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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族のスタート5
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「……うぅ、みんな、何か喋ろうよー!静かすぎてやだよーーー!」
微の言霊が部室に鳴り響いたその時、三角ていりは静かに思考を巡らせた。
「……私帰ります」
「ええっ⁉︎ちょっとていりちゃん!」
職員室へ向かいながら、ていりは1通のメールを打った。
『虚君のことが心配なら生徒会の皆さんに相談するのはどうですか?あの人たちなら先輩の力になってくれると思いますよ。というか、偶には彼らを頼ってあげてください。喜びますから』
あの様子だと携帯を見る余裕は無いだろうが、帰る頃には気付くだろう。彼女は自分と違って真っ直ぐである。きっと縦軸のために動いてくれるだろう。縦軸がかつて彼女や音を助けたように。
「……難しいわね」
「そういえばあなたと1対1ってのは初めてかもね。三角さん」
「急に来てしまったごめんなさい。原前先生」
ていりが訪ねてきたのは、民研の顧問であり愛や虚家と深い交流のある原前作子であった。
職員室を出て、誰も使っていない空き教室で2人は話し始めた。教室の外は夕陽が差し込み、日暮れが確実に歩み寄っていた。
「それで、私に何か話あるんでしょ?何でも言ってみ。どうせあの小僧のことだろうけど」
ていりは縦軸と音の件を作子に話した。作子は終始落ち着いた様子でその話を聞いていた。
「へえ、十二乗さんが」
「……先生は知ってたんですよね?その、」
「〈転生師〉のこと?まあね。縦軸から聞いてたから」
「信じたんですか?」
「まさか、初めは信じなかったよ。
愛が亡くなってすぐに縦軸の奴寝込んじゃってね。それで心配になって見舞いに行ったら『スキル手に入れたー!』なんて言うんだから、こりゃトチ狂ったと思ったよ。
でもね、この学校に赴任してきて微に会ったんだ。あいつ、縦軸とおんなじこと言ってきてさ。その時初めて『あ、縦軸の奴本当のこと言ってるかも』って分かったよ」
愛の死の直後というタイミングのことを、昔の思い出のように話す作子。以前彼女から愛のことを聞いた時もこんな感じだった。それが癖なのかプライドなのか、ていりには分かりかねた。
「積元先輩のこと、虚君に話さなかったのは何でですか?」
「あ~ね。まあいくつか理由はあんだけどね。まず微の、レベルっていうの?が足りなかったんでしょ?人に見せるのに。多分縦軸の役にはまだ立たないだろうなって思ってさ」
そもそも微が縦軸と出会った時点で〈天文台〉のレベルはLv2。他人にも異世界を見せられるLv5まで達していなかった。
「後はまあ、こっちが本命なんだけど、私ね、縦軸に関しては本人の好きにさせてんのよ。私からは干渉ナシ。それでやってる」
「それは、どうして?」
「だってあいつにとっちゃ深刻な問題だからね。私たちがああだこうだって口出しすんじゃなくてあいつ自身がよーく考えないといけないのよ。
まあ十二乗さんみたいなスタイルもアリかもしんないけどね。問を投げるスタイル」
要するに作子の主張は、縦軸本人に何とかさせろ、である。これは奇しくも弦のそれと一致していた。身内の死という極めてデリケートな問題に、縦軸は他に類を見ない方法で立ち向かっている。故に危ういのだ。
それが正解かどうかなど誰にも分からない。弦や作子のように当事者本人に考えさせることは最も妥当である。それが縦軸本人が後悔しないためだからだ。
しかし一方で、作子は音に感謝していた。他人が下手に口を出すことは縦軸にとって負でしかない。しかし一方で、放置し続ければ縦軸が暴走してしまう可能性がある。それがどのような形かは分からないが。
故に音の存在は大きかった。縦軸を完全にブレさせるわけでもなく、かといって的外れなどではない正しい指摘を縦軸に突き付けた。これからの縦軸にとってていりや微と同じぐらい大切な存在になっていくと、作子は確信していた。
