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第三章
11. 5年前 1
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「5年前あの事件が起こるまでは、警察はリステアをそんなに危険視はしていませんでした。以前から国に対して抗議活動は行ってはいましたが、あくまでもN+能力を持って困っている人を助けようだとか、能力をもっと評価して欲しいとかそういうものだったのです。以前のリステアはまだテロ集団ではありませんでした」
5年前。第一声は国会議事堂前に怪しい集団がいるという通報だった。
「怪しい集団ですか? ちょっと映してみて下さい」
当時の捜査課、課長の地位にいた加賀美は班長である小暮が表示した画像を見つめた。議事堂の前にはフード付きの黒いポンチョのような服を着た人が20人程いた。こうして映像で見ている間にも人数一人、また一人と集まり人数は増えていく。
「ちょっと不気味ではありますね。小暮さん、うちからも手が空いているチームを派遣して様子を見て貰ってください。今日は国会の日ですから、総理をはじめ政治家の方も沢山おりますしね。一応、総理のSPにも連絡を」
「分かりました。テロなんてことはないですよね?」
小暮がポツリと漏らすと、通りかかったBチームの矢田が「それはないっしょ」と顔を出した。
「今の時代にテロなんてあるはずないっすよ。大方、コスプレイベントかなんかでしょ」
「油断は大敵ですよ。捜査官なら常に最悪の心構えは必須です」
「矢田んとこのチームは今、手が空いてんのか」
「空いてます、空いてますっ」
「ちょっと矢田、あんたはまだ報告書の提出が終わってないでしょ」
「霧島ぁ、言いつけんなよなー。ちょっと気分転換が必要なのっ。報告書は帰ってきてからやるから」
「もー、そうやって直ぐに逃げようとする」
「まぁ、そんなに怒んなや。矢田、河辺と一緒にちょっと見て来てくれるか? 所轄が現場に行ってるとは思うが」
「承知しました!」
怒涛の展開はその20分後に起こった。国会中、普段は閉じられている門が開いたのだ。そして黒いポンチョの人間たちが次々と入っていく。争うでもなくまるで彼らが来ることが最初から決まっていたかのようだ。
「どういうことだ?」
「河辺君から連絡はきていますか?」
「まだないです」
「緊急の事案を抱えている者以外、全員現場へ! 嫌な予感がします」
捜査課が現場に着くと現場は異様な熱気に包まれていた。何が起こったのかと近隣の住人が集まり、それに反するように国会議事堂は静まり返っている。
「所轄は一般人の整理を。とにかくこの場から少しでも遠避けて下さい。矢田くん、河辺くんから連絡はありましたか?」
「まだないです」
「これほど長く連絡がないというのはおかしいですね。二人が国会議事堂の内部にいると考えていいでしょう」
加賀美が指示を出した直後、ピン、と空気が震えた。誰もが空を見上げた時、その震えは声になり響いた。
『我々はリステア。日本を正しく作り変える為、ここに立った。N+を持つ者たちよ、君たちは本当に今のままでいいと思っているのか? 特異な能力であれば虐げられ、利用され、搾取される。そのことに疑問を持ったことは無いか? N+能力は選ばれた者にだけ与えられた能力』
声は力強く、勢いを増す。
「小暮班長、至急この声を照合して人物を特定して下さい」
加賀美は建物を見つめたままだ。小暮は短い返事をすると情報漏洩を防ぐために一度車の中に戻った。その間も声は響いて止まない。
『N+を持つ者と持たない者が平等で良いはずはない』
集まった野次馬から小さな声が聞こえた。さざ波のような小さな騒ぎは次第に大きくなる。不味い、と加賀美が野次馬を振り返った時だった。
「そうだ! その通りだ!!」
声が空間を貫くかのように走った。ひとつの声はやがていくつもの声を従え、声は大きくなり立ち去ろうとしていた人々の半数は立ち止まった。
「課長、声の主が分かりました。山里夢27歳です」
「山里夢は確か体内で爆発物が生成されるというN+でしたよね!? 警視庁の危険能力リストに掲載されていたはずです」
「そうです、その山里夢。爆発物が生成されないように薬を飲んでいることになってはいますが」
「この現状では薬は飲んでいないとみる方が正しそうですね」
加賀美の額にうっすらと汗が滲んだ。まるで死神が背中に寄り添っているかのような寒気が立ち上る。
『我々と志を一つにする者は力でこの国を勝ち取るのだ。今こそ戦えっ!! 我々の為の世界を作ろう!』
「全員臨戦態勢を! 小暮班長はここの指揮をお願いします。出来るだけ民衆を隔離して下さい。これ以上敵を増やしたくない」
「承知しました!」
あちこちで悲鳴や叫び声が上がっている。劈く音にその場に崩れ落ちる者、「ずっと思っていたんだけどなぁ!」と叫びながら一緒にいた友人を殴り始める者、いくつもの声は不満をまき散らしながら国会議事堂の内部を目指していた。
