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第二章 N+捜査官
24. 薬 ☆
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心臓が早鐘を打つ。この動悸が口の中に入れられた液体のせいなのか緊張のせいなのか分からない。
くそっ、油断した。
体の中心が熱くて思考がどっかに引っ張られそうだ。
「効いてきたでしょ。これ即効性がすごいんだよ。倍量は初心者にはキツイかな。でも死んだりしないと思うから安心して楽しんでね、刑事さん」
逃げる林を追いかけようとすれば衣服が擦れた部分から熱が増す。息が熱い。遠ざかる林を追いかけて進んではよろよろと壁に寄り掛かった。
「くそっ」
自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。悔しくて目に涙が滲んだ。こんなところで泣きたくはない。泣いたところでどうしようもないし、何も取り返せない。ギリギリと奥歯を噛みしめていると、黒い影が樹の前に降り立った。その顔はモザイク処理された画像の様になっている。
「口を開けて」
ふるふると首を振った。たった今、素直に相手に従ってこの有様だ。知らない人間に従えるわけがない。
「大丈夫、悪いようにはしないから。効果を消すことは出来ないけど少しはマシになる」
黒い男は壁にもたれる樹の頬に手を置いて頭を撫でた。その手が耳に触れる。ピクンと体が反応して熱い息が漏れた。はっはっと熱を吐き出すように開いた口、その口の中に男の指が侵入する。指先には錠剤があり、男はその錠剤を指で舌にこすりつける様に動かした。
「んんっ……はぁ」
ゾクゾクとした痺れが体を支配し腰が砕ける。離したくなくてつぼめた唇から、濡れた音を立てて指が抜けた。
「このまま僕が君の熱を冷ましてあげたいけど、僕にはやることがあるから」
名残惜しそうに男が呟いた時、樹の名を呼ぶ声があった。
青砥が樹を見つけたのはアタックナイトから100m程離れた路地裏だった。オーナーを他の警察官に引き渡した後、姿の見えない樹を警察証に埋め込まれた発信機で探し出したのだ。樹の名前を呼びながら路地裏に駆け込んだ瞬間、樹の傍から走り去る黒い影を見た。
「樹! 大丈夫か? どこが痛い?」
壁にもたれて丸くなる樹を自分の方に向かせると焦点の合わないトロンとした目がかろうじて青砥を捉えた。
「薬か……。何を飲まされた?」
「わから、ない……んんっ」
「待ってろ、今病院に運ぶから」
「いや……だ」
樹が一生懸命に首を振る。でも、と躊躇ったが樹の左手がしきりに股間を隠そうとしているのに気が付いた。
催淫剤のたぐいか……。
確かにそれなら病院に行きたくないという樹の気持ちは良く分かる。こんな状態の自分を誰かに見られたいはずはない。
「わかった、とりあえず場所を変えよう」
樹を抱えて飛び込んだのはアタックナイトから程近いラブホテルだ。ベッドに寝かせた樹を簡易診察機でスキャンし体内を探る。幸い、というべきか臓器の破損などは無く診察機が出した結論は「ドーパミン、エンドロフィン等の過剰分泌、感覚過敏状態にある恐れあり」だった。
流石にあのまま現場を離脱するわけにもいかず、ホテルに樹を残して現場に戻った。出来得る限りの仕事を翌日に回して再びホテルに戻ったのは1時間後。部屋の扉を開けた瞬間から樹の悩ましい声が聴こえていた。
「樹?」
樹愛用のロングシャツはベッドの脇に脱ぎ捨てられ、太腿の真ん中まで下ろされた下着を見れば何をしているかは一目瞭然だ。小刻みに動く左腕、めくれ上がったTシャツから見える白い肌、背骨、再び声をかけるのを躊躇い黙った。
でも、このままってわけにも……。
「んんっ……あぁっ、またっ」
ビクビクと体を揺らした樹がふと振り返って青砥を見た。紅潮した頬には涙の痕がある。艶めかしく動く体とは裏腹、表情は痛々しいくらいだ。
「アオさん、どう……しよ、俺、とまんな……」
「ほら、まず飲め」
冷蔵庫から取り出した水を樹は一気に飲み干した。時折腰が揺れるのは下腹部がうずいて仕方ないからだろう。樹は何度も下腹部に伸ばした手を引っ込めては腰を揺らした。
今更恥ずかしいってか?
