45 / 129
第二章 N+捜査官
21.動揺
しおりを挟む
い、今のってセックスだよな……。男同士の……。
トイレ前の通路、その壁にもたれかかって大きく息を吐いた。心臓がドクドクしている。男同士の恋愛をプラトニックな部分でしか考えたことの無かった樹にとってそれは衝撃的な光景だった。
男同士で付き合うって……。そうか、ああいうこともするんだ。
動悸を落ち着けようにも脳裏に焼き付いた光景が落ち着かせてくれない。それに加えて、トイレの中からはくぐもった声と嬌声が聴こえてくる。顔の熱を確かめようと頬に触れたところで何も持っていない両手に気が付いた。
「やべぇ、服、置いてきた」
上半身裸のパンツ姿、ゴツイ義手を隠すものもない。トイレからは甘い声が続いていて、このボリュームからするに樹が個室のドアを開けたままになっているに違いない。もう一度トイレに戻るなんて無理だ。
「でも、この格好で戻るわけにもいかないし……」
「どうしたの? そんな恰好で」
「ちょっとトイレに服を置いてきてしまって」
言葉を発しながら顔を上げると力士のような大柄の男が樹を見下ろしていた。ふんふん、と粗い息を吐きながら樹につめ寄ってくる。
「あぁ、セックスに参加したかったのに追い出されちゃったってとこか。じゃないとこんなそそる格好でここにいないよね?」
「いや、そういうんじゃなくて、その」
「言葉なんかいらないよ。僕が満足させてあげるから」
男の足が樹の足の間に入る。そうして当てられた股間は服の上からでも分かるほどカチカチにそそり立っていた。
嘘、うそだろ……?
こんなのがケツに入るっていうのか?
こんな状況においても樹の脳内は先ほどの映像が色濃く支配していた。ペニスを受け入れて喘ぐ声が今も聴こえてくる。これがケツに入ると気持ちいいのか……。そんな考えから目が覚めたのは、力士のような男が樹の顔を上に向かせてキスをしようとしたときだった。
「僕ね、ペニスにN+があるんだよ。だから何回でもできるんだ」
「ひっ……」
「おい! 何やってんだよ!!」
足音が聞こえる。間近に迫る顔。義手で相手の顔を押しながら、後ずさりさせようと強めの息を腹に吐き出した。腹に衝撃を受けた男が、うっ、と鈍い声を出して後退り、尻もちをつく。樹と男の間に割り込むようにして立ったのは青砥だ。
「相手の同意なくキスを迫るのは強制わいせつ罪に当たる」
「ケッ、そんな大げさな」
ゆっさゆっさと体を揺らしながら去る男が振り返って青砥に怒鳴った。
「言っておくけど、誘ってきたのはソイツだからな!」
華やかでな繁華街を樹はブツブツと文句を言われながら歩いていた。右手には椿がくれた半透明な袋に入れたTシャツを持って、ロングシャツの前は青砥によって一番上のボタンまで留められている。
「全く、捜査官なんだからあんなことぐらいで動揺するなよ」
「そんなこと言ったって、男同士の……なんて初めて見たし……」
力士男が去った後、状況を的確に推測した青砥はトイレのドアを乱暴に開けると樹の服を持って出てきた。そして樹に服を着せると、さっそうと店を後にしたのだ。
「だからってあんなに動揺して……。これが戦いの最中だったらどうするんだよ」
「戦いの最中って……。そんな状況ならそれどころじゃないから、動揺はしません」
「じゃあさっき、なんで男に追い詰められてたんだよ」
「なんでって、それは、その」
まさか腰に押し当てられたペニスの感触に、これがケツに入るものなのかと驚愕していたとは言えない。樹が言い淀むと青砥がはぁ、と息を吐いた。
なんだよ、そんなに呆れなくてもいいじゃないか……。
「そんな言い」
「明日はアタックナイトに行くから」
「アタックナイトってあの」
「あぁ、樹が聞きこみで得た情報、相沢社長がいたという店だ。凌という客があの後話してくれた。沢木は自分で薬を売ることはなかったが、欲しいならアタックナイトへ行けと言っていたそうだ」
翌日は夜型の捜査という事で20時からの勤務だった。青砥は23時半を過ぎても起きていられるようにと直前まで寝ていたらしい。
「3時間は寝たから午前2時くらいまではイケると思う」
「へぇ、時間になれば寝落ちするわけじゃないんですね」
「規則正しい生活をするのが脳に一番いいから普段はこうやって時間をずらすってしないんだけど、今回みたいな場合は特別。で、会議なんだって? 俺が寝ている間にしたんだろ?」
「はい、茜さんたちの張り込みチームは何も変わったことはないそうですね。会社と家の往復だけだと」
「警察が動いているから用心しているんだろな。何か行動を起こすってのはないかも」
「でも警察に相沢社長の奥さんが来たそうですよ。本人は認めてないけど脅されているから秘密裏に守って欲しいと」
「脅されているって思う根拠は?」
「誰かと通話しているのを聞いたそうです。通話で俺は知らないと言っていたそうですが酷く怯えた様子だったと」
「ふぅん、ってことは奥さんの協力込みで張り込みが出来るってことだ」
「そうですね。多少やりやすくなったとは思います」
