転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生遺族の邂逅1

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 夏休みが明け、まだ暑さがしぶとく残る8月の終わり頃。縦軸たちは民間伝承研究部略して民研の部室に集まっていた。

「ねえ三角さん……何これ?」
「どうやって作ったのよ……」

「どうってことないわ。未知の文字を翻訳する方法を調べて踏襲しただけだけよ」

「「天才かよ!」」

「2人とも息ピッタリだね」
「先輩、今ツッコむのは私たちの方じゃないわよ。ていりの所行に目を向けなさい」

 ていりが持ち込んだノートの表紙にはこう書かれていた「翻訳」と。
 その中には、縦軸たちが微の〈天文台〉で見てきた異世界の文字が文字通り翻訳されていた。

「いくつかの違う国の言語が混ざってたから、取り敢えずエウレアール王国のものだけに絞って訳したわ」
「何で国名まで分かってるのよ!」
「お姉様にかかれば当然です」

 誇らしげにそう言い張るのは縦軸とていりのクラスメイトの平方成。色々あってていりを慕うようになった少女だ。

「あんたさぁ、何でいんのよ」
「私も民研の部員ですから」
「この前入部届出してもらったよ!」

 本人曰く「お姉様の力になりたいんです」とのことだ。

「信者はできるし異世界の言語訳してくるし……あんた急にどうしたのよ」
「そうねえ、成長したのかしら。虚君のおかげかもしれないわ」

 そう言ってどこか艶かしい表情を見せるていり。怪しげな視線で縦軸を見ている。

「ちょっと虚、あんたまさか……!」
「ち、違うから!誤解だよ!」

「縦軸君、音ちゃん、どういうこと?」
「あんたは知らんでいい!」
「うぇぇん……縦軸君、音ちゃんがぁ……」
「よ、よしよし?」
「甘やかさんでいい!」

 ツッコミを全うすることは音にとっても面倒だが、すでにこの立ち位置を受け入れてしまっていた。

「はああ……とにかく良かったじゃない。これであんたのお姉さんも探しやすくなるでしょ」
「そうだね。ありがとう三角さん」
「お礼はいいわ。の分の迷惑料だと思って」
「め、迷惑だなんてそんな……」

「虚さん」

 冷たい幼女声が響く。

「お2人は恋人では無いわけですし、もう少しお姉様に対して配慮というものがあってもよろしいのではないかと」

 笑顔だ。だから恐ろしい。

「は、はい」

 何故か敬語の縦軸。ある意味察しがいい。

「と、取り敢えず早速このノートを使おうよ。先輩、お願いできますか?
 できればそのなんとか王国って場所を見たいんですけど」
「エウレアール王国よ。でも先輩の〈天文台〉って場所の指定できましたっけ?」

 ていりが疑問形で反応したところ、微は所謂ドヤ顔をして見せた。

「ふっふっふ、みんなよく聞くがいい。私はついに……〈天文台〉がレベルMAXになったのです!」

 胸を張る微。しかし胸を張ってもていりには敗北している。

「本当ですか⁉︎やったじゃないですか!」

 微のスキルはLv10まで存在する。縦軸の助力により以前レベリングを行ったが、本人はこっそりそれを続けていたのだ。

「この場でその話をしてくるということは、〈天文台〉Lv10には場所を指定する力があるということですか?」
「その通り!さすがていりちゃん!」

 微は楽しそうだ。傾子の一件を乗り越えて以来こんな調子で縦軸たちも明るくしてくれる。
 傾子を転生させた自分の選択が彼女のこの笑顔を助けられたのかもしれないと、縦軸は少し喜ばしい気分になった。

「それじゃあ先輩、お願いします」
「わかった!いっくよー、〈天文台〉!」

 途端に変わりゆく景色、展開されていく中世ヨーロッパの如き街並み。

「これにもすっかり慣れちゃったな。三角さん、ノート見せて」

 この進展を喜ぶかのように、縦軸はペラペラとていりのノートをめくりながら周囲の建物や看板に書かれた文字に目を通していく、

「これが微さんのスキル……本当にすごいですね、お姉様」
「そっか、成は初めてだったわね。安心して、じきに慣れるわ」
「あんたが下の名前でって珍しいわね。虚、なんか分かった?」

「うーん……特にこれといったことは」

 縦軸がそう答えかけたとき、微が興奮気味に縦軸たちに話しかけた。

「ねえねえみんな、あっちの建物がすっごい賑やかだよ!行ってみようよ!」
「『行ってみようよ』って、あんたのスキルで映す場所変えるだけでしょ」
「はっ!そうでした!」

 慌てて微が〈天文台〉を操作する。景色が少し移動し件の建物までやって来た。例えるなら、インターネットで各地の景色を見ることができる某サービスのそれに近い。

「円形闘技場……古代ローマのコロッセオみたいだわ。」

 ていりの表現は的を射ていた。

「随分大きな建物ね。虚、三角、そこの文字、なんて書いてるの?」

 入り口と思わきし場所に置かれた標識を見ながら音が訊ねる。
 縦軸がノートをめくり、2人は熱心に文字を解読していた。

「えっと……エウレアール……三角さん、これが国名だよね?」
「そうね。次が……冒険者」

「キター、冒険者ァ!」

 その後解読し終わった結果、「エウレアール冒険者学園卒業試験会場」と書かれていた。

「冒険者に学園があったのね……先輩、中の様子を見せてくれない?」
「任せて!」

 再び景色が移動する。そこは観客席と思われ、下を見下ろすと20代ほどの若者たちと10歳前後の子供が戦っていた。

「ちょ、あいつら何やってんのよ⁉︎まるで虐待じゃない!」
「落ち着いて十二乗さん。入り口にあった看板見たでしょ。たぶん、あれが試験よ」
「あ、あれが?」

 音とて「冒険者」という単語から何となく何をするのかは流石に予想できた。だがこれは流石に予想外だ。

「観客席にも同じくらいの子どもがいるね」
「この子たちも受験者……ですか」

 縦軸は何となく辺りを見渡す。微のスキルで得られる情報はあまりに多い。それらを少しでも取りこぼしたくないという執念が自然と体を動かしていたのだ。

 そして今、その行動は意味を持った。
 に視線を向けたまま、縦軸は無意識のうちにこう言った。

「先輩、いました」
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