つくづく不器用なやつだと青砥は思った。完全に快楽に飲まれてしまえば楽になれるのにそれをしないから樹の快楽には苦痛が付きまとう。落ちてしまえば楽なのにそれもせず、助けてと言えば助けるのにそれもしない。そのくせ、体全体で欲しいというのだ。
「ったく、タチが悪い」
青砥が樹の中心に手を伸ばすと樹は聞いたことも無いような高い声で鳴いた。青砥の手の中でヒクヒクと動くそれは異常なほど熱を持ち赤く脈打っている。勿論薬のせいではあるのだが、この赤さはそれだけではないような気がした。
力任せに擦ったか……。
青砥も同じ男だ。急所を痛めることがどれだけしんどいかは分かるし、出来ることなら想像もしたくない。
「樹、もうここを弄るのはやめような。その代わり、俺がもっと気持ち良くしてやるから」
一瞬悲痛な表情を浮かべた樹は、その代わりから続いた言葉にホッとして倒錯した様な笑みを浮かべた。
「気持ち良く、して」
既に所々汚れている樹の服を脱がせ、義手も外した。樹の体を覆う布は何もない。樹の体にある細かな傷を指でなぞると、意志を持った手に止められた。
「アオさん……ごめん、こんな、こと……させて」
くそっ、油断した。
体の中心が熱くて思考がどっかに引っ張られそうだ。
「効いてきたでしょ。これ即効性がすごいんだよ。倍量は初心者にはキツイかな。でも死んだりしないと思うから安心して楽しんでね、刑事さん」
逃げる林を追いかけようとすれば衣服が擦れた部分から熱が増す。息が熱い。遠ざかる林を追いかけて進んではよろよろと壁に寄り掛かった。
「くそっ」
自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。悔しくて目に涙が滲んだ。こんなところで泣きたくはない。泣いたところでどうしようもないし、何も取り返せない。ギリギリと奥歯を噛みしめていると、黒い影が樹の前に降り立った。その顔はモザイク処理された画像の様になっている。
「口を開けて」
ふるふると首を振った。たった今、素直に相手に従ってこの有様だ。知らない人間に従えるわけがない。
「大丈夫、悪いようにはしないから。効果を消すことは出来ないけど少しはマシになる」
黒い男は壁にもたれる樹の頬に手を置いて頭を撫でた。その手が耳に触れる。ピクンと体が反応して熱い息が漏れた。はっはっと熱を吐き出すように開いた口、その口の中に男の指が侵入する。指先には錠剤があり、男はその錠剤を指で舌にこすりつける様に動かした。
「んんっ……はぁ」
ゾクゾクとした痺れが体を支配し腰が砕ける。離したくなくてつぼめた唇から、濡れた音を立てて指が抜けた。
「このまま僕が君の熱を冷ましてあげたいけど、僕にはやることがあるから」
名残惜しそうに男が呟いた時、樹の名を呼ぶ声があった。
青砥が樹を見つけたのはアタックナイトから100m程離れた路地裏だった。オーナーを他の警察官に引き渡した後、姿の見えない樹を警察証に埋め込まれた発信機で探し出したのだ。樹の名前を呼びながら路地裏に駆け込んだ瞬間、樹の傍から走り去る黒い影を見た。
「樹! 大丈夫か? どこが痛い?」
壁にもたれて丸くなる樹を自分の方に向かせると焦点の合わないトロンとした目がかろうじて青砥を捉えた。
「薬か……。何を飲まされた?」
「わから、ない……んんっ」
「待ってろ、今病院に運ぶから」
「いや……だ」
樹が一生懸命に首を振る。でも、と躊躇ったが樹の左手がしきりに股間を隠そうとしているのに気が付いた。
催淫剤のたぐいか……。
確かにそれなら病院に行きたくないという樹の気持ちは良く分かる。こんな状態の自分を誰かに見られたいはずはない。
「わかった、とりあえず場所を変えよう」
樹を抱えて飛び込んだのはアタックナイトから程近いラブホテルだ。ベッドに寝かせた樹を簡易診察機でスキャンし体内を探る。幸い、というべきか臓器の破損などは無く診察機が出した結論は「ドーパミン、エンドロフィン等の過剰分泌、感覚過敏状態にある恐れあり」だった。
流石にあのまま現場を離脱するわけにもいかず、ホテルに樹を残して現場に戻った。出来得る限りの仕事を翌日に回して再びホテルに戻ったのは1時間後。部屋の扉を開けた瞬間から樹の悩ましい声が聴こえていた。
「樹?」
樹愛用のロングシャツはベッドの脇に脱ぎ捨てられ、太腿の真ん中まで下ろされた下着を見れば何をしているかは一目瞭然だ。小刻みに動く左腕、めくれ上がったTシャツから見える白い肌、背骨、再び声をかけるのを躊躇い黙った。
でも、このままってわけにも……。
「んんっ……あぁっ、またっ」
ビクビクと体を揺らした樹がふと振り返って青砥を見た。紅潮した頬には涙の痕がある。艶めかしく動く体とは裏腹、表情は痛々しいくらいだ。
「アオさん、どう……しよ、俺、とまんな……」
「ほら、まず飲め」
冷蔵庫から取り出した水を樹は一気に飲み干した。時折腰が揺れるのは下腹部がうずいて仕方ないからだろう。樹は何度も下腹部に伸ばした手を引っ込めては腰を揺らした。
今更恥ずかしいってか?
つくづく不器用なやつだと青砥は思った。完全に快楽に飲まれてしまえば楽になれるのにそれをしないから樹の快楽には苦痛が付きまとう。落ちてしまえば楽なのにそれもせず、助けてと言えば助けるのにそれもしない。そのくせ、体全体で欲しいというのだ。
「ったく、タチが悪い」
青砥が樹の中心に手を伸ばすと樹は聞いたことも無いような高い声で鳴いた。青砥の手の中でヒクヒクと動くそれは異常なほど熱を持ち赤く脈打っている。勿論薬のせいではあるのだが、この赤さはそれだけではないような気がした。
力任せに擦ったか……。
青砥も同じ男だ。急所を痛めることがどれだけしんどいかは分かるし、出来ることなら想像もしたくない。
「樹、もうここを弄るのはやめような。その代わり、俺がもっと気持ち良くしてやるから」
一瞬悲痛な表情を浮かべた樹は、その代わりから続いた言葉にホッとして倒錯した様な笑みを浮かべた。
「気持ち良く、して」
既に所々汚れている樹の服を脱がせ、義手も外した。樹の体を覆う布は何もない。樹の体にある細かな傷を指でなぞると、意志を持った手に止められた。
「アオさん……ごめん、こんな、こと……させて」
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