【SF×BL】碧の世界線 

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第二章 N+捜査官

45. 正体

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微笑むユーリに突っ込んでいる余裕などない。樹は「近づかないように」と念を押すとエレベーターから飛び出して講義室へと走った。その視線の先、講義室から離れたところで教室を見つめる影がある。代大学生というには少し幼いような気がするその影に樹は叫んだ。

「もしかして上地君? 上地卓也君か!?」

返事もせずに影が駆け出し、追いかけようとした樹は咄嗟に立ち止まった。
爆弾を仕掛けた後かもしれない。

勢いのまま講義室の扉を開けると、20代後半の爽やかな男性が「びっくりしたぁっ」と声を上げた。

「君はここの生徒さん? 講義は13時にならないと始まらないよ」

「あの夢野先生ですか?」
「そうだけど、僕に用事?」

ここに爆弾が、と伝えようとした樹はその言葉もろとも建物を吹き飛ばすような大きな爆音に飲み込まれた。

 爆音の直前、樹は不思議なものを見た。講義室には自分と夢野先生しかいなかったはずなのに樹の体を包み込むようにして触れた体、しゃがみ込むように促されてしゃがみ込むと爆音とほぼ同時に床が割れた……ような気がした。

コツン、コツン、と小さな石のようなものが義手に落ちて少し高い音を立てる。恐る恐る目を開けて体に覆い被さる温もりを確認すると、見覚えのある綺麗な顔立ちがあった。

「ユーリっ! ユーリっ、なんで、大丈夫か? おいっ」

樹の呼びかけにユーリは「ん~」とのんびりとした声を上げ、降ってきた小石を払うように頭を動かした。

「ちょっと、頭が動かしちゃダメだろ。打ってるかもしれないのに」

「大丈夫だよ。打ってないから。それよりも怪我はない?」
「大丈夫だと思うけど、ユーリの方が。顔から血が出てる」

樹が服の袖で止血しようとするとユーリの手が樹を拒んだ。

「大丈夫、かすり傷だから。それより、これ凄いね。閉じ込められたんじゃない?」

ユーリの視線の先を樹も見上げる。頭上には大きな穴が開いており、天井は今にも崩れ落ちそうなひびだらけだ。樹たちが落ちた部屋は倉庫のようになっており、出入り口は施錠されて内側から開く気配はない。

「何か物を積んで天井から外に出るのは……」
「やめた方が良いだろうね。何かしたら崩れそうだ」
「そうだ、アオさんに連絡、あっ……」

樹が左腕に嵌めていたブレスレットは落ちたときにどこかにぶつけたらしくひびが入って電源が切れていた。

「まぁ、あの大きな音だし気が付かないってことは無いから誰かが助けに来てくれるのをゆっくり待とうよ」

「そんな呑気な……夢野先生、夢野先生は!?」
「部屋にいたもう一人の人のこと? 知らないな。ここに落ちては来なかったみたいだけど」

樹は何度も大きな声で夢野の名前を呼んだが返事は無かった。

「倒れているかもしれない、なんとかして上にいかないと」

いても立ってもいられず動こうとした樹の腕をユーリが掴んだ。

「やめた方が良い。下手に動いて崩れたら僕たちも危ない。それに上に夢野先生がいるなら、この部屋が崩れれば夢野先生にも危険が及ぶ」

「それは……」
「ほら、とりあえず座って」

体を寄せ合うようにしてユーリと並んで座る。空いた天井から差し込む光が時折パラパラと落ちる細かな欠片を照らして、浮遊する砂塵が樹の心を冷静に戻した。

「それにしてもどうしてここに来たの? 俺、危ないから来るなって言ったのに」

「ん~、ちょっと用事があったから。でも来て良かったでしょ」

「……国民を守る警察官が守られるっていうのが複雑だけど、確かに助かった……と思う」

「ぷぷっ、素直じゃないな」

「うるさい。ユーリを危険な目に合わせたなって反省もしてるんだ」

「反省なんかしなくてもいいのに」

「でも一体どうやって……」

樹は不思議に天井を見つめた。爆弾のせいで床が崩れ、地下にあるこの部屋に落ちたというのならもっと怪我をしていてもおかしくないのではないか。そもそも爆弾が破裂したら爆風で床と平行に飛ばされるはずだ。

まるで爆発する直前に床が割れて、爆風を受けずにすんだような……。

そこまで考えた時、爆弾が破裂する直前に床に置かれたユーリの手を思い出した。ユーリの手が床に触れその後に床が割れた。まるで手から何かが発されたように……。

「発……」

口にした瞬間、頭が答えを導き出すよりも早くゾクッと血の気が引くような感覚が樹を襲った。悟られないようにしようという気持ちも働かない程の衝撃と恐怖、ゆっくりと視線をユーリに向けると無理やり口角をあげたユーリと目が合った。

「バレちゃった?」

その言葉を聞いた瞬間、樹は弾かれたかのようにユーリと距離をとった。視線を低くして吹き矢に手を添え臨戦態勢をとる。

「そんなに警戒しないでよ。君をどうにかするつもりならもっと早くに行動に移してるし、こうして助けたりしない」

「なんで助けた? 助けなかったら俺に気付かれることもなかったのに」

「君を死なせたくなかったから。君が思っているよりずっと僕は君が好きなんだよ」

感情がぐちゃぐちゃだった。初めて会った日、樹に優しく触れたあの手は人間を殺して眼球に針を打ち込んだ手と同じものだ。相沢を容赦なく追い詰めた声も、昨日樹に怪我はしてないかと尋ねた声も全部全部同じ……。



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