31 / 145
第1章 民間伝承研究部編
転生遺族のスタート2
しおりを挟む
音の放った一言に、真っ先に反応したのはていりだった。
「十二乗さん、それはどういうことかしら?」
「文字通りよ。揃いも揃って何馬鹿なこと言ってんのって言ってんの」
音の言葉には迷いが無かった。後ろめたいことがあるならば絶対に存在するはずのない言霊。故に彼女の言葉は言っていた。私は、自分が正しいと信じていると。
「私だってそこまで頭が固いわけじゃないわ。あんたたちの言ってることが妄想じゃないってことぐらい分かってる。その上で言うわ。あんたたちは、馬鹿よ」
「へえ、理由は何かしら?」
「そこのシスコンに聞いてみたら?案外気付いてるかもよ」
「え、僕?」
混乱する縦軸。しかしどうして、頭は悟ろうとしていた。音とて血も涙もないわけではない。少なくとも血か涙のどちらか一方ではなく、血もある、且つ、涙もあるなのだ。そんな音なら気づくだろう。縦軸の作戦、その最大の難点に。
「……」
「虚君、何か心当たりがあるの?」
「縦軸君、黙ってないで答えてよ!」
「……十二乗、お前は優しいな」
「だから馬鹿なの?当然の配慮でしょ」
「はぁ。三角さん、先輩、彼女はこう言っているんだ」
虚愛の気持ちも考えてやれ
「……!」
「ねえねえ、どういうこと?ていりちゃん、縦軸君、どういうこと?」
「先輩、私たちは虚君の願いを叶えようとしています。でももし、それが虚君のお姉さん、愛さんの望みに反したとしたら?」
「……え?」
縦軸は気づけなかった。一度喪った最愛の姉を取り戻せる。目の前に突如現れたその可能性は、彼の目を眩ませるには十分だったのだ。
愛が生まれ変わっているとして、彼女にも向こうでの家族がいる。新たな人生がある。彼女が自分の力で掴もうとしている幸せを奪うかもしれない、縦軸の望みを叶えると言うことはそのリスクを伴うのだ。
「大体、あんたの話によればその愛さんって人、いじめられたから自殺したんでしょ?それで運良く異世界転生できたとして、何でわざわざこっちの世界に戻ってこようなんて思うのよ?」
「……」
「はぁ、何も言えないわね。あんたの我儘で私たちを振り回すのはまあ許すわ。でもね、その我儘であんたのお姉さん悲しませるかもしれないわよ。その覚悟はあんの?」
「……」
縦軸は言葉が返せなかった。音の言うことは間違っていなかった。それどころか9年間縦軸が気付きもしなかった問題を浮き彫りにして見せたのだ。
縦軸の中に顕現したこの感情は何だろうか。音に言い負かされたことへの悔しさか、昨日今日知ったばかりのクチで姉のことを勝手に語られたことへの怒りか、何も反論できない故の自己嫌悪か。答えなど分からない。この時の縦軸の感情を、決して現代文の問題なんかにしてはいけない。ただそこには、負の感情と分類されることだけは確かな化け物がいた。そしてそれは、どうやったのかは知らないが、縦軸を焚きつけた。
数秒の後、縦軸は音の胸ぐらを掴んだ。
威圧はそれほどでも無い。そんな覇気は縦軸には無い。しかし、縦軸が彼の向ける目の奥の情報にはそれ以上の力がある。
「虚君!なにやってるの!」
「縦軸君、乱暴はダメだよ!」
慌てて止めに入るていりと微。
「へえ、あんたってこういう時殴らないタイプだったんだ。いい子ね」
ていりと微によって引き離された2人は、しばらく睨み合っていた。
「……帰る」
教科書の入ったリュックを乱暴に掴み、縦軸は部室を後にした。
「縦軸君!」
「ほっときなよ先輩」
追いかけようとした微を音が止める。
誰も話そうとしない。縦軸のいなくなった部室には、ただただ3人の重たい空気だけが存在していた。まだ外は明るい。こんな時間に帰るのは帰宅部くらいである。
「……一緒がいいに、決まってる」
微が何を思ってこう呟いたのかは誰も知らない。だけどその声はていりと音には確かに届いていた。ただ反応が無かっただけである。
