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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族のスタート3
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音の発言をきっかけに民研が気まずい雰囲気となった日の帰り道。縦軸は文句を言った。
「何でついてくるんだよ……」
「あんたの家に住んでるからよ」
つい先ほど喧嘩したばかりの相手、音が隣に並んでいた。縦軸は対応に困っていた。
まさか音に掴みかかったことを怒っているのだろうか?彼が気まずさに耐えきれず謝るのを今か今かと待っているのだろうか?そんなことを一瞬考えた後、否定した。彼女はそういう性格ではない。彼女が謝罪を求めているならば、その場で正々堂々謝れと言ってくるだろう。
ならばこの状況は何だ?さっき喧嘩してまだ仲直りしていない相手と一緒に帰れるものなのか?
「……」
結論は出ない。いや、案外簡単なことなのかもしれない。例えば、音が図太いだけ、和解の機会を窺っている。そんな単純な理由かもしれない。そうだったら楽だと、縦軸は思った。
「なあ、ひとめぐ……」
「さっきの件」
縦軸には話させない音。
「よく考えるといいわ。私には関係ない。あんたの好きにしなさい。ああそれと、気まずいなら無理に話さなくてもいいわよ。同じ家に住んでるってだけで、なるべく関わらない過ごし方はできるから。あ、でも朝は起こして」
音の発言は我儘で、縦軸は少し呆れてしまった。しかし一方で少しホッとした。縦軸が音と対立しなくてもいいように、意見の対立(まあ音は特に縦軸を否定したわけではないが)を無理に殺さなくてもいいように、音が壁を作ってくれた。そのことが、今後の生活を憂いていた縦軸にとっては朗報だったのだ。
ただ横にいる音を意識することなく、縦軸は2人並んで帰って行った。音もやはり喋らなかった。ただ、その表情は後悔しそうでしない絶妙な場所に存在し続けていた。
夕食の時間は、いつもより静かだった。
「……」
「……」
「お、おい、お前たち、何かあったのか?」
「音ちゃん、縦軸と喧嘩でもした?」
「いえ、何でもありません」
「2人とも気にしないで」
「「あ、うん……」」
その晩、縦軸は寝られないでいた。音の言葉に悩んでいたからではない。むしろ彼女の言葉がきっかけとなり、愛のことを思い出していた。
縦軸がまだ小さかった頃、愛は縦軸のことをとても可愛がってくれた。それは特にこれといったイベントがあったからではなく、説明するまでもない日常からずっと感じられていた。
縦軸の世話で1番苦労していたのは母だろう。だが愛も愛なりに頑張っていたように思う。食事やオムツの交換などは母がやり、縦軸が泣き出した時や母が忙しくて縦軸の相手ができないときは愛が進んでやっていた。最終的には愛の方が母より泣き止ませるのが上手くなっていた。
縦軸にとって、愛という人物はいて当たり前の存在だった。生まれた時からずっとそばにいてくれて、一緒にいるといつも楽しいとか嬉しいって思える。だから愛のことを好きになったのだろう。
その思いは、今でも揺らいでいなかった。
「……会いたいな」
しかしそれは、愛を無理矢理こちらへ連れ戻さないといけないかもしれないということだ。もしかしたら向こうで幸せになっているかもしれない愛を、いじめというトラウマのあるこちらの世界にだ。
思考が何度も同じ場所を通りながら、縦軸はいつの間にか眠っていた。
翌朝、珍しく晴れていた。
縦軸は重たい体をベッドから起こし、枕元に置いてあったスマホの電源をつけた。制服に着替え部屋を出る。いつもと変わらない朝だ。だけど何故か足取りが重い。物理的な速さには影響しない範囲で。
音の部屋の前に来た。僅かな希望に縋りながらドアをノックする。反応は無い。
「はあ……」
面倒くさい。この少女はどれだけ自分を振り回すつもりなんだ。縦軸は思った。昨日はずっと抱いてきた己の野望を揺さぶり、こちらが極めて気まずくなっているのに自分の要求は叶えてもらおうとする。
いや、もしかしたらこれは彼女なりの優しさなのだろうか。自分を振り回し続けることで愛のことでむやみやたらに思い悩む時間を無くそうとしているのだろうか。
「いや、それはないな」
自分の推測を自分で否定しながら、縦軸はいつも通りのアラームを設定した携帯電話を音の部屋に投げ入れた。
少し間を置いて音が顔を出す。やや不機嫌そうな顔をしながら縦軸にスマホを返した。
「いつも助かる」
ドアを閉じる直前、音はそう言った。
彼女は一体何のつもりだろうか。縦軸はますます分からなくなった。無理に話したり関わらなくてもいいと言っておきながら、言わなくてもいい感謝らしきものを伝えてくる。こちらに嬉しいと思わせてくる。
縦軸の1日が今日も始まる。音という存在で縦軸の頭の中をかき乱しながら。
「何でついてくるんだよ……」
「あんたの家に住んでるからよ」
つい先ほど喧嘩したばかりの相手、音が隣に並んでいた。縦軸は対応に困っていた。
まさか音に掴みかかったことを怒っているのだろうか?彼が気まずさに耐えきれず謝るのを今か今かと待っているのだろうか?そんなことを一瞬考えた後、否定した。彼女はそういう性格ではない。彼女が謝罪を求めているならば、その場で正々堂々謝れと言ってくるだろう。
ならばこの状況は何だ?さっき喧嘩してまだ仲直りしていない相手と一緒に帰れるものなのか?
