23 / 119
第一章 もう一つの世界
21. 山口のN+能力
しおりを挟む
「あーあ、派手にやっちゃったわねぇ」
「言っておくがやったのは私じゃない」
「そんなこと分かってるわよ。全部アイツのせい」
霧島が倒れている男を冷たい目で見る。
「結局、ストーカーはいたってことか」
髪の毛を掻き上げた山口の言葉に霧島が、う~んと唸ってから答えた。
「でも、アオと話していた内容を聞く限りこの男の存在には安藤ちゃんも気が付いてなかったわよね」
「
偶然、ですかね?」
「さぁね、ひとつ言えることは今日アオ君が私たちをここに配置したことは正解だったってことだね」
樹はしみじみと山口を見上げた。髪の毛が乱れている分、若干ワイルドには見えるがシュッとした顔も細マッチョなボディも山口のものに間違いはない。
「山口さん?」
「山さんでいいぞ? なんだ?」
ぞ? いつもの山口なら、いいわよぅ、と言いそうなところだ。山口がおかしいことは疑いようがない。「じゃあ、山さん」と不信感丸出しの上目遣いで樹は言い直した。
「いつもとは全然感じが違いますけど。実は双子で今日はいつもと別人なんだ、とか言わないですよね?」
「あ~、そうか。樹君とは酔ってない姿で会うのは初めてだったか!!」
「……はぁ」
「私のN+は体質とか色々相まってなんだけど、簡単に言うと体内でアルコールを醸造することができる。で、それを手に埋め込んでいる管から出すことが出来るんだ」
「それってつまりいつも俺が会っている山さんって、酔っ払いってことですか?」
あたり、と霧島が樹の肩を抱くようにして手を置いた。
「アルコールを吐き出して体内のアルコール量を減らしたのが今の山さんなんだよ。いつもよりシャキッとしてるでしょ」
「たしかに……」
山口は呆然としている樹の頭に手を置くと「さっきは助かった。私たちを守ろうと相手の腕に飛びついたんだろ? やるじゃん」と言って笑った。
気を失っている筋肉男を拘束して部屋を出ると、怯えた表情の安藤が樹たちを見て頭を下げた。
「ごめんなさい、私、嘘をついて……」
「謝る必要なんてないわ。安藤ちゃんが青砥に相談しなかったら、もっと大変なことになっていた。結果的に本当に狙われていたわけだし、安藤ちゃんが無事で良かったよ」
霧島の言葉にも安藤の表情はこわばったままだった。狂言のはずだったのに本当に狙われていた、その事実が恐怖として安藤の心にしみ込んでいるのだろう。
到着した警察官に部屋の中にいる男の存在を教え、警察官たちが室内に侵入する。その傍らで安藤が「ごめんなさい」と青砥に謝っていた。眠っている青砥は当然返事をしない。
「樹、青砥連れてきて。ここは所轄の警察官に任せて私たちは帰るよ。いつまでもいると邪魔になるから」
樹が青砥の傍に行くと警察官に声をかけられた安藤が青砥の傍から立ち上がるところだった。これから事情聴取をするのだろう。樹は青砥の腕を肩にかけて担ぐようにして立ち上がった。
「俺、安藤さんの気持ちちょっとだけ分かります。認めて欲しいって気持ち……俺の場合は『皆』ではなかったけど……。皆に認められたいって俺からしたら贅沢です」
安藤の目が樹を見たような気がしたが、しゃべり過ぎたと思った樹は安藤を見ることはしなかった。
翌朝、昨晩のあれやこれのせいで明け方近くまで眠れなかった樹は10時になってもまだベッドの上にいた。寝過ごしたと思った時にはもう遅い。食堂が閉まる時間だというのにお腹がぐぅと空腹を告げた。
冷蔵庫に何か入ってたっけかな。
ようやく重い腰をあげてベッドから這い出たところで部屋のインターホンが鳴った。
「……何か用ですか?」
ドアの前にいた人物を見て明らかに樹の眉間にしわが寄ったが、その人物は得意の真顔のままだ。
「昨日また俺のこと運んでくれたんだって?」
「霧島さんに言われたから運んだだけなんで、お礼とかいいですから」
先手必勝とばかりに樹が断ると、青砥は自分の顎を触りながら視線を樹から反らした。
「ふぅん、お礼がご飯でも?」
樹の視線が泳ぐ。食欲に負けたとかそういうことではなくて、単純にお腹は満たされていた方が良い。そうだ、そういうことだ。
ご飯を奢ってくれると言うからてっきり熊さんのお店に行くのかと思いきや、青砥は屋上に向かいそこからムカデに乗った。どうやら街の方まで行く気らしい。車両奥の窓際に並んで立つと、樹は理由も無く窓の外を眺めた。
「義手には慣れた?」
「まぁ、だいぶ」
青砥は、ふぅん、と口にすると徐に樹の義手に触れた。片手で指先を弄び、親指で手のひらの中心をなぞる。なぞられた感覚がゾクゾクと波のように樹に伝わり、ビクッと手が反応した。
「ちょっと、そんな風に触るのやめてもらえますか?」
「どんな感じ?」
「どんな感じと言われても……なんて言っていいのか分からない感じです」
手を引いて青砥の手から逃れると、青砥が可笑しそうに笑った。笑いのツボが分からない……。触れられた手のひらの部分だけが痺れているような気がして、その感覚を拭うように樹は自分の義手を擦った。
「言っておくがやったのは私じゃない」
