転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生遺族のむかしむかし9

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 スキル取得の過程について、積元先輩と差異があるかどうかは置いておこう。どうせ意味不明だし。肝心なのはスキルを手に入れた後だ。

「い、今のは何?」

 頭の中に鳴り響いた声によって、僕は〈転生師トラックメイカー〉を手に入れたことを知った。

「〈転生師トラックメイカー〉って一体……ぐっ!」

 次の瞬間、全部分かった。それがどんなスキルか、Lvがあること、Lvを上げたら何ができるか、魔力の存在、そして異世界の存在、スキルを使うために必要な情報が一気に脳内に顕現した。

「ぐ、ぐあああああ!」

 その情報量に、僕の頭は耐えられなかった。そしてその日、僕は寝込んだ。



 スキルを手に入れてから数日、僕は考えごとをしていた。スキルについてだ。

 そんな時、不思議な感覚を覚えた。

「あ、死んだ」

 1階からだ。母さんがゴキブリを殺したようだ。そして何故かそれが分かった。

「……使ってみよう」

 何となく、その名前を唱える。

「〈転生師トラックメイカー〉」

 成功したと分かった。あのゴキブリは異世界で生まれ変わった。そして、少し気怠さを覚える。

「……疲れた」

 ベッドで横になりながら頭をフル回転させる。
 どうすればLvが上がる?スキルをたくさん使えばいい。でもスキルを使うには生き物が死なないといけない。

 どうすればたくさん死ぬ?

 僕は本を読み漁った。学校の勉強もこれでもかってくらい頑張った。スキルをたくさん使って、少しでも早くLvを上げるために、少しでも賢くなろうとした。
 特に動物やら人の体について書かれた本は読みまくった。小学1年の僕でも分かるような、マンガとかで解説してるやつが参考になった。

 そして遂に、その方法を発見した。僕は居ても立ってもいられず、その方法を試した。

「いくぞ、〈転生師トラックメイカー〉!」

 結論として、僕は気絶した。原因は魔力切れだ。スキルを使いすぎて魔力が無くなってしまったらしい。
 だが悪いことばかりじゃない。魔力ってのは筋肉と一緒だ。使えば使うほど強くなる。体内の魔力は多くなっていく。
 それ以来僕は、スキルを使っては気絶する日々を繰り返した。次第に魔力は多くなっていき、スキルのLvも順調に上がって行った。気を失いすぎて碌に学校に通えなかった時期もあったが、得たものはその何倍も大きかった。



「……以上だ」

 縦軸が話を終えると、音が口を開く。

「それで、結局あんたは何が言いたいわけ?今の話からだと、『僕の姉さんみたいに自殺しようとしてる人は見過ごせない』って言いそうなんだけど」
「まさか、さっきも言った通り君のことは止めないよ。だけどね……」

 縦軸は音のリュックに勝手に手を突っ込んだ。

「ちょっと、あんた何やってんの!」
「あったあった」

 縦軸が取り出したのは、ナイフだった。そしてそれを、音に突き付けた。

「虚君!」
「縦軸君、危ないよ!何やってるの!」
「ちょっとお願いがあるんだ」
「な、何よ、お願いって」

 音の震える声に、縦軸は淡々と返す。

「僕のこと、手伝ってほしいんだ」
「……え?」

 音は混乱しながらも、縦軸を見ざるを得なかった。そんな彼女に、縦軸は優しく答えていく。

「さっきも言っただろ?僕の姉さんは僕が7歳の時に死んだ」
「ええ、聞いたわよ」
「それでね、今、僕には夢があるんだ。野望って言った方がいいかな?」
「野望?」
「僕ね、何となく分かるんだ。姉さんはまだ生きてるって。ああ、もちろん虚愛は死亡したよ。でもね、それで終わっていない」
「虚君、まさか!」
「ああそうだ。姉さんはきっと、異世界転生している。まだ生きてるんだ」

 その言葉を聞いて、ていりたちは何となく縦軸の目的を察した。

「だからね、僕は姉さんを
「……!」

 それは、あまりにも無謀な試みであった。彼らに異世界に干渉する術は今のところない。微のスキルで向こう側をのが精一杯だ。しかし、縦軸はそれを成し遂げようとしている。

「もちろんこれが無茶だってことぐらい分かっている。だから少しでも勝率を高めたいんだ。十二乗ひとめぐりおとさん、異世界へ行かないか?」
「異世界へ……?」

 その提案に、音は少しでも戸惑った。

「こちらからだと出来ることも限られるだろ?だけど異世界むこうがわに協力者がいればいろいろ都合が良いじゃないか。だからね、音さんには異世界転生してもらって、僕と姉さんの再会の手助けをしてもらいたいんだ」

