【SF×BL】碧の世界線 

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第二章 N+捜査官

2. 事件当日

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殺害現場である寝室に如月を残して第一発見者がいるという隣室へ移動すると、30代後半の女性に肩を抱かれて泣いている20歳くらいの女性がいた。服装を見る限り二人ともこの家で働くメイドのようだ。

「お名前を教えて頂けますか?」

青砥の問いかけに30代後半の女が答える。

「私は林綾乃、こちらが永井美幸と申します」
「被害者についてあなたが知っていることを教えて下さい」

「亡くなったのはこの家の大奥様で大黒寺雅子様です。奥様はこちらの家に1人でお住まいで、年齢は158歳になったばかりでした」

「158!?」

想定外の年齢に樹は思わず声を上げたが、青砥の目がスッと細められたのを見て黙った。

158歳って……。全然そんな風に見えなかった。せいぜい30歳くらいかと……。

樹の動揺を他所に青砥の質問はどんどん進む。

「延命契約は結んでいなかったのですか? 結んでいれば病院に運んで蘇生可能ということもあったのでは」

「勿論、延命契約は結んでおりました。ですが彼女が発見した時にはもう蘇生可能時間を過ぎてしまっていて……。ブレスレットが奥様の体に異変を感知すれば屋敷内にアラートが鳴る仕組みになっていたのですが、なぜか鳴らなくて……」

綾乃が「もっと早くに気が付いていれば」と言葉にすると美幸は一段と大きな声で泣きすすった。

「では当日の様子を教えて頂けますか? どんな経緯で発見に至ったのか」
「美幸さん、話せそう?」

「ふぁい、話し、うぅ、ます」

 綾乃と美幸の話を総合するとこうだ。
今日、10月21日は大黒寺雅子の158歳の誕生日で朝からパーティーの準備に大忙しだったという。パーティーは庭での立食パーティーになっており、招待客が来はじめたのが11時頃。雅子は来客に挨拶をしながら食事やお酒を楽しみ、ケーキが登場する14時に新しいドレスでいたいからと13時に寝室に着替えに戻ったそうだ。

「14時に、うぅ、なっても奥様の姿が見えなかったので……。電話をかけてもお出になりませんでしたし、寝室に様子を見に伺ったんです。そしたら、大奥様がベッドに……うぅっ」

「美幸さんから連絡を貰って直ぐに私は寝室に駆けつけました。何とか蘇生をと思い、病院に連絡をしたのですがブレスレットの記録によると蘇生時間が過ぎておりましたので残念ながら」

綾乃は目を伏せて一度だけ目元を拭うと、気丈に青砥を見た。

「協力できることは協力いたします。ですが、本日はもう仕事に戻らせて頂いても宜しいでしょうか? 御来客の方がまだ1階に降りますので」

「わかりました。いいでしょう」

青砥に頭を下げて美幸の手を引いて綾乃が部屋を出ようとすると、美幸が樹たちを振り返った。

「あのっ、刑事さん。奥様は自ら命を絶ったのでしょうか?」
「どうしてそう思うのですか?」
「長く生き過ぎたと良く仰っていたので……」
「自殺願望があったと?」
「いえ、それは分かりません」


二人が部屋を出て扉が閉まるのを確認すると樹は青砥の方を向いた。

「158歳って、この世界の人はそんなに長寿なんですか?」

「この世界……」

あ、やばっ……。
聞き方を失敗したと思ったが、今更だ。

「樹の言う長寿がどれくらいのものかは分からないけど、この世界の158歳っていったらお金持ちであればちょっと短いくらいじゃないかな」

「短い!? え、何歳まで生きるんですか?」
「臓器を入れ替えたりして200歳くらいが平均だな」
「臓器入れ替え……」

200歳なんて樹の知っている平均寿命の2倍以上だ。自分の年齢が19歳だから200歳まで生きるとしたらまだ人生の10分の1しか生きていないことになる。それはとても果てしない道のりに思えた。

「はっ、俺も!?」

「くす、残念ながら樹は100歳くらいまでだと思うよ。200歳まで生きられるのはお金持ちだけ。体のパーツのクローンを育てて保管しておくには数千万以上のお金が必要だからね。それに必要なのはクローンを育てるだけじゃなくて、体の老化を止める治療も必要になる。臓器は交換しても筋肉や骨、血管が老化してボロボロになるんじゃ意味がないからね」

「はぁ……」

クローン、老化の治療……。マジかよ。だから被害者、30歳にしか見えなかったのか……。

頭がついて行かず、ぽかんとした表情をしていると青砥が樹のほっぺたをギュッとつねった。

「いてっ」
「変な顔してないで、1階に行って他の従業員からも話をきくよ」


 1階は円形のフロアになっており、庭が良く見える透明の壁に仕切られていた。その壁は壁という硬さがなく、むしろ壁と言わない方が良いのかもしれない。手を伸ばせばすり抜ける事も出来るが、温かい空気が外に漏れることも無く虫が侵入してくることも無いのだという。

「奥様は生食材中心の食生活をおくっておりました。食材の味を大きく変えることは好みませんでしたので味付けは大抵が塩。栄養錠剤の類は不健康に繋がると殆ど飲むことはありませんでした。万が一いつもと違う味のものがあればすぐにお気づきになられると思います」

1階フロアに隣接する調理場の料理長、木島はそう言いながらお盆にいくつものお茶をセットした。

「R11、お盆にセットしたお茶をフロアのお客様へ」

「カシコマリマシタ」

ロボットらしいロボットがフロアへお茶を運ぶ。その僅かにぎこちない動きに、この世界では人間らしいロボットを作ることが禁止されているのだと小学生の教科書に記載されていたことを樹は思い出した。

人間らしく作ると見分けるのが大変だからという理由だ。この動きのぎこちなさもロボットと人間の差別化の為だと思うと背中がゾクリとした。

「木島さんは、大黒寺さんは自殺されたと思いますか?」

「自殺ですか? とんでもない。あんなに健康に気を付けている方はなかなかいませんよ」

顔を上げた木島の視線の先には、庭に並べられた豪華な料理があった。

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