転生遺族の循環論法

はたたがみ

文字の大きさ
上 下
86 / 150
第1章 民間伝承研究部編

転生少女のお手伝い1

しおりを挟む
 研修の時にも来ましたけど、やっぱりギルドは冒険者の方々でごった返しています。

 今日は私たち「解の約束」の初クエストです!ん、解の約束とは何ぞや、ですか?私たちのパーティー名に決まってます。どうやらこうして名前をつけるのが慣習らしいので。
 名前の由来は……ううむ、名付け親じぶんでもよく分かりません。かっこいいからってリムノさんとエーレさんが大絶賛したせいで即決定しちゃいましたけど。

 まあそんなこんなで私たちは冒険者ギルドに来ています。コヨ君は入れない訳ではないのですが、視線を集め過ぎちゃうのでイデシメさんと外で待機してもらってます。近所の子供たちや女性にモフられて楽しそうだとか。

「初めての依頼、緊張します」
「何言ってんだ。研修の時と大して変わんねえだろ」
「それはそうですけど!」

 カール君余裕過ぎませんか。明らかにちょっとワルな人の笑顔ですよ。そういえば学園でも成績優秀なくせに〈交渉〉でイタズラしてましたし。何処ぞの魔法使いのパパみたいないじめではなかったですけど。

「リリィ、てめえはもう少し肩の力抜け。確かにキナみたいなのにもう出会わないとは言わねえけど、俺たちなら大抵の依頼はこなせると思うぜ」

 カール君に言われると説得力がありますね。

「ふっふっふ。随分脳筋思考なルーキーたちね」

 リムノさん、優しい微笑みなのに闇がすごいです。

「それじゃあそんなあなたたちにはちょっと趣向を変えたクエストをこなしてもらおうかしら」

 そう言ってリムノさんはクエストボードに進んで行きました。私たちもそんな彼女について行こうとしたのですが、ボードの近くは冒険者の皆さんでごった返しています。通勤ラッシュ時の電車ぐらいには。

「ぐふぉっ、と、通れないです!」
「おいリリィ、大丈夫か!」
「その声はカール君ですか?リ、リムノさんは……」
「周りの冒険者が恐れ慄いてスペースを開けてもらってる」

 格差ァカーストォ!どんだけリムノさん一目置かれてるんですか。もしかしてこの人混み、あなたを一目見たくて集まった人で悪化してるんじゃないんですか?

 私たちがもみくちゃにされている間にリムノさんはぱぱっと手続きを済ませてしまいました。



「はぁ、はぁ、ひ、酷い目に遭いました」
「こいつは……師匠と先生の特訓並みだぜ」
「ふ、2人とも大丈夫かえ?」
「クゥン」

 ギルドを出た私たち(主に私とカール君)はそれはもうぐったりしてました。ちなみにカール君の言う師匠は母さん、先生はエーレさんのことです。普段は友達みたく気軽に接して欲しがりますが、魔法の特訓では目の色が変わりますからね。

「安心して。慣れの問題だから。それではクエストを発表します!」

 厳格な面持ちで言い放つリムノさん。私たちが緊張に包まれる中、手をぱんと叩き、母親みたいなニコニコ笑顔で宣言しました。

「とある薬屋の店主がしばらく出かけるから店番をしてちょうだい」

 ……あれ、拍子抜けですね。てっきりまた研修のときみたくハードな戦闘任務かと。

「冒険者と傭兵は違うわ。私たちは便利屋みたいな一面があるし、どのみち解の約束はまだEランク。このクエスト自体はFランク相当だけど色んな経験を積まなくちゃ」

 なるほど。新人たる者、強い魔物と戦うばかりではただの戦闘狂になりかねませんからね。

「まあ確かに。一理あるな。俺だったら〈交渉〉あるから接客も問題無いだろうし」
「カール君、ぼったくったらいかんで?」
「やらねえよ。つーかそんな言葉どこで覚えたんだ」
「学園でクラスの人らぁが話しよった」
「あんにゃろうども」

 まるでイデシメさんの保護者みたいですね。お父さん……いや、お兄さんですか。

「依頼主のお店はこっちよ。やろうと思えばリリィちゃんの転移テレポートで一瞬だろうけど、やっぱり道ぐらい覚えとかないと」
「ですね。早速行きましょう!」
「おー!」

 私は意気揚々と依頼主さんの元へ向かい始めたのでした。



「なあ、あの2人やけに仲良くねえか?」
「やね。引越しの日から距離が近くなっちゅう気がする」
「最近じゃ俺たちがいねえ時によく話してるってエーレも言ってたし」
「もしかして嫉きゆう?」
「いや、そうじゃねえけど。何かこう2人だけの世界作られてるっつーか、俺たちには無いもの共有してるみたいっつーか」
「よく分からん。ね、コヨ」
「アウ!」

「2人ともー!早く行きましょう!」
「わーってるよ!今行くっての!」

 イデシメさんとカール君は何やら話していたようですが、特に気にはなりませんでした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...