【SF×BL】碧の世界線 

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第二章 N+捜査官

16. 聞き込み

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 車をパーキングに停めると青砥の目はトロンとしてかろうじて開いているような状態だ。
「薬飲んでないですよね? ちょっと、アオさん、まだ寝ないでくださいよ! バッグ、勝手に漁りますからね」

背もたれを倒すことなく運転席で丸くなった青砥に眠りを深くする薬を飲ませると、車を仮眠モードに変更するスイッチを押した。ハンドルは向きを変え座席同士の隙間は埋まり、簡易ベッドのようになる。

「これ、本当に便利だよなぁ」

狭いが立派な寝床、まるでカプセルホテルのようだ。収納ボックスから取り出したブランケットを青砥にかける。青砥が起きるまでの間、ここでじっとしていても時間の無駄になるだけだ。セキュリティコードを設定し外に出ようとすると、目を閉じたままの青砥が体を起こした。

「うをっ、こわっ」
「どっか……〇〇〇×……」

体は前のめりになって自分では支えられず、何を言っているかは謎だ。だが、手はしっかり樹の腕をつかんでいる。

「ちょっと聞き込みしてきます。アオさんが起きる頃には戻ってきますから」

青砥はもにょもにょと言葉を発していたが聞き取れないものは仕方ない。ゾンビのような青砥を寝かしつけると樹は車を降りた。

 相沢製薬のある町、千葉県緑六町はあちこちに花壇がある花の町だ。大きな通り沿いの公園内に若者がいるのを認めると、樹は腕に嵌めている警察官の腕章を外しカード型にしてポケットにしまった。腕章さえ外してしまえば樹はその辺にいる若者にしか見えない。

よしっ。

樹は気合を入れてギュっと拳を握った。一人で聞き込みをするのは今日が初めてなのだ。その上、昔から積極的に人とコミュニケーションをとるタイプではない樹が同じ年代の知らない人に自分から話し掛ける。気合が必要なのも当然だろう。

「すみません、ちょっといいですか?」

樹が声をかけた真面目そうな男子大学生は、視線をさ迷わせて樹を見るなり表情を強張らせて一歩下がった。

「い、今、忙しいんでっ! すみませんっ」

脱兎のごとくとはこのことだろう。青年は早歩きで道を引き返し、樹から3メートルほど離れると走っていなくなった。

「のんびり歩いていたように見えたんだけどな……」

その後何人かに声をかけたが皆に似たような反応をされ、ようやく話を聞いてもらえたのはこれから飲みにいくのだという女子二人組だった。ラップタオル(小学生が水泳で使うようなゴム入りのタオル)から顔だけを出したような服装は樹からすれば変態にしか見えないが、若者の流行ファッションだと数日前に霧島が言っていた。

「えーっ、相沢製薬~? 知ってる知ってる。うち、あそこの化粧品めっちゃ使ってる」

「あたしもっ」

何が可笑しいのか分からないが、キャッキャと笑う二人に樹も頑張って笑みを浮かべた。

「あそこの社長さん、どんな人か知ってる?」

「あー、あのお洒落社長! 友達がアタックナイトで喋ったことがあるって言ってたけどめっちゃ気さくないいお兄さんだったってー」

「アタックナイト?」

「おにーさん、知らないのー? 東京にあるクラブだよー。会員と非会員でフロアが別れてんだけど、会員の人が一般フロアによく下りてくるから凄い人と知り合えたりするって有名なんだよ」

「ってかおにーさん、相沢社長のことなんか聞いたりしてどうすんのー? あ、アレでしょ。大学生がお試しで会社に行くやつ」

1人がピンと人差し指をあげて得意げな表情をしたのを見て、樹はその話しに乗ることにした。

「あ、うん、そうなんだ。面接で会う前にどんな人か知りたいなって思って」

「へぇーっ、事前準備ってやつ? おにーさん、まじめ―っ‼」

女子二人が顔を見合わせるようにしてまた笑った。

「相沢しゃちょ……」
「あ、美香子、たっくんたち来たよ。向こうで手振ってる」

樹の言葉を遮って一人がもう一人の服を引っ張ると、公園の入り口に二人組の男が立っているのが見えた。

「あ、ほんとだ。じゃ、私たちもう行くね。相沢製薬に合格したら新製品のサンプル貰えるって噂だよ! 貰ったらちょーだいねーっ」

手を振って駆けていく二人におずおずと手を振り返す。
もうちょっと話を聞きたかったな。でも、まぁ、最初はこんなもんか。

青砥が起きるまでもう20分ほどある。この調子で聞き込みをしていこうと何人かに声をかけたが、またもや話を聞いてもらえない時間が続いた。

なんでだ? 忙しい町なのか!?

「オニーサン」

急に肩を叩かれてビクッと避けた。振り返ると20台後半の長身の男が樹を見ている。ブラウンの髪の毛に白人の肌の色、濃い目のサングラスをかけているから目の色は良く分からないが少なくとも日本人の顔立ちではない。

「は、はろ~……」
「ぶっ、日本語でダイジョブだよ。僕、日本生まれのハーフだから日本語ペラペラ」

「あ、そうでしたか……」

モデルのような容姿のイケメンに話しかけられて樹は緊張の面持ちだ。するとそのハーフは目を細めてケラケラとお腹を抱えて笑った。

「僕、ユーリ。君の名前は?」
「……樹、です」

「タツキ、君ってコミュニケーションとるの苦手でしょ」

「……なんでそれ」

「さっきから見てたけど酷いなって。放っておけなくて話し掛けちゃったよ」

「はぁ」


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