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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族と自称ライバル9
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終業式の日、縦軸の隣に並びながらていりはえらく満足そうだった。相変わらず表情はさほど変わりはしないが、縦軸に密着しながら歩くその足取りはいつもより軽やかだ。
「縦軸、ありがとね」
「う、うん。十二乗も昨日のテストの出来が酷くて落ち込んでたから、ちょうどいいかなって。にしてもていりもすごいよね。2日目からの音は機嫌が良かったよ」
「うふ、ちょっと勉強教えただけなんだけどね」
当日縦軸が音を起こしに行ったところ、珍しく1人で起きられた音が縦軸へ
「ちょっと暴れてくるわ。学問という名の戦場でね!」
と言ってきたという。
「あんなに朝から機嫌がいい音は初めて見たよ。ていり、ありがとう」
「……縦軸」
何故か頬を膨らませるていり。
「十二乗さんの話ばっかりしないで。縦軸は私のものなんだから」
「ご、ごめん……」
(演技のはずなのに……この威圧感は何だ?)
「ていり、僕が悪かった。僕はていりのことが1番大事なんだ。だからさ、もっと嬉しそうなていりを見せてよ」
「た、縦軸……! うふふ、大好きだよ」
縦軸は慣れ始めていた。ただし人はそれをときに諦めとも呼ぶ。
そんな2人のもとへ音から電話がかかってきた。
「もしもし三角? 緊急事態発生だわ。今からそっちに行くから。ああ虚もいる? じゃあそいつの家に集合よ。こりゃ仲裁必要だわ」
困り果てたような、怯えたような声。あまり情報を得られないうちに電話を切られてしまったので、ていりと縦軸は困り果てた。
「十二乗さんどうしたのかしら?」
「取り敢えず、言われた通り僕の家に戻ろう」
「縦軸のおうちに……ふふ」
「いや、この前も来てたからね? ていうか今まで何回も来てるからね?」
家に着いて待つこと数分、ドアの開く音がした。
「十二乗、急に呼び出してどうしt……」
「縦軸、一体どうs……」
「た、ただいま」
「……なあ十二乗」
「何?」
「その背後霊、誰?」
音の後ろに立ち凄まじい殺意を放つ少女。その少女が声優のような声で話しかける。
「三角ていりって奴は誰?」
「私だけど」
「へえ」
スタスタとていりに歩み寄る少女。
「ねえあなた」
「何かしら?」
「……刺す」
「え?」
動きが速かった。ずっと音の背後に隠れていたゆえに見えなかった右半身。そして繰り出された右手にあったそれを目で捉え、所謂刃物ではないかと推測できたのはていり本人だけだった。
それでいて、ていりは動かなかった。
刃がていりの胴体に向かってくる。その距離は吸い込まれるように0へ向かって行き、そして
「動きが良くないわね」
知らぬ間にていりに腕を掴まれていた。
ていりはいつの間にか少女の後ろは回り込み、少女の右腕を掴みつつ左手を少女の左肩に置いて立っていた。ダンスの振り付けでも教えるかのようだ。
「なるほど、ハサミね。刃先が丸いし、これなら刺そうと思っても包丁やナイフほどは危なくないわね。まあ刺そうとしてる時点でアウトだけど」
淡々と己を分析するていりを前に、少女は動揺を露わにしていた。大きく開いた目でていりを見つめていると、その美しい声がまた彼女へ語りかけてきた。
「ねえあなた、名前は?」
「ひ、平方成」
「そう。同い年かしら。ダメよ、こんな事でも人生棒に振れるんだから。私たち相手じゃなかったら危なかったわよ」
同い年だと分かっているにも関わらず、悪戯の過ぎた幼児を諭すかのようにていりは優しく語りかけてきた。
それはあたかも自分の優位を確信しているかのようで、それでいて反論を彼女の雰囲気が許してくれなくて、成は恐怖に支配された。
「ていり、その人怖がってるから。話してあげようよ。平方さんでしたっけ?あなたもそのハサミこっちに渡してください。ほら」
影の薄い冴えない少年が手を差し出してくる。弱そうなのに、ていりとは違った意味で恐ろしい。成は抵抗は得策ではないと思い、大人しくハサミを差し出した。
「音、この人知り合い?」
邪魔な虫(仮称)は音というらしい。成が頭の中で情報を更新している間にていりがそっと解放してくれた。かといってこのまま逃げ出せる自信は無いし、逃げない目的もあるのだが。
「冗談じゃ無いわよ。私の知り合いにこんなロリ声ハサミ使い暗殺者いないから」
「哲学者女体化ゲーム送ってくる友達はいるのに?」
「あいつの贈り物のセンスは私も訳わからんのよ!悪いわけじゃ無いから悪く言わないで!ほら、このビスケットだって美味しいんだから。食え、頬張れ」
「わっ、急に口に突っ込むな……美味しいな」
「ちょっと、縦軸とイチャつかないでくれない?」
「あ、あの!」
堪らず声を出す成。このていりとかいう女は苦手だ。「勝つ光景」というものが思いつかないのだ。どんな手を使っても自分では抗えない。そう思えてしまったのだ。
だからといって退くわけにはいかない。
「そこの、十二乗さんから聞きました。あなたは、その、除くんに……」
「ああ、互君の知り合い?」
事情は音から聞いていた。そして自分が3年間でそのカケラも勝ち取れなかった称号を、除の恋心をたった1秒で勝ち取ったていりに激しく嫉妬した。本当に除のことを心から想っているのは自分なのに何故この女が好かれるのだろう?そんな思いでここまで来たが、たった今別の感情が現れた。
何故こいつはこんなに嫌そうにしているのか?
