【SF×BL】碧の世界線 

SAI

文字の大きさ
上 下
30 / 129
第二章 N+捜査官

6. 主、亡き家

しおりを挟む
 大黒寺家は昨日の喧騒が嘘のように静まり返っていた。庭のテーブルは片づけられ花だけが昨日の華やかさを思い出させてくれる。樹たちを迎えてくれたのはメイドの綾乃と料理長の木島だけだった。

「美幸さんはいらっしゃらないのですか?」

「えぇ、昨日のショックが強かったので今日は休むように伝えました。奥様もおられませんし、この家の後片付けをするだけですから」

「後片付けですか?」

樹が尋ねると綾乃は「警察官の方が寝室以外は片づけを始めて良いと言って下さったので……この家は奥様が亡くなった後は売りに出されることに決まっているのです」と言って視線を遠くに移した。

 リビングに向かうとテーブルの上には食器類がまとめられており、床には段ボールが置いてあった。棚には被害者の主人と思われる方の写真が写真盾に飾られており、よく見ようと手を伸ばした樹は背後に置いてあった写真盾を倒してしまった。

「す、すみません」
「本日はどのようなご用件でしょうか?」

樹ではなく青砥を見て綾乃が尋ねる。

「実は被害者の死因が毒を飲んだ為であることが分りまして、殺人と自殺の両面から捜査をしております。大黒寺さんを恨んでいる方に心当たりは無いかと思いまして」

「奥様を恨んでいる方ですか……私には分かりません」

そう言った後、綾乃の視線が右上に動いた。すぐに何事もなかったかのように視線を戻したが青砥がそれを見逃すはずはない。

「どうされました?」

青砥に確認されて綾乃はおずおずと口を開いた。

「奥様が苦手とされている方はおりました。奥様が苦手意識を持つのは珍しいことでしたので」

「どなたですか?」
「食遊会の中本様でございます」

中本は先ほど食遊会を訪ねた時に会ったツナギ服姿の女性だ。確かに含みのある言い方をしていた。

「なんで苦手だったんですか?」

綾乃は樹を見ると「さぁ、理由までは」と首を傾けた。

「それともう一つ、先日、美幸さんが被害者は自殺をしたのかと聞いてきたことが気になりまして」

「……奥様は、いつ死んでもいいとか、早くお迎えが来て欲しいとか口癖のようにおっしゃっていたので気になったのだと思います」

「綾乃さんはその言葉は本心だったと思いますか?」

「どうでしょうか。でもあれだけ口にしていたら本当になることもあるかもしれませんね。言霊という言葉があるくらいですし」

 青砥と綾乃の会話を聞きながら樹は部屋を見渡していた。お金持ちというだけあって部屋に置いてある調度品はどれも高そうなものばかりだ。段ボールの中には実際に被害者が使っていたマグカップや本、アクセサリーがひとまとめにしてあった。


あの人もこんな環境で生活していたら俺を可愛がってくれたのだろうか……。

「よろしければお茶をどうぞ」
「すみません。ありがとうございます」

木島が差し出したお茶は花の香りがした。花の香りのするお茶なんて飲んだことなかったと思うと、生活の差に笑えてくる。

「奥様が好きだったお茶なんですよ。この庭で咲いた花を干して香り付けしてあります」

お茶に口をつけながら、昨日はお茶をロボットが運んでいたことを思い出した。確かロボットは3台はいたはずなのに、今日は一台も見かけない。

「そういえば今日はロボットはないんですか?」

「えぇ、ロボットはもう充電していないので。ここに大勢のお客様が尋ねてくることはもうないですから」

木島が寂しそうに微笑んだ。さよならがもうそこまで来ている、そういう笑顔だった。

「申し訳ございません。来客が参りましたので、そろそろ宜しいですか?」

綾乃が会話を打ち切って青砥と樹を交互に見た。
 
 綾乃と木島に見送られながら大黒寺家を後にする。門の入り口に立った時、丁度大きなトラックが空から降りてきた。トラックには『ロボットリサイクル会社』の文字。

「あのロボットたちこの会社に引き取って貰うんですかね」

「だろうな」

 
 N+捜査課に戻ると青砥と樹を見たロボットがお茶を持って来た。ロボットはこの部屋に入ってくる人間の体内水分量を測定して、水分量が足りない人には勝手にお茶を持ってくるシステムになっているのだ。

無言でお茶をとる青砥の背後で、樹は「ありがとう」と小声で言ってからお茶を受け取った。

「どうだった?」

はきはきとした声は如月のものだ。

「恨みを持つ人はいないという声が殆どですね。自殺については確かに「長生きし過ぎた」というのが口癖だったようです。山さんたちは?」

「当日、パーティーに来なかった人も含めて被害者と仲の良かった友人に話を聞いてきたのだけど、被害者はいつも親切だったっていう声が殆どだったわぁ。でも一人だけ、「彼女は図太いから自殺はしない」って言った友人がいて」

「図太い」って言い方、なんか変よねぇ……と山口は顎に手を置いた。

「なるほど……。あの、霧島さん、ちょっと調べて欲しいことがあるんですけどいいですか? 俺たち、もう一度出かけてくるんで」

霧島に調べて欲しいことを早口で告げた青砥に腕を引かれて、樹は慌ててお茶を机に置いた。

「なんか分かったの?」という霧島の言葉に青砥が振り返る。

「ハッキリしたら連絡します!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...