転生遺族の循環論法

はたたがみ

文字の大きさ
上 下
73 / 145
第1章 民間伝承研究部編

転生少女の新生活3

しおりを挟む
「エーレさんはえっと、学園を創った方なんですよね?」
「あ、こいつは親しい相手でも敬語だから気にしないでくれ」

 カール君順応早いですね。本人にお願いされたとはいえもうタメ口ですか。

「うん。魔物狩るためって、言えば、教育の、口実、平民でも、作れた」

 え?てことは元々は教育が目的で冒険者の育成ってのは後付けみたいなものだったんですか?何でそんなに高い志を持てたのでしょうか。

「昔は、識字率はこんなに、高くなかった。今、よくなってる。嬉しい」

 きっと前世での教育制度の普及にもこんな人の努力が貢献しているのでしょう。謎の多い方ですけど、きっといい人なのは間違い無いですね。

「荷物は、リリィの、〈無限格納エイトボックス〉だよね?部屋、案内するから、ついてきて」
「分かりました。ていうか何で私のスキルを?」
「リムノに、聞いた。勝手に、ごめん」
「いえ、お気になさらず!」

 リムノさん随分この方を信用してますね。さらに聞けばカール君たちのスキルや得意なことも把握していました。ただコヨ君の〈望月之神獣〉だけは「調べてみる」とのことでしたが。やっぱりかなり珍しいスキルなのでしょうか。

 その後家の中を一通り案内され、それぞれの部屋も決めました。この家は2階建てになっていて2階に各々の部屋がある造りです。エーレさん曰く「昔住んでた家を参考にした」とか。
 空間魔法と〈無限格納エイトボックス〉でぱぱっと荷解きと家具の配置を終えた頃、エーレさんから声をかけられました。

「リリィ、話、ある。降りて、きて」
「はい。分かりました」

 1階ではエーレさんとリムノさんが親しげに話をしていました。私に気付くと座るよう促され、エーレさんが私の分の紅茶も魔法で入れてくれました(何気に無詠唱でした)。カール君たちには買い物に出てもらったとのことです。

「それで話って?」
「リムノ」
「……リリィちゃん、あなたたちに隠してたことがあるの」
「隠してたこと?」

 リムノさんは俯きながら紅茶を少し啜ると、ため息を零しつつ私の顔を見てきました。

、転生者なの」
「……え?」

 文章を聞き取るよりも意味を理解するのにずっと時間を要しました。人ってたった1文で困惑することができたんですね。
 まずリムノさんも転生者だったことが素直にびっくりです。私以外で同じ境遇の人になんて会ったことがありませんでしたから。そして最も分からないのはということです。いつから知っていたのでしょう?どうやって?私に近づいてきたのもそれが理由?

「リムノ、リリィ、困ってる」
「ごめんなさい。順を追って話すわ」
「分かり……ました」

 リムノさんも以前は地球で暮らしていたそうです。前世の名前は積元傾子。病気のせいで若くして亡くなった後、この世界に転生していたとのことでした。
 そしてある時、自分以外にも転生者がいないかと気になり自身のスキルで探したところ私を見つけたとのことです。研修で私に声をかけてきたのもそれが理由の1つだったとか。

「あ、でもそれだけでパーティーを組んだわけじゃないわよ。あなたたちはちゃんと強いわ。尤も弱かったら研修で叩き直すつもりだったけど」
「そうだったんですか。でもどうしてエーレさんまで?」
「……そのうち、話す。今は、ごめん」

 何故か濁されました。その顔はどこか申し訳なさそうで、でも悪意は感じられませんでした。話したいけどできない。そんな顔です。

「あなたも転生者だからどうということは無いわ。ただ知って欲しかったの。私だけ知ってるのは不平等だから。話はそれだけ。もう部屋に戻って休みなさい」
「はい。分かりました」
「ねえリリィちゃん」
「はい」
「悩んだらいつでも相談して。私も、エーレも、あなたの味方だから」
「リリィ、私、頼って」
「はい」

 部屋に着いた私はそのままベッドに寝転がり、ただただ漠然と天井を眺めていました。
 考えるのは先送りにしよう。リムノさんが転生者だからって何も変わりはしない。これまで通り、私が生きたいように生きるんだ。
 そんな当たり前の結論を出す為に、何故か私は何時間も悩んでいました。ずっと何かに引っ張られているような、に呼ばれ続けているような、そんな感覚がずっとあったのです。



 リリィが去ったリビングで、リムノとエーレは話を続けていた。

「言わなくて、良かったの?」
「ええ。のことを教えたら、きっと混乱させてしまうから」
「もうしてる」
「それでもよ。今は無理に思い出させるときじゃない」
「分かった……ん?」

 エーレが何かに反応する。

「どうしたの?」
「見られた、そんな、感じ」
「ふふ、もしかしたら微かもね。あの子たち、もうここを見つけたのかしら」
「そうだと、いいね」

 すっかり冷めた紅茶を飲み干しながら、エーレは遥か遠くのその人物のことを考えていた。

「〈転生師トラックメイカー〉、か。もしかしたら、かもね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...