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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族のスタート1
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「作戦を決めましょう」
始まりは、ていりが放ったその一言だった。
「作戦会議?」
「ええそうよ。あなたのお姉さんを連れ戻す作戦、それを話し合うのよ」
縦軸の姉、愛は彼が7歳の時に自殺した。スキル発現以来、縦軸は愛が異世界転生したと信じ、彼女を地球に連れ戻そうとしているのだ。
縦軸はていりたちにこの目的を話したことがあったが、今日まで特にこれといって進展は無かった。しかし突然ていりがこの話題を持ちだしてきたのだ。
「実際今の民研はこれといった活動はしてないわ。積元先輩に〈天文台〉を使ってもらってるのは私の我儘。虚君だって1つぐらいお願いしてもいいはずよ」
「ええっと……そりゃそうだけど……何で急に?てっきり三角さんは、その、どうでもいいんだと……」
「虚君」
縦軸の言葉を遮るていり。
「私も色々考えた。もしかしたら虚君はその件に関して触れて欲しくないんじゃないかって」
「いや、そんなことは……」
「分かってる。だから決めたの。何ができるのか分からないけど、私も協力する」
「三角さん……」
「先輩たちだってきっと同じ思いよ。虚君、一緒にお姉さんを取り戻しましょう」
縦軸はていりの言葉に胸を打たれた。愛と作子以来初めて親しくなった人物が、こんなにも自分を肯定してくれた。その事実の力は、縦軸に人の暖かさを感じさせるには充分だった。
「三角さん……ありがとう。だけど……」
「おい虚、三角、聞いてるのか?」
2人の方を向く物理の函田。
「……何で授業中にその話題始めんだよ」
放課後、民研の部室にて。
「……というわけで、虚君のお姉さんを地球に連れ戻そうと思います」
「おぉーーー!」
何故かていり主導のもと、作戦会議は始まった。
「今僕たちが分かっていることを整理してみました。ざっとこんな感じです」
縦軸が黒板に情報をまとめる。
虚愛 9年前に事故死 異世界転生
虚縦軸 スキル〈転生師〉Lv90(最大100)
死んだ生物を異世界転生させられる。
積元微 スキル〈天文台〉Lv5(最大10)
異世界を見る(見せる)ことができる。
積元傾子 1カ月ほど前に病死 異世界転生
異世界には魔法や魔物が存在する。
異世界の国々は大体中世ヨーロッパに近い。
「はいっ!質問があります!」
「何ですか先輩?」
「お母さんってどんな人に転生したの?」
「あー傾子さんですか。彼女は……」
転生先については縦軸がそれなりに設定できる。故に傾子がどんな姿に転生したかは把握しているのだ。尤も操作できるのは生まれる先の初期設定のみ。その後どんな人生を歩むかは縦軸にも分からない。極端な話、縦軸が最弱の魔物に生まれ変わらせたとしても、そいつが魔王や神になる可能性はあるのだ。
「……と、こんな感じの姿に転生させました」
「うおーーー!かっこいー!」
「姉さんを連れ戻す時は傾子さんも一緒です。また会えるよう頑張ります」
「わーい!縦軸君ありがとー!」
「うわっ!だからすぐに抱きつかないでください!く、苦しい……」
そんな中、ていりが疑問を挙げる。
「虚君、ちょっといいかしら?」
「ん?何だい?」
「お姉さん探しは傾子さんに任せるってことでいいわ。ただ1つ気になるんだけど、どうやって連れ戻すつもり?」
ていりの疑問は当然であった。そもそも地球と異世界が行き来可能ならばこんなめんどくさいことはしていない。たとえ縦軸のスキルで異世界転生が可能だとしても、向こうから帰ってくるすべは無いのだ。
それに対する縦軸の返答は
「うぅ……えっと、ノープランです」
「……え?」
「どうやったら異世界と地球とを行き来できるかは、僕にも分からないんだ」
ていりは天を仰いだ。実はどこかで期待していた。虚縦軸という想定外の存在ならば、この難問に対する答えをもっているのではないかと。しかし結果はノープラン。越えねばならない最も高い壁は、その威厳を崩すことは無かったのだ。
「……まあそうね。そこが簡単に解決するわけが無いもの。期待して悪かったわ」
「何故か僕が無能なように聞こえるんだが……」
「しっかりしなさい虚君。そんなネガティブになってたらお姉さんを取り戻せないわよ」
「う、うん、そうだね」
丸め込まれることを受け入れた縦軸。
「とにかく目下の課題は向こうの世界との行き来の方法ね。それで、あなたもそろそろ何か言ったら?」
ていりの視線の先にいたのは、音である。彼女も最初からこの場にいたのだが、何故かずっと黙って話を聞いていたのだ。
