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第二章 N+捜査官
28. 地下室
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「ん~」
位置情報を眺めていた山口が悩まし気な声を上げたのは、樹が夕飯の買い出しから戻ってきた時だった。
「どうしたんですか?」
「ん~、相沢がまだ帰らないのよねぇ」
「帰らないって言ってもまだ19時ですよね。仕事が終わっていないだけじゃないんですか?」
「それはそうなんだけど、最近は18時半には会社を出ていたのよ。帰宅ラッシュに紛れて帰るっていうのが常だったから」
位置情報が表示された画面を二人で覗いていると青砥が隣にやってきた。
「山さん、その建物内にどれだけ人がいるか表示してもらえますか?」
空中をタップして表示された画面を見て、全員が表情を強張らせた。
「社内に人が少なすぎる」
青砥が呟いた瞬間、表示されていた点の1つが消えた。
「相沢が消えた!?」
樹が叫ぶなり山口と青砥が駆け出し、樹も続いた。
「こちら山口、相沢の位置情報が消えたため相沢製薬に急行します!!」
夜の相沢製薬はテーマパークの入り口かと思う程ライトアップされていた。緊急事態でさえなければ立ち止まって見上げただろうが今はそれどころではない。青砥がインターホンを連打するとのんびりとした男の声が聞こえた。
「はい、何用でしょうか?」
「警視庁の者です。今、社内にいる相沢社長に危険が迫っている恐れがあります。至急、私たちを中に入れて欲しい」
「ちょっと待って下さい。社長はもう帰宅されましたよ?」
「それは帰宅するところを見たということですか?」
「いや、社内位置情報管理システムに社長のアイコンが表示されていませんから」
その言葉を聞いた青砥が珍しく舌打ちをした。
「もういい、説明している暇はない。今すぐにここを開けないと捜査妨害で逮捕する」
青砥の剣幕に負けた警備員は門の鍵を開けたものの、不安な表情で樹たちに駆け寄ってきた。その視線には本当に警察官なのかという疑いの眼差しも含まれている。
「あの、社長が社内にいるって本当ですか?」
「そんなことより、この建物に地下室はありますか?」
「地下室はないと思いますが……」
「もう、面倒ねっ、この建物の図面を表示して頂戴っ!」
山口と青砥の切羽詰まった様子に警備員が慌てて図面を表示し、青砥と山口が図面を読む。位置情報から姿を消したという事は腕に埋め込まれたチップが破損するか、水かもしくは土の中ということだ。通常地下室を作る際は位置情報を読み込む機械を設置する決まりになっているが、届け出をしていない地下室ならこの状況も説明がつく。
「今日はどうしてこんなに人が少ないのですか? いつもはもっと多いですよね?」
「今日はこの建物のシステムメンテナンスの日なので、社員は定時で上がることになっているのです」
「そういうことか……。いつもと変わったことはありませんでしたか? 見たことの無い人物がいたとか」
「樹、行くぞ。地下室があるとすれば工場部分の下だと思う。工場下なら音も誤魔化せるし、電気系統も水回りも十分過ぎるくらいだ」
工場に向かって走りながら山口が通話を開始した。通話の相手は霧島だ。工場の下に地下室があると見当をつけたものの入り口がどこか分からない。耳にN+を持っている霧島なら音で見つけられるのではないかと思ったのだ。
「悪いけど通話じゃ音の方角までは分からない。でも、聞こえる音の大小は分かるから近づいているか遠ざかっているかは教えられると思う」
「それでも助かるわ」
一緒についてきた警備員に工場の施錠を解除してもらい足を踏み入れると、手洗い場、エアーのホコリ落とし、霧吹き状の消毒、エアーの壁と製薬会社らしい厳重なクリーンルームになっていた。壁際には停止した状態のロボットが並べられている。流石にここに花模様は無く、全体がメタリックカラーだ。
すげぇ、まるで大きな宇宙船みたいだ。
「本当に地下室なんてあるんですかねぇ……。あ、その機械には絶対に触らないでくださいね。素手で触ったら工場長に何て言われるか」
半信半疑の警備員の言葉に誰も応える者は無く、青砥に従い4人は部屋の中央に立った。
「茜さん、怪しい音が何か聞こえますか?」
『さっきから不規則な金属音が聴こえる。微かにだけど……』
青砥は床に視線を落とすとコンコンと靴で床を鳴らした。その音を聞いた霧島が『確かに下に空洞があるような気がする』と呟く。
「山さん、ここから東西南北全ての方向に歩いてみてくれませんか。茜さんに地下からの物音が一番聞こえた方向に出入り口があると思います。扉部分は隙間が出来る分、音が伝わりやすくなりますから」
霧島の誘導で西側の壁にたどり着いたが入り口らしきものは見つからない。そこで外に回るとこじんまりとした倉庫があった。
「ここは何ですか?」
「物置と聞いています」
「ここ以外どこよってくらいに怪しいわねぇ」
ここにきてようやく樹たちを信じ始めていた警備員が自ら進んで倉庫の鍵を開けた。途端に聞こえた金属音。樹たちにも聞こえたのだから霧島にはもっとはっきり、そしてたくさんの情報が音として聞こえたのだろう。
『間違いない、入り口はここにある。話し声も聴こえる』
霧島の言葉に一気に緊張が高まった。この部屋のどこかにある入り口、その向こうにはDがいる。
そこからは意外と簡単だった。奥にある壁に飾られている絵、その背後の壁に10秒ほど触れると電卓のようなキーを押す画面が表示され、薬剤とALSライトを使用することで押すべきキーが指紋を合図に浮かび上がった。