トイレ前の通路、その壁にもたれかかって大きく息を吐いた。心臓がドクドクしている。男同士の恋愛をプラトニックな部分でしか考えたことの無かった樹にとってそれは衝撃的な光景だった。
男同士で付き合うって……。そうか、ああいうこともするんだ。
動悸を落ち着けようにも脳裏に焼き付いた光景が落ち着かせてくれない。それに加えて、トイレの中からはくぐもった声と嬌声が聴こえてくる。顔の熱を確かめようと頬に触れたところで何も持っていない両手に気が付いた。
「やべぇ、服、置いてきた」
上半身裸のパンツ姿、ゴツイ義手を隠すものもない。トイレからは甘い声が続いていて、このボリュームからするに樹が個室のドアを開けたままになっているに違いない。もう一度トイレに戻るなんて無理だ。
「でも、この格好で戻るわけにもいかないし……」
「どうしたの? そんな恰好で」
「ちょっとトイレに服を置いてきてしまって」
言葉を発しながら顔を上げると力士のような大柄の男が樹を見下ろしていた。ふんふん、と粗い息を吐きながら樹につめ寄ってくる。
「あぁ、セックスに参加したかったのに追い出されちゃったってとこか。じゃないとこんなそそる格好でここにいないよね?」
「いや、そういうんじゃなくて、その」
「言葉なんかいらないよ。僕が満足させてあげるから」
男の足が樹の足の間に入る。そうして当てられた股間は服の上からでも分かるほどカチカチにそそり立っていた。
嘘、うそだろ……?
こんなのがケツに入るっていうのか?
こんな状況においても樹の脳内は先ほどの映像が色濃く支配していた。ペニスを受け入れて喘ぐ声が今も聴こえてくる。これがケツに入ると気持ちいいのか……。そんな考えから目が覚めたのは、力士のような男が樹の顔を上に向かせてキスをしようとしたときだった。
「僕ね、ペニスにN+があるんだよ。だから何回でもできるんだ」
「ひっ……」
「おい! 何やってんだよ!!」
足音が聞こえる。間近に迫る顔。義手で相手の顔を押しながら、後ずさりさせようと強めの息を腹に吐き出した。腹に衝撃を受けた男が、うっ、と鈍い声を出して後退り、尻もちをつく。樹と男の間に割り込むようにして立ったのは青砥だ。
「相手の同意なくキスを迫るのは強制わいせつ罪に当たる」
「ケッ、そんな大げさな」
ゆっさゆっさと体を揺らしながら去る男が振り返って青砥に怒鳴った。
「言っておくけど、誘ってきたのはソイツだからな!」
華やかでな繁華街を樹はブツブツと文句を言われながら歩いていた。右手には椿がくれた半透明な袋に入れたTシャツを持って、ロングシャツの前は青砥によって一番上のボタンまで留められている。
「全く、捜査官なんだからあんなことぐらいで動揺するなよ」
「そんなこと言ったって、男同士の……なんて初めて見たし……」
力士男が去った後、状況を的確に推測した青砥はトイレのドアを乱暴に開けると樹の服を持って出てきた。そして樹に服を着せると、さっそうと店を後にしたのだ。
「だからってあんなに動揺して……。これが戦いの最中だったらどうするんだよ」
「戦いの最中って……。そんな状況ならそれどころじゃないから、動揺はしません」
「じゃあさっき、なんで男に追い詰められてたんだよ」
「なんでって、それは、その」
まさか腰に押し当てられたペニスの感触に、これがケツに入るものなのかと驚愕していたとは言えない。樹が言い淀むと青砥がはぁ、と息を吐いた。
なんだよ、そんなに呆れなくてもいいじゃないか……。
「そんな言い」
「明日はアタックナイトに行くから」
「アタックナイトってあの」
「あぁ、樹が聞きこみで得た情報、相沢社長がいたという店だ。凌という客があの後話してくれた。沢木は自分で薬を売ることはなかったが、欲しいならアタックナイトへ行けと言っていたそうだ」
翌日は夜型の捜査という事で20時からの勤務だった。青砥は23時半を過ぎても起きていられるようにと直前まで寝ていたらしい。
「3時間は寝たから午前2時くらいまではイケると思う」
「へぇ、時間になれば寝落ちするわけじゃないんですね」
「規則正しい生活をするのが脳に一番いいから普段はこうやって時間をずらすってしないんだけど、今回みたいな場合は特別。で、会議なんだって? 俺が寝ている間にしたんだろ?」
「はい、茜さんたちの張り込みチームは何も変わったことはないそうですね。会社と家の往復だけだと」
「警察が動いているから用心しているんだろな。何か行動を起こすってのはないかも」
「でも警察に相沢社長の奥さんが来たそうですよ。本人は認めてないけど脅されているから秘密裏に守って欲しいと」
「脅されているって思う根拠は?」
「誰かと通話しているのを聞いたそうです。通話で俺は知らないと言っていたそうですが酷く怯えた様子だったと」
「ふぅん、ってことは奥さんの協力込みで張り込みが出来るってことだ」
「そうですね。多少やりやすくなったとは思います」
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる