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第二章 N+捜査官
21.動揺
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い、今のってセックスだよな……。男同士の……。
トイレ前の通路、その壁にもたれかかって大きく息を吐いた。心臓がドクドクしている。男同士の恋愛をプラトニックな部分でしか考えたことの無かった樹にとってそれは衝撃的な光景だった。
男同士で付き合うって……。そうか、ああいうこともするんだ。
動悸を落ち着けようにも脳裏に焼き付いた光景が落ち着かせてくれない。それに加えて、トイレの中からはくぐもった声と嬌声が聴こえてくる。顔の熱を確かめようと頬に触れたところで何も持っていない両手に気が付いた。
「やべぇ、服、置いてきた」
上半身裸のパンツ姿、ゴツイ義手を隠すものもない。トイレからは甘い声が続いていて、このボリュームからするに樹が個室のドアを開けたままになっているに違いない。もう一度トイレに戻るなんて無理だ。
「でも、この格好で戻るわけにもいかないし……」
「どうしたの? そんな恰好で」
「ちょっとトイレに服を置いてきてしまって」
言葉を発しながら顔を上げると力士のような大柄の男が樹を見下ろしていた。ふんふん、と粗い息を吐きながら樹につめ寄ってくる。
「あぁ、セックスに参加したかったのに追い出されちゃったってとこか。じゃないとこんなそそる格好でここにいないよね?」
「いや、そういうんじゃなくて、その」
「言葉なんかいらないよ。僕が満足させてあげるから」
男の足が樹の足の間に入る。そうして当てられた股間は服の上からでも分かるほどカチカチにそそり立っていた。
嘘、うそだろ……?
こんなのがケツに入るっていうのか?
こんな状況においても樹の脳内は先ほどの映像が色濃く支配していた。ペニスを受け入れて喘ぐ声が今も聴こえてくる。これがケツに入ると気持ちいいのか……。そんな考えから目が覚めたのは、力士のような男が樹の顔を上に向かせてキスをしようとしたときだった。
「僕ね、ペニスにN+があるんだよ。だから何回でもできるんだ」
「ひっ……」
「おい! 何やってんだよ!!」
足音が聞こえる。間近に迫る顔。義手で相手の顔を押しながら、後ずさりさせようと強めの息を腹に吐き出した。腹に衝撃を受けた男が、うっ、と鈍い声を出して後退り、尻もちをつく。樹と男の間に割り込むようにして立ったのは青砥だ。
「相手の同意なくキスを迫るのは強制わいせつ罪に当たる」
「ケッ、そんな大げさな」
ゆっさゆっさと体を揺らしながら去る男が振り返って青砥に怒鳴った。
「言っておくけど、誘ってきたのはソイツだからな!」
華やかでな繁華街を樹はブツブツと文句を言われながら歩いていた。右手には椿がくれた半透明な袋に入れたTシャツを持って、ロングシャツの前は青砥によって一番上のボタンまで留められている。
「全く、捜査官なんだからあんなことぐらいで動揺するなよ」
「そんなこと言ったって、男同士の……なんて初めて見たし……」
力士男が去った後、状況を的確に推測した青砥はトイレのドアを乱暴に開けると樹の服を持って出てきた。そして樹に服を着せると、さっそうと店を後にしたのだ。
「だからってあんなに動揺して……。これが戦いの最中だったらどうするんだよ」
「戦いの最中って……。そんな状況ならそれどころじゃないから、動揺はしません」
「じゃあさっき、なんで男に追い詰められてたんだよ」
「なんでって、それは、その」
まさか腰に押し当てられたペニスの感触に、これがケツに入るものなのかと驚愕していたとは言えない。樹が言い淀むと青砥がはぁ、と息を吐いた。
なんだよ、そんなに呆れなくてもいいじゃないか……。
「そんな言い」
「明日はアタックナイトに行くから」
「アタックナイトってあの」
「あぁ、樹が聞きこみで得た情報、相沢社長がいたという店だ。凌という客があの後話してくれた。沢木は自分で薬を売ることはなかったが、欲しいならアタックナイトへ行けと言っていたそうだ」
翌日は夜型の捜査という事で20時からの勤務だった。青砥は23時半を過ぎても起きていられるようにと直前まで寝ていたらしい。
「3時間は寝たから午前2時くらいまではイケると思う」
「へぇ、時間になれば寝落ちするわけじゃないんですね」
「規則正しい生活をするのが脳に一番いいから普段はこうやって時間をずらすってしないんだけど、今回みたいな場合は特別。で、会議なんだって? 俺が寝ている間にしたんだろ?」