「……」
結論は出ない。いや、案外簡単なことなのかもしれない。例えば、音が図太いだけ、和解の機会を窺っている。そんな単純な理由かもしれない。そうだったら楽だと、縦軸は思った。
「なあ、ひとめぐ……」
「さっきの件」
縦軸には話させない音。
「よく考えるといいわ。私には関係ない。あんたの好きにしなさい。ああそれと、気まずいなら無理に話さなくてもいいわよ。同じ家に住んでるってだけで、なるべく関わらない過ごし方はできるから。あ、でも朝は起こして」
音の発言は我儘で、縦軸は少し呆れてしまった。しかし一方で少しホッとした。縦軸が音と対立しなくてもいいように、意見の対立(まあ音は特に縦軸を否定したわけではないが)を無理に殺さなくてもいいように、音が壁を作ってくれた。そのことが、今後の生活を憂いていた縦軸にとっては朗報だったのだ。
ただ横にいる音を意識することなく、縦軸は2人並んで帰って行った。音もやはり喋らなかった。ただ、その表情は後悔しそうでしない絶妙な場所に存在し続けていた。
夕食の時間は、いつもより静かだった。
「……」
「……」
「お、おい、お前たち、何かあったのか?」
「音ちゃん、縦軸と喧嘩でもした?」
「いえ、何でもありません」
「2人とも気にしないで」
「「あ、うん……」」
その晩、縦軸は寝られないでいた。音の言葉に悩んでいたからではない。むしろ彼女の言葉がきっかけとなり、愛のことを思い出していた。
縦軸がまだ小さかった頃、愛は縦軸のことをとても可愛がってくれた。それは特にこれといったイベントがあったからではなく、説明するまでもない日常からずっと感じられていた。
縦軸の世話で1番苦労していたのは母だろう。だが愛も愛なりに頑張っていたように思う。食事やオムツの交換などは母がやり、縦軸が泣き出した時や母が忙しくて縦軸の相手ができないときは愛が進んでやっていた。最終的には愛の方が母より泣き止ませるのが上手くなっていた。
縦軸にとって、愛という人物はいて当たり前の存在だった。生まれた時からずっとそばにいてくれて、一緒にいるといつも楽しいとか嬉しいって思える。だから愛のことを好きになったのだろう。
その思いは、今でも揺らいでいなかった。
「……会いたいな」
しかしそれは、愛を無理矢理こちらへ連れ戻さないといけないかもしれないということだ。もしかしたら向こうで幸せになっているかもしれない愛を、いじめというトラウマのあるこちらの世界にだ。
思考が何度も同じ場所を通りながら、縦軸はいつの間にか眠っていた。
翌朝、珍しく晴れていた。
縦軸は重たい体をベッドから起こし、枕元に置いてあったスマホの電源をつけた。制服に着替え部屋を出る。いつもと変わらない朝だ。だけど何故か足取りが重い。物理的な速さには影響しない範囲で。
音の部屋の前に来た。僅かな希望に縋りながらドアをノックする。反応は無い。
「はあ……」
面倒くさい。この少女はどれだけ自分を振り回すつもりなんだ。縦軸は思った。昨日はずっと抱いてきた己の野望を揺さぶり、こちらが極めて気まずくなっているのに自分の要求は叶えてもらおうとする。
いや、もしかしたらこれは彼女なりの優しさなのだろうか。自分を振り回し続けることで愛のことでむやみやたらに思い悩む時間を無くそうとしているのだろうか。
「いや、それはないな」
自分の推測を自分で否定しながら、縦軸はいつも通りのアラームを設定した携帯電話を音の部屋に投げ入れた。
少し間を置いて音が顔を出す。やや不機嫌そうな顔をしながら縦軸にスマホを返した。
「いつも助かる」
ドアを閉じる直前、音はそう言った。
彼女は一体何のつもりだろうか。縦軸はますます分からなくなった。無理に話したり関わらなくてもいいと言っておきながら、言わなくてもいい感謝らしきものを伝えてくる。こちらに嬉しいと思わせてくる。
縦軸の1日が今日も始まる。音という存在で縦軸の頭の中をかき乱しながら。
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