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第二章 N+捜査官
35. リンゴの追跡
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「アオさん、アオさん、そろそろ起きた方が良いと思うんですけど」
「ん……今、何時?」
「7時半です」
青砥が目を開けるときっちりと服を着こんだ樹がベッドの端に座っていた。青砥に背中を向けているため表情は分からない。
「なんでこっち見ないの?」
「なんでって言われても……」
言い淀む樹がおかしくて「昨日の樹、かわいかった」と呟くと顔を真っ赤に染めた樹が勢いよく青砥の方を向いた。まるで毛を逆立てた猫だ。
「あ、アンタの性欲、どうなってんですか!!」
「相当溜まってたみたい、だな」
あわあわと口を動かした樹はなんとか自身を落ち着けると「もう大丈夫そうなんですか」と聞いた。
「あぁ、大丈夫そうだ。でもこれがいつまでもつかは分からないけど」
「……その時は、また。俺じゃなきゃダメだってんならですけど……、でも、あんなにはもう無理ですからね」
恥ずかしさのあまり視線を逸らした樹に、分かったよと返事をしながら青砥は笑った。
青砥が先にホテルを出てから樹はゆっくりと立ち上がった。慣れない体勢で運動をしたせいで全身の筋肉痛が酷い。そのうえ肛門には今まで感じたことの無い異物感があった。
「今日が休みで本当に良かった……、もうちょっとゆっくりしていくか。午前中いっぱいいられるようにしといたって言ってたし」
一歩を踏み出すことを諦めて樹はベッドに転がった。布団に潜ればまだそこに青砥の温もりがある。ホテルに備え付けの同じシャンプーを使っても青砥の香りは青砥だと分かるから厄介だ。気付いてしまった香りに飲み込まれないように脳を再起動すると、樹はブレスレットで検索画面を出した。
相沢の行動を見張っていた時、山口にリンゴを調べたいのなら日本農林組合のHPを見ればよいと教えて貰って調べたのだが、結局リンゴを見つけることは出来なかった。もしかしたら、リンゴという名前ではないのかもしれない。そこで思いついたのが画像検索だった。
忙しくてそんな時間なかったからな……。
仰向けに寝転がって空中ペンでリンゴの絵を描いた。美術の成績が4の樹の絵は案外ちゃんとリアルだ。リンゴという日本人がよく親しんだモチーフだという事も良かったのだろう。検索画面にリンゴのイラストを重ねて検索すると思いもよらないサイトがヒットした。
「フリマサイト!?」
画像をクリックすれば現物の画像が拡大される。画像は2枚あり、実の画像と木に実っている状態の画像だった。「これは本物ですか?」との書き込みに出品者は「疑うのならば買って頂かなくて結構です」と強気のコメントをしている。
これ、本物だ。しかもこの写真……。
樹はリンゴの木の写真を拡大して見つめた。この世界は太陽の光の加減なのか世界が鮮やかに見える。植物を模した建物も濃い緑というよりは黄緑に近い。だがこの写真は暗く濃い緑の葉であり、何と言っても空の色が真っ青な青だった。
間違いない。俺がいた世界のものだ。
手がかりを見つけた。
その勢いのまま警察の名のもとに出品者情報の照会をかければ、30分後には出品者情報が手に入った。
ホテルからムカデで30分、出品者の住所は住宅街の一角にある年季の入ったアパートだった。年季が入っていると言っても劣化しているのは色味ぐらいで、樹の世界でいう錆やひび割れは一切ない。
森山武、このアパートの二階の奥の部屋。
勢いに任せて来てはみたもののどうしようか……。
もしリンゴをこっちの世界に持って来た人物なら、警察だと言えば逃げられるかもしれない。だが優愛死につながる唯一のこの手がかりを逃すわけにはいかない。
場合によっては拘束も……。
樹がポケットにしまってある小型の針を指先で確認したその時、目的の部屋から短い叫び声が聞こえた。反射的に走り、二階へと階段を駆け上がる。ドアの前で立ち止まり小型の針を口に咥えた。耳を澄ます。
うぅ……。
微かに聞こえた声に樹は玄関のドアを開けようとしたが鍵がしっかりとかけられてあり開かない。舌打ちをすると同時に針を吐き出した樹は、玄関から離れると吹き矢をセットした。込める弾は鉄製の丸だ。
思いっきり息を吹き一発目で鍵の回路部分を断裂、もう一発で鍵本体を破壊した。ふわっと緩んだドアを引き注意深く部屋の中に入ると、壁際に血を流して倒れた男を見つけた。肺の辺りに深々と刺さった刃物、口からは血の泡を吐き、目を見開いている。
「おい、しっかりしろ!! 誰にやられた!?」
傷口を部屋に落ちていた上着で押さえながら話し掛けるも男の目閉じていくばかりだ。助からないのは明白だった。
「リンゴは、リンゴはどうやって手に入れた!!」
樹の声は届かない。いや、届いていたとしても男は声を発することは出来ない。こうして何も答えないまま男は息を引き取った。
「一体何が……」
血だらけの両手で樹は呆然と立ち尽くした。状況に頭がついて行かない。5分程経ち、ようやく警察に連絡をしなくてはという考えに行き着いた時、ドアは開いた。そこにいた人物は樹を見るなり姿勢を低くし戦闘態勢をとった。
「警察だ。手を上げろ!!」
「ん……今、何時?」
「7時半です」
青砥が目を開けるときっちりと服を着こんだ樹がベッドの端に座っていた。青砥に背中を向けているため表情は分からない。
「なんでこっち見ないの?」
「なんでって言われても……」
言い淀む樹がおかしくて「昨日の樹、かわいかった」と呟くと顔を真っ赤に染めた樹が勢いよく青砥の方を向いた。まるで毛を逆立てた猫だ。
「あ、アンタの性欲、どうなってんですか!!」
「相当溜まってたみたい、だな」
あわあわと口を動かした樹はなんとか自身を落ち着けると「もう大丈夫そうなんですか」と聞いた。
「あぁ、大丈夫そうだ。でもこれがいつまでもつかは分からないけど」
「……その時は、また。俺じゃなきゃダメだってんならですけど……、でも、あんなにはもう無理ですからね」
恥ずかしさのあまり視線を逸らした樹に、分かったよと返事をしながら青砥は笑った。
青砥が先にホテルを出てから樹はゆっくりと立ち上がった。慣れない体勢で運動をしたせいで全身の筋肉痛が酷い。そのうえ肛門には今まで感じたことの無い異物感があった。
「今日が休みで本当に良かった……、もうちょっとゆっくりしていくか。午前中いっぱいいられるようにしといたって言ってたし」
一歩を踏み出すことを諦めて樹はベッドに転がった。布団に潜ればまだそこに青砥の温もりがある。ホテルに備え付けの同じシャンプーを使っても青砥の香りは青砥だと分かるから厄介だ。気付いてしまった香りに飲み込まれないように脳を再起動すると、樹はブレスレットで検索画面を出した。
相沢の行動を見張っていた時、山口にリンゴを調べたいのなら日本農林組合のHPを見ればよいと教えて貰って調べたのだが、結局リンゴを見つけることは出来なかった。もしかしたら、リンゴという名前ではないのかもしれない。そこで思いついたのが画像検索だった。
忙しくてそんな時間なかったからな……。
仰向けに寝転がって空中ペンでリンゴの絵を描いた。美術の成績が4の樹の絵は案外ちゃんとリアルだ。リンゴという日本人がよく親しんだモチーフだという事も良かったのだろう。検索画面にリンゴのイラストを重ねて検索すると思いもよらないサイトがヒットした。
「フリマサイト!?」
画像をクリックすれば現物の画像が拡大される。画像は2枚あり、実の画像と木に実っている状態の画像だった。「これは本物ですか?」との書き込みに出品者は「疑うのならば買って頂かなくて結構です」と強気のコメントをしている。
これ、本物だ。しかもこの写真……。
樹はリンゴの木の写真を拡大して見つめた。この世界は太陽の光の加減なのか世界が鮮やかに見える。植物を模した建物も濃い緑というよりは黄緑に近い。だがこの写真は暗く濃い緑の葉であり、何と言っても空の色が真っ青な青だった。
間違いない。俺がいた世界のものだ。
手がかりを見つけた。
その勢いのまま警察の名のもとに出品者情報の照会をかければ、30分後には出品者情報が手に入った。
ホテルからムカデで30分、出品者の住所は住宅街の一角にある年季の入ったアパートだった。年季が入っていると言っても劣化しているのは色味ぐらいで、樹の世界でいう錆やひび割れは一切ない。
森山武、このアパートの二階の奥の部屋。
勢いに任せて来てはみたもののどうしようか……。
もしリンゴをこっちの世界に持って来た人物なら、警察だと言えば逃げられるかもしれない。だが優愛死につながる唯一のこの手がかりを逃すわけにはいかない。
場合によっては拘束も……。
樹がポケットにしまってある小型の針を指先で確認したその時、目的の部屋から短い叫び声が聞こえた。反射的に走り、二階へと階段を駆け上がる。ドアの前で立ち止まり小型の針を口に咥えた。耳を澄ます。
うぅ……。
微かに聞こえた声に樹は玄関のドアを開けようとしたが鍵がしっかりとかけられてあり開かない。舌打ちをすると同時に針を吐き出した樹は、玄関から離れると吹き矢をセットした。込める弾は鉄製の丸だ。
思いっきり息を吹き一発目で鍵の回路部分を断裂、もう一発で鍵本体を破壊した。ふわっと緩んだドアを引き注意深く部屋の中に入ると、壁際に血を流して倒れた男を見つけた。肺の辺りに深々と刺さった刃物、口からは血の泡を吐き、目を見開いている。
「おい、しっかりしろ!! 誰にやられた!?」
傷口を部屋に落ちていた上着で押さえながら話し掛けるも男の目閉じていくばかりだ。助からないのは明白だった。
「リンゴは、リンゴはどうやって手に入れた!!」
樹の声は届かない。いや、届いていたとしても男は声を発することは出来ない。こうして何も答えないまま男は息を引き取った。
「一体何が……」
血だらけの両手で樹は呆然と立ち尽くした。状況に頭がついて行かない。5分程経ち、ようやく警察に連絡をしなくてはという考えに行き着いた時、ドアは開いた。そこにいた人物は樹を見るなり姿勢を低くし戦闘態勢をとった。
「警察だ。手を上げろ!!」
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