20 / 145
第1章 民間伝承研究部編
転生遺族のむかしむかし7
しおりを挟む
「何?止める気?」
「まさか、止めないよ」
「え?」
ていりは意外に思った。今の発言は彼女の中の虚縦軸という人物像と全く合わなかったからだ。作子の話が正しければ、縦軸は自殺なんて見逃さなかっただろう。実際音のことも一度助けている。
「先輩、十二乗さんに〈天文台〉のことは?」
「は、話したよ。それに見せた」
「十二乗さん、ちょっと相談がある。ここじゃあれだし、場所を変えよう」
「……分かったわよ」
縦軸たちは部室にいた。外はもう夕方。縦軸の顔には、影があった。
「で、わざわざここに来てまで何の用?」
「うーん……部室にしたのは特に意図はないかな。ゆっくり話のできる場所を選んだだけだよ」
「ねえ虚君、そんなに大事なの?その話って」
「もちろんだよ三角さん、これは是非十二乗さんに聞いてほしいんだ。まあ2人は作子から聞いてるだろうけど」
「……それって」
「そうだよ。まあ察しはついたさ。三角さんが急に優しくなったり、先輩が十二乗さんに急に近づいたり、あいつだったら頼みかねない」
「ていりちゃん、バレてるよ?」
「……」
「ねえ、私、置いてけぼりなんだけど?」
流石に痺れを切らした音が話しかける。縦軸は少し申し訳なさそうに謝った。
「あはは、ごめんなさい。それじゃあ音さんには僕の話を聞いてもらおうか。参考になると思うからね、自殺の」
「じ、自殺の⁉︎」
「ああそうだよ。では話すとしよう。2人はもう知ってるだろうけどね」
ー僕と、姉さんの話だー
僕には8つ上の姉がいた。僕と姉さんはとても仲良しだった。名前は虚愛、訳あって敬語で話す優しい人だった。
「たてじくー、お姉ちゃんだよー」
「キャハッ!」
僕がまだお喋りもできない頃、姉さんは僕によく話しかけてくれていた。そんなに鮮明な記憶は無いけど、あの頃の記憶と言えば大抵姉さんの顔なんだ。
姉さんはよく絵本を読んでくれた。まあ育児ってのは大変だから、そうやって幼い僕を楽しませるだけでも彼女の功績は素晴らしいものだ。
「……こうして桃太郎は鬼を退治したのでした。めでたしめでたし」
「わあーい!お姉ちゃん、もっと読んで!」
「ふふ、いいよ。じゃあ次はこれね。むかしむかし、とある貴族が事故にあってしまいました。すると、そこに通りかかった泥棒が……」
あと、姉さんと友達だった作子も遊びに来てくれた。男子にいじめられていたところを姉さんに助けられたとか。
「やっほー、元気かね弟くん?」
「こんにちは、作子お姉ちゃん!」
「縦軸、ただいま」
「お姉ちゃん、おかえりなさい!!」
「きゃっ⁉︎きゅ、急に抱きつかないでよ、もう!」
「相変わらず仲良いね~」
「見てください作子、ここに弟がいます」
「会話繋がってないぞー」
「縦軸、今日は作子がウチにお泊まりするから迷惑かけちゃダメだよ?」
「うん、分かった」
その日は作子が姉さんの部屋を使ったので、僕と姉さんは僕の部屋で寝た。
「ふふ、縦軸のことぎゅーっとしてると、何だかポカポカしてあったかいなあ」
「へへ、僕も、お姉ちゃん大好き」
僕がそう言うと、姉さんは思い切り笑顔になってまた僕を強く抱きしめた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「どうしたの?」
「ずっと一緒にいてね?」
「うん、いいよ。約束する」
姉さんが僕に対して嘘をついたり、約束を破ったりしたのはこの時だけだった。
「まさか、止めないよ」
「え?」
ていりは意外に思った。今の発言は彼女の中の虚縦軸という人物像と全く合わなかったからだ。作子の話が正しければ、縦軸は自殺なんて見逃さなかっただろう。実際音のことも一度助けている。
「先輩、十二乗さんに〈天文台〉のことは?」
「は、話したよ。それに見せた」
「十二乗さん、ちょっと相談がある。ここじゃあれだし、場所を変えよう」
「……分かったわよ」
縦軸たちは部室にいた。外はもう夕方。縦軸の顔には、影があった。
「で、わざわざここに来てまで何の用?」
「うーん……部室にしたのは特に意図はないかな。ゆっくり話のできる場所を選んだだけだよ」
「ねえ虚君、そんなに大事なの?その話って」
「もちろんだよ三角さん、これは是非十二乗さんに聞いてほしいんだ。まあ2人は作子から聞いてるだろうけど」
「……それって」
「そうだよ。まあ察しはついたさ。三角さんが急に優しくなったり、先輩が十二乗さんに急に近づいたり、あいつだったら頼みかねない」
「ていりちゃん、バレてるよ?」
「……」
「ねえ、私、置いてけぼりなんだけど?」
流石に痺れを切らした音が話しかける。縦軸は少し申し訳なさそうに謝った。
「あはは、ごめんなさい。それじゃあ音さんには僕の話を聞いてもらおうか。参考になると思うからね、自殺の」
「じ、自殺の⁉︎」
「ああそうだよ。では話すとしよう。2人はもう知ってるだろうけどね」
ー僕と、姉さんの話だー
僕には8つ上の姉がいた。僕と姉さんはとても仲良しだった。名前は虚愛、訳あって敬語で話す優しい人だった。
「たてじくー、お姉ちゃんだよー」
「キャハッ!」
僕がまだお喋りもできない頃、姉さんは僕によく話しかけてくれていた。そんなに鮮明な記憶は無いけど、あの頃の記憶と言えば大抵姉さんの顔なんだ。
姉さんはよく絵本を読んでくれた。まあ育児ってのは大変だから、そうやって幼い僕を楽しませるだけでも彼女の功績は素晴らしいものだ。
「……こうして桃太郎は鬼を退治したのでした。めでたしめでたし」
「わあーい!お姉ちゃん、もっと読んで!」
「ふふ、いいよ。じゃあ次はこれね。むかしむかし、とある貴族が事故にあってしまいました。すると、そこに通りかかった泥棒が……」
あと、姉さんと友達だった作子も遊びに来てくれた。男子にいじめられていたところを姉さんに助けられたとか。
「やっほー、元気かね弟くん?」
「こんにちは、作子お姉ちゃん!」
「縦軸、ただいま」
「お姉ちゃん、おかえりなさい!!」
「きゃっ⁉︎きゅ、急に抱きつかないでよ、もう!」
「相変わらず仲良いね~」
「見てください作子、ここに弟がいます」
「会話繋がってないぞー」
「縦軸、今日は作子がウチにお泊まりするから迷惑かけちゃダメだよ?」
「うん、分かった」
その日は作子が姉さんの部屋を使ったので、僕と姉さんは僕の部屋で寝た。
「ふふ、縦軸のことぎゅーっとしてると、何だかポカポカしてあったかいなあ」
「へへ、僕も、お姉ちゃん大好き」
僕がそう言うと、姉さんは思い切り笑顔になってまた僕を強く抱きしめた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「どうしたの?」
「ずっと一緒にいてね?」
「うん、いいよ。約束する」
姉さんが僕に対して嘘をついたり、約束を破ったりしたのはこの時だけだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる