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第一章 もう一つの世界
6. N+能力の代償
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その男はこの季節には早いコートを着て出入り口を塞ぐように立っていた。顔を隠すこともせずに血走った目をしており、手に持った茶色の筒がついた装置をかざした。
「爆弾だ!!」
咄嗟に樹が叫ぶ。
赤や青、黄色のコードが付いているそれはドラマや映画で見ていた樹には馴染みのある形をしていた。男の目が一瞬樹を捉える。
「そうだ。これは爆弾、という。俺がちょっと……衝撃を与える、だけでこの爆弾は、おまえら、全員、吹き飛ばす。建物、もろともだ」
ヒッと息を飲むような音が聴こえ、ざわついていた空気が一瞬にして鎮まった。青砥は真っ直ぐに犯人を見つめている。
だから外に出てろって言ったのか、あの時俺が外に出ていれば何かできたかもしれないのに。
樹が自分の馬鹿さ加減にグッと歯を噛みしめると、犯人から見えない様に青砥の手が樹の背中に触れた。まるで大丈夫だよと伝えるかのように。
その間に犯人は薬局のシャッターを下ろし、カウンターに爆弾を置いた。そして自分の手を高く上げると四角いボタンを見せつけた。
「この、スイッチを、押したら、終わり、だ」
「も、目的はなんですかっ!!」
50代半ば、薬局長の名札を付けた女性が勇敢にも前に出た。犯人はカウンターの前でせわしなく体を揺さぶっている。
「目的? ここにいる奴らを道ずれにして全部終わらせてやるんだ」
先程までカタコトだった男の口調が急に滑らかになった。口元に笑みさえ浮かべている。
「そんなことをして何になるのよっ。大丈夫、きっとなんとかなるから、ね、落ち着きましょう?」
「なんとかなんかならねぇんだよっ!」
男が叫んだ瞬間、男の体から無数の棘が出た。まるで人間版のハリセンボンだ。
「はは、は、ほらな。俺のN+、は棘だ。注意してたんだ、注意してたのに……はは、爆弾の、スイッチ、器用に、棘を、避けてる」
手の中にあったスイッチは棘と棘の間に支えられ犯人の手の中にあった。残念なのかそうでないのか、読めない表情のまま犯人がスイッチを指先に持ち替えた。
「大丈夫よ。今はN+をコントロールしやすくする薬も開発されているわ。力になるから」
シュッと音がして男の棘が消えた。棘が消えたことで店内の緊張が若干弱まり事態は収束に向かうかのように思えた。
「もう遅い、んだよ」
男が樹に向かって歩いてくる。樹を隠すように青砥が前に出たが犯人は青砥を押しのけて樹を掴んだ。
「腕が、いっぽん、ない。お前も、不便、そうだな。確実に、連れてって、やるよ。俺のちから、コントロール、できないから、くっついて、いれば、確実に、終わらせ、られるよ」
終わりにしよう?
耳元で囁かれ樹はビクッと体を震わせた。
なんだこれは。一体どういう事態なんだ。
樹のこめかみを冷汗が伝う。お前と一緒にするな、ここで死ぬわけにはいかないんだ、犯人に叫びたい言葉は幾つもあったが、犯人から出た棘の残像が消えない。
考えろ、考えろ。何か突破口を探すんだ。
犯人と触れている部分、相手の体温が気持ち悪い。樹が救いを探すように視線をさ迷わせると青砥と目が合った。真っ直ぐな視線、相変わらず表情を崩さないその姿に波打っていた樹の心が黙った。
俺が爆弾のスイッチを持って犯人から逃れることが出来ればなんとかなる。問題はどうやって棘を出させずにスイッチを奪うかだ。
犯人はスイッチを手のひらで握りこむようにして持っており、仮に樹が精いっぱい左手で奪おうとしても利き腕が無い状態では不可能だ。
「その爆弾は本物か?」
目を大きく開けた犯人が顔をぐるりと動かし、発言した男を見た。青砥は表情を変えず淡々と言葉を続ける。
「俺はその爆弾という物を初めて見た。お前が作ったものではないだろう? 建物ごと吹き飛ばすような武器は遠い昔に消え去ったはずだ」
偽物なの? と言う声がポソポソと聞こえた。
「ほっ、本物だ! ならば、このスイッチ、を、お押して、やる!!」
犯人が手のひらを開いてスイッチを見せつけるようにした。樹を拘束していた犯人の左腕が緩み、スイッチを押そうと移動する。
樹は犯人の腕から逃れると犯人の右腕を蹴ろうと足をあげた。と、同時に白い長Tが樹の前を横切り、犯人の手から的確にスイッチを奪った。
樹の足はというと青砥の手の中にありそのままバランスを崩して転んだ。
「悪いな」
こちらを見ることもなく青砥が言う。あっけにとられていると青砥が樹と犯人の間に立った。
「樹、ボケっとしてんなよ」
その言葉に我に返り犯人を見る。犯人は人間ハリセンボンと化していた。
「こ、この、このっ」
言葉にならぬ怒りを抱えて犯人が突進してくる。
やばい、なんとかしなきゃ。
そうは思うもののどうしたらいいか分からず樹は近くにあったものを掴んだ。犯人が迫る。
その時、バサッと布が舞って犯人の頭や上半身を覆った。青砥が近くにあったテーブルからクロスを引き抜いて犯人にかけたのだった。