「十二乗さん、あなたの考えを聞かせて」
「……そうねえ、1つ言うとしたら」
音の返答は
「馬鹿じゃないの?」
始まりは、ていりが放ったその一言だった。
「作戦会議?」
「ええそうよ。あなたのお姉さんを連れ戻す作戦、それを話し合うのよ」
縦軸の姉、愛は彼が7歳の時に自殺した。スキル発現以来、縦軸は愛が異世界転生したと信じ、彼女を地球に連れ戻そうとしているのだ。
縦軸はていりたちにこの目的を話したことがあったが、今日まで特にこれといって進展は無かった。しかし突然ていりがこの話題を持ちだしてきたのだ。
「実際今の民研はこれといった活動はしてないわ。積元先輩に〈天文台〉を使ってもらってるのは私の我儘。虚君だって1つぐらいお願いしてもいいはずよ」
「ええっと……そりゃそうだけど……何で急に?てっきり三角さんは、その、どうでもいいんだと……」
「虚君」
縦軸の言葉を遮るていり。
「私も色々考えた。もしかしたら虚君はその件に関して触れて欲しくないんじゃないかって」
「いや、そんなことは……」
「分かってる。だから決めたの。何ができるのか分からないけど、私も協力する」
「三角さん……」
「先輩たちだってきっと同じ思いよ。虚君、一緒にお姉さんを取り戻しましょう」
縦軸はていりの言葉に胸を打たれた。愛と作子以来初めて親しくなった人物が、こんなにも自分を肯定してくれた。その事実の力は、縦軸に人の暖かさを感じさせるには充分だった。
「三角さん……ありがとう。だけど……」
「おい虚、三角、聞いてるのか?」
2人の方を向く物理の函田。
「……何で授業中にその話題始めんだよ」
放課後、民研の部室にて。
「……というわけで、虚君のお姉さんを地球に連れ戻そうと思います」
「おぉーーー!」
何故かていり主導のもと、作戦会議は始まった。
「今僕たちが分かっていることを整理してみました。ざっとこんな感じです」
縦軸が黒板に情報をまとめる。
虚愛 9年前に事故死 異世界転生
虚縦軸 スキル〈転生師〉Lv90(最大100)
死んだ生物を異世界転生させられる。
積元微 スキル〈天文台〉Lv5(最大10)
異世界を見る(見せる)ことができる。
積元傾子 1カ月ほど前に病死 異世界転生
異世界には魔法や魔物が存在する。
異世界の国々は大体中世ヨーロッパに近い。
「はいっ!質問があります!」
「何ですか先輩?」
「お母さんってどんな人に転生したの?」
「あー傾子さんですか。彼女は……」
転生先については縦軸がそれなりに設定できる。故に傾子がどんな姿に転生したかは把握しているのだ。尤も操作できるのは生まれる先の初期設定のみ。その後どんな人生を歩むかは縦軸にも分からない。極端な話、縦軸が最弱の魔物に生まれ変わらせたとしても、そいつが魔王や神になる可能性はあるのだ。
「……と、こんな感じの姿に転生させました」
「うおーーー!かっこいー!」
「姉さんを連れ戻す時は傾子さんも一緒です。また会えるよう頑張ります」
「わーい!縦軸君ありがとー!」
「うわっ!だからすぐに抱きつかないでください!く、苦しい……」
そんな中、ていりが疑問を挙げる。
「虚君、ちょっといいかしら?」
「ん?何だい?」
「お姉さん探しは傾子さんに任せるってことでいいわ。ただ1つ気になるんだけど、どうやって連れ戻すつもり?」
ていりの疑問は当然であった。そもそも地球と異世界が行き来可能ならばこんなめんどくさいことはしていない。たとえ縦軸のスキルで異世界転生が可能だとしても、向こうから帰ってくるすべは無いのだ。
それに対する縦軸の返答は
「うぅ……えっと、ノープランです」
「……え?」
「どうやったら異世界と地球とを行き来できるかは、僕にも分からないんだ」
ていりは天を仰いだ。実はどこかで期待していた。虚縦軸という想定外の存在ならば、この難問に対する答えをもっているのではないかと。しかし結果はノープラン。越えねばならない最も高い壁は、その威厳を崩すことは無かったのだ。
「……まあそうね。そこが簡単に解決するわけが無いもの。期待して悪かったわ」
「何故か僕が無能なように聞こえるんだが……」
「しっかりしなさい虚君。そんなネガティブになってたらお姉さんを取り戻せないわよ」
「う、うん、そうだね」
丸め込まれることを受け入れた縦軸。
「とにかく目下の課題は向こうの世界との行き来の方法ね。それで、あなたもそろそろ何か言ったら?」
ていりの視線の先にいたのは、音である。彼女も最初からこの場にいたのだが、何故かずっと黙って話を聞いていたのだ。
「十二乗さん、あなたの考えを聞かせて」
「……そうねえ、1つ言うとしたら」
音の返答は
「馬鹿じゃないの?」
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