転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生遺族のむかしむかし5

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 民研と音が虚家を訪れた翌日、登校した縦軸は何故か視線を感じていた。尤もその正体は分かっているのだが。

「……ねえ三角さん、僕の顔に異世界召喚の魔法陣でも浮かんでいるのかい?」
「……(じーーーっ)」

 隣の席からこちらを凝視するのは縦軸のクラスメイト、三角ていりである。美少女に分類されるていりがこれほど見つめてきているのだ。もし相手が縦軸でなければ、そこから始まる恋もあったことだろう。

「…………感じない。何をやってもどれだけ見つめても、あなたから全く感じないわ」
「失恋ソングの歌詞やめようか。そして三角さんの目的を、主語と目的語または補語をはっきりさせて伝えてくれ」
「私は魔力を感じることができるようになりたい。だけど私はあなたから魔力を感じ取ることができなくて困ってるの」

 ていりは異世界に強く執着している。
 それ故か、縦軸たちと関わるうちに知った魔力に興味を持ったとのことだった。

「なるほどね。言っとくけど魔力云々に関して教えられるほど僕は詳しくないからね」
「そう。じゃあやっぱり積元先輩のスキルで情報収集するのが妥当ね。それと虚君」
「僕かい? 三角さんも知っての通り僕のスキルにそんな性能は無いよ?」
「分かってるわ。でもあなたは積元先輩より遥かに多くの魔力を有しているでしょ?」
「らしいね。知らないけど」
「何で?」
「というと?」
「その魔力の高さの理由は何?」
「ええと……スキルを使いまくったから、としか言いようがないんだけど」
「……そう」

 ていりはあっさり引いた。ちょうどそのタイミングで担任の孝一が入ってくる。

「おーし、全員いるな? それじゃホームルーム始めるぞ」

 授業中、縦軸はていりの視線に困惑することとなったが、朝のように話しかけてくることは無かった。



 放課後、民研の部室にて。

「三角さん、先輩は?」
「帰ったわ」
「まじか……」

 これについて、縦軸はとても困った。というのも、今の民研は微の〈天文台〉で異世界を覗いてばかりだからだ。つまり微がいないと特にすることが無いのだ。
 そうして困り果てる縦軸の余所に、ていりは徐にノートを開いた。

「虚君、ちょっといいかしら?」

 滑らかな指でシャーペンを回しながらていりが縦軸に話しかける。

「何だい?」
「勉強教えて」
「オーケー、まず僕のスキルは……え?」
「今日の数学、少し分からなかったわ。教えてくれないかしら?」

 いつも通りの表情でそう頼んでくるていり。困惑したのは縦軸の方だ。何故なら彼女は入試主席、その後も成績不振などという話は聞いたことが無かったからだ。

「ねえ、三角さんって数学得意だよね? 少なくとも苦手じゃ無いよね?」
「そうだったわね。じゃあ交代よ。虚君、何か勉強で教えてほしいところは無いかしら?」
「今の台詞は中々珍しい展開だったよ。そうだな……じゃあ数学教えてよ」
「分かったわ。教科書とノート開いて。どこが分からないの?」

 そう言いながらていりが縦軸の隣に椅子を持ってくる。

「この方がノート見やすいもの」

 ていりが1カ所ずつ縦軸に教えていく。彼女の放つ一言一言が洗練されている。まるで知識を一編の詩にでもしているかのようだ。縦軸の頭に一切の抵抗なく流れ込んでくる。教えられることが、心地よかった。

「……ふぅ。二次関数がこんなに分かるとは。三角さん、ありがとう」
「……いえ、この程度だったらどうってこと無いわ。喜んでくれて何よりよ」

 そう言うていりが、縦軸は不思議でならなかった。何故か今日のていりは優しいのだ。

「三角さん、どうしてそんなn」
「虚君」

 ていりが縦軸の発言を遮る。そして、

「今度の土曜日、暇?」



 一方その頃。

「どうだー! これが異世界だーー!」
「はぁーーーーーーーーーーーー⁉︎」

 十二乗音は驚いていた。15年と数ヶ月、それは現代において決して長く生きてきたとは言えない。まだまだ自分は世間の事を知らないだろうとは思っていた。だが、こんなのはあり得ない。

「音ちゃん、お疲れ様」
「嘘、有り得ない。ネット小説級のVRだわ。これはあれ? 恐ろしく極端なステータス設定して無双すればいいの……?」
「音ちゃん?」
「ヒィィィィィ⁉︎」

 露骨に動揺する音。微のペースは初見だった上に〈天文台〉をいきなり見せつけられたため状況が整理出来なくなっていた。

「どうしたの? お化けでも見たみたいだよ?」
「魔物を見たんだよぉ! 第一何なのあの映像? あんたのスキル? この学校でそんな能力者揃いのやつだったの? ああそういえば屋上行けるし民研変な部活あるし生徒会が偉かった!」
「スキル使えるのは私と縦軸君だけだよ」
「あの男子もかい!」

 微は音と仲良くなろうとしていた。そのために取り敢えず自分のスキルを使ったのだが、あまり効果はなかったようだ。

「もう無理……こいつらと関わりたくねぇ……」
「そ、そんなー!」

と、その時

「ん?この音は!」
「どうしたのよ?」
「電話が鳴ってるよ! 皆で一緒に探してみよう!」
「机の上にスマホ置いてるわよ。ていうか私と先輩しかいないのに皆って誰よ」
「あっ、本当だ。ありがと」

 微がスマホを取って電話に出る。

「うんうん、分かった! まっかせっなさーい!」

 そう言って微が電話を切る。

「音ちゃん音ちゃん!」
「何よ?」
「手伝って欲しいことがあります!」

 この後、音が嫌と言い、ショックを受けた微が泣きながら音に抱きつくまでが10秒以内に起きた出来事である。
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