「チッ」
小暮が加賀美の舌打ちを聞いたのはこの時が初めてだった。
加賀美が鉄パイプを振り回していた男に手をかざすと男はよろけ、鉄パイプだけが加賀美の手に収まった。
「私は国会議事堂の内部へ行きます」
5年前。第一声は国会議事堂前に怪しい集団がいるという通報だった。
「怪しい集団ですか? ちょっと映してみて下さい」
当時の捜査課、課長の地位にいた加賀美は班長である小暮が表示した画像を見つめた。議事堂の前にはフード付きの黒いポンチョのような服を着た人が20人程いた。こうして映像で見ている間にも人数一人、また一人と集まり人数は増えていく。
「ちょっと不気味ではありますね。小暮さん、うちからも手が空いているチームを派遣して様子を見て貰ってください。今日は国会の日ですから、総理をはじめ政治家の方も沢山おりますしね。一応、総理のSPにも連絡を」
「分かりました。テロなんてことはないですよね?」
小暮がポツリと漏らすと、通りかかったBチームの矢田が「それはないっしょ」と顔を出した。
「今の時代にテロなんてあるはずないっすよ。大方、コスプレイベントかなんかでしょ」
「油断は大敵ですよ。捜査官なら常に最悪の心構えは必須です」
「矢田んとこのチームは今、手が空いてんのか」
「空いてます、空いてますっ」
「ちょっと矢田、あんたはまだ報告書の提出が終わってないでしょ」
「霧島ぁ、言いつけんなよなー。ちょっと気分転換が必要なのっ。報告書は帰ってきてからやるから」
「もー、そうやって直ぐに逃げようとする」
「まぁ、そんなに怒んなや。矢田、河辺と一緒にちょっと見て来てくれるか? 所轄が現場に行ってるとは思うが」
「承知しました!」
怒涛の展開はその20分後に起こった。国会中、普段は閉じられている門が開いたのだ。そして黒いポンチョの人間たちが次々と入っていく。争うでもなくまるで彼らが来ることが最初から決まっていたかのようだ。
「どういうことだ?」
「河辺君から連絡はきていますか?」
「まだないです」
「緊急の事案を抱えている者以外、全員現場へ! 嫌な予感がします」
捜査課が現場に着くと現場は異様な熱気に包まれていた。何が起こったのかと近隣の住人が集まり、それに反するように国会議事堂は静まり返っている。
「所轄は一般人の整理を。とにかくこの場から少しでも遠避けて下さい。矢田くん、河辺くんから連絡はありましたか?」
「まだないです」
「これほど長く連絡がないというのはおかしいですね。二人が国会議事堂の内部にいると考えていいでしょう」
加賀美が指示を出した直後、ピン、と空気が震えた。誰もが空を見上げた時、その震えは声になり響いた。
『我々はリステア。日本を正しく作り変える為、ここに立った。N+を持つ者たちよ、君たちは本当に今のままでいいと思っているのか? 特異な能力であれば虐げられ、利用され、搾取される。そのことに疑問を持ったことは無いか? N+能力は選ばれた者にだけ与えられた能力』
声は力強く、勢いを増す。
「小暮班長、至急この声を照合して人物を特定して下さい」
加賀美は建物を見つめたままだ。小暮は短い返事をすると情報漏洩を防ぐために一度車の中に戻った。その間も声は響いて止まない。
『N+を持つ者と持たない者が平等で良いはずはない』
集まった野次馬から小さな声が聞こえた。さざ波のような小さな騒ぎは次第に大きくなる。不味い、と加賀美が野次馬を振り返った時だった。
「そうだ! その通りだ!!」
声が空間を貫くかのように走った。ひとつの声はやがていくつもの声を従え、声は大きくなり立ち去ろうとしていた人々の半数は立ち止まった。
「課長、声の主が分かりました。山里夢27歳です」
「山里夢は確か体内で爆発物が生成されるというN+でしたよね!? 警視庁の危険能力リストに掲載されていたはずです」
「そうです、その山里夢。爆発物が生成されないように薬を飲んでいることになってはいますが」
「この現状では薬は飲んでいないとみる方が正しそうですね」
加賀美の額にうっすらと汗が滲んだ。まるで死神が背中に寄り添っているかのような寒気が立ち上る。
『我々と志を一つにする者は力でこの国を勝ち取るのだ。今こそ戦えっ!! 我々の為の世界を作ろう!』
「全員臨戦態勢を! 小暮班長はここの指揮をお願いします。出来るだけ民衆を隔離して下さい。これ以上敵を増やしたくない」
「承知しました!」
あちこちで悲鳴や叫び声が上がっている。劈く音にその場に崩れ落ちる者、「ずっと思っていたんだけどなぁ!」と叫びながら一緒にいた友人を殴り始める者、いくつもの声は不満をまき散らしながら国会議事堂の内部を目指していた。
「チッ」
小暮が加賀美の舌打ちを聞いたのはこの時が初めてだった。
加賀美が鉄パイプを振り回していた男に手をかざすと男はよろけ、鉄パイプだけが加賀美の手に収まった。
「私は国会議事堂の内部へ行きます」
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