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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族と少女の覚醒16
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「おーやってんねー」
キナに連れて来られた廃墟にて、縦軸は作子が懐から取り出したタブレットを彼女の隣に座って覗き込んでいた。互いの肩が触れ合っている。
タブレットの画面にはリリィの仲間や家族が作子の仲間と思わしき人物たちと戦っている様が映し出されている。どうやって撮影しているのかや、そもそも電波など飛んでいる訳が無いこの世界でどうやって現代の通信技術を利用しているのかは縦軸にはよく分からなかったが、作子曰く「何とかなった」とのことだった。
「どこも案外接戦になりそうだよ」
作子は縦軸の方を振り向いた。険しい表情で画面を眺めている。
「よかったじゃん。あんたがリリィを魔力切れで気絶させたからってこいつらの死に直結することは無さそうだよ」
「うるさい。それにまだ油断はできないし」
彼らの様子を見てみようと提案したのはキナだった。作子が言うように縦軸の行動がリリィの仲間と家族に及ぼした影響はそこまで大きなものではないと証明したかったとのことだ。事実彼らの戦いの様子を見ているうち、縦軸には彼らの死の可能性が思っていたより低いのではないかという気持ちも生まれ始めていた。
一方先程まで殺人の計画を当たり前のように話していた作子はスポーツの観戦でもするかのようにはしゃいでいた。彼女に振り回されることに慣れた縦軸でも流石に理解し難い事態だ。
「ていうかお前はどっちの応援してんだよ」
「私は愛とあんたとあんたの友達のことを第一に考えてるよ。親友として、それに先生として当然じゃん」
それがどうしてリリィの仲間や家族を殺す計画に繋がるのか。縦軸は問いただしたい気持ちに駆られたが、どうせはぐらかされて無駄に終わるだけだと諦めることにした。
「ところで『油断できない』ってどういうこと?」
「……」
「いいじゃん教えてくれても。どうせ今から伝える手段なんて無いんだから」
「そうね。あなたたちはウルタールのとこの子たちにも信用されてないみたいだし」
いつの間にかキナも混ざっていた。両脇から作子とキナに挟まれている上に2人ともやけに距離が近いせいで、縦軸は物理的に暑苦しいような気がしていた。
「ほらタテジク君、どうして『油断できない』って思ったの?」
「……作子だよ」
縦軸は渋々自分の考えを言葉にして発し始めた。
「作子、お前はエーレが僕に魔力を抑える道具を作ってくれたことを言い当てていた。おまけに姉さんやセシリアさんが瞬間移動の魔法を使えることもだ。この街やキナさんについて何か知ってるような発言もちらほらしていた」
作子はどこか誇らしげだ。
「つまり今戦ってる皆の手の内を全て知っていてもおかしくないということだ。対してこちらは例のスライムが不死身ってのとエルフの子供が使う武器について少し知ってるくらい。1対1という余程都合のいい奇跡が起きない限り逆転を起こしにくい状況でこの差は大きい。だから油断できないんだ」
「よく考えてるねー。内申書期待しとけよ」
「お前担任じゃないだろ」
頭を撫でようとした作子の手を縦軸は振り払った。すると作子の表情は途端に光を失い、いつもならケラケラ笑うか適当な冗談を言うというのに何も言わず俯いてしまった。
何がそんなに気に障ったのかと縦軸は首を傾げる。その隣でキナは面白いものを見たと言わんばかりに口角を吊り上げていた。声を出して笑うというよりは、ひたすらニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべているだけのようだ。
「どうした急に大人しくなって。らしくない」
「いや、何でもない。えっと、ごめん」
「何について謝ったんだよ」
「タテジク君、その辺にしてあげなさい」
キナが2人の会話に割って入った。何故かとても笑顔な上に生暖かい目つきで縦軸たちの方を見ている。
「確かにタテジク君の言った通りこのままじゃ一方的に相手の情報を握っているツクルコちゃんのお仲間が有利そうね。あのワンちゃんはちょっと分からないけど、どこか1人でも負ければ――死ねばタテジク君にとってはきっと完全敗北も同然なんでしょう」
縦軸は何も言わず頷いた。
「けど、少し話が変わりそうよ」
「……!」
縦軸の目が見開かれる。画面の向こうでそれぞれ敵と戦いを繰り広げていたコヨとカールが身を翻したからだ。
コヨはその身体能力を存分に使い、カールは風魔法で己の肉体を限界まで身軽にし、敵に背を向けてどこかへと全力で走っていた。
彼らは一体どこに向かっているのか。その答えはすぐに明らかになった。
「合流した……?」
縦軸の言葉にキナも無言で同意した。タブレットの画面は3つに分かれてそれぞれコヨ、カール、セシリアとゴードンを映し出していた。だがそれぞれの画面に映し出される景色はやがて同じ場所をただ異なる視点で映した見せているだけのものと化していた。3人と1匹が1ヶ所に集まったということだ。
「エーレちゃんは地縛霊だからあの家から遠く離れることは単独ではできない。だけど生きてる人間に取り憑けば話は別よ。あれはセシリアに見えるけど中身はエーレちゃんね」
キナが得意げに解説を始めた。
「きっとエーレちゃんが魔法を使って戦い始めたおかげね。魔力を辿って合流できた。これで複数のタイマンから複数対複数に戦況が変わったわ」
「でもこちらの手の内を知られているのは変わらないんじゃ」
「確かにね。けど今ならあなたのお友達にだって有利な点があるのよ」
「師匠……ではなく先生ですね」
「うん」
「カール、無事だったか」
「ゴードンさんこそ。いえ、俺が心配するまでもありませんね」
「当たり前だ」
自分を襲ったドワーフの男クロイ=ヌハルに仲間がいることをカールは知っていた。そして自分を含めリリィの仲間を分断させて皆殺しにする計画が実行されていることも分かっていた。
自分が勝とうと残りの仲間が1人でも死んでは意味が無い。だからこそ合流できたことはとても都合がよかった。
「イデシメは?」
「どこかへ、出かけた」
「すまん。俺たちは見てない」
敵も既に目の前に集結していたが、彼らがイデシメと遭遇していないのは確かだった。おそらく無事だろう。
「まさか逃げるとはな」
「あーもうさっさと仕留めてろよクロイ=ヌハル! ロウソクも! 魔術師の女を何とかするのがお前の役目だろ!」
「失敗した。先手を打たれて反撃に転じる隙が無かったことが原因だ」
人間1、エルフ1、ドワーフ1、スライム1。どうやら素で追いついた訳ではなくどこかで誰かが空間魔法を使ったらしい。だがその使い手が今どこにいるのか彼らは知らない。
若干の不安がありつつも、カールは彼らから先に倒すことにした。
「先生、ゴードンさん、力を合わせて奴らを倒しましょう」
「分かった」
「まかせろ!」
「コヨ、行くぞ」
「アウ!」
戦闘が再開された。
一方その頃縦軸の目の前では、タブレットの画面に向かって怒り狂っている人物が1人いた。
「はあ? 何やってんのこいつら。折角バラバラになったところ狙ったのにこれじゃ想定と違いすぎるだろうが!」
「作子……? え、作子?」
「あーもうこれオレが出るしか無いのか? めんどくせー! エーレの奴絶対気づくだろ」
縦軸はとてつもない違和感を覚えた。
「なんか……違う」
「その子も転生者なんでしょ。あなたと同じ異世界から地球への」
「作子が? てことは今出てるお前は」
「そうだよ別人格。作子の前世だ。文句あっか!」
作子の体を借りるそいつは苛立ちを露わにするかのように頭を掻きむしっていた。確かに作子もイライラしている時にそのような仕草をしない訳ではないが、縦軸には別人のそれにしか見えなかった。16年間彼女を見てきたからこその結果だろう。尤も7歳の頃までしか一緒にいなかった姉の愛も作子と同等かそれ以上の精度で本人か否かを見分ける自信があるが。
作子の前世を名乗る人物に縦軸が困惑する一方、キナは先程までとは明らかに違う冷たい瞳でその人物を静かに捉えていた。
「私はそいつと初めましてだけど、正体はよーく知ってるわ」
「え、キナさんこいつ知ってるんですか?」
「ええ。そいつは」
「あーいいよいいよ。自己紹介くらい自分でやるから」
その人物は大袈裟に頭を下げて名乗った。
「オレの名前はノヴァ。作子の前世でありエーレの夫です」
「『元』夫ね」
キナに連れて来られた廃墟にて、縦軸は作子が懐から取り出したタブレットを彼女の隣に座って覗き込んでいた。互いの肩が触れ合っている。
タブレットの画面にはリリィの仲間や家族が作子の仲間と思わしき人物たちと戦っている様が映し出されている。どうやって撮影しているのかや、そもそも電波など飛んでいる訳が無いこの世界でどうやって現代の通信技術を利用しているのかは縦軸にはよく分からなかったが、作子曰く「何とかなった」とのことだった。
「どこも案外接戦になりそうだよ」
作子は縦軸の方を振り向いた。険しい表情で画面を眺めている。
「よかったじゃん。あんたがリリィを魔力切れで気絶させたからってこいつらの死に直結することは無さそうだよ」
「うるさい。それにまだ油断はできないし」
彼らの様子を見てみようと提案したのはキナだった。作子が言うように縦軸の行動がリリィの仲間と家族に及ぼした影響はそこまで大きなものではないと証明したかったとのことだ。事実彼らの戦いの様子を見ているうち、縦軸には彼らの死の可能性が思っていたより低いのではないかという気持ちも生まれ始めていた。
一方先程まで殺人の計画を当たり前のように話していた作子はスポーツの観戦でもするかのようにはしゃいでいた。彼女に振り回されることに慣れた縦軸でも流石に理解し難い事態だ。
「ていうかお前はどっちの応援してんだよ」
「私は愛とあんたとあんたの友達のことを第一に考えてるよ。親友として、それに先生として当然じゃん」
それがどうしてリリィの仲間や家族を殺す計画に繋がるのか。縦軸は問いただしたい気持ちに駆られたが、どうせはぐらかされて無駄に終わるだけだと諦めることにした。
「ところで『油断できない』ってどういうこと?」
「……」
「いいじゃん教えてくれても。どうせ今から伝える手段なんて無いんだから」
「そうね。あなたたちはウルタールのとこの子たちにも信用されてないみたいだし」
いつの間にかキナも混ざっていた。両脇から作子とキナに挟まれている上に2人ともやけに距離が近いせいで、縦軸は物理的に暑苦しいような気がしていた。
「ほらタテジク君、どうして『油断できない』って思ったの?」
「……作子だよ」
縦軸は渋々自分の考えを言葉にして発し始めた。
「作子、お前はエーレが僕に魔力を抑える道具を作ってくれたことを言い当てていた。おまけに姉さんやセシリアさんが瞬間移動の魔法を使えることもだ。この街やキナさんについて何か知ってるような発言もちらほらしていた」
作子はどこか誇らしげだ。
「つまり今戦ってる皆の手の内を全て知っていてもおかしくないということだ。対してこちらは例のスライムが不死身ってのとエルフの子供が使う武器について少し知ってるくらい。1対1という余程都合のいい奇跡が起きない限り逆転を起こしにくい状況でこの差は大きい。だから油断できないんだ」
「よく考えてるねー。内申書期待しとけよ」
「お前担任じゃないだろ」
頭を撫でようとした作子の手を縦軸は振り払った。すると作子の表情は途端に光を失い、いつもならケラケラ笑うか適当な冗談を言うというのに何も言わず俯いてしまった。
何がそんなに気に障ったのかと縦軸は首を傾げる。その隣でキナは面白いものを見たと言わんばかりに口角を吊り上げていた。声を出して笑うというよりは、ひたすらニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべているだけのようだ。
「どうした急に大人しくなって。らしくない」
「いや、何でもない。えっと、ごめん」
「何について謝ったんだよ」
「タテジク君、その辺にしてあげなさい」
キナが2人の会話に割って入った。何故かとても笑顔な上に生暖かい目つきで縦軸たちの方を見ている。
「確かにタテジク君の言った通りこのままじゃ一方的に相手の情報を握っているツクルコちゃんのお仲間が有利そうね。あのワンちゃんはちょっと分からないけど、どこか1人でも負ければ――死ねばタテジク君にとってはきっと完全敗北も同然なんでしょう」
縦軸は何も言わず頷いた。
「けど、少し話が変わりそうよ」
「……!」
縦軸の目が見開かれる。画面の向こうでそれぞれ敵と戦いを繰り広げていたコヨとカールが身を翻したからだ。
コヨはその身体能力を存分に使い、カールは風魔法で己の肉体を限界まで身軽にし、敵に背を向けてどこかへと全力で走っていた。
彼らは一体どこに向かっているのか。その答えはすぐに明らかになった。
「合流した……?」
縦軸の言葉にキナも無言で同意した。タブレットの画面は3つに分かれてそれぞれコヨ、カール、セシリアとゴードンを映し出していた。だがそれぞれの画面に映し出される景色はやがて同じ場所をただ異なる視点で映した見せているだけのものと化していた。3人と1匹が1ヶ所に集まったということだ。
「エーレちゃんは地縛霊だからあの家から遠く離れることは単独ではできない。だけど生きてる人間に取り憑けば話は別よ。あれはセシリアに見えるけど中身はエーレちゃんね」
キナが得意げに解説を始めた。
「きっとエーレちゃんが魔法を使って戦い始めたおかげね。魔力を辿って合流できた。これで複数のタイマンから複数対複数に戦況が変わったわ」
「でもこちらの手の内を知られているのは変わらないんじゃ」
「確かにね。けど今ならあなたのお友達にだって有利な点があるのよ」
「師匠……ではなく先生ですね」
「うん」
「カール、無事だったか」
「ゴードンさんこそ。いえ、俺が心配するまでもありませんね」
「当たり前だ」
自分を襲ったドワーフの男クロイ=ヌハルに仲間がいることをカールは知っていた。そして自分を含めリリィの仲間を分断させて皆殺しにする計画が実行されていることも分かっていた。
自分が勝とうと残りの仲間が1人でも死んでは意味が無い。だからこそ合流できたことはとても都合がよかった。
「イデシメは?」
「どこかへ、出かけた」
「すまん。俺たちは見てない」
敵も既に目の前に集結していたが、彼らがイデシメと遭遇していないのは確かだった。おそらく無事だろう。
「まさか逃げるとはな」
「あーもうさっさと仕留めてろよクロイ=ヌハル! ロウソクも! 魔術師の女を何とかするのがお前の役目だろ!」
「失敗した。先手を打たれて反撃に転じる隙が無かったことが原因だ」
人間1、エルフ1、ドワーフ1、スライム1。どうやら素で追いついた訳ではなくどこかで誰かが空間魔法を使ったらしい。だがその使い手が今どこにいるのか彼らは知らない。
若干の不安がありつつも、カールは彼らから先に倒すことにした。
「先生、ゴードンさん、力を合わせて奴らを倒しましょう」
「分かった」
「まかせろ!」
「コヨ、行くぞ」
「アウ!」
戦闘が再開された。
一方その頃縦軸の目の前では、タブレットの画面に向かって怒り狂っている人物が1人いた。
「はあ? 何やってんのこいつら。折角バラバラになったところ狙ったのにこれじゃ想定と違いすぎるだろうが!」
「作子……? え、作子?」
「あーもうこれオレが出るしか無いのか? めんどくせー! エーレの奴絶対気づくだろ」
縦軸はとてつもない違和感を覚えた。
「なんか……違う」
「その子も転生者なんでしょ。あなたと同じ異世界から地球への」
「作子が? てことは今出てるお前は」
「そうだよ別人格。作子の前世だ。文句あっか!」
作子の体を借りるそいつは苛立ちを露わにするかのように頭を掻きむしっていた。確かに作子もイライラしている時にそのような仕草をしない訳ではないが、縦軸には別人のそれにしか見えなかった。16年間彼女を見てきたからこその結果だろう。尤も7歳の頃までしか一緒にいなかった姉の愛も作子と同等かそれ以上の精度で本人か否かを見分ける自信があるが。
作子の前世を名乗る人物に縦軸が困惑する一方、キナは先程までとは明らかに違う冷たい瞳でその人物を静かに捉えていた。
「私はそいつと初めましてだけど、正体はよーく知ってるわ」
「え、キナさんこいつ知ってるんですか?」
「ええ。そいつは」
「あーいいよいいよ。自己紹介くらい自分でやるから」
その人物は大袈裟に頭を下げて名乗った。
「オレの名前はノヴァ。作子の前世でありエーレの夫です」
「『元』夫ね」
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