「簡単で助かったわ」
位置情報を眺めていた山口が悩まし気な声を上げたのは、樹が夕飯の買い出しから戻ってきた時だった。
「どうしたんですか?」
「ん~、相沢がまだ帰らないのよねぇ」
「帰らないって言ってもまだ19時ですよね。仕事が終わっていないだけじゃないんですか?」
「それはそうなんだけど、最近は18時半には会社を出ていたのよ。帰宅ラッシュに紛れて帰るっていうのが常だったから」
位置情報が表示された画面を二人で覗いていると青砥が隣にやってきた。
「山さん、その建物内にどれだけ人がいるか表示してもらえますか?」
空中をタップして表示された画面を見て、全員が表情を強張らせた。
「社内に人が少なすぎる」
青砥が呟いた瞬間、表示されていた点の1つが消えた。
「相沢が消えた!?」
樹が叫ぶなり山口と青砥が駆け出し、樹も続いた。
「こちら山口、相沢の位置情報が消えたため相沢製薬に急行します!!」
夜の相沢製薬はテーマパークの入り口かと思う程ライトアップされていた。緊急事態でさえなければ立ち止まって見上げただろうが今はそれどころではない。青砥がインターホンを連打するとのんびりとした男の声が聞こえた。
「はい、何用でしょうか?」
「警視庁の者です。今、社内にいる相沢社長に危険が迫っている恐れがあります。至急、私たちを中に入れて欲しい」
「ちょっと待って下さい。社長はもう帰宅されましたよ?」
「それは帰宅するところを見たということですか?」
「いや、社内位置情報管理システムに社長のアイコンが表示されていませんから」
その言葉を聞いた青砥が珍しく舌打ちをした。
「もういい、説明している暇はない。今すぐにここを開けないと捜査妨害で逮捕する」
青砥の剣幕に負けた警備員は門の鍵を開けたものの、不安な表情で樹たちに駆け寄ってきた。その視線には本当に警察官なのかという疑いの眼差しも含まれている。
「あの、社長が社内にいるって本当ですか?」
「そんなことより、この建物に地下室はありますか?」
「地下室はないと思いますが……」
「もう、面倒ねっ、この建物の図面を表示して頂戴っ!」
山口と青砥の切羽詰まった様子に警備員が慌てて図面を表示し、青砥と山口が図面を読む。位置情報から姿を消したという事は腕に埋め込まれたチップが破損するか、水かもしくは土の中ということだ。通常地下室を作る際は位置情報を読み込む機械を設置する決まりになっているが、届け出をしていない地下室ならこの状況も説明がつく。
「今日はどうしてこんなに人が少ないのですか? いつもはもっと多いですよね?」
「今日はこの建物のシステムメンテナンスの日なので、社員は定時で上がることになっているのです」
「そういうことか……。いつもと変わったことはありませんでしたか? 見たことの無い人物がいたとか」
「樹、行くぞ。地下室があるとすれば工場部分の下だと思う。工場下なら音も誤魔化せるし、電気系統も水回りも十分過ぎるくらいだ」
工場に向かって走りながら山口が通話を開始した。通話の相手は霧島だ。工場の下に地下室があると見当をつけたものの入り口がどこか分からない。耳にN+を持っている霧島なら音で見つけられるのではないかと思ったのだ。
「悪いけど通話じゃ音の方角までは分からない。でも、聞こえる音の大小は分かるから近づいているか遠ざかっているかは教えられると思う」
「それでも助かるわ」
一緒についてきた警備員に工場の施錠を解除してもらい足を踏み入れると、手洗い場、エアーのホコリ落とし、霧吹き状の消毒、エアーの壁と製薬会社らしい厳重なクリーンルームになっていた。壁際には停止した状態のロボットが並べられている。流石にここに花模様は無く、全体がメタリックカラーだ。
すげぇ、まるで大きな宇宙船みたいだ。
「本当に地下室なんてあるんですかねぇ……。あ、その機械には絶対に触らないでくださいね。素手で触ったら工場長に何て言われるか」
半信半疑の警備員の言葉に誰も応える者は無く、青砥に従い4人は部屋の中央に立った。
「茜さん、怪しい音が何か聞こえますか?」
『さっきから不規則な金属音が聴こえる。微かにだけど……』
青砥は床に視線を落とすとコンコンと靴で床を鳴らした。その音を聞いた霧島が『確かに下に空洞があるような気がする』と呟く。
「山さん、ここから東西南北全ての方向に歩いてみてくれませんか。茜さんに地下からの物音が一番聞こえた方向に出入り口があると思います。扉部分は隙間が出来る分、音が伝わりやすくなりますから」
霧島の誘導で西側の壁にたどり着いたが入り口らしきものは見つからない。そこで外に回るとこじんまりとした倉庫があった。
「ここは何ですか?」
「物置と聞いています」
「ここ以外どこよってくらいに怪しいわねぇ」
ここにきてようやく樹たちを信じ始めていた警備員が自ら進んで倉庫の鍵を開けた。途端に聞こえた金属音。樹たちにも聞こえたのだから霧島にはもっとはっきり、そしてたくさんの情報が音として聞こえたのだろう。
『間違いない、入り口はここにある。話し声も聴こえる』
霧島の言葉に一気に緊張が高まった。この部屋のどこかにある入り口、その向こうにはDがいる。
そこからは意外と簡単だった。奥にある壁に飾られている絵、その背後の壁に10秒ほど触れると電卓のようなキーを押す画面が表示され、薬剤とALSライトを使用することで押すべきキーが指紋を合図に浮かび上がった。
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