 縦軸が目的を話し合えると、音は少し怯えながらも何とか口を開いた。

「い、嫌よそんなの。第一誰がそんな突拍子もない話信じるっての」
「積元先輩のスキルで見ただろ?それにその前提を本当に疑ってたらもっと早くに突っ込めよ」
「……っ!」
「安心して、君は1人じゃない。既に1人、僕の頼みを引き受けて異世界転生を果たした人物がいる」
「縦軸君、それって!」
「そうですよ先輩。十二乗さん、そこの先輩のお母さん、積元傾子さんは先日亡くなった。それでね、異世界転生したんだ。僕のことを手伝ってくれるって。ああもちろん本人は同意してるし、できればついでにって程度にしか頼んでないよ」
「……」
「どうだい十二乗さん、異世界転生しないか?今とは違った幸せな人生を送れるよう、手助けはするよ。生まれる種族も選ばせるし、君の夢が叶うようなスキルも授けるよ。だからさ、そんな人生とっとと辞めちゃおうよ!」

 音は怯えていた。目の前の人物は音にとって不利なことは何一つ述べていない。彼女が幸せになることを前提として、プラスアルファで自分の夢を叶えようとしているのだ。なのに、

「……いや」

 頼めなかった。死のうとしていたはずなのに、何も不都合は無いはずなのに、何故かしがみついていた。縦軸が向けるナイフに、自分の幸せを見出せなかった。

「……やだ。やめて、

 言ってしまった。生に執着してしまった。何かが体から抜けていき、そのまま音は崩れ落ちた。

「ははは、何でだろ。死にたかったはずなのに。いざ死ねるってときに怖がっちゃうなんて」

 自嘲気味に笑う音に、縦軸はあっけらかんとした様子で答えた。

「気づいてなかったみたいだけど、十二乗さん、割と生きたがってたよ?」
「へ?」
「死のうとしてるくせにサバイバルに要りそうなグッズは買うし、僕たちに自殺するって話すし。十二乗さんってきっと死ぬしか選択肢が見つからなかったんだけど、知らず知らずのうちに誰かに助けてもらおうとしてたんだと思うよ」

 ナイフを下ろしながら縦軸が話す。その言葉には、さっきまでの優しさとはどこか違った温もりが感じられた。

「十二乗さん、別に今すぐ君の現状が良くなることなんてない。でもね、僕たちを頼ってくれよ。君が死にたいと思わないでいられるよう、僕たちに出来ることをさせてくれ」

 縦軸は心の中でホッとしていた。彼とて出なくてもいい死人が出るなんて願い下げなのだ。

「ねえ、音ちゃん」

 微が口を開く。

民間伝承研究部ウチにこない?」
「は?」
「あのね、音ちゃんがね、生きてて楽しいって思えること、まだあると思うんだ。それにね、音ちゃん言ってたでしょ?将来のことで喧嘩したって。それってさ、将来の夢があるってことかな?」
「そ、そうだけど……」
「だったら手伝わせて!私に出来ること、何でもやってあげる!2人もいいよね?」
「もちろんです」
「先輩がそこまで言うなら、私もかまいませんよ。」
「だからね、おいで音ちゃん。ああ、兼部とかも大丈夫だから!」

 必死に誘ってくる微が、音は少し可笑しくなった。

「……ははは、いいわよ。入ったげる。よろしくね、先輩」
「うん、よろしく!わーい、また部員が増えたーーー!」

 微が喜びはしゃぎ回る。こうして、民研の4人目の部員、十二乗音が誕生した。



 数日後、虚家にて。

「どうしてだよーーー!」

 縦軸は携帯電話の向こうに向かって絶叫していた。その相手は作子である。

「うっさいわねえ、相手の親御さんにも許可とってるわよ」
「だからって何で僕の家なんだよ!三角さんか先輩頼ればいいだろ!」
「あー、いや、頼んだんだよ?でも三角さんには何故か断られたし、微ん家はあいつのお父さんがやめとけってさ。微に付き合わされてたら耐えられないだろうって」

 ほんの一瞬、縦軸は微の父に同情した。

「まあ大丈夫っしょ。あんたなら間違いなんて起こさないって」
「そりゃそうだけど……でも常識的に考えてどうかって……」
「あ、私忙しいから切るね、それじゃー」
「あ、待て、こら!もしもしもしもし?」

 電話が切れた。

「うっさいわねえ、叫んでる暇あったら手伝ってよ。私の部屋、まだ片付いてないんだからね」

 そう言って何らかの荷物が入った段ボール箱を運ぶ音。両親と揉めているため、避難という名目で虚家にやってきたのだ。

「いや、君も何ですんなり受け入れてんだよ?こと!」

 そう、音は虚家に引っ越してきたのだ。言ってみれば縦軸との同棲である。

「別にいいでしょ。あの両親と暮らすよりマシよ。私の部屋あるわけだし。あんた賢者っぽいし」

 虚家は意外と広い。縦軸の部屋と、愛が使っていた部屋以外にも空き部屋があったのだ。

「いや、賢者っぽいって……褒めてるのか?」
「細かいことは置いときなさい。さあほら、私の部屋の整理手伝いなさい」
「うぅ、釈然としねーーーー!」

 こうして、虚家の5人目の住人、十二乗音が誕生した。
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