【SF×BL】碧の世界線 

SAI

文字の大きさ
上 下
85 / 129
第三章

11. 5年前 1

しおりを挟む
「5年前あの事件が起こるまでは、警察はリステアをそんなに危険視はしていませんでした。以前から国に対して抗議活動は行ってはいましたが、あくまでもN+能力を持って困っている人を助けようだとか、能力をもっと評価して欲しいとかそういうものだったのです。以前のリステアはまだテロ集団ではありませんでした」


  5年前。第一声は国会議事堂前に怪しい集団がいるという通報だった。

「怪しい集団ですか? ちょっと映してみて下さい」

当時の捜査課、課長の地位にいた加賀美は班長である小暮が表示した画像を見つめた。議事堂の前にはフード付きの黒いポンチョのような服を着た人が20人程いた。こうして映像で見ている間にも人数一人、また一人と集まり人数は増えていく。

「ちょっと不気味ではありますね。小暮さん、うちからも手が空いているチームを派遣して様子を見て貰ってください。今日は国会の日ですから、総理をはじめ政治家の方も沢山おりますしね。一応、総理のSPにも連絡を」

「分かりました。テロなんてことはないですよね?」

小暮がポツリと漏らすと、通りかかったBチームの矢田が「それはないっしょ」と顔を出した。

「今の時代にテロなんてあるはずないっすよ。大方、コスプレイベントかなんかでしょ」

「油断は大敵ですよ。捜査官なら常に最悪の心構えは必須です」

「矢田んとこのチームは今、手が空いてんのか」
「空いてます、空いてますっ」

「ちょっと矢田、あんたはまだ報告書の提出が終わってないでしょ」

「霧島ぁ、言いつけんなよなー。ちょっと気分転換が必要なのっ。報告書は帰ってきてからやるから」

「もー、そうやって直ぐに逃げようとする」

「まぁ、そんなに怒んなや。矢田、河辺と一緒にちょっと見て来てくれるか? 所轄が現場に行ってるとは思うが」

「承知しました!」

 怒涛の展開はその20分後に起こった。国会中、普段は閉じられている門が開いたのだ。そして黒いポンチョの人間たちが次々と入っていく。争うでもなくまるで彼らが来ることが最初から決まっていたかのようだ。

「どういうことだ?」
「河辺君から連絡はきていますか?」
「まだないです」

「緊急の事案を抱えている者以外、全員現場へ! 嫌な予感がします」


 捜査課が現場に着くと現場は異様な熱気に包まれていた。何が起こったのかと近隣の住人が集まり、それに反するように国会議事堂は静まり返っている。

「所轄は一般人の整理を。とにかくこの場から少しでも遠避けて下さい。矢田くん、河辺くんから連絡はありましたか?」

「まだないです」

「これほど長く連絡がないというのはおかしいですね。二人が国会議事堂の内部にいると考えていいでしょう」

 加賀美が指示を出した直後、ピン、と空気が震えた。誰もが空を見上げた時、その震えは声になり響いた。

『我々はリステア。日本を正しく作り変える為、ここに立った。N+を持つ者たちよ、君たちは本当に今のままでいいと思っているのか? 特異な能力であれば虐げられ、利用され、搾取される。そのことに疑問を持ったことは無いか? N+能力は選ばれた者にだけ与えられた能力』

声は力強く、勢いを増す。

「小暮班長、至急この声を照合して人物を特定して下さい」

加賀美は建物を見つめたままだ。小暮は短い返事をすると情報漏洩を防ぐために一度車の中に戻った。その間も声は響いて止まない。

『N+を持つ者と持たない者が平等で良いはずはない』

集まった野次馬から小さな声が聞こえた。さざ波のような小さな騒ぎは次第に大きくなる。不味い、と加賀美が野次馬を振り返った時だった。

「そうだ! その通りだ!!」

声が空間を貫くかのように走った。ひとつの声はやがていくつもの声を従え、声は大きくなり立ち去ろうとしていた人々の半数は立ち止まった。

「課長、声の主が分かりました。山里夢27歳です」

「山里夢は確か体内で爆発物が生成されるというN+でしたよね!? 警視庁の危険能力リストに掲載されていたはずです」

「そうです、その山里夢。爆発物が生成されないように薬を飲んでいることになってはいますが」

「この現状では薬は飲んでいないとみる方が正しそうですね」

加賀美の額にうっすらと汗が滲んだ。まるで死神が背中に寄り添っているかのような寒気が立ち上る。

『我々と志を一つにする者は力でこの国を勝ち取るのだ。今こそ戦えっ!! 我々の為の世界を作ろう!』

「全員臨戦態勢を! 小暮班長はここの指揮をお願いします。出来るだけ民衆を隔離して下さい。これ以上敵を増やしたくない」

「承知しました!」

 あちこちで悲鳴や叫び声が上がっている。劈く音にその場に崩れ落ちる者、「ずっと思っていたんだけどなぁ!」と叫びながら一緒にいた友人を殴り始める者、いくつもの声は不満をまき散らしながら国会議事堂の内部を目指していた。

「チッ」

小暮が加賀美の舌打ちを聞いたのはこの時が初めてだった。
加賀美が鉄パイプを振り回していた男に手をかざすと男はよろけ、鉄パイプだけが加賀美の手に収まった。

「私は国会議事堂の内部へ行きます」


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...