【SF×BL】碧の世界線 

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第二章 N+捜査官

18. 相沢製薬

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 相沢製薬は敷地を高い壁に囲まれた刑務所のような建物だった。刑務所と明らかに違うのはその壁が白や灰色ではなく、南国を思わせるような派手な花柄模様だというところだ。

「これって……」
「あぁ、今の社長になってからリフォームしたらしい」
「やっぱり」

インターホン越しに聞えてきた声に用件を話すと、意外にもあっさりと社長に会う許可が取れた。

「社長、お客様をお連れしました」
「どうぞ」

 社長室に入室すると樹の想像とはかけ離れたファンシーな空間が広がっていた。パステルカラーで彩られた壁や床、花が彫刻された白い机の前には四角いカラフルなソファが並び、部屋の隅っこには宇宙人を引き延ばしたようなオブジェが植木鉢に刺さっている。

まるでキッズルームのような雰囲気だ。

「リンゴだ……」

中央のテーブルには山盛りに盛り付けられたフルーツがあり、そのてっぺんにこれ見よがしにリンゴが置かれていた。樹が部屋の雰囲気にのまれ気味になっていると、にこやかな笑みを浮かべた相沢が席を立って二人に近づいてきた。

「初めまして、相沢富市です」

「私が青砥創、こちらは藤丘樹と申します。急にお尋ねしてすみません。こちらの社員である大村武夫さんと沢木勇一さんについてお聞きしたくて」

「まさか二人に何かあったのですか!? 実は二人とも欠勤しておりまして連絡がつかない状況なのです」

前のめりになって声を張り上げた相沢社長に青砥が真顔のまま告げた。

「二人とも今朝、死体で発見されました」

「そう、ですか……」

相沢はよろよろと机に手をつくと、どうして……と呟いた。

「一体誰が二人を殺したんですか? 犯人は!?」

「それを今調べている所です。二人が殺されることになった動機に心当たりはありませんか?」

樹の質問に相沢がふるふると首を振る。

「二人とも良い社員でした。部下からの信頼も厚くて、とても恨まれるようには思えません」

「大村さんと沢木さんはプライベートでも仲は良かったのですか?」

「さぁ、どうでしょうか。社員のプライベートまでは把握してはいなくて……」

机の上に置かれた右手の指先が忙しなく動いている。表情は悲しげなのにどこか焦ったような指の動きに違和感を覚えていると「それでは」と青砥が言葉を発した。

「会社の情報が狙われた形跡や、最近変わったことはありませんでしたか?」

「ありません」

「相沢社長宛てに脅迫文が届いていたなんてことは無いですか?」

「脅されるなんてっ、はは、無いですよ。そんな事より、犯人の目星は付いているのですか?」

机の上の指が一層激しく動くようになったのを見て、青砥の目が樹を見る。これ以上この人に話を聞いても無駄だと言っているかのようだった。

「まだ情報を集めている段階ですので」
「……二人を殺した犯人を何としてでも早急に捕まえて下さい」

 あれから社員の何人かに話を聞いて車に戻った頃には19時を過ぎていた。シートに座りペロンタを取り出して青砥に渡す。

「おー、気か効くな」
「さすがに疲れただろうなと思いまして」

ガサガサとペロンタの封を開ける音を聞きながら樹は先ほど聞き込みした内容を思い返していた。

「相沢社長、嘘くさかったですね。指先が忙しなく動いていましたし」

「あぁ、二人の死体を発見したと言っただけなのに殺されたと知っていた。何かを隠しているのは間違いないな」

「素直に話してくれれば楽なのに」

「そりゃあ無理だろうな。Dが動くってことはそれだけあくどいことをしているってことだ。自分から話すとは思えない」

「大村と沢木が行っていたあいくどいことが相沢の命令なのだとしたら、当然Dは相沢を狙ってきますよね?」

「あぁ、相沢を張っていればDが現れるだろうな」

殴り殺し眼球に針を刺して瞼を閉じないようにするというDの猟奇的な犯行、とても自分と同じ人間だとは思えない。樹の中のDはもはやバケモノに近い容姿をしていた。そのDに対峙することを考えると、血の気が引くような寒さに襲われた。

「……ペロンタ食うか?」
「いただきます」

疲れた時に甘い物とはよく言うが本当にその通りだ。チョコレートの甘さが五臓六腑に染みわたり、ため息を吐いてシートに沈んだ。

疲れた、本当に……。

「そういえばリンゴってなんだ? 社長室で呟いてただろ?」

「あぁ、赤くて丸い果物のことですよ。社長室に積んであった果物の中にあったんで、つい」

リンゴ、好きなんですよねと呟くと青砥が「あぁ、あれか。今度探してみるかな」と言った。


 
 大村と沢木の遺体が見つかってから3日、その日の会議は小暮の「なんか臭せぇな」という一言で始まった。

「山口、お前、今朝レバー食っただろ!」

「食べたって言ってもほんのちょっとですよ! パンに塗るペーストにほんのちょっとレバーが入るだけで風味が全然違うんですよぅ」

「何が全然違うんですよぅ、だ。納豆、レバー系は俺に会う日はやめてくれって言ってるだろうがっ。臭くてたまらんわ」

小暮は自身の机に置いてある洗濯バサミ状のクリップを持ってくると鼻に嵌めた。渋い強面の鼻に洗濯バサミ、何度見てもシュールな光景である。

「で、捜査はどうなっている?」

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