「はい、茜さんたちの張り込みチームは何も変わったことはないそうですね。会社と家の往復だけだと」
「警察が動いているから用心しているんだろな。何か行動を起こすってのはないかも」
「でも警察に相沢社長の奥さんが来たそうですよ。本人は認めてないけど脅されているから秘密裏に守って欲しいと」
「脅されているって思う根拠は?」
「誰かと通話しているのを聞いたそうです。通話で俺は知らないと言っていたそうですが酷く怯えた様子だったと」
「ふぅん、ってことは奥さんの協力込みで張り込みが出来るってことだ」
「そうですね。多少やりやすくなったとは思います」
トイレ前の通路、その壁にもたれかかって大きく息を吐いた。心臓がドクドクしている。男同士の恋愛をプラトニックな部分でしか考えたことの無かった樹にとってそれは衝撃的な光景だった。
男同士で付き合うって……。そうか、ああいうこともするんだ。
動悸を落ち着けようにも脳裏に焼き付いた光景が落ち着かせてくれない。それに加えて、トイレの中からはくぐもった声と嬌声が聴こえてくる。顔の熱を確かめようと頬に触れたところで何も持っていない両手に気が付いた。
「やべぇ、服、置いてきた」
上半身裸のパンツ姿、ゴツイ義手を隠すものもない。トイレからは甘い声が続いていて、このボリュームからするに樹が個室のドアを開けたままになっているに違いない。もう一度トイレに戻るなんて無理だ。
「でも、この格好で戻るわけにもいかないし……」
「どうしたの? そんな恰好で」
「ちょっとトイレに服を置いてきてしまって」
言葉を発しながら顔を上げると力士のような大柄の男が樹を見下ろしていた。ふんふん、と粗い息を吐きながら樹につめ寄ってくる。
「あぁ、セックスに参加したかったのに追い出されちゃったってとこか。じゃないとこんなそそる格好でここにいないよね?」
「いや、そういうんじゃなくて、その」
「言葉なんかいらないよ。僕が満足させてあげるから」
男の足が樹の足の間に入る。そうして当てられた股間は服の上からでも分かるほどカチカチにそそり立っていた。
嘘、うそだろ……?
こんなのがケツに入るっていうのか?
こんな状況においても樹の脳内は先ほどの映像が色濃く支配していた。ペニスを受け入れて喘ぐ声が今も聴こえてくる。これがケツに入ると気持ちいいのか……。そんな考えから目が覚めたのは、力士のような男が樹の顔を上に向かせてキスをしようとしたときだった。
「僕ね、ペニスにN+があるんだよ。だから何回でもできるんだ」
「ひっ……」
「おい! 何やってんだよ!!」
足音が聞こえる。間近に迫る顔。義手で相手の顔を押しながら、後ずさりさせようと強めの息を腹に吐き出した。腹に衝撃を受けた男が、うっ、と鈍い声を出して後退り、尻もちをつく。樹と男の間に割り込むようにして立ったのは青砥だ。
「相手の同意なくキスを迫るのは強制わいせつ罪に当たる」
「ケッ、そんな大げさな」
ゆっさゆっさと体を揺らしながら去る男が振り返って青砥に怒鳴った。
「言っておくけど、誘ってきたのはソイツだからな!」
華やかでな繁華街を樹はブツブツと文句を言われながら歩いていた。右手には椿がくれた半透明な袋に入れたTシャツを持って、ロングシャツの前は青砥によって一番上のボタンまで留められている。
「全く、捜査官なんだからあんなことぐらいで動揺するなよ」
「そんなこと言ったって、男同士の……なんて初めて見たし……」
力士男が去った後、状況を的確に推測した青砥はトイレのドアを乱暴に開けると樹の服を持って出てきた。そして樹に服を着せると、さっそうと店を後にしたのだ。
「だからってあんなに動揺して……。これが戦いの最中だったらどうするんだよ」
「戦いの最中って……。そんな状況ならそれどころじゃないから、動揺はしません」
「じゃあさっき、なんで男に追い詰められてたんだよ」
「なんでって、それは、その」
まさか腰に押し当てられたペニスの感触に、これがケツに入るものなのかと驚愕していたとは言えない。樹が言い淀むと青砥がはぁ、と息を吐いた。
なんだよ、そんなに呆れなくてもいいじゃないか……。
「そんな言い」
「明日はアタックナイトに行くから」
「アタックナイトってあの」
「あぁ、樹が聞きこみで得た情報、相沢社長がいたという店だ。凌という客があの後話してくれた。沢木は自分で薬を売ることはなかったが、欲しいならアタックナイトへ行けと言っていたそうだ」
翌日は夜型の捜査という事で20時からの勤務だった。青砥は23時半を過ぎても起きていられるようにと直前まで寝ていたらしい。
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