「十二乗さん、それはどういうことかしら?」
「文字通りよ。揃いも揃って何馬鹿なこと言ってんのって言ってんの」
音の言葉には迷いが無かった。後ろめたいことがあるならば絶対に存在するはずのない言霊。故に彼女の言葉は言っていた。私は、自分が正しいと信じていると。
「私だってそこまで頭が固いわけじゃないわ。あんたたちの言ってることが妄想じゃないってことぐらい分かってる。その上で言うわ。あんたたちは、馬鹿よ」
「へえ、理由は何かしら?」
「そこのシスコンに聞いてみたら?案外気付いてるかもよ」
「え、僕?」
混乱する縦軸。しかしどうして、頭は悟ろうとしていた。音とて血も涙もないわけではない。少なくとも血か涙のどちらか一方ではなく、血もある、且つ、涙もあるなのだ。そんな音なら気づくだろう。縦軸の作戦、その最大の難点に。
「……」
「虚君、何か心当たりがあるの?」
「縦軸君、黙ってないで答えてよ!」
「……十二乗、お前は優しいな」
「だから馬鹿なの?当然の配慮でしょ」
「はぁ。三角さん、先輩、彼女はこう言っているんだ」
虚愛の気持ちも考えてやれ
「……!」
「ねえねえ、どういうこと?ていりちゃん、縦軸君、どういうこと?」
「先輩、私たちは虚君の願いを叶えようとしています。でももし、それが虚君のお姉さん、愛さんの望みに反したとしたら?」
「……え?」
縦軸は気づけなかった。一度喪った最愛の姉を取り戻せる。目の前に突如現れたその可能性は、彼の目を眩ませるには十分だったのだ。
愛が生まれ変わっているとして、彼女にも向こうでの家族がいる。新たな人生がある。彼女が自分の力で掴もうとしている幸せを奪うかもしれない、縦軸の望みを叶えると言うことはそのリスクを伴うのだ。
「大体、あんたの話によればその愛さんって人、いじめられたから自殺したんでしょ?それで運良く異世界転生できたとして、何でわざわざこっちの世界に戻ってこようなんて思うのよ?」
「……」
「はぁ、何も言えないわね。あんたの我儘で私たちを振り回すのはまあ許すわ。でもね、その我儘であんたのお姉さん悲しませるかもしれないわよ。その覚悟はあんの?」
「……」
縦軸は言葉が返せなかった。音の言うことは間違っていなかった。それどころか9年間縦軸が気付きもしなかった問題を浮き彫りにして見せたのだ。
縦軸の中に顕現したこの感情は何だろうか。音に言い負かされたことへの悔しさか、昨日今日知ったばかりのクチで姉のことを勝手に語られたことへの怒りか、何も反論できない故の自己嫌悪か。答えなど分からない。この時の縦軸の感情を、決して現代文の問題なんかにしてはいけない。ただそこには、負の感情と分類されることだけは確かな化け物がいた。そしてそれは、どうやったのかは知らないが、縦軸を焚きつけた。
数秒の後、縦軸は音の胸ぐらを掴んだ。
威圧はそれほどでも無い。そんな覇気は縦軸には無い。しかし、縦軸が彼の向ける目の奥の情報にはそれ以上の力がある。
「虚君!なにやってるの!」
「縦軸君、乱暴はダメだよ!」
慌てて止めに入るていりと微。
「へえ、あんたってこういう時殴らないタイプだったんだ。いい子ね」
ていりと微によって引き離された2人は、しばらく睨み合っていた。
「……帰る」
教科書の入ったリュックを乱暴に掴み、縦軸は部室を後にした。
「縦軸君!」
「ほっときなよ先輩」
追いかけようとした微を音が止める。
誰も話そうとしない。縦軸のいなくなった部室には、ただただ3人の重たい空気だけが存在していた。まだ外は明るい。こんな時間に帰るのは帰宅部くらいである。
「……一緒がいいに、決まってる」
微が何を思ってこう呟いたのかは誰も知らない。だけどその声はていりと音には確かに届いていた。ただ反応が無かっただけである。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる