転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生少女のお手伝い2

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 リムノさんに連れられ着いたのはどこにでもある平凡な大きさのお店でした。店の名前はトレントの葉。薬草を茂らせる木の魔物が名前の由来みたいです。

「ごめんくださーい、冒険者の者です。依頼を受けて参りました」
「おお、あんたたちが。いやぁ助かったよ。後ろの子たちもかい?」

 小太りの若い男性が出てきました。おそらく依頼主の店主でしょう。店の中からは薬草の独特の香りが満ちてます。人によっては嫌いかもしれませんが私は好きですね。落ち着きます。

「初めまして、解の約束という名でパーティーをやっています。私はリーダーのリムノ、後ろの子たちはリリィ、カール、イデシメと彼女の使い魔のコヨです」

 本当はペット――むしろ友達みたいなものですけどね。

「そうかいそうかい。俺はこの店の店主をやってるホーラスだ。にしても後ろのわんこは随分でかくて強そうだな。そいつが番犬やってくれりゃ泥棒の心配は無さそうだ」
「あ、ありがとうございます」

 気さくな人ですね。髪の色が吸血鬼に似てるイデシメさんとフェンリルのコヨ君をこんなに怖がらないとは。尤もギルドや学園では既に動物好きの方や獣使いテイマー志望の方から高い人気を得てましたが。

「さあさあ、どうぞ入ってくれ。詳しい説明しよう」



 ホーラスさんによると、王都から1週間ほどの所にある地元に帰るらしくその間の店番をして欲しいそうです。私たちの仕事は基本的な接客と品出しくらい。調薬担当の従業員さんは他にいらっしゃるので、もしも品切れになった物があればその方の指示で材料を買ってきて欲しいとのことでした。

「ちなみにどうして里帰りするんですか?」
「妹がついに結婚するんだよ。だから俺も結婚式に出席するんだ。その用事が終わったら帰ってくるよ」

 なるほど。何処かで聞いたことがある話ですね。

「リリィちゃん、気持ちは分かるけど安心して。今〈立体座標ジ・エンド〉で確認したけど、ホーラスさんの故郷までには盗賊の縄張りも激流も存在しないわ」

 リムノさんに耳打ちで突っ込まれました。流石は先輩転生者。他の方には通じないネタを的確に押さえてきます。

「俺1人でも客は捌けてたから、誰か1人2人いれば大丈夫だと思うぞ。その間に他の人はクエスト行ってくれても構わねえから」
「そうですか。分かりました」

 リムノさんは個人ではAランクですからね。2週間以上ただの店番をさせるのはちょっと勿体ないってものです。

「それじゃあ俺はそろそろ行くとするか。後は頼んだよー!」

 荷物を背負ったホーラスさんは店を後にし、私たちのお留守番がスタートしました。



 店番をし始めて3日目。トレントの葉はそれなりに繁盛しているらしく、お客さんはかなりやって来ます。
 ホーラスさんの言った通り、店は2人もいれば回せましたがリムノさん以外は他のクエストを受けに行きませんでした。流石に1人でクエスト1件こなすというのはハードルが高かったので。

 ただ1つ気になったのは、私たちがここに来た翌日からお客さんの数が徐々に増えていったことでした。どうやら「好きなだけ撫でさせてくれる番犬と2人の可愛い看板娘がいる」との噂が広まったそうです。〈交渉〉でうんと値引いた薬草を買ってきたカール君が教えてくれました。
 悪い気はしませんね。看板娘だなんて言われるとは。少し恥ずかしい気もしますが。

「ありがとうございました!」
「おう、また来るぜ」

 今のお客さんで一旦客足が落ち着きました。

「リリィちゃんお疲れ様」
「いえいえ。イデシメさんの方こそ」
「ただいまー。足りねえ分の薬草買ってきたぞ」

 カール君も帰ってきたところで一旦休憩することにしました。カール君が買ってきた薬草を薬師の方に渡し、3人揃ったところでランチタイムのスタートです。メニューは〈無限格納エイトボックス〉から取り出したサンドイッチ。私のスキルでしまっておけば腐る心配が無くて助かります。勿論食べかすは落としてませんよ?

「もぐもぐ……そういえばリムノさんは今どうしているんでしょう」
「南の方でチュパカブラの巣が見つかったき討伐に行っちゅうがやと」
「相変わらずのソロプレイみたいだな」

 流石はAランク、忙しそうです。

「それに対しこちらは平和ですよねぇ」
「うん。この調子やったら何も起こらずに終わりそうちや」
「イデシメさん、そういう発言は……!」

 カタカナ3文字の何かが立ってしまいます。フで始まってグで終わって間にラが入るフラグが立ちます。私がこうしてツッコんでいるまさにこの瞬間――

「……」
「……」

 何も起きませんね。ふぅ、取り越し苦労でしたか。そりゃそうですよね。フラグが立つと言ったってそう簡単には……

 バン!

 突然勢いよくドアが開けられました。入ってきたのは死にかけの男性です。

「た、す、け……」

 そこまで言葉を紡いで男は倒れました。暖かな春の日に、その体は氷漬けにでもなったかの如く真っ青でした。
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