「うわぁあっ」
棘が布に刺さり絡まる犯人、そこにシャッターが開いて警察官が流れ込んできた。
「爆弾だ!!」
咄嗟に樹が叫ぶ。
赤や青、黄色のコードが付いているそれはドラマや映画で見ていた樹には馴染みのある形をしていた。男の目が一瞬樹を捉える。
「そうだ。これは爆弾、という。俺がちょっと……衝撃を与える、だけでこの爆弾は、おまえら、全員、吹き飛ばす。建物、もろともだ」
ヒッと息を飲むような音が聴こえ、ざわついていた空気が一瞬にして鎮まった。青砥は真っ直ぐに犯人を見つめている。
だから外に出てろって言ったのか、あの時俺が外に出ていれば何かできたかもしれないのに。
樹が自分の馬鹿さ加減にグッと歯を噛みしめると、犯人から見えない様に青砥の手が樹の背中に触れた。まるで大丈夫だよと伝えるかのように。
その間に犯人は薬局のシャッターを下ろし、カウンターに爆弾を置いた。そして自分の手を高く上げると四角いボタンを見せつけた。
「この、スイッチを、押したら、終わり、だ」
「も、目的はなんですかっ!!」
50代半ば、薬局長の名札を付けた女性が勇敢にも前に出た。犯人はカウンターの前でせわしなく体を揺さぶっている。
「目的? ここにいる奴らを道ずれにして全部終わらせてやるんだ」
先程までカタコトだった男の口調が急に滑らかになった。口元に笑みさえ浮かべている。
「そんなことをして何になるのよっ。大丈夫、きっとなんとかなるから、ね、落ち着きましょう?」
「なんとかなんかならねぇんだよっ!」
男が叫んだ瞬間、男の体から無数の棘が出た。まるで人間版のハリセンボンだ。
「はは、は、ほらな。俺のN+、は棘だ。注意してたんだ、注意してたのに……はは、爆弾の、スイッチ、器用に、棘を、避けてる」
手の中にあったスイッチは棘と棘の間に支えられ犯人の手の中にあった。残念なのかそうでないのか、読めない表情のまま犯人がスイッチを指先に持ち替えた。
「大丈夫よ。今はN+をコントロールしやすくする薬も開発されているわ。力になるから」
シュッと音がして男の棘が消えた。棘が消えたことで店内の緊張が若干弱まり事態は収束に向かうかのように思えた。
「もう遅い、んだよ」
男が樹に向かって歩いてくる。樹を隠すように青砥が前に出たが犯人は青砥を押しのけて樹を掴んだ。
「腕が、いっぽん、ない。お前も、不便、そうだな。確実に、連れてって、やるよ。俺のちから、コントロール、できないから、くっついて、いれば、確実に、終わらせ、られるよ」
終わりにしよう?
耳元で囁かれ樹はビクッと体を震わせた。
なんだこれは。一体どういう事態なんだ。
樹のこめかみを冷汗が伝う。お前と一緒にするな、ここで死ぬわけにはいかないんだ、犯人に叫びたい言葉は幾つもあったが、犯人から出た棘の残像が消えない。
考えろ、考えろ。何か突破口を探すんだ。
犯人と触れている部分、相手の体温が気持ち悪い。樹が救いを探すように視線をさ迷わせると青砥と目が合った。真っ直ぐな視線、相変わらず表情を崩さないその姿に波打っていた樹の心が黙った。
俺が爆弾のスイッチを持って犯人から逃れることが出来ればなんとかなる。問題はどうやって棘を出させずにスイッチを奪うかだ。
犯人はスイッチを手のひらで握りこむようにして持っており、仮に樹が精いっぱい左手で奪おうとしても利き腕が無い状態では不可能だ。
「その爆弾は本物か?」
目を大きく開けた犯人が顔をぐるりと動かし、発言した男を見た。青砥は表情を変えず淡々と言葉を続ける。
「俺はその爆弾という物を初めて見た。お前が作ったものではないだろう? 建物ごと吹き飛ばすような武器は遠い昔に消え去ったはずだ」
偽物なの? と言う声がポソポソと聞こえた。
「ほっ、本物だ! ならば、このスイッチ、を、お押して、やる!!」
犯人が手のひらを開いてスイッチを見せつけるようにした。樹を拘束していた犯人の左腕が緩み、スイッチを押そうと移動する。
樹は犯人の腕から逃れると犯人の右腕を蹴ろうと足をあげた。と、同時に白い長Tが樹の前を横切り、犯人の手から的確にスイッチを奪った。
樹の足はというと青砥の手の中にありそのままバランスを崩して転んだ。
「悪いな」
こちらを見ることもなく青砥が言う。あっけにとられていると青砥が樹と犯人の間に立った。
「樹、ボケっとしてんなよ」
その言葉に我に返り犯人を見る。犯人は人間ハリセンボンと化していた。
「こ、この、このっ」
言葉にならぬ怒りを抱えて犯人が突進してくる。
やばい、なんとかしなきゃ。
そうは思うもののどうしたらいいか分からず樹は近くにあったものを掴んだ。犯人が迫る。
その時、バサッと布が舞って犯人の頭や上半身を覆った。青砥が近くにあったテーブルからクロスを引き抜いて犯人にかけたのだった。
「うわぁあっ」
棘が布に刺さり絡まる犯人、そこにシャッターが開いて警察官が流れ込んできた。
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