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第2章 スウガク部編
カイジュウリロード【2】
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歩く。
歩く。
歩く。
すれ違う人々は僕を凝視している。あるいはあれに関わってはならないと、焦った様子で目を逸らしている。彼らの怯えた表情を生み出した元凶はきっと、僕の手や顔にべっとりとへばりついた赤い液体だろう。
彼らは何も間違ってない。予想通りだ。
いや、常識に囚われてイタズラ用の血糊か何かと勘違いしてる人もいるかもしれないから、予想通りと決めつけるのはよくないか。訂正だ。本物と判断した人は何も間違ってない。
にしてもこれ、どっちのだっけ?
手のやつは作子だろうな。あいつ、しつこいぐらいに手握ってきやがった。
顔のは……両方か。お姉ちゃんとも、作子とも、どっちともしたからな。唇にしても、お姉ちゃん全然嫌がらなかった。いや、抵抗する力さえ残ってなかっただけか。今となっては確かめようも無い。作子は恥ずかしがってたか。でもどうしてだろう。動かなくなるまで、僕のことをずっと離さなかった。嫌じゃなかったって、ことなのかな?
あはは……。こういう話、十二乗が聞いたら気持ち悪いって言ってくれたんだろうな。心底気持ち悪そうな声で、蔑んだ目つきで。
懐かしい。去年だったらいつでも見られた光景なのに、いつの間にか2度と見られない代物になってしまった。
先輩、ディファレ、十二乗、平方さん、作子。彼女たちはもういないんだ。
どうして、どうしてこんなことになってしまった。
僕には力があった。どれだけ取り返しのつかない状況だろうと、負った傷を全て埋めてハッピーエンドにできる力が、そんな力が確かにあった。だから僕は残った。皆が全てを投げ打って、僕をどうにか助けてくれた。
どこで間違えた? 少なくともある時点まではこうなるとは決まっていなかった筈だ。どこからなら修正できた?
脳みそを動かそうにもままならず、ただどこかにいる筈の蝉の鳴き声だけが頭の中を埋め尽くしていく。視界はぐにゃぐにゃと歪み、自分が真っ直ぐ歩いているのかすら分からなくなってきた。
真上から照りつける太陽が僕を毎秒毎秒すり減らす。息をするも、喉が渇く。乾きすぎてもはや痛い。
ザッと鳴る。足元には砂。ここは確か運動場。ああ、学校か。
足を一歩踏み出すと、僕は教室にいた。机が、椅子が、とにかく邪魔だ。
掻き分けて、また歩く。目的なんて無い。自分が何をしたいかなんて、そんなの知らない。
何十何百という机と椅子を退かしてひたすら前へ進んだ。起きているだけで意識不明も同然になっていたその時――僕の手を、誰かが引っ張った。
誰?
振り返る。
黒い髪。鋭い目つき。無愛想な無表情。
ああ、君か。
僕に何か用? 三角さん。
強く握られた手は離されない。正直言うとちょっと痛い。
三角さんは何も言わず、ただ僕の目をじっと見つめていた。目は口ほどに物を言う。何も言わずとも、伝えられる。そう信じて疑わない目だ。
分かってる。言いたいこと、全部分かってるよ。
さあ来い三角ていり。君の友達の、そして恋人の仇はここにいる。
歩く。
歩く。
すれ違う人々は僕を凝視している。あるいはあれに関わってはならないと、焦った様子で目を逸らしている。彼らの怯えた表情を生み出した元凶はきっと、僕の手や顔にべっとりとへばりついた赤い液体だろう。
彼らは何も間違ってない。予想通りだ。
いや、常識に囚われてイタズラ用の血糊か何かと勘違いしてる人もいるかもしれないから、予想通りと決めつけるのはよくないか。訂正だ。本物と判断した人は何も間違ってない。
にしてもこれ、どっちのだっけ?
手のやつは作子だろうな。あいつ、しつこいぐらいに手握ってきやがった。
顔のは……両方か。お姉ちゃんとも、作子とも、どっちともしたからな。唇にしても、お姉ちゃん全然嫌がらなかった。いや、抵抗する力さえ残ってなかっただけか。今となっては確かめようも無い。作子は恥ずかしがってたか。でもどうしてだろう。動かなくなるまで、僕のことをずっと離さなかった。嫌じゃなかったって、ことなのかな?
あはは……。こういう話、十二乗が聞いたら気持ち悪いって言ってくれたんだろうな。心底気持ち悪そうな声で、蔑んだ目つきで。
懐かしい。去年だったらいつでも見られた光景なのに、いつの間にか2度と見られない代物になってしまった。
先輩、ディファレ、十二乗、平方さん、作子。彼女たちはもういないんだ。
どうして、どうしてこんなことになってしまった。
僕には力があった。どれだけ取り返しのつかない状況だろうと、負った傷を全て埋めてハッピーエンドにできる力が、そんな力が確かにあった。だから僕は残った。皆が全てを投げ打って、僕をどうにか助けてくれた。
どこで間違えた? 少なくともある時点まではこうなるとは決まっていなかった筈だ。どこからなら修正できた?
脳みそを動かそうにもままならず、ただどこかにいる筈の蝉の鳴き声だけが頭の中を埋め尽くしていく。視界はぐにゃぐにゃと歪み、自分が真っ直ぐ歩いているのかすら分からなくなってきた。
真上から照りつける太陽が僕を毎秒毎秒すり減らす。息をするも、喉が渇く。乾きすぎてもはや痛い。
ザッと鳴る。足元には砂。ここは確か運動場。ああ、学校か。
足を一歩踏み出すと、僕は教室にいた。机が、椅子が、とにかく邪魔だ。
掻き分けて、また歩く。目的なんて無い。自分が何をしたいかなんて、そんなの知らない。
何十何百という机と椅子を退かしてひたすら前へ進んだ。起きているだけで意識不明も同然になっていたその時――僕の手を、誰かが引っ張った。
誰?
振り返る。
黒い髪。鋭い目つき。無愛想な無表情。
ああ、君か。
僕に何か用? 三角さん。
強く握られた手は離されない。正直言うとちょっと痛い。
三角さんは何も言わず、ただ僕の目をじっと見つめていた。目は口ほどに物を言う。何も言わずとも、伝えられる。そう信じて疑わない目だ。
分かってる。言いたいこと、全部分かってるよ。
さあ来い三角ていり。君の友達の、そして恋人の仇はここにいる。
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