転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

キナとフルレイド2

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 話は1ヶ月ほど前に遡る。リリィが学園に通い始めてから、セシリアの生活にもそれなりの余裕が戻ってきた。入学式から数週間ほど経つと、あっさり復帰しゴードンと再びパーティーを結成したのだ。
 彼らはAランクだけあって王都では知らない者がほとんどいない冒険者である。リリィが知らなかったのはかなりの異例である。



 さて、そんな2人に王都のギルドを取り仕切るギルドマスターから呼び出しがあった。

「よく来てくれたな、ゴードン、セシリア」
「おお、元気そうだな。ウルタール」

 細身の身体と実年齢より上に見える老け顔。かけている眼鏡との相乗効果で知的かつ油断できないオーラを放つ人物こそ、エウレアール王都のギルドマスター、ウルタールである。

「セシリアも元気そうで何よりだ。娘さんの様子はどうだね?学園に入学したんだろ?」
「ええ、ちょっと常識が抜けてて危なっかしいけど友達もできて楽しそうよ」
「ありゃ俺たちより強くなるぞ。楽しみにしとけよ」
「それはそれは。また長生きする理由がふえてしまったよ」

 旧知の中故の他愛のない会話。しかしウルタールにはそれを早々に切り上げてでも話さなければいけないことがあった。

「さて、それじゃあ本題に移ろう。今回呼んだのは、あるクエストを受けてほしいからだ」
「それは、指名依頼ってことか?」

 Aランク、さらにその上のSランクともなると、個人が依頼主から指名されることも珍しくない。実際ゴードンたちもそのようなクエストは受けたことがある。

「いや、そういうわけでもない。Aランクで手が空いてる奴にはみんな声をかけている」
「みんなに?」

 Aランク個人に依頼するだけでもかなり深刻なクエストだ。それが集団での依頼となるとクエストの規模が察せられる。

「随分規模がデカいな。氾濫スタンピードでも起きたのか?」
「いや、そういうわけではないんだがな。君たちにとても関係がある内容、と言ったら分かるかね」
「そ、それって……!」
「3ヶ月前に確認された上位吸血鬼、通称キナの件だ」
「「……!」」

 彼女と初めて遭遇したのは、他ならぬ彼らの娘リリィだった。Aランク冒険者リムノの引率により、研修中だった彼女はシシハルの村にてクラスメイトのイデシメ、カールと共にゴブリン討伐を行なっていた。そんな中、リムノのスキル〈立体座標ジ・エンド〉によってキナの存在を察知。独断先行したリリィが彼女と鉢合わせ、リムノが駆けつけたときには全身が剣で斬られていた。

「……と、これが今まで判明していた奴の情報だ。これを受けて、我々はキナの存在を極めて危険と判断した。そこでAランク冒険者の力を結集し、確実に奴の首を取ることになったんだ」
「なるほどな。あの時は俺たちの方が死んだ気分だったぜ。思い出したくもない。にしたってウルタール、キナの討伐はそりゃ大賛成だが、何でそんなに大掛かりなことになってんだ?」
「確かに。いくらなんでもAランクパーティー1組あれば流石に勝てるんじゃ……」

 ゴードンたちが引っかかっていたのはそこだった。魔物の上位個体はこれまでも何度か確認されている。吸血鬼のように人間並みの知能の魔物のそれが確認されたのはおよそ200年ぶりだが、ゴブリンなどの雑魚では多少報告が上がっている。また、フェンリルやドラゴン全般のように存在そのものが上位の魔物も存在する。いくらなんでも王都中のAランクを掻き集めての総力戦など大袈裟すぎるのだ。

「確かに君の疑問は最もだ。そうだね……」

 ウルタールはわざとらしく眼鏡をかけ直すと、ゴードンの顔を見ながらこう言った。

「ゴードン、身体能力A、魔力量B」
「は?どうしたウルタール。お前に〈鑑定〉スキルは無かったはずだぞ。もしかして」
「ああ、そのまさかだよ」

 そう言ってウルタールは眼鏡を外してゴードンたちに見せるようにした。

「この眼鏡はこの前買った物でね。リムノ経由で娘さんに貸して、〈鑑定〉スキルを授けてもらった。にしても中々珍しいスキルじゃないか、〈能力授与プレゼント〉は」
「お前なあ……」

 リリィのスキルは、スキルを与えるスキルである。実際彼女が愛用している伊達眼鏡もウルタールの物と同じく〈鑑定〉が付与されている。

「俺の娘に物ねだるなよ。本当、図太いというか、空気を読まないというか」
「まあそう言うなよゴードン。それにこの眼鏡のスキル、中々の性能だよ。教会の儀式レベルだ。おまけに良心サービスで〈破壊不可〉と〈絶対装備〉まで付けたときたもんだ。半年分の給料を使い果たした気分だよ」
「あの子ったら、そうスキルをポンポンと……」

 静かに笑うウルタールの向かいで、ゴードンとセシリアは娘のいつものやらかしに呆れていた。家にあった有り合わせの品で王族に献上できるレベルの装備を作ったときは度肝を抜かれたものだ。

「んで、リリィのいつものやらかしが今回の件とどう繋がるんだ?」
「そこだよ。彼女の伊達眼鏡にも、これと同じ〈鑑定〉スキルが付与されているんだろ?同じ性能のがだ。それでいて彼女は
「……なるほど、そういうことね」

「ああ。彼女の話によると、キナは首に下げていたペンダントの力で〈鑑定〉を妨害したらしい。そんな魔導具は聞いたことがない」
「確かに吸血鬼の中には魔法が使える奴もいる。そんな奴が発明したかもしんねえ。だが」
「奴はこう言っていたらしい。『自分は巡る白熊の頭だ』と。それがどんな組織なのかは分からない。分かっていることは上位の吸血鬼が現れ、そいつが魔物の、下手をすれば人も含めた徒党を率いているということだ」
「……なるほど。こりゃ確かにとんでもねえ案件だな」
「魔物が組織を作るなどほとんど事例がない。あるとすれば魔王ぐらいだ。そういう点からもキナの存在は無視できない。ゴードン、セシリア、力を貸してくれ」

 いつの間にかウルタールの表情は一層険しくなっていた。
 そんな彼の言葉にゴードンとセシリアが強く頷いたのは言うまでもない。

 かくして、上位吸血鬼キナを討伐するために王都冒険者ギルドが動き出した。
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