「……つーわけで、私は音ちゃんにはかなり感謝してるのよね」
「じゃあ……私は、私には何ができるんですか」
夕陽が照らす顔を儚くさせながら、ていりは作子に縋るかのように言葉を漏らした。
「私には、積元先輩みたいな行動力も無い。十二乗さんみたいに言いたいことをすぐに言えるわけでも無い。そもそも虚君の力になるべきなのかもはっきり決められない。素直じゃない返答ばかりして、虚君を困らせてるだけの私なんて……」
「はいそこまで」
ていりの顔が下を向きだした時、作子がていりの言葉を遮った。
夕陽に照らされるというよりも、物理的にも明るくなった顔を見せながら、作子はていりに向かって語り始めた。
「ぶっちゃけ、私にもよく分かんないのよ。縦軸の奴にあなたがいる理由」
「そ、それじゃあ……」
「だけどね。過程すっ飛ばして結論は分かるんだわ。あなたは必要よ、あの坊やに」
「それは……どうしてですか?」
「だから分かんないのつってんでしょ。ただね、何となく分かるのよ。あいつにはこの先、三角ていりが必要だって。別にスキル〈未来予知〉とかじゃないわよ。ただね、何となく分かるのよ。
微に初めて会った時も、さっきあんなこと言ったけど心のどっかで『あ、こいつ縦軸と出会うな』って、そう感じさせるものが彼女にはあったのよ。それが今のあなたにもある」
あなたは絶対、縦軸にとって必要よ。
ていりの目の中の火に、熱が注がれた。今この瞬間、ていりは自分の熱効率がちょうど1になった気がした。
「別に人付き合いなんて読めないもんよ?何でそいつが必要かなんて疑問、ツッコミどころしかないわよ。ていりさん、あなたはもっと自分を誇っていい。そして、考えて考えて考えた末に自分が正しいと思ったことをやりゃあいい」
「先生……」
「さて、ベタな人生相談はここでお終い。ほらほら、帰った帰った。さっさと家帰って勉強しなさい」
「……ありがとうございました」
少し早口にも思われる感謝を発しながら、ていりは去っていった。
「ふぅ、偶には熱血教師もいいわね。にしても縦軸の奴、ていりちゃん泣かせるようなことしないといいけど」
作子は仕事に戻っていった。
微の言霊が部室に鳴り響いたその時、三角ていりは静かに思考を巡らせた。
「……私帰ります」
「ええっ⁉︎ちょっとていりちゃん!」
職員室へ向かいながら、ていりは1通のメールを打った。
『虚君のことが心配なら生徒会の皆さんに相談するのはどうですか?あの人たちなら先輩の力になってくれると思いますよ。というか、偶には彼らを頼ってあげてください。喜びますから』
あの様子だと携帯を見る余裕は無いだろうが、帰る頃には気付くだろう。彼女は自分と違って真っ直ぐである。きっと縦軸のために動いてくれるだろう。縦軸がかつて彼女や音を助けたように。
「……難しいわね」
「そういえばあなたと1対1ってのは初めてかもね。三角さん」
「急に来てしまったごめんなさい。原前先生」
ていりが訪ねてきたのは、民研の顧問であり愛や虚家と深い交流のある原前作子であった。
職員室を出て、誰も使っていない空き教室で2人は話し始めた。教室の外は夕陽が差し込み、日暮れが確実に歩み寄っていた。
「それで、私に何か話あるんでしょ?何でも言ってみ。どうせあの小僧のことだろうけど」
ていりは縦軸と音の件を作子に話した。作子は終始落ち着いた様子でその話を聞いていた。
「へえ、十二乗さんが」
「……先生は知ってたんですよね?その、」
「〈転生師〉のこと?まあね。縦軸から聞いてたから」
「信じたんですか?」
「まさか、初めは信じなかったよ。
愛が亡くなってすぐに縦軸の奴寝込んじゃってね。それで心配になって見舞いに行ったら『スキル手に入れたー!』なんて言うんだから、こりゃトチ狂ったと思ったよ。
でもね、この学校に赴任してきて微に会ったんだ。あいつ、縦軸とおんなじこと言ってきてさ。その時初めて『あ、縦軸の奴本当のこと言ってるかも』って分かったよ」
