【SF×BL】碧の世界線 

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第一章 もう一つの世界

16. SNS 

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 青砥の部屋で過ごす日々から脱して3日、樹の心は少しずつ平静を取り戻し始めていた。青砥と全然会話をしないわけではないが、接するのはせいぜい1日に1度。それも青砥がN+捜査官試験の予測問題をブレスレットに送ってくれるというものだから、直接顔を合わせる必要がない。

 ストーカー事件のほうは相変わらずの足踏み状態で、安藤の護衛で忙しい青砥に変わり彼女のSNSをチェックする日々が続いていた。

「GYUBUのチャンネル登録者が98万人なんて彼女もなかなかやるわよねー。思っていた以上に動画配信してて、チェックするのも一苦労だわ」

「あら、そんなこと言って茜ちゃんのN+捜査官チャンネルの登録者なんで559万人じゃない」

「ふふふ、んふふふ、この間561万人になったの」

 GYUBUとは再生回数が多ければ収益化もされるという、この世界では一番有名な動画配信サイトだ。

霧島の部屋の中央、テーブルの上には霧島用のお菓子とお酒が用意しており、テーブルを背にして3人が壁を向いて座っている。ブレスレットで空間に表示した安藤のSNS映像が重ならない為だ。

「なんか気になる書き込みあったー?」

「過去2か月前の投稿をチェックしてるけど、正直言えばこんなものよねって思うわぁ。美容とかファッション、日常がメインのキラキラ女子って感じの内容なんだけど、かわいい、とか参考になるぅとか好意的な物が殆どだし、アンチもいるにはいるけどそんなに過激な感じじゃないしねぇ」

山口がうーんと唸ると、口にスナック菓子を咥えた霧島が樹の肩を叩いた。

「樹はどう?」

「俺は過去1か月前のを見てますけど、彼氏が出来たようで楽しそうですよ。配信内容もお家デートの服装とかですし。でも、確かにこの頃になるとアンチが多いなっては思います。早く別れろ、とか遊ばれているだけだとか、元カノの方が可愛かったとか、妬みですかね。「そんなこと書く暇があるなら自分磨きを頑張って」とか彼女も結構言い返してますけど」

「妬みかー。妬みは怖い感情だからねぇ、動機にはなり得るね」

スナック菓子をポリポリと噛んでいる霧島に今度は山口が聞いた。

「で、茜ちゃんの方はどうなのよ」

「私が見ているのは丁度嫌がらせが始まった頃ね。残念ながら彼氏とは別れたみたい。基本的に慰めるコメントが多いけど、調子に乗っているからだとか、1か月で飽きられるなんて余程つまらない女、とかまぁ、傷口に塩を塗りこむようなコメントもあるねぇ。こっちはコメントの返信はしてないわ」

空中の画像を指でスクロールしながら霧島がスナックをかじった。

「やだ、これなんてわざわざ元カノの画像拾ってきて安藤ちゃんの写真と並べて貼り付けてる。こんなことされたら、私だったら貼った奴の家を調べて乗り込んでやるわ」

「簡単に調べられるんですか?」

「そんなわけないでしょ。職権を駆使するわ」

「んもう、茜ちゃん、それバレたら仕事をクビになるから」

山口はここで言葉をいったん切ると「つまり、ここ数か月の安藤さんのSNSの流れを要約すると」と続けた。山口の声に霧島も樹もテーブルの方を向き、3人が顔を見合わせる形になる。

「メイク動画やコーディネート動画を配信しているキラキラ女子に彼氏が出来た。その頃からアンチの活動が活発になる。最初の頃はアンチコメントに言い返していたが彼氏と別れてからは返信はなし。彼氏と別れたくらいから無言電話や夜道をつけられるという事が頻発している、と」

「そういうことね。1か月間付き合っていた彼氏の名前はコウキっていうらしい。ちょっと調べてみたら直ぐに出てきたわ。チャンネル登録者215万人のイケメンだから、彼女がコウキと付き合ってからアンチが増えたのも頷ける」


あの、と樹が声を上げた。

「ストーカーじゃなくて単なる嫌がらせではないんですかね? コメントを見た時思ったんですけど、彼氏と別れろって書き込みは多くあったんですけど、別れた方が良いって書き込みはなかったんですよ。ストーカーで彼女のことを思っているのなら、安藤さんの為に別れた方が良いって言い方になるんじゃないかと思って」

なるほど良い着眼点ね、と霧島は言葉にした後「でもそれなら」と続けた。

「彼女が彼と別れた後から嫌がらせが始まるっておかしくない? 妬みが理由なら彼女の不幸は嬉しいはずだし。とりあえず、アオには報告しておきますか」

 それから更に3日程経った時だった。いつものように霧島の部屋でSNSチェックをしていた樹と山口は、霧島の「あっ」という叫びにビクッと体を揺らした。

「どうしたんですか?」
「見て、このコメント」

霧島が見つけたコメントは「今日は話題のアランジェカフェに行ってきました」という画像についたものだった。

“このブレスレットと手の黒子、もしかして一緒に行ったのはN+捜査官の青砥さんですか!? 前に同級生だって言ってましたもんね”

“二人はそういう仲ってことですか?”
“羨ましい~、私もイケメンとデートしたーい”

コメントの返信欄には「誰とかはお相手に迷惑がかかると悪いので内緒です。すごく可愛いくて美味しいカフェだったので、皆さんも行ってみてください♪」と書いてある。

「これって……」
「いわゆる匂わせ投稿ってやつねぇ。意識してか無意識かは不明だけど」

樹の言葉に答えるように発言して山口が渋い顔をした。

「もし、このコメントを書いた人たちがN+捜査官の配信サイトに似たような書き込みをし始めたら大変じゃないですか? アオさん、大丈夫ですかね?」

「あぁ、それは大丈夫よ。アオは何もやましいことはしてないし、たとえプライベートに女性とデートしたって何の問題はないでしょ。でもこういう書き込みがN+捜査官の動画にくるのは正直面倒くさいわね。でも大丈夫よ。コメントがゼロにはならないだろうけど、炎上することは抑えられる」

「どうするんですか?」
「裏アカウントを使うのね!?」

山口が意味ありげに微笑むと霧島は似たような表情を返した。

「書き込む人たちが好む情報を与えてあげるのよ。二人きりじゃなかったらしい、とか、N+捜査官の配信に書き込んだらアオがもう配信に登場しなくなるとかね。アオのファンなら配信に本人が登場しなくなるのは嫌でしょうから」

アオって結構人気があるのよ、と言いながら霧島はほほ笑んだ。

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