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第二章 N+捜査官
19. BAR DARKLUM
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小暮に質問されて如月が返事をして立ち上がった。まるで先生と学級委員長のようだ。
「死体遺棄現場近くの目撃情報は大村、沢木、共にゼロ。街に設置されているカメラにも怪しいものはありませんでした。Dの殺害動機は相沢製薬にあるとの線が濃厚なので、茜さんと山さんを中心に相沢富市を張っています」
「ふん、妥当だな」
「はい。この方法が一番確実ですから」
「で、動機の中身の方は?」
「アオ君と樹君が調査しています」
青砥が二人を見る。
「今夜はお客としてダークラムに行く予定です」
「沢木行きつけのBARか。あそこなら確かに警官としていくよりはお客の方が良さそうなだな」
「はい、沢木は酒に飲まれやすいタイプだったようなので、何か情報を零しているかもしれません」
20時。ダークラムは日本有数の繁華街の一角にあり、警視庁からムカデで20分ほどの距離だ。きらびやかなお姉さんやチャラチャラした客引き、仕事帰りのサラリーマンや樹と同年代の若者が騒いでいる様子を見ると、進化してもこういう場所は根本的に変わらないのだなと思う。
長Tにシンプルな黒いパンツ姿の青砥に対して、樹は半袖に大きめのロングシャツを羽織り、袖から指先が少し出ている。ユーリに言われたことを意識して最近はこういう服装が多い。
「ダークラムは男性専用BARなんだよ。だから自然と同性に恋愛感情を抱く人が多く集まる。俺が話をするから樹は適当に話を合わせてくれればいいよ。こういうところ、初めてだろ?」
「そうですけど、でも俺も何か役に立ちたいです」
「ん~、樹の場合いてくれるだけで結構役に立つ。ほら、俺、目つき悪いから」
「……もっと笑えばいいんじゃないですか?」
「……こうか?」
暫く考えるようにした後、青砥が口角を上げて樹を見た。その顔は目が全然笑っていないどころかなぜか目が見開かれたようになっており、変な薬でも飲んだかのようだ。
「……やっぱ笑わなくていいです」
大通りから一本裏道に入ると、ネオン管でDARKRUMと書かれた看板があった。どうやら地下にあるらしい。
「下向いてちょっと落ち込んだ様な顔してて」
「なんすか、それ?」
「いいから」
ドアを開けた青砥の後を俯き加減で歩く。薄暗い照明、壁際のテーブル席には椅子があり、中央にあるテーブルは高く椅子は無い。ゆったりとした音楽が開流れる店内は一見落ち着いた雰囲気ではあるが、混沌としたざわめきのようなものも感じる不思議な空間だ。
青砥がカウンター席に座ったのを見て樹も隣に座った。
「いらっしゃい、はじめてさんね。飲み物は何にする?」
「じゃあこの店で一番人気のノンアルカクテルで。さっきまでたらふく飲んできたんだ」
「お隣さんは?」
「俺も同じもので良いです」
かしこまりました、と綺麗に微笑んだのはこのBARの店長で名前は椿というらしい。
30代の中性的な容姿、目鼻立ちの完璧に近い整い方は医学的なものだろう。椿がシェイカーを振るのを見ていると青砥の手が樹の背中をさするように動いた。
「好きだったもんな。ショックだよな、まさかあんなことになるなんて……」
突然の言葉に、ん? と思ったが合わせるように言われていたことを思い出して樹は頷いた。薄暗い店内、俯いて頷けばそれなりに見える。
「お待たせいたしました。こちらはLEAFと言う名前のカクテルです。たくさん葉を茂らせていずれは花を、という前向きなイメージなんですよ」
緑、白、ピンクと3層になっている綺麗なカクテルを二人の前に置きながら椿は「失恋ですか?」と樹に尋ねた。
「ごめんなさい、聞こえちゃったものだから。話したくないなら話さなくてもいいけど、話すことで楽になることもあるから」
何と言えばいいか分からなくて眼球だけで青砥を見ると、青砥が「話せるようなら聞いてもらえば?」と言う。
そうか、そういうことか。
樹は腹を決めると、ぽつりと言葉を発した。
「振られたというか……亡くなってしまったんです。沢木さんってここによく来てたんですよね……」
「えぇ、よく来てたわ。まさかあんなことになるなんて」
沢木と大村の事件は身元と死体が発見されたことだけ報道されている。同じ会社の社員が別々の場所で遺体で発見されるという事実から連続殺人だと報道する局もあるが、警察としての発表はまだだ。
「俺、見てるだけしか出来なかったから……沢木さんについて色々教えて貰えますか?」
「まぁ、ほんと、罪な男ねぇ。死んでもこんな可愛い男の子に好いて貰えるなんて」
椿は、私も一杯いただこうかしら、と言いながら飴色の液体をグラスに注いだ。
「沢木さんは、まーモテたわよー。イケメンだし、目つきが鋭いのにお酒が入ると表情が甘くなるのよね。特にお気に入りの子の前では。あ、こんな話は嫌かしら?」
「いいえ、沢木さんの話なら何でも……その、嬉しいです」
「健気っ!! 私、今、キュンときたわっ」