愛の死の直後というタイミングのことを、昔の思い出のように話す作子。以前彼女から愛のことを聞いた時もこんな感じだった。それが癖なのかプライドなのか、ていりには分かりかねた。
「積元先輩のこと、虚君に話さなかったのは何でですか?」
「あ~ね。まあいくつか理由はあんだけどね。まず微の、レベルっていうの?が足りなかったんでしょ?人に見せるのに。多分縦軸の役にはまだ立たないだろうなって思ってさ」
そもそも微が縦軸と出会った時点で〈天文台〉のレベルはLv2。他人にも異世界を見せられるLv5まで達していなかった。
「後はまあ、こっちが本命なんだけど、私ね、縦軸に関しては本人の好きにさせてんのよ。私からは干渉ナシ。それでやってる」
「それは、どうして?」
「だってあいつにとっちゃ深刻な問題だからね。私たちがああだこうだって口出しすんじゃなくてあいつ自身がよーく考えないといけないのよ。
まあ十二乗さんみたいなスタイルもアリかもしんないけどね。問を投げるスタイル」
要するに作子の主張は、縦軸本人に何とかさせろ、である。これは奇しくも弦のそれと一致していた。身内の死という極めてデリケートな問題に、縦軸は他に類を見ない方法で立ち向かっている。故に危ういのだ。
それが正解かどうかなど誰にも分からない。弦や作子のように当事者本人に考えさせることは最も妥当である。それが縦軸本人が後悔しないためだからだ。
しかし一方で、作子は音に感謝していた。他人が下手に口を出すことは縦軸にとって負でしかない。しかし一方で、放置し続ければ縦軸が暴走してしまう可能性がある。それがどのような形かは分からないが。
故に音の存在は大きかった。縦軸を完全にブレさせるわけでもなく、かといって的外れなどではない正しい指摘を縦軸に突き付けた。これからの縦軸にとってていりや微と同じぐらい大切な存在になっていくと、作子は確信していた。
「……つーわけで、私は音ちゃんにはかなり感謝してるのよね」
「じゃあ……私は、私には何ができるんですか」
夕陽が照らす顔を儚くさせながら、ていりは作子に縋るかのように言葉を漏らした。
「私には、積元先輩みたいな行動力も無い。十二乗さんみたいに言いたいことをすぐに言えるわけでも無い。そもそも虚君の力になるべきなのかもはっきり決められない。素直じゃない返答ばかりして、虚君を困らせてるだけの私なんて……」
「はいそこまで」
ていりの顔が下を向きだした時、作子がていりの言葉を遮った。
夕陽に照らされるというよりも、物理的にも明るくなった顔を見せながら、作子はていりに向かって語り始めた。
「ぶっちゃけ、私にもよく分かんないのよ。縦軸の奴にあなたがいる理由」
「そ、それじゃあ……」
「だけどね。過程すっ飛ばして結論は分かるんだわ。あなたは必要よ、あの坊やに」
「それは……どうしてですか?」
「だから分かんないのつってんでしょ。ただね、何となく分かるのよ。あいつにはこの先、三角ていりが必要だって。別にスキル〈未来予知〉とかじゃないわよ。ただね、何となく分かるのよ。
微に初めて会った時も、さっきあんなこと言ったけど心のどっかで『あ、こいつ縦軸と出会うな』って、そう感じさせるものが彼女にはあったのよ。それが今のあなたにもある」
あなたは絶対、縦軸にとって必要よ。
ていりの目の中の火に、熱が注がれた。今この瞬間、ていりは自分の熱効率がちょうど1になった気がした。
「別に人付き合いなんて読めないもんよ?何でそいつが必要かなんて疑問、ツッコミどころしかないわよ。ていりさん、あなたはもっと自分を誇っていい。そして、考えて考えて考えた末に自分が正しいと思ったことをやりゃあいい」
「先生……」
「さて、ベタな人生相談はここでお終い。ほらほら、帰った帰った。さっさと家帰って勉強しなさい」
「……ありがとうございました」
少し早口にも思われる感謝を発しながら、ていりは去っていった。
「ふぅ、偶には熱血教師もいいわね。にしても縦軸の奴、ていりちゃん泣かせるようなことしないといいけど」
作子は仕事に戻っていった。
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