【SF×BL】碧の世界線 

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第二章 N+捜査官

39. 予期せぬお茶会

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「タツキ、久しぶり。元気だった?」
「まぁ、ぼちぼちですかね」
「怪我とかしてない?」
「してないですけど……、ってか何で怪我?」
「タツキは無謀に突っ込んでいきそうだから」
「……なんですかそれ」

「まぁ、二人はお知り合いなの?」

えぇ、と答えたユーリが樹の頭を撫でているのを見て「仲が良いのね」と管理長が笑った。

「今、管理サーバーがメンテナンス中でもう少し時間がかかりそうだからお茶でもいかが?」

「管理長、お邪魔でなければ僕もご一緒してもいいですか?」

「私は構わないけれど……」

管理長が樹と青砥を見る。樹が答えに困って青砥を見ると、青砥がにっこりと笑った。

「勿論構いませんよ。 ユーリさんからもお話を聞かせて頂けると助かります」

アオさんが笑ってる……。

なかなか見ることの無い青砥のにっこり笑みに樹が迫力を感じていると、コツンとした足音が響いた。管理長が笑顔を見せたのを見て振り返ると、白い歯を見せた長身の男がゆっくりと立ち止まったところだった。

「私もそのお茶会に参加させて頂いてもいいですか?」

「あら、神崎さん。勿論です。さぁ、皆でお茶にしましょう」

神崎……。

思わず身震いするような感情の波が沸き上がり、樹は拳を強く握った。その樹を抑えるように肩に手を置いて青砥が僅かに樹の前に出る。

「神崎さん、まさかこちらでお会いするとは」

「そんなに驚く事でもないですよ。ここは弊社が出資しておりますから。それに、森山君が亡くなったと聞いて気になったもので」

「彼のことをご存じで?」

「えぇ、こちらで何度か会ったことがありましたから」

 どうぞこちらへ、と案内され一列で歩く。最後尾は樹と青砥だ。

「樹、落ち着け。まだ犯人と決まったわけじゃないんだからな」

青砥の言葉に静かに頷いた。

確かにそうだ。犯人と決まったわけでもないし、万が一犯人だとして、疑われていると気付かれるのは出来るだけ遅い方が良いはずだ。こうして奇妙なお茶会が開催された。

「ユーリさんは森山さんと面識があったのですか?」
「一度だけここで見かけたことがありますが話をしたことは一度もありません。まさか殺されるなんて……」

青砥の質問に答えたユーリが目を伏せてお茶を飲んだ。その仕草さえも絵になり、ユーリだけ別の世界の人のようだ。

「皆さんは森山さんが殺された理由や犯人に心当たりはありますか?」

全くありません、と最初に声を上げたのは管理長で、二人が次々と頷いた。

「きっとこの中で一番たくさん彼と話したのは私なのに全然思い当たらなくて。人から恨まれるような子ではないと思うんです」

よく聞くセリフだと思いながら、樹は「優しい方だったんですか?」と尋ねた。

「優しかったとは思います。でもそれだけではなくて……その、人に恨まれるという事はそれだけ人と濃い接点を持つという事だと思うんです。あの子にそれができたかどうか……。だから、殺されたのだとしたら恨み以外の理由じゃないかと私は思います」

「こんなことを言うのも何ですが、彼には付き合っている方が複数いたはずですよ」

管理長が話し終えるのを待って声を上げたのは神崎だ。低く、深く響く悲しみの音色。

「以前、女性に買うプレゼントを相談されたことがあるのです。例えばその彼女たちに他に付き合っている人がいてその彼が森山君を恨む、なんてこともあり得なくはないでしょう? 濃い接点がなくても恨まれることもありますよ」

「そんな……森山君が複数の女性となんて……そうですか……人って分からないものですね」

「管理長、そんなに落ち込まないでください」
ユーリが管理長の背中に優しく手を回した。

「みんないくつもの顔を持っているものです。森山さんが管理長に優しい人間として映っていたのなら、森山さんが管理長にはそう思っていて欲しかったという事だと思います。それは管理長か優しい人だから。管理長に嫌われたくなかったんですよ」

人によって見せる顔が違うっていうことか……。

確かにちゃんとしている人間にはだらしない自分は見せたくはない。白い人間には自分の黒い部分を見せたくはない。まるで鏡のようだと思っていると、時を告げるアラーム音が鳴った。

「あぁ、すみません。もう時間のようだ。何事も無ければ私はそろそろお先しても宜しいかな?」

「えぇ、どうぞ。取り調べではないですから」

青砥が答えると神崎は立ち上がり、二歩進んでから振り返った。

「そう言えば、最近私の所有する土地を警察の方がうろうろしているのですが何用ですかね?」

「私の耳にはそのようなことは入ってきていませんが、何か疑われるようなことでも?」

「まさか。ただ、警察の方にうろつかれるのはあまり好きではないです、という話ですよ」

つまり、神崎の土地を嗅ぎ回るのはやめろという事を言いたいのだ。それは同時に何か良からぬことをしていると認めたことに等しい。神崎は樹たちに笑みを送ると管理長と共に部屋を後にした。

「アオさん、ブレスレットが光ってますよ」
「本当だ。ちょっと出てくる」

続いて青砥も部屋からいなくなると室内にはユーリと樹の二人だけになった。向かいに座るユーリを気まずい気持ちで見つめる。ユーリと初めて会った日、樹はユーリに自分が警察官であることを隠していたのだ。

「ユーリ、あの、ごめん。俺、警察官だって隠してて」

「あぁ、ちょっとびっくりしたけど気にしてないよ。あの場面では警察だと名乗るよりも大学生の方が聞きこみしやすかっただろうし」

「そっか、よかった……」

樹がほっと表情を緩めるとそれを見たユーリが微笑んだ。

「でも、そうだなぁ、もし一つ僕の頼みを聞いてもらえるならご飯でも一緒にどう?」

「ご飯くらいならいつでもいいけど」
「じゃあ明日、19時半にヤン公園で」

樹が頷いた瞬間、厳しい顔をした青砥が部屋のドアを開けた。

「樹、応援要請が来た。行くぞ」

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