椿が感極まった声を出した時、樹側のテーブルにほぼ飲み終わった状態のロックグラスが勢いよく置かれた。
「アンタ、男見る目なさずぎ」
「死体遺棄現場近くの目撃情報は大村、沢木、共にゼロ。街に設置されているカメラにも怪しいものはありませんでした。Dの殺害動機は相沢製薬にあるとの線が濃厚なので、茜さんと山さんを中心に相沢富市を張っています」
「ふん、妥当だな」
「はい。この方法が一番確実ですから」
「で、動機の中身の方は?」
「アオ君と樹君が調査しています」
青砥が二人を見る。
「今夜はお客としてダークラムに行く予定です」
「沢木行きつけのBARか。あそこなら確かに警官としていくよりはお客の方が良さそうなだな」
「はい、沢木は酒に飲まれやすいタイプだったようなので、何か情報を零しているかもしれません」
20時。ダークラムは日本有数の繁華街の一角にあり、警視庁からムカデで20分ほどの距離だ。きらびやかなお姉さんやチャラチャラした客引き、仕事帰りのサラリーマンや樹と同年代の若者が騒いでいる様子を見ると、進化してもこういう場所は根本的に変わらないのだなと思う。
長Tにシンプルな黒いパンツ姿の青砥に対して、樹は半袖に大きめのロングシャツを羽織り、袖から指先が少し出ている。ユーリに言われたことを意識して最近はこういう服装が多い。
「ダークラムは男性専用BARなんだよ。だから自然と同性に恋愛感情を抱く人が多く集まる。俺が話をするから樹は適当に話を合わせてくれればいいよ。こういうところ、初めてだろ?」
「そうですけど、でも俺も何か役に立ちたいです」
「ん~、樹の場合いてくれるだけで結構役に立つ。ほら、俺、目つき悪いから」
「……もっと笑えばいいんじゃないですか?」
「……こうか?」
暫く考えるようにした後、青砥が口角を上げて樹を見た。その顔は目が全然笑っていないどころかなぜか目が見開かれたようになっており、変な薬でも飲んだかのようだ。
「……やっぱ笑わなくていいです」
大通りから一本裏道に入ると、ネオン管でDARKRUMと書かれた看板があった。どうやら地下にあるらしい。
「下向いてちょっと落ち込んだ様な顔してて」
「なんすか、それ?」
「いいから」
ドアを開けた青砥の後を俯き加減で歩く。薄暗い照明、壁際のテーブル席には椅子があり、中央にあるテーブルは高く椅子は無い。ゆったりとした音楽が開流れる店内は一見落ち着いた雰囲気ではあるが、混沌としたざわめきのようなものも感じる不思議な空間だ。
青砥がカウンター席に座ったのを見て樹も隣に座った。
「いらっしゃい、はじめてさんね。飲み物は何にする?」
「じゃあこの店で一番人気のノンアルカクテルで。さっきまでたらふく飲んできたんだ」
「お隣さんは?」
「俺も同じもので良いです」
かしこまりました、と綺麗に微笑んだのはこのBARの店長で名前は椿というらしい。
30代の中性的な容姿、目鼻立ちの完璧に近い整い方は医学的なものだろう。椿がシェイカーを振るのを見ていると青砥の手が樹の背中をさするように動いた。
「好きだったもんな。ショックだよな、まさかあんなことになるなんて……」
突然の言葉に、ん? と思ったが合わせるように言われていたことを思い出して樹は頷いた。薄暗い店内、俯いて頷けばそれなりに見える。
「お待たせいたしました。こちらはLEAFと言う名前のカクテルです。たくさん葉を茂らせていずれは花を、という前向きなイメージなんですよ」
緑、白、ピンクと3層になっている綺麗なカクテルを二人の前に置きながら椿は「失恋ですか?」と樹に尋ねた。
「ごめんなさい、聞こえちゃったものだから。話したくないなら話さなくてもいいけど、話すことで楽になることもあるから」
何と言えばいいか分からなくて眼球だけで青砥を見ると、青砥が「話せるようなら聞いてもらえば?」と言う。
そうか、そういうことか。
樹は腹を決めると、ぽつりと言葉を発した。
「振られたというか……亡くなってしまったんです。沢木さんってここによく来てたんですよね……」
「えぇ、よく来てたわ。まさかあんなことになるなんて」
沢木と大村の事件は身元と死体が発見されたことだけ報道されている。同じ会社の社員が別々の場所で遺体で発見されるという事実から連続殺人だと報道する局もあるが、警察としての発表はまだだ。
「俺、見てるだけしか出来なかったから……沢木さんについて色々教えて貰えますか?」
「まぁ、ほんと、罪な男ねぇ。死んでもこんな可愛い男の子に好いて貰えるなんて」
椿は、私も一杯いただこうかしら、と言いながら飴色の液体をグラスに注いだ。
「沢木さんは、まーモテたわよー。イケメンだし、目つきが鋭いのにお酒が入ると表情が甘くなるのよね。特にお気に入りの子の前では。あ、こんな話は嫌かしら?」
「いいえ、沢木さんの話なら何でも……その、嬉しいです」
「健気っ!! 私、今、キュンときたわっ」
椿が感極まった声を出した時、樹側のテーブルにほぼ飲み終わった状態のロックグラスが勢いよく置かれた。
「アンタ、男見る目なさずぎ」
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