【SF×BL】碧の世界線 

SAI

文字の大きさ
上 下
31 / 129
第二章 N+捜査官

7. 善意の悪意味

しおりを挟む
 警視庁の屋上にある駐車場からN+捜査課の車に乗り込むと、青砥の運転で発進した。

「樹、そっちの座席の下からペロンタ取って」
「座席の下に引出しとかあるんですか?」

「スイッチがあるからそれを押せば引出しが出てくる」

座席の下を左手で弄るもスイッチが見つからずにいると、青砥の体が樹の方に倒れ、手を座席の下に入れた。

「ちょ、ちょっと前っ、前見てっ」
「ん? あぁ、自動運転だから大丈夫」

そうなんだ、とホッとした途端、青砥との近い距離に樹の体がこわばった。甘いものを良く摂取するからか青砥の体からはいつも仄かに甘い香りがする。夕べのことが思い起こされた樹は座席に体を押し付け、無駄な抵抗だと知りながら青砥と距離をとった。

「樹、そういうことされると虐めたくなるからやめて」

「え?」

驚いて青砥を見ると、青砥は自分の席に正しく座ってペロンタの袋を破った。

「昨日、樹から抱きついてきたくせに」
「抱きつい……違います。抱きついたんじゃなくて抱きしめたんですけど」

「へぇ、抱きしめたんだ、俺を」

青砥の口角が上がったのを見て樹はからかわれたのだと察した。ムッと口を尖らせる。

「それより、これはどこに向かっているんですか?」

「中本さんの家だよ」
「中本さんって食遊会の?」

「そう、皆が親切だっていう被害者が苦手意識を持っていた相手ってちょっと気にならないか?」

「確かに気になりますね……」


 中本の家は棘の無いサボテンのような建物だった。1階にある玄関の前に車を停めると窓越しに庭でお茶を飲んでいた中本と目が合った。

「あら、刑事さん。さっき会ったというのにまた私に会いたくなったの?」

「何度もすみません。大黒寺さんについて詳しくお聞きしたいと思いまして。誰に聞いても皆さん、親切な方だったとしか言いませんが中本さんは何か他の思いもお持ちでしょう?」

青砥が意味ありげに言うと、中本は声を上げて笑った。

「どうぞ、中へ」

 先ほどまで中本がお茶を飲んでいた庭に通されるとロボットがやってきて「オチャハイカガデスカ」と聞いてくる。要らないことを伝えるとロボットはスッと建物の中へと下がった。

「大黒寺さんのことよね。私、彼女が大嫌いだったのよ」

「気持ち良いくらいはっきり言いますね」

驚いた樹が言うと中本はまた声を上げて笑った。

「彼女の親切はただの押しつけよ。人の気持ちなんて考えないんだから」

「詳しく教えて貰えますか?」

 中本が言うにはこうだ。
困った人を助けるのは良いが、被害者は暗黙にお返しを求めるのだという。〇〇さんからはお返しにコレを貰った、お返しにコレをしてくれた、そんな話を毎回言いふらすものだから親切を受けた者はそれ相応のお返しをしなくてはいけないという義務を感じるのだ。

「それに手袋がボロボロだからと新しい手袋を貰った藤井さん。藤井さんの手袋は亡くなった奥様が買ってくれた物なのよ。だからボロボロでも大事に使っていたの。その理由を話して断ったのに「亡くなった奥様もボロボロの手袋をご主人がつけていたら悲しむわ」の一点張りで」

結局、藤井さんは押し切られちゃったのよね、とため息を吐いた。

「大黒寺さんは親切だけどちょっとズレてるのよ。行動もあながち間違っているわけでもないし、大騒ぎするようなことをされたわけでもない。でも地味にストレスが溜まる」

中本はそう言って眉間にシワを寄せた。

確かに善意からの行動というのは間違っていてもなかなか指摘しづらい。親切のお返しだって、これを頂いて嬉しかったのという世間話であれば、話すのを止めて欲しとも言えないだろう。


「なるほど……悪意がないからこそ余計にたちが悪いというやつですね」

「そう、それなのよ!」

青砥の言葉に中本は強く頷いた。

「大黒寺さんを無邪気だといった人たちはそういう部分を感じたのかもしれないですね」

中元の家を後にして車に戻ると、青砥はまたペロンタを口にくわえた。1時間前に食べたばかりという事を考えるとカロリーの消耗が激しいのだろう。

「みんな親切だって言っていたのに、大黒寺さんにはあんな側面もあったんですね。長所が短所でもあるというか……」

「そうだな」

「でもそれが殺人を引き起こすまでになるんでしょうか? アオさんは殺人だと思っているんでしょう?」

青砥はペロンタの最後の一口を口の中に放り込むと口の周りについたチョコを舌でぬぐい取った。

「どんなことが理由になってもおかしくない。殺人ってそういうものなんだよ」

 車がビルの間を縫うように左折する。もうすぐ警視庁へ着くというところで青砥のブレスレットが振動した。通話の相手は霧島だ。

「アオに言われたことを調べて見たけど、アオの想像通りだったわ。動機に繋がるような過去も発見したから資料を送っておく」

「わかりました」

返事をしながら青砥は霧島が送った資料を呼び出した。その資料には可愛らしい親子の画像があり、昔の画像ではあるがそこにはあの人の面影がしっかりとあった。

「直接向かう?」
「はい、そうしようかと」

「じゃあ、私たちもすぐそっちに向かうから。大丈夫だと思うけど無理はしないで」


青砥は返事をするとそのまま警視庁を通り過ぎた。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...