「そんなこと分かってるわよ。全部アイツのせい」
霧島が倒れている男を冷たい目で見る。
「結局、ストーカーはいたってことか」
髪の毛を掻き上げた山口の言葉に霧島が、う~んと唸ってから答えた。
「でも、アオと話していた内容を聞く限りこの男の存在には安藤ちゃんも気が付いてなかったわよね」
「
偶然、ですかね?」
「さぁね、ひとつ言えることは今日アオ君が私たちをここに配置したことは正解だったってことだね」
樹はしみじみと山口を見上げた。髪の毛が乱れている分、若干ワイルドには見えるがシュッとした顔も細マッチョなボディも山口のものに間違いはない。
「山口さん?」
「山さんでいいぞ? なんだ?」
ぞ? いつもの山口なら、いいわよぅ、と言いそうなところだ。山口がおかしいことは疑いようがない。「じゃあ、山さん」と不信感丸出しの上目遣いで樹は言い直した。
「いつもとは全然感じが違いますけど。実は双子で今日はいつもと別人なんだ、とか言わないですよね?」
「あ~、そうか。樹君とは酔ってない姿で会うのは初めてだったか!!」
「……はぁ」
「私のN+は体質とか色々相まってなんだけど、簡単に言うと体内でアルコールを醸造することができる。で、それを手に埋め込んでいる管から出すことが出来るんだ」
「それってつまりいつも俺が会っている山さんって、酔っ払いってことですか?」
あたり、と霧島が樹の肩を抱くようにして手を置いた。
「アルコールを吐き出して体内のアルコール量を減らしたのが今の山さんなんだよ。いつもよりシャキッとしてるでしょ」
「たしかに……」
山口は呆然としている樹の頭に手を置くと「さっきは助かった。私たちを守ろうと相手の腕に飛びついたんだろ? やるじゃん」と言って笑った。
気を失っている筋肉男を拘束して部屋を出ると、怯えた表情の安藤が樹たちを見て頭を下げた。
「ごめんなさい、私、嘘をついて……」
「謝る必要なんてないわ。安藤ちゃんが青砥に相談しなかったら、もっと大変なことになっていた。結果的に本当に狙われていたわけだし、安藤ちゃんが無事で良かったよ」
霧島の言葉にも安藤の表情はこわばったままだった。狂言のはずだったのに本当に狙われていた、その事実が恐怖として安藤の心にしみ込んでいるのだろう。
到着した警察官に部屋の中にいる男の存在を教え、警察官たちが室内に侵入する。その傍らで安藤が「ごめんなさい」と青砥に謝っていた。眠っている青砥は当然返事をしない。
「樹、青砥連れてきて。ここは所轄の警察官に任せて私たちは帰るよ。いつまでもいると邪魔になるから」
樹が青砥の傍に行くと警察官に声をかけられた安藤が青砥の傍から立ち上がるところだった。これから事情聴取をするのだろう。樹は青砥の腕を肩にかけて担ぐようにして立ち上がった。
「俺、安藤さんの気持ちちょっとだけ分かります。認めて欲しいって気持ち……俺の場合は『皆』ではなかったけど……。皆に認められたいって俺からしたら贅沢です」
安藤の目が樹を見たような気がしたが、しゃべり過ぎたと思った樹は安藤を見ることはしなかった。
翌朝、昨晩のあれやこれのせいで明け方近くまで眠れなかった樹は10時になってもまだベッドの上にいた。寝過ごしたと思った時にはもう遅い。食堂が閉まる時間だというのにお腹がぐぅと空腹を告げた。
冷蔵庫に何か入ってたっけかな。
ようやく重い腰をあげてベッドから這い出たところで部屋のインターホンが鳴った。
「……何か用ですか?」
ドアの前にいた人物を見て明らかに樹の眉間にしわが寄ったが、その人物は得意の真顔のままだ。
「昨日また俺のこと運んでくれたんだって?」
「霧島さんに言われたから運んだだけなんで、お礼とかいいですから」
先手必勝とばかりに樹が断ると、青砥は自分の顎を触りながら視線を樹から反らした。
「ふぅん、お礼がご飯でも?」
樹の視線が泳ぐ。食欲に負けたとかそういうことではなくて、単純にお腹は満たされていた方が良い。そうだ、そういうことだ。
ご飯を奢ってくれると言うからてっきり熊さんのお店に行くのかと思いきや、青砥は屋上に向かいそこからムカデに乗った。どうやら街の方まで行く気らしい。車両奥の窓際に並んで立つと、樹は理由も無く窓の外を眺めた。
「義手には慣れた?」
「まぁ、だいぶ」
青砥は、ふぅん、と口にすると徐に樹の義手に触れた。片手で指先を弄び、親指で手のひらの中心をなぞる。なぞられた感覚がゾクゾクと波のように樹に伝わり、ビクッと手が反応した。
「ちょっと、そんな風に触るのやめてもらえますか?」
「どんな感じ?」
「どんな感じと言われても……なんて言っていいのか分からない感じです」
手を引いて青砥の手から逃れると、青砥が可笑しそうに笑った。笑いのツボが分からない……。触れられた手のひらの部分だけが痺れているような気がして、その感覚を拭うように樹は自分の義手を擦った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
42
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる