転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

観測少女の修学旅行8

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「言われた通りにしましたよ」

 成自身は微に連絡するつもりではなかった。彼女らにどこで何をしているのかを知られたくなかったからだ。しかし目の前の人物に注意されてしまったため、仕方なく後で集合する旨を微に伝えることにした。それぐらい成にとっては大事だったのだ。目の前の人物が。

「では改めまして。カンナさんのお母様で間違いありませんね?」
「ええ、私がカンナの母です」

 微が出会った少女を探しているまさにその人が。
 昼になるよりも前に発見できたのは、ていりが『助け』を寄越してくれたからに他ならなかった。まさか自分に同行するような危険な真似はしないだろうと成は考えていたが、どうやら彼女が乗ったのより1本遅い電車でこっそり十彩町に来ていたらしい。そして成たち鳩高の面々と鉢合わせないように潜伏しつつ、成が単独になったのを見計らって合流したのだという。
 後は成が彼女に接触し自分がカンナの知り合いだと明かすだけだった。幸い声をかけてきたのが女子高生こどもだったために誘拐犯の類と警戒するような事は無く、現在2人はたまたま近くにあったファミレスの一席に腰を下ろしていた。

「この度は本当に、娘がご迷惑をおかけしたようで」
「いえ。先輩も先生も楽しそうなので別に構いません」

 バスの中で生徒会と(賢い方の)微の雰囲気が険悪なものになっているなど成は知る由もなかった。彼女にカンナの母へ会いに行くよう命じた人物ならば予測できたかもしれないが、生憎成は本来どこにでもいる平凡な女子高生だった。

「怪我をした様子もありませんでしたし、本人も頃合いを見て帰ると言っています。今はうちの先生が面倒を見ていると思いますよ。あの人子どもの世話は慣れてるでしょうし」
「そうですか。それは安心です」

 最後の一言は安心させるための口実だったが、成も嘘とは思っていなかった。いざという時の作子が面倒見のいい人物という事は縦軸から聞いて知っている。主に彼の両親が出張している間作子の家に泊まることになったものの風邪を引いてしまい作子がつきっきりで看病してくれたという話のおかげで。

「しかしどうしてわざわざ生徒のあなたがここへ? 先生ではなく」
「そういう学校なんです。やっぱり変わってますよね」

 鳩乃杜高校は偏差値が少し高いだけの極めて平凡な公立校である。

「ちなみに居場所を突き止めたのもウチの生徒です。たまたまこの町に詳しい人がいたんですよ」

 全て事実だ。カンナの母の居場所を突き止めた生徒と十彩町に詳しい人物が同じとは言っていないが。

「そ、そうなんですね……。それはそれは」
「ところで本日はお聞きしたいことがあって来たのですが」

 ドリンクバーで汲んできたオレンジジュースを一口飲み、成は言い放った。

「お宅にいらっしゃるの、カンナさんとあなただけですか?」
「……ッ!」
「ん?」

 カンナの母の様子が変わった。目はかっと見開かれ、口は何を言うでもなくぱくぱくと動き、そこをさっきまでよりも忙しく空気が出入りしている。おまけに暖房の効いた屋内とはいえ流石に不自然な程の汗が吹き出し、手もアルコールを切らしたかのようにかくかくと震えていた。
 それを見て成がほくそ笑む。

「随分分かりやすい反応ですね。そこまで露骨に動揺されると、こちらとしても何か不都合な事実に触れられそうなんだなと解釈せざるを得ないのですが」
「なな、何をおっしゃってるの?」
「いえ何も」

 オレンジジュースを飲み干し、成は席を立った。

「私もう帰りますね。それでは」

 自身の分の支払いを机に置き、カンナの母へと一礼をし、成はファミレスを後にした。1人残されたカンナの母はまるで成が立ち去ったことにすら気づいていないかのように荒い呼吸を続けていた。



 十彩町からバスで1時間足らずの場所に水族館がある。そこのすぐ近くには海があり、県の有名な偉人の像が立っている。全国ネットの番組が取材に来た時などによく映される場所として地元住民の間では有名な観光名所だ。「海の生物と生態系に関する学習」という名目で微たちはこの場所へとやって来ていた。

「んーっ、とうちゃーく! あれ、みんなどうしたの?」
「いや、気にすんな」
「うん。気にしないで」
「同じく」

 賢い方ではない。普段の微だ。本人はしばらく寝ていたつもりらしい。朝食を食べている間ずっと寝ぼけていてバスの中で眠ってしまったと対たちから説明されている。

「ははぁん、さてはみんなも眠かったな? 生徒会って忙しそうだもんね」
「そうだな。もうそれでいいよ」

 生徒会副会長という立場上、対は日頃から誰にも文句を言われない身だしなみをしていた。しかし今の彼女は髪も服装も乱し、目は赤く腫れていた。
 バスの中で対は賢い方の微に突き飛ばされた。結局その後喧嘩沙汰になることは無かったものの、賢い方が挨拶を済ませたので自分は引っ込むといって眠りについた後、生徒会の間で流れていた空気はとても褒められたものではなかった。目覚めた微が普段の人格で一連の出来事を覚えていなさそうだと察した弦が咄嗟に嘘をつき対たちが半ば反射で彼の話に合わせたことでその場を凌いだが、彼らの様子が普段通りではないと微も認識していた。その結果が今の発言なのだが。

「私だって部長やってるからね。これぐらい察してしまうのだ!」
「あはは、流石は微ですね」
「ふっふっふ、もっと褒めたまえ。そしてみんなで褒め合いっこしたまえ」
「後半唐突じゃないかい?」

 弦も記も無理をして明るく振る舞っていることに変わりは無かった。〈天文台〉が覚醒するまでは微の『妄言』をやめさせて『現実』を見せようとしていた彼らだったが、今まさに現実を微に知られないようにしていたといえる。

「おーい、さっさと行くぞ水族館」
「じゃあ手繋ご。寝ぼけたままだと転んじゃうから」
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