除から一身に愛されながらそれを拒む。どんな人を好きになるかなんて人それぞれだと分かっていても、三角ていりを理解できなかった。
愚かだ。
「三角ていりさん」
「何かしら?」
「どうして除くんのこと話すときにそんなに嫌そうな顔するんですかもしかして除くんのこと嫌いなんですかいやいやあり得ません全く考えられません除くんのことを嫌いになれるだなんて挙げ句の果てに除くんに告白されて断るなんてあなたは彼の魅力が分かっていないんですかそうですねきっとそうですだってそれが分かってたら好きになるに決まってますから知ってますか除くんってすごく優しいんですよ私も除くんと初めて出会った時に彼に助けてもらってそれで好きになったんですそういえば今日も帰り道で人助けしてましたよね何で知ってるかですかずっと追いかけてたからに決まってるじゃないですか十二乗さんが除くんの後を尾行してるの見つけた時はびっくりしましたけどご友人を思ってのことだったんですよね安心してくださいちゃんと分かってますからそれよりも三角ていりさんあなたですよ私がこんなに除くんのことを好きなのにそんな私が報われてなくて除くんに好きって言ってもらってるあなたがそんなだから私は……」
「縦軸、ハサミ」
「待て待て待て」
「目ぐるぐるね」
また厄介事に巻き込まれたと、誰よりも音が顔に出ていた。
「縦軸、ありがとね」
「う、うん。十二乗も昨日のテストの出来が酷くて落ち込んでたから、ちょうどいいかなって。にしてもていりもすごいよね。2日目からの音は機嫌が良かったよ」
「うふ、ちょっと勉強教えただけなんだけどね」
当日縦軸が音を起こしに行ったところ、珍しく1人で起きられた音が縦軸へ
「ちょっと暴れてくるわ。学問という名の戦場でね!」
と言ってきたという。
「あんなに朝から機嫌がいい音は初めて見たよ。ていり、ありがとう」
「……縦軸」
何故か頬を膨らませるていり。
「十二乗さんの話ばっかりしないで。縦軸は私のものなんだから」
「ご、ごめん……」
(演技のはずなのに……この威圧感は何だ?)
「ていり、僕が悪かった。僕はていりのことが1番大事なんだ。だからさ、もっと嬉しそうなていりを見せてよ」
「た、縦軸……! うふふ、大好きだよ」
縦軸は慣れ始めていた。ただし人はそれをときに諦めとも呼ぶ。
そんな2人のもとへ音から電話がかかってきた。
「もしもし三角? 緊急事態発生だわ。今からそっちに行くから。ああ虚もいる? じゃあそいつの家に集合よ。こりゃ仲裁必要だわ」
困り果てたような、怯えたような声。あまり情報を得られないうちに電話を切られてしまったので、ていりと縦軸は困り果てた。
「十二乗さんどうしたのかしら?」
「取り敢えず、言われた通り僕の家に戻ろう」
「縦軸のおうちに……ふふ」
「いや、この前も来てたからね? ていうか今まで何回も来てるからね?」
家に着いて待つこと数分、ドアの開く音がした。
「十二乗、急に呼び出してどうしt……」
「縦軸、一体どうs……」
「た、ただいま」
「……なあ十二乗」
「何?」
「その背後霊、誰?」
音の後ろに立ち凄まじい殺意を放つ少女。その少女が声優のような声で話しかける。
「三角ていりって奴は誰?」
「私だけど」
「へえ」
スタスタとていりに歩み寄る少女。
「ねえあなた」
「何かしら?」
「……刺す」
「え?」
動きが速かった。ずっと音の背後に隠れていたゆえに見えなかった右半身。そして繰り出された右手にあったそれを目で捉え、所謂刃物ではないかと推測できたのはていり本人だけだった。
それでいて、ていりは動かなかった。
刃がていりの胴体に向かってくる。その距離は吸い込まれるように0へ向かって行き、そして
「動きが良くないわね」
知らぬ間にていりに腕を掴まれていた。
ていりはいつの間にか少女の後ろは回り込み、少女の右腕を掴みつつ左手を少女の左肩に置いて立っていた。ダンスの振り付けでも教えるかのようだ。
「なるほど、ハサミね。刃先が丸いし、これなら刺そうと思っても包丁やナイフほどは危なくないわね。まあ刺そうとしてる時点でアウトだけど」
淡々と己を分析するていりを前に、少女は動揺を露わにしていた。大きく開いた目でていりを見つめていると、その美しい声がまた彼女へ語りかけてきた。
「ねえあなた、名前は?」
「ひ、平方成」
「そう。同い年かしら。ダメよ、こんな事でも人生棒に振れるんだから。私たち相手じゃなかったら危なかったわよ」
同い年だと分かっているにも関わらず、悪戯の過ぎた幼児を諭すかのようにていりは優しく語りかけてきた。
それはあたかも自分の優位を確信しているかのようで、それでいて反論を彼女の雰囲気が許してくれなくて、成は恐怖に支配された。
「ていり、その人怖がってるから。話してあげようよ。平方さんでしたっけ?あなたもそのハサミこっちに渡してください。ほら」
影の薄い冴えない少年が手を差し出してくる。弱そうなのに、ていりとは違った意味で恐ろしい。成は抵抗は得策ではないと思い、大人しくハサミを差し出した。
「音、この人知り合い?」
邪魔な虫(仮称)は音というらしい。成が頭の中で情報を更新している間にていりがそっと解放してくれた。かといってこのまま逃げ出せる自信は無いし、逃げない目的もあるのだが。
「冗談じゃ無いわよ。私の知り合いにこんなロリ声ハサミ使い暗殺者いないから」
「哲学者女体化ゲーム送ってくる友達はいるのに?」
「あいつの贈り物のセンスは私も訳わからんのよ!悪いわけじゃ無いから悪く言わないで!ほら、このビスケットだって美味しいんだから。食え、頬張れ」
「わっ、急に口に突っ込むな……美味しいな」
「ちょっと、縦軸とイチャつかないでくれない?」
「あ、あの!」
堪らず声を出す成。このていりとかいう女は苦手だ。「勝つ光景」というものが思いつかないのだ。どんな手を使っても自分では抗えない。そう思えてしまったのだ。
だからといって退くわけにはいかない。
「そこの、十二乗さんから聞きました。あなたは、その、除くんに……」
「ああ、互君の知り合い?」
事情は音から聞いていた。そして自分が3年間でそのカケラも勝ち取れなかった称号を、除の恋心をたった1秒で勝ち取ったていりに激しく嫉妬した。本当に除のことを心から想っているのは自分なのに何故この女が好かれるのだろう?そんな思いでここまで来たが、たった今別の感情が現れた。
何故こいつはこんなに嫌そうにしているのか?
除から一身に愛されながらそれを拒む。どんな人を好きになるかなんて人それぞれだと分かっていても、三角ていりを理解できなかった。
愚かだ。
「三角ていりさん」
「何かしら?」
「どうして除くんのこと話すときにそんなに嫌そうな顔するんですかもしかして除くんのこと嫌いなんですかいやいやあり得ません全く考えられません除くんのことを嫌いになれるだなんて挙げ句の果てに除くんに告白されて断るなんてあなたは彼の魅力が分かっていないんですかそうですねきっとそうですだってそれが分かってたら好きになるに決まってますから知ってますか除くんってすごく優しいんですよ私も除くんと初めて出会った時に彼に助けてもらってそれで好きになったんですそういえば今日も帰り道で人助けしてましたよね何で知ってるかですかずっと追いかけてたからに決まってるじゃないですか十二乗さんが除くんの後を尾行してるの見つけた時はびっくりしましたけどご友人を思ってのことだったんですよね安心してくださいちゃんと分かってますからそれよりも三角ていりさんあなたですよ私がこんなに除くんのことを好きなのにそんな私が報われてなくて除くんに好きって言ってもらってるあなたがそんなだから私は……」
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