまった爆弾をレーザーで破壊するんです」
山里が手を離したことで傷はまた黒のポンチョに隠れた。
「自分の能力が危険なのは知っている。いくらその能力を使わないと言っても信用されず、それどころか俺はずっと監視され酷い副反応が出る薬を飲ませ続けられた。もっと副反応が出ないようにとお願いしても、薬の開発にはお金と陵力がかかるから俺一人の為には出来ないんだそうだ」
山里は極めて明るくケラケラと笑った。それは対角にある感情の強さを表しているようで加賀美は山里から目が離せない。一歩踏み外せば落ちてしまう、そういう諸刃の強さを加賀美は感じていた。
「人間だってことを忘れてしまいそうでしたよ」
他人の為に苦痛を強いられ、監視される日々。その日々がどれだけ山里の心を擦り減らしたかと思うと加賀美は山崎に同情した。一歩間違えば自分が山里のようになっていたかもしれないのだ。
「おかしくないですか? 強制的に能力を開発されたのに危険だからとこの仕打ち。そもそも能力を持つ人間と持たない人間が平等なのがおかしいんですよ。能力を封じるのではなく活かすべきだ。そうでしょう?」
「能力は活かすべきだと私も思います。あなたの置かれていた境遇には同情もするし、今こうして向き合っていても胸が痛い」
どうか踏みとどまって。こちら側へ、こちら側へ。
加賀美の額に浮かんだ汗がこめかみを伝う。
「あなたの声は私が聴きました。国民も聞いた。このままにはしません、絶対に。『戦う』以外の道を一緒に探しましょう」
加賀美が手を差し伸べた時、山里は笑った。嘲りか悲しみか、感情が読めない。
「もう遅いよ。だってほら、もう始まっているから」
そう言って山里は安易に加賀美に背を向けた。そして指さした時、黒ポンチョの壁が割れ加賀美が目指していた奥